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異世界生活編
109.防壁の外へ……
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「つ、着け方これで合ってる?」
いつも村の中で鍛錬するときよりちゃんとした装備をつける。皮革で出来た胸当てとか雪の中を歩くのに適したブーツとか。村長からの許可が出てから装備のオッチャンに頼んで俺用のを作ってもらったんだ。アームガードとかグローブは鍛錬で使っていたやつが慣れているからそのまま使うけどね。
あと、マント。絶対日本じゃ身につけることのない装備だよな。こっちの世界じゃなかったら恥ずかしくて俺には無理なやつ。でも羽織ると一気に冒険者感出るなって思う。
矢筒はいつも通り腰のベルトにぶら下げる。前にカッコつけて背中に背負ってみたけど、俺にはそこから素早く矢を取り出してってのは無理だったんだ……。
「普段とそこまで変わらないだろ?」
「いや、胸当てとかないし。このブーツだって、なんか固定するところ多くない?」
「イクミの最初に履いていた靴のほうが複雑だったと思うが……」
お互いの常識が違うから噛み合わない……けど、ちゃんと着れてはいるみたい。
革製品って重いイメージだったけど俺が今着けているのは思ったほど重くない。魔物の皮を特殊加工しているんだそうだ。臭くもないし安心した。
「あらあら、イクミくん。かっこいいわよ」
ルイと一緒にリビングに降りるとサディさんが声をかけてくれた。なぜかいつもは昼間にいることがほとんどない村長までいるじゃん……。
「みんなの言うことを聞いて無理はしないようにね」
「はい。っていうか、無理できるほど俺度胸ないです」
「うん、それでいいんだよ。無茶をすることが強いとか男らしいということじゃないんだ。ルイなんて子どもの頃は……」
「いいから!」
サディさんが吹き出す。ルイの中では子どもの頃の話はされたくない話なのかなぁ。……俺は、聞きたいけど。
「今回は俺とヴァンと、あと自警団から1人の4人で行くつもりだ。イクミは初めてだから常に背後を守ってもらう」
「わー、至れり尽くせりだね」
「初回はそのくらいのほうがいいわねぇ。イクミくんは魔力を察知するのが苦手でしょうし」
「でも防壁が見える範囲なんでしょ?」
「豆粒くらいでも見えてれば見えてる範囲になるだろ?」
ちょっと怖いこと言われた気がする。ちょっと不安になって村長を見るけどなんにも言ってくれない……。いいのか、それで。
「イクミ君、最初は誰でも不安なものだ。特に君は魔物などいない世界から来たのだから余計だろう。でも、私も実力が見合わない者に外に出る許可など出さないよ。もちろん1人で外に出るのはとても許可できないが、近接攻撃のできるものがいて村の近くならばイクミ君は出ても大丈夫だと判断したんだ。そこは自信を持ちなさい」
自分じゃ以前とどう変わったのかあまり差がわからないからなぁ。そりゃ、前より体力ついたなとか矢が当たるようになったなって思うけど……さ。
でも、村長の言うことは信じよう。
「ありがとうございます。ちゃんとみんなの指示に従いますね!」
みんなで門のところまで行くと、ヴァンが待っていて自警団のあの盾術の人と話していた。いつもの身軽な格好じゃなくて冒険者風のヴァンは魔導士っぽく……なかった。
「もっとローブとか杖とかでバリバリ魔導士みたいなので来ると思ってた」
「オレ、今日はどっちかというと魔法も使えて近接もできるって感じだから」
「そういうことかぁ」
「イクミ君、自分が背後はバッチリ守ってやっから気にせず安心して弓も使っていいからな」
「ありがとうございます! 盾に守られてるとかめちゃめちゃ安心です!」
いや、本気で安心だ。だってこの人盾術には自信があるって言ってたもん。みんなが俺のために協力してくれるのがすごく嬉しい。
今回の村の外への簡易遠征も、基本は動物とかを見つけたら俺が弓矢を使って仕留めるのがメイン。あとは、もし魔物に出くわしたらみんなと協力して仕留めることと、冬場の野営地の設営の経験をすることなんかが目標。村の見えるところで野営ってどうなの……って思うけど安全は大事だよね。
すごいのは俺の荷物がほとんどないこと。みんなのマジックバッグに必要なものがほとんど入ってるんだ。俺の持ち物、弓と矢筒と薬だけ。迷い込んでから村に来るときより身軽で笑っちゃう。
でも実際に旅立つ時が来ても俺のザックとかキャンプ道具はマジックバッグに入れてくれるんだって。めっちゃ楽だな……。
「よし、じゃあ、行こっか」
「なんでヴァンが先陣切ってるんだ。イクミが主役だろ」
「イクミは初めてなんだから言い出しにくいだろうと思ってさぁ」
「まあまあ。俺はなんでもいいって」
「……お前らいつもこんな感じ?」
俺は村長とサディさんに行ってきますと手を振って、みんなと一緒に門から出た。
すごい。何ヶ月ぶりの村の外……。村のすぐ周りのところは見回りのためにある程度雪が溶かされていたけど、歩けばどんどん普通に雪景色になってくる。振り返ってもまだ防壁はそこまで遠くないのに、急にガラッと雰囲気が変わるから不思議だ。それに相変わらずの虹色は雪に反射してめちゃめちゃキレイで緊張感ないけど口元が勝手に緩んじゃう。
俺の息が真っ白になるからかなり寒いのがわかるけど、フルチャージされた魔導具のおかげで体感はそこまで寒くない。みんなもきっと自分の魔力で体温を維持してるんだろうな。俺は冬山登山はしたことがないけど、多分今のこれよりは冬山登山のほうが過酷だと思う。そういう意味では魔導具様々だよね。
「しっ! ウサギだ……イクミいけるか?」
「可愛いから可哀想に思っちゃうけど、食材だね。やってみる」
歩いているとルイに小声で言われて、俺はルイに答えつつそっと矢筒から矢を1本抜き取った。そう、一応は非常食だって持ってきてるけど、基本は狩りでってことになっているからね。これは俺の訓練。ためらってちゃいけないんだ。
俺がキリキリと弓を引いて、矢を放つと遠くでウサギが変な動きでとんだ。あれは……。
「やったな」
「すっげぇなぁ。初回から1発かよ……」
「オレが教えてるし?」
「いや、ヴァンだけじゃないだろ」
「はぁ、ドキドキしたぁ……」
仕留めたウサギのところまで歩いて行くと、首のあたりを射抜いていた。ルイがサクサク解体してくれて少量の食材を確保。とはいえ、男4人の食事には程遠いよな。
見晴らし台から見てたときも思ったけど、雪の中で動物を探すのって無謀だよ。冬眠してるのも多いんだしさ。見かけたら片っ端から仕留める気でやってかないとだなぁなんて思ったよね……。
いつも村の中で鍛錬するときよりちゃんとした装備をつける。皮革で出来た胸当てとか雪の中を歩くのに適したブーツとか。村長からの許可が出てから装備のオッチャンに頼んで俺用のを作ってもらったんだ。アームガードとかグローブは鍛錬で使っていたやつが慣れているからそのまま使うけどね。
あと、マント。絶対日本じゃ身につけることのない装備だよな。こっちの世界じゃなかったら恥ずかしくて俺には無理なやつ。でも羽織ると一気に冒険者感出るなって思う。
矢筒はいつも通り腰のベルトにぶら下げる。前にカッコつけて背中に背負ってみたけど、俺にはそこから素早く矢を取り出してってのは無理だったんだ……。
「普段とそこまで変わらないだろ?」
「いや、胸当てとかないし。このブーツだって、なんか固定するところ多くない?」
「イクミの最初に履いていた靴のほうが複雑だったと思うが……」
お互いの常識が違うから噛み合わない……けど、ちゃんと着れてはいるみたい。
革製品って重いイメージだったけど俺が今着けているのは思ったほど重くない。魔物の皮を特殊加工しているんだそうだ。臭くもないし安心した。
「あらあら、イクミくん。かっこいいわよ」
ルイと一緒にリビングに降りるとサディさんが声をかけてくれた。なぜかいつもは昼間にいることがほとんどない村長までいるじゃん……。
「みんなの言うことを聞いて無理はしないようにね」
「はい。っていうか、無理できるほど俺度胸ないです」
「うん、それでいいんだよ。無茶をすることが強いとか男らしいということじゃないんだ。ルイなんて子どもの頃は……」
「いいから!」
サディさんが吹き出す。ルイの中では子どもの頃の話はされたくない話なのかなぁ。……俺は、聞きたいけど。
「今回は俺とヴァンと、あと自警団から1人の4人で行くつもりだ。イクミは初めてだから常に背後を守ってもらう」
「わー、至れり尽くせりだね」
「初回はそのくらいのほうがいいわねぇ。イクミくんは魔力を察知するのが苦手でしょうし」
「でも防壁が見える範囲なんでしょ?」
「豆粒くらいでも見えてれば見えてる範囲になるだろ?」
ちょっと怖いこと言われた気がする。ちょっと不安になって村長を見るけどなんにも言ってくれない……。いいのか、それで。
「イクミ君、最初は誰でも不安なものだ。特に君は魔物などいない世界から来たのだから余計だろう。でも、私も実力が見合わない者に外に出る許可など出さないよ。もちろん1人で外に出るのはとても許可できないが、近接攻撃のできるものがいて村の近くならばイクミ君は出ても大丈夫だと判断したんだ。そこは自信を持ちなさい」
自分じゃ以前とどう変わったのかあまり差がわからないからなぁ。そりゃ、前より体力ついたなとか矢が当たるようになったなって思うけど……さ。
でも、村長の言うことは信じよう。
「ありがとうございます。ちゃんとみんなの指示に従いますね!」
みんなで門のところまで行くと、ヴァンが待っていて自警団のあの盾術の人と話していた。いつもの身軽な格好じゃなくて冒険者風のヴァンは魔導士っぽく……なかった。
「もっとローブとか杖とかでバリバリ魔導士みたいなので来ると思ってた」
「オレ、今日はどっちかというと魔法も使えて近接もできるって感じだから」
「そういうことかぁ」
「イクミ君、自分が背後はバッチリ守ってやっから気にせず安心して弓も使っていいからな」
「ありがとうございます! 盾に守られてるとかめちゃめちゃ安心です!」
いや、本気で安心だ。だってこの人盾術には自信があるって言ってたもん。みんなが俺のために協力してくれるのがすごく嬉しい。
今回の村の外への簡易遠征も、基本は動物とかを見つけたら俺が弓矢を使って仕留めるのがメイン。あとは、もし魔物に出くわしたらみんなと協力して仕留めることと、冬場の野営地の設営の経験をすることなんかが目標。村の見えるところで野営ってどうなの……って思うけど安全は大事だよね。
すごいのは俺の荷物がほとんどないこと。みんなのマジックバッグに必要なものがほとんど入ってるんだ。俺の持ち物、弓と矢筒と薬だけ。迷い込んでから村に来るときより身軽で笑っちゃう。
でも実際に旅立つ時が来ても俺のザックとかキャンプ道具はマジックバッグに入れてくれるんだって。めっちゃ楽だな……。
「よし、じゃあ、行こっか」
「なんでヴァンが先陣切ってるんだ。イクミが主役だろ」
「イクミは初めてなんだから言い出しにくいだろうと思ってさぁ」
「まあまあ。俺はなんでもいいって」
「……お前らいつもこんな感じ?」
俺は村長とサディさんに行ってきますと手を振って、みんなと一緒に門から出た。
すごい。何ヶ月ぶりの村の外……。村のすぐ周りのところは見回りのためにある程度雪が溶かされていたけど、歩けばどんどん普通に雪景色になってくる。振り返ってもまだ防壁はそこまで遠くないのに、急にガラッと雰囲気が変わるから不思議だ。それに相変わらずの虹色は雪に反射してめちゃめちゃキレイで緊張感ないけど口元が勝手に緩んじゃう。
俺の息が真っ白になるからかなり寒いのがわかるけど、フルチャージされた魔導具のおかげで体感はそこまで寒くない。みんなもきっと自分の魔力で体温を維持してるんだろうな。俺は冬山登山はしたことがないけど、多分今のこれよりは冬山登山のほうが過酷だと思う。そういう意味では魔導具様々だよね。
「しっ! ウサギだ……イクミいけるか?」
「可愛いから可哀想に思っちゃうけど、食材だね。やってみる」
歩いているとルイに小声で言われて、俺はルイに答えつつそっと矢筒から矢を1本抜き取った。そう、一応は非常食だって持ってきてるけど、基本は狩りでってことになっているからね。これは俺の訓練。ためらってちゃいけないんだ。
俺がキリキリと弓を引いて、矢を放つと遠くでウサギが変な動きでとんだ。あれは……。
「やったな」
「すっげぇなぁ。初回から1発かよ……」
「オレが教えてるし?」
「いや、ヴァンだけじゃないだろ」
「はぁ、ドキドキしたぁ……」
仕留めたウサギのところまで歩いて行くと、首のあたりを射抜いていた。ルイがサクサク解体してくれて少量の食材を確保。とはいえ、男4人の食事には程遠いよな。
見晴らし台から見てたときも思ったけど、雪の中で動物を探すのって無謀だよ。冬眠してるのも多いんだしさ。見かけたら片っ端から仕留める気でやってかないとだなぁなんて思ったよね……。
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