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異世界生活編

104.甘くて美味し……ぎゃー!

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 俺は2日かけてジャガイモ水飴の作り方をレクチャーした。

 1日目の早い時間にデンプン取りと残った搾りかすを使った適当料理をして、夜にデンプンを糊化させてからシュラーダの汁で糖化をさせるまで。あっちで言うキルトみたいな布で保温して解散した。

 2日目の今日はそれを煮詰めて水飴にする工程って感じ。シュラーダの汁の量は前回目安でやったのと同じくらいの量をちゃんと計ってみたけど、多分個体差があると思うんだよね……。こればっかりはなんとかいい量を見つけてとしか言えない。
 サディさんから話を聞いていたとはいえ、さすがにイモから水飴っていうのにピンときてなかった奥様方は興味津々。みんなでそれぞれ煮詰めて作ったものを目を輝かせて見ていた。

「ハチミツほど甘すぎなくて私は好きだわ」
「これって溶けやすいのかな」
「甘くない野菜しか使ってないのにどうしてこんなことが……」

 奥様たちはキャーキャーしながら味見をしたり容器に詰めたりしている。お料理教室って感じではなかったのに楽しそうにしてるのを見て安心した。

「あ、そのまま室温に放置はカビるから長期保存するなら時間停止箱に保管してくださいね」

 使うたびに作るってのは面倒かもしれないと思って慌てて付け足した。普通の砂糖とかハチミツなら気にしなくていいけど、これは糖度がそこまで高くないからダメなんだよな。
 でもみんなはそこまで値段を気にしないでいい甘味ってことで嬉しそうにしてるからいっか。女の人とか子どもって甘いもの好きだもんな。いや……まあ……俺も好きだけどさ。持ってきた飴ちゃんもまだ大事に取ってあるし。

「これ、たくさん練習したいけど……まだジャガイモ? が少ないんでしょ?」
「そうですね。サディさんがまた収穫したうちから種芋選別して増やす方を優先すると思うんで」
「それはしょうがないよね。使い切っちゃったら増やせなくなっちゃうし」
「確かに……」

 奥様方は記憶力はいいとはいえ忘れないようにと必死だ。まあ、今回たくさん採れたからまだ練習できるんじゃないかなとは思うけど、それはサディさん次第だからね。

 今回の教室で作った俺のジャガイモ水飴は少しだけ自分用に確保した。まあ、自分用っていうかルイにあげる用っていうか。この間はもう少し欲しそうだったのをサディさんが持って行っちゃったからね。早く渡したいけどヴァンに見つかるのは困るから夕飯の後かな……。

 

 弓矢の練習はかなり小さくなった的で継続中。時々ヴァンが予測できない動きをぶっ込んでくるけど、魔物騒ぎがあったから文句は言えないなって感じなんだよね。そういうのもアリかなとか思っちゃうっていうか。俺もあの経験があったからよりイメージしやすくなって頑張ろうって思ったしさ。

「今日のイクミは調子良さそうだね」
「そう、かな?」
「良いことでもあった?」
「なんで?」
「集中できてそうだから。焦ってるとかのときはすぐわかるよ」

 マジかよ。そりゃメンタル響きすぎる武器だなとか思ってたけど、そんなに他の人から丸見えになる? しかも落ち着いてるねとかじゃなくって良いことでもあったのかって聞かれるってなんなのさ。

「料理教室で奥様方が喜んでくれたから、かな」
「昨日からやってたやつだよね、何作ったの?」
「ジャガイモ活用法」
「なにそれ」

 なんで今日に限ってツッコミが激しいんだ……。水飴とか言ったら絶対に食いつかれるから言いたくないんだけどな。

「ヴァン、イクミの練習中だろ? せっかく調子良いんだから続けろ」
「はいはーい」

 さすがルイ! いいところで助け舟を出してくれる! おかげでその後は黙々と練習ができて2人からも結構褒められて俺としては満足だった。
 ヴァンは春すぎに自分が村から抜けても大丈夫なように色々忙しくしてるみたいで、本当は何かお礼もしたいしって思ってるんだけどジャガイモ水飴は少なすぎて渡せない。何か代わりに料理でも作るかなーとは思ってるんだけどね。

 そんなんで、夜、夕食の後片付けも終わってから俺はルイの部屋を訪ねた。
 ドアをノックすればすぐに顔を出してくれるルイ。

「どうした?」
「えっとね……ヴァンには言えなかったけど、今日教室でやったジャガイモ水飴をルイに渡したくて」

 ルイは少しだけびっくりしてるようだった。あれ……あんまり反応良くないかななんて思ってたら、ふっと目を細めて言う。

「こないだのからすると、そんなにたくさん作れたわけじゃないんだろ?」
「みんなで作ったから大丈夫だよ。これは内緒で持ってきたわけじゃないし……」

 前回サディさんがすごい勢いで持って行っちゃったのを覚えてるルイはちょっとだけ遠慮してるように見えたから、俺はちゃんと説明して、ルイが自分1人だけもらうのはって思ってるなら俺と一緒に味見しよって説得した。俺はルイが前回もう少し味見したがってたの聞いてたんだからね。
 俺の説得に応じたルイは少し嬉しそうで、それを見て俺も嬉しくなる。やっぱルイは甘いものが結構好きなんだと見た! まだ自分用のザナの乾燥させたやつをかじってるのかなぁなんて想像すると可愛いよな。

 ルイの部屋で2人並んで座って小さい匙でジャガイモ水飴をすくって一緒に舐める。ほんのりとした甘みが口の中に広がって思わず口元が緩んだ。このジャガイモ水飴の甘さは米麹で作った甘酒の甘みと似てるんだよな。まあ、どっちもデンプンを糖に分解してるんだから当たり前か。

「……美味いな」
「ね。甘くて美味しいね」
「イクミに最初にもらった喉の薬の菓子よりは優しい味だ。あれはあれで……」
「はい、ルイ、最後の一口」

 俺が無意識に匙を差し出せば、ちょっとのけぞったルイがいた。……あれ? これって「あーん」みたいになっちゃってる? って俺もハッとした顔で手を引っ込めようとしたら手を掴まれてルイがパクっと食べていった。しかもシレッとした顔してる。
 やばいって……俺のほうが恥ずかしい。

「ん。美味かった」
「よ……よろ、こんで……もらえて、良かった」

 顔がっ、顔が熱いっ!
 なんで俺はルイも匙を持ってるっていうのに自分の匙でかき集めて差し出しちゃったんだ……ばかばか。別にあざとさを狙ったとかじゃないんだよ……ルイのために持ってきたからって気持ちがはやっちゃっただけで無意識だったんだってば……って誰にも何も言われてないのに脳内で言い訳が止まらない。

 その後、俺はルイと何を話して部屋に戻ったか全然覚えてない。
 ベッドにうずくまって1人で思い出しては「ぎゃー!」って頭を抱えて、なかなか眠れなかったのは言うまでもない。
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