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異世界生活編
105.水!!!
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「じゃあ、イクミ! やってみようか!」
「う……ん。前からちょっと間あいてるからできるか不安しかないんだけど……」
今日の弓矢練習は軽めで終わって、俺たちは今リビングに座っている。そして俺の前にはシェラカップ。ヴァンから許可が出て水魔法をやってみせることになったんだ。本当はもっと前に回復していたんだけど、魔物騒ぎとかがあったから延期になっていたんだよね。
まあ、それでも寝る前に魔力を集めて手に移動させる練習なんかはしていたから途中の過程はまだいいんだよな。手から水を出すのだけが不安なだけでさ……。
「イクミ落ち着け。ちゃんと水出せてたんだから大丈夫だ」
「そ、そうだよね……できてたよね……」
こういう緊張が一番良くないんだ。別にこれは魔物が来てるわけでも命がかかってるわけでもないんだからもっと気楽に……気楽に……。
「はいはい、イクミ。失敗したってやり直せばいいだけなんだからリラーックス」
「だってさぁ、前にできたときからどのくらい時間経ってると思ってるの? それに見てる人がいるんだからドキドキしちゃうじゃん」
俺はちょっと肩をぐるぐる回して力が入りまくった身体をほぐす。でもそうだよな、失敗しても魔力は減らないんだから何回でもやり直せばいいんだ。それに見てるのはルイとヴァンだけなんだから。2人にはもっと恥ずかしいようなところも見られてるもんな。うん、開き直ってきた。
「よーし! やりまーす」
腹の下に集めた魔力を……今日は半分にして……腕を通して手のひらに移動。よし、大丈夫。えっと、ここで……えっと?
「あ、散っちゃった。ごめん、やり直す!」
「うんうん。謝ることないよー。すごくスムーズに手まで持ってけてるね」
「みんなみたいに思ったらすぐできるってわけじゃないけど」
「何言ってんの? 最初の頃のこと覚えてないの? 集めるだけであれだけ悩んでたのに」
そうだったね。確かに大進歩だった。理想ばっか追いかけちゃって、それと比べてできないってヘコむのやめようって決めたはずだったのに。なんかそう思ったらさっきよりも「ちゃんとやらなきゃ」って焦ってたのが楽になった。
シェラカップの上にかざした手がさっきまではプルプルしてたけど、いい感じで力が抜けて軽く乗せるだけになってる。
「ヴァン、ありがと! 気が楽になったよ。やるね!」
ふぅと息を吐いてもっかい吸って、呼吸を止めないように意識しながら集中する。そうそう、前回は押子で魔力を節水シャワーみたいに小さい穴から出す想像をしたんだったよな。自分の手や指がシャワーヘッドになったみたいなイメージで……。
相変わらず自分ではなんの手応えもなかったんだけど、ぽんっと俺の頭の上に手が乗った。ハッとして目を開けたらルイが頷いている。頷いてるってことは……。
「いいじゃんいいじゃん。なるほど、イクミの魔力半分だとこのくらいの量なんだ」
ヴァンが楽しそうにシェラカップを覗き込んでいて、俺も手を完全にどけて中を見てみると前回よりは少し多いかも? くらいの水が入ってた。
「あ、いつの間に……前もそうだけど、水が出た感じが全然わからない……」
「そんなもんだぞ」
「生活魔法だからねぇ。目を開けたままできるようになったら目で見てわかるから違うと思うよ」
「なるほど……慣れるしかないってことか」
集中しようとしたり必死になって想像したりしてるうちは目を開けられなさそうだ。そしたら、次にまた発現させる許可出るのは先になるだろうから目を開けながら魔力を集めたり移動させたりする練習でもするかなぁ。
「いやぁ、やっぱ思った通りイクミは魔法向いてると思うよ」
「はぁ?」
「なんだよその反応。オレ、本気で言ってるんだけど?」
どこをどうしたらそう思えるのかさっぱりわからない俺はルイをちらっと見た。けど、ルイにはよくわからないっぽいな。俺と目が合った瞬間小さく首を傾げたのが見えたからね。
「えっとぉ、なんでそう思ったのか全然理解できないから教えて?」
「なんでって……魔法なんかない世界で生まれ育って、こっちの人と比べ物にならないくらい少ない魔力しかないのにほぼ自力で魔法が使えるようになった人のどこが才能ないの?」
「えー……だってルイやヴァンやみんながいるじゃん」
「オレほとんど口に出してああしろこうしろって言ってないからね。たぶん他の人だってそうだと思うけど? だってオレらからしたら使えるのが常識で、魔力のない人に魔法を教えるなんてしたことないはずなんだからさ」
まあ、そうだったけどね……だからこそ俺はどうしたらいいのか悩みまくったんだし。でもそれとこれとは話が違うんじゃないかなって思うんだけど。でも、なんか前からヴァンは俺にそういうことを言ってる気がするな……本当にそう思ってるってことか。
「じゃ、じゃあさ、ちょっと聞きたいんだけど……。外部の魔力というか、この村の霧を俺の水魔法と絡めるっていうのできると思う?」
「どういう意味?」
「基本は俺の水魔法なんだけど、手から水として出すときに空気中に存在してる霧という水分を取り込んで水の量を増やせないかなって」
「うーん……上級魔法でも外の魔力は基本使えないんだけど、イクミの言うのはそれとはちょっと違いそうだね。ただ……やったことのある人はオレも師匠も含めて、いないと思う。んー、ちょっと考えたことがなかったから……できるかできないかすぐ答えられないな」
想定内だからガッカリはしない。でも即答でできないよって言われなかったのは少し期待しちゃうな。でもよくよく考えてみたら、霧を巻き込む別の魔力が必要になりそうで結局魔力次第な感じもする。そんなことを呟けばヴァンが肩をぽんと叩いてくる。
「最初からできるできないって決めつけないでいろいろ試してみるのは大事なことだよ! その着想が別のことに役立つことだってあるんだからね。ってまあ、師匠の受け売りだけど」
「ヴァンの師匠に会ってみたかった……なんて頭の柔らかい人なんだ……」
「いや、オレオレ。オレもそうじゃん」
「まあそうなんだけどね。ねえ?」
ルイも深く頷いている。良かった、気持ちは一緒みたいだ。
そんな俺たちを見てヴァンがキエー! ってなってたけど、これももう恒例行事だよな。こういうやり取りしてもヴァンは面白がってくれてあとに引きずらないから俺としては楽しくてしょうがない。本当に2人とも大好きだ。
今日俺の人生2回目の水魔法もなんとか成功したから、また次にできるのはヴァンの許可が出るまで待たなきゃならない。でもとりあえずは目を開けたままコントロールするっていう目標ができたからな。待ち時間でもやれることはある!
とりあえず俺の出した水はちょびっとずつ3人で飲んだ。前回はルイにあげたから自分で飲むのは初めてだった。今更だけど、ちゃんと水だ! すげぇ。
「う……ん。前からちょっと間あいてるからできるか不安しかないんだけど……」
今日の弓矢練習は軽めで終わって、俺たちは今リビングに座っている。そして俺の前にはシェラカップ。ヴァンから許可が出て水魔法をやってみせることになったんだ。本当はもっと前に回復していたんだけど、魔物騒ぎとかがあったから延期になっていたんだよね。
まあ、それでも寝る前に魔力を集めて手に移動させる練習なんかはしていたから途中の過程はまだいいんだよな。手から水を出すのだけが不安なだけでさ……。
「イクミ落ち着け。ちゃんと水出せてたんだから大丈夫だ」
「そ、そうだよね……できてたよね……」
こういう緊張が一番良くないんだ。別にこれは魔物が来てるわけでも命がかかってるわけでもないんだからもっと気楽に……気楽に……。
「はいはい、イクミ。失敗したってやり直せばいいだけなんだからリラーックス」
「だってさぁ、前にできたときからどのくらい時間経ってると思ってるの? それに見てる人がいるんだからドキドキしちゃうじゃん」
俺はちょっと肩をぐるぐる回して力が入りまくった身体をほぐす。でもそうだよな、失敗しても魔力は減らないんだから何回でもやり直せばいいんだ。それに見てるのはルイとヴァンだけなんだから。2人にはもっと恥ずかしいようなところも見られてるもんな。うん、開き直ってきた。
「よーし! やりまーす」
腹の下に集めた魔力を……今日は半分にして……腕を通して手のひらに移動。よし、大丈夫。えっと、ここで……えっと?
「あ、散っちゃった。ごめん、やり直す!」
「うんうん。謝ることないよー。すごくスムーズに手まで持ってけてるね」
「みんなみたいに思ったらすぐできるってわけじゃないけど」
「何言ってんの? 最初の頃のこと覚えてないの? 集めるだけであれだけ悩んでたのに」
そうだったね。確かに大進歩だった。理想ばっか追いかけちゃって、それと比べてできないってヘコむのやめようって決めたはずだったのに。なんかそう思ったらさっきよりも「ちゃんとやらなきゃ」って焦ってたのが楽になった。
シェラカップの上にかざした手がさっきまではプルプルしてたけど、いい感じで力が抜けて軽く乗せるだけになってる。
「ヴァン、ありがと! 気が楽になったよ。やるね!」
ふぅと息を吐いてもっかい吸って、呼吸を止めないように意識しながら集中する。そうそう、前回は押子で魔力を節水シャワーみたいに小さい穴から出す想像をしたんだったよな。自分の手や指がシャワーヘッドになったみたいなイメージで……。
相変わらず自分ではなんの手応えもなかったんだけど、ぽんっと俺の頭の上に手が乗った。ハッとして目を開けたらルイが頷いている。頷いてるってことは……。
「いいじゃんいいじゃん。なるほど、イクミの魔力半分だとこのくらいの量なんだ」
ヴァンが楽しそうにシェラカップを覗き込んでいて、俺も手を完全にどけて中を見てみると前回よりは少し多いかも? くらいの水が入ってた。
「あ、いつの間に……前もそうだけど、水が出た感じが全然わからない……」
「そんなもんだぞ」
「生活魔法だからねぇ。目を開けたままできるようになったら目で見てわかるから違うと思うよ」
「なるほど……慣れるしかないってことか」
集中しようとしたり必死になって想像したりしてるうちは目を開けられなさそうだ。そしたら、次にまた発現させる許可出るのは先になるだろうから目を開けながら魔力を集めたり移動させたりする練習でもするかなぁ。
「いやぁ、やっぱ思った通りイクミは魔法向いてると思うよ」
「はぁ?」
「なんだよその反応。オレ、本気で言ってるんだけど?」
どこをどうしたらそう思えるのかさっぱりわからない俺はルイをちらっと見た。けど、ルイにはよくわからないっぽいな。俺と目が合った瞬間小さく首を傾げたのが見えたからね。
「えっとぉ、なんでそう思ったのか全然理解できないから教えて?」
「なんでって……魔法なんかない世界で生まれ育って、こっちの人と比べ物にならないくらい少ない魔力しかないのにほぼ自力で魔法が使えるようになった人のどこが才能ないの?」
「えー……だってルイやヴァンやみんながいるじゃん」
「オレほとんど口に出してああしろこうしろって言ってないからね。たぶん他の人だってそうだと思うけど? だってオレらからしたら使えるのが常識で、魔力のない人に魔法を教えるなんてしたことないはずなんだからさ」
まあ、そうだったけどね……だからこそ俺はどうしたらいいのか悩みまくったんだし。でもそれとこれとは話が違うんじゃないかなって思うんだけど。でも、なんか前からヴァンは俺にそういうことを言ってる気がするな……本当にそう思ってるってことか。
「じゃ、じゃあさ、ちょっと聞きたいんだけど……。外部の魔力というか、この村の霧を俺の水魔法と絡めるっていうのできると思う?」
「どういう意味?」
「基本は俺の水魔法なんだけど、手から水として出すときに空気中に存在してる霧という水分を取り込んで水の量を増やせないかなって」
「うーん……上級魔法でも外の魔力は基本使えないんだけど、イクミの言うのはそれとはちょっと違いそうだね。ただ……やったことのある人はオレも師匠も含めて、いないと思う。んー、ちょっと考えたことがなかったから……できるかできないかすぐ答えられないな」
想定内だからガッカリはしない。でも即答でできないよって言われなかったのは少し期待しちゃうな。でもよくよく考えてみたら、霧を巻き込む別の魔力が必要になりそうで結局魔力次第な感じもする。そんなことを呟けばヴァンが肩をぽんと叩いてくる。
「最初からできるできないって決めつけないでいろいろ試してみるのは大事なことだよ! その着想が別のことに役立つことだってあるんだからね。ってまあ、師匠の受け売りだけど」
「ヴァンの師匠に会ってみたかった……なんて頭の柔らかい人なんだ……」
「いや、オレオレ。オレもそうじゃん」
「まあそうなんだけどね。ねえ?」
ルイも深く頷いている。良かった、気持ちは一緒みたいだ。
そんな俺たちを見てヴァンがキエー! ってなってたけど、これももう恒例行事だよな。こういうやり取りしてもヴァンは面白がってくれてあとに引きずらないから俺としては楽しくてしょうがない。本当に2人とも大好きだ。
今日俺の人生2回目の水魔法もなんとか成功したから、また次にできるのはヴァンの許可が出るまで待たなきゃならない。でもとりあえずは目を開けたままコントロールするっていう目標ができたからな。待ち時間でもやれることはある!
とりあえず俺の出した水はちょびっとずつ3人で飲んだ。前回はルイにあげたから自分で飲むのは初めてだった。今更だけど、ちゃんと水だ! すげぇ。
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