上 下
102 / 202
異世界生活編

102.作物と騒ぎ後の俺。

しおりを挟む
 俺は今、トウガラシの鉢の前にいる。

「こんな花だったのか! ジャガイモみたい……」
「イクミくんは知ってるんだと思ってたわ」
「いや、いつも乾燥のやつを買ってたから知らなかったんだよ……つか、そうか……トウガラシもナス科ってことか……」

 前に母親が珍しいの売ってたってトマピーって名前の平べったいパプリカみたいなの買ってきたことがあったけど、トマトとピーマンがナス科だから交配できたってことだったんだなって今更繋がった。ナス科すごいな。ジャガイモ、トウガラシ、ピーマン、トマト、ナス……俺が思いつくこれだけでも相当いろんなメニューできちゃうもん。でも……。

「サディさん、連作障害があるからジャガイモ育てたあとの土とトウガラシの土は連続して使わないようにね」
「そうね。なんとなくそれは感じたわ。でもそんな名前でイクミくんのところではみんなが知ってることなのねぇ」
「み……みんなでは、ないかな……」

 そう、俺は母親のガーデニングと家庭菜園で聞かされたから知ってただけだ。しかもトマトとナスっていうここでは育ててないやつしか知らない。
 でもジャガイモ用に新たに作った畑は専用じゃなくてちゃんとローテーションすることを勧めておいた。農家じゃないから詳しくはわからないし、その辺はサディさんのほうがわかってそうだけど。知ってることだとしたって伝えておくほうがいいよなって思ったからね。

「いいのよ。なんでも言ってちょうだい。私達は状態をなんとなく読んでやるっていう感覚的なところがあるから、イクミくんの知識は裏付けとして助かるのよ」
「そもそも俺の世界じゃ状態を読むってのができないからね」

 この世界の人がやってることのほうが俺からしたらすごいけどな! なんだよ状態を読むってさ。熟練農家なら見て判断はできるだろうけど、感覚で状態を読むなんてそんなのできたら農業の神様になれそうだよ。

「花もいっぱいついてるしこのままいけばたくさん収穫できそうだね」
「ほんと、楽しみだわ! ラキも楽しそうに世話しているの。初めての作物だものね」
「そういえば、俺の国では葉トウガラシってのがあったから葉っぱも辛いかもよ?」
「え……」

 サディさんになんで今言うのかと詰め寄られたのは言うまでもない。整枝して捨てちゃった葉っぱもあったみたいで……それは本当にごめん。俺も今ふと思い出したんだもん。ついでに、防犯スプレーとか熊よけスプレーにもトウガラシが使われているみたいな話をしたら喜んでもらえた。

「殺さないで苦しめる薬が作れそうね!」

 ってニコニコしてるサディさんに背筋が凍ったのは内緒だ。ここでは俺の常識は常識じゃないって何度も自分に言い聞かせちゃったよ。

 そのあと、他の人とも合流してジャガイモ収穫をした。前回かなりの種芋を植えたから量がすごいことになった。とはいえ、村の人みんなが自由に使いまくれるほどはないし、ジャガイモ水飴に量を割くとしたら足りなくなるよな。

「結構採れたけど、ここからまた種芋を確保していかないとだね」
「早く料理にも使いたいのにままならないわねぇ」

 料理はここの人だけでいくらでもアレンジできるだろうから、俺としてはジャガイモ水飴の作り方だけはしっかり伝えないとだよな。きっと次の植え付けは春すぎだろうし、俺は雪解けを待って村を出ちゃうんだろうから。
 それはサディさんもわかってるみたいで、俺にジャガイモ水飴の作り方の教室を開いてほしいと言ってきた。一人だけが知るよりも教室でやって習った人がまた伝えるほうがいいって思ったんだって。

「デンプンを取ったり糖化させたりで待ち時間が多いから教室向けじゃないとは思うけど、ちょいちょい集まれるなら俺は構わないよ」
「大丈夫よ! みんな時間を作るわ!」
「甘いものが作れるならみんな集まると思う」

 ラキさんにも力説されてしまった。みんなの期待がすごい……。子供実験教室侮れないなぁ。俺もあの実験はかなり強烈に印象に残ってたおかげだけど、こんなところで役に立つとはって改めて思うよな。

 日程はサディさんたちに任せることにした。俺はそれに合わせて自分の鍛錬の時間を調節するだけだ。

 ルイと一緒に今日も見晴らし台に来たけど、昨日とは打って変わってみんなの雰囲気は柔らかい。魔物の気配が全然ないらしいからそのせいかな。俺は弓の練習で動物を探すから魔物云々は関係ないけど。

「うーん、やっぱ俺にはなかなか見つけられないなぁ」
「慣れだ」

 ハイ……ガンバリマス。
 小さい動物とかは見つけてくれたとしても当たらないからな。そういう意味では魔物はデカくて助かるよなぁ。もちろん魔物が来てほしいって意味じゃないけどさ。

「お……俺は後方支援的な立ち位置を目指すよ……」
「でもいざという時は命中させないとな」
「うぐっ」

 こういう時だけスパルタになるよなルイ。でも期待されてるっぽいのが少し透けて見えるから反論しないけど。なんて言ってたら自警団の人がひょこっと顔を出した。

「やってるかー?」
「あ、こんにちは」
「何かあったのか?」
「いや、ないけど。イクミ君どうしてるかなーって話題が出たから自分が見に来てみた」

 えええ……。昨日までと自警団の人たちの俺を見る目が違うのがほんとに恥ずかしい。マジで俺はたいしたことしてないんだって。アイツが動いてなかったのと、俺が雑魚すぎて認識されてなかったから当たっただけなんだよ?

「鳥を何回か狙ったけど全部外れたとこー……」
「ああ! まあ鳥は難しいよな! イクミ君が無理なら自分の弓の腕前じゃ絶対無理だわ」

 ぶははと笑いながらその人は戻っていった。

「な、何だったのかな……」
「イクミと話したかったんだろ?」

 確かに今日は村の人から話しかけられることが多い気はしてた、けど。俺から話せることなんてないんだから、謎の高評価やめていただきたい。でもなー、自警団の人には俺も世話になってるからなぁ。なにしろ、ここのところ外に向けて俺が矢を放つからどっかに行っちゃったやつを見つけたら回収してくれてるんだよ。別に消耗品だから怒られないんだけど、1から作るよりは修復するほうがオヤジさんも楽そうだしさ。

「えーっと、俺、そろそろ筋トレしようかな」
「戻るか」

 自警団の人に帰るから見晴らし台に今人いないよって声をかけてルイと防壁から出た。筋トレの途中でヴァンが現れて、そこからはいつも通りのまったりとしたペースだったから俺的にはちょっと落ち着いたよね。
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

処理中です...