霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

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異世界生活編

102.作物と騒ぎ後の俺。

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 俺は今、トウガラシの鉢の前にいる。

「こんな花だったのか! ジャガイモみたい……」
「イクミくんは知ってるんだと思ってたわ」
「いや、いつも乾燥のやつを買ってたから知らなかったんだよ……つか、そうか……トウガラシもナス科ってことか……」

 前に母親が珍しいの売ってたってトマピーって名前の平べったいパプリカみたいなの買ってきたことがあったけど、トマトとピーマンがナス科だから交配できたってことだったんだなって今更繋がった。ナス科すごいな。ジャガイモ、トウガラシ、ピーマン、トマト、ナス……俺が思いつくこれだけでも相当いろんなメニューできちゃうもん。でも……。

「サディさん、連作障害があるからジャガイモ育てたあとの土とトウガラシの土は連続して使わないようにね」
「そうね。なんとなくそれは感じたわ。でもそんな名前でイクミくんのところではみんなが知ってることなのねぇ」
「み……みんなでは、ないかな……」

 そう、俺は母親のガーデニングと家庭菜園で聞かされたから知ってただけだ。しかもトマトとナスっていうここでは育ててないやつしか知らない。
 でもジャガイモ用に新たに作った畑は専用じゃなくてちゃんとローテーションすることを勧めておいた。農家じゃないから詳しくはわからないし、その辺はサディさんのほうがわかってそうだけど。知ってることだとしたって伝えておくほうがいいよなって思ったからね。

「いいのよ。なんでも言ってちょうだい。私達は状態をなんとなく読んでやるっていう感覚的なところがあるから、イクミくんの知識は裏付けとして助かるのよ」
「そもそも俺の世界じゃ状態を読むってのができないからね」

 この世界の人がやってることのほうが俺からしたらすごいけどな! なんだよ状態を読むってさ。熟練農家なら見て判断はできるだろうけど、感覚で状態を読むなんてそんなのできたら農業の神様になれそうだよ。

「花もいっぱいついてるしこのままいけばたくさん収穫できそうだね」
「ほんと、楽しみだわ! ラキも楽しそうに世話しているの。初めての作物だものね」
「そういえば、俺の国では葉トウガラシってのがあったから葉っぱも辛いかもよ?」
「え……」

 サディさんになんで今言うのかと詰め寄られたのは言うまでもない。整枝して捨てちゃった葉っぱもあったみたいで……それは本当にごめん。俺も今ふと思い出したんだもん。ついでに、防犯スプレーとか熊よけスプレーにもトウガラシが使われているみたいな話をしたら喜んでもらえた。

「殺さないで苦しめる薬が作れそうね!」

 ってニコニコしてるサディさんに背筋が凍ったのは内緒だ。ここでは俺の常識は常識じゃないって何度も自分に言い聞かせちゃったよ。

 そのあと、他の人とも合流してジャガイモ収穫をした。前回かなりの種芋を植えたから量がすごいことになった。とはいえ、村の人みんなが自由に使いまくれるほどはないし、ジャガイモ水飴に量を割くとしたら足りなくなるよな。

「結構採れたけど、ここからまた種芋を確保していかないとだね」
「早く料理にも使いたいのにままならないわねぇ」

 料理はここの人だけでいくらでもアレンジできるだろうから、俺としてはジャガイモ水飴の作り方だけはしっかり伝えないとだよな。きっと次の植え付けは春すぎだろうし、俺は雪解けを待って村を出ちゃうんだろうから。
 それはサディさんもわかってるみたいで、俺にジャガイモ水飴の作り方の教室を開いてほしいと言ってきた。一人だけが知るよりも教室でやって習った人がまた伝えるほうがいいって思ったんだって。

「デンプンを取ったり糖化させたりで待ち時間が多いから教室向けじゃないとは思うけど、ちょいちょい集まれるなら俺は構わないよ」
「大丈夫よ! みんな時間を作るわ!」
「甘いものが作れるならみんな集まると思う」

 ラキさんにも力説されてしまった。みんなの期待がすごい……。子供実験教室侮れないなぁ。俺もあの実験はかなり強烈に印象に残ってたおかげだけど、こんなところで役に立つとはって改めて思うよな。

 日程はサディさんたちに任せることにした。俺はそれに合わせて自分の鍛錬の時間を調節するだけだ。

 ルイと一緒に今日も見晴らし台に来たけど、昨日とは打って変わってみんなの雰囲気は柔らかい。魔物の気配が全然ないらしいからそのせいかな。俺は弓の練習で動物を探すから魔物云々は関係ないけど。

「うーん、やっぱ俺にはなかなか見つけられないなぁ」
「慣れだ」

 ハイ……ガンバリマス。
 小さい動物とかは見つけてくれたとしても当たらないからな。そういう意味では魔物はデカくて助かるよなぁ。もちろん魔物が来てほしいって意味じゃないけどさ。

「お……俺は後方支援的な立ち位置を目指すよ……」
「でもいざという時は命中させないとな」
「うぐっ」

 こういう時だけスパルタになるよなルイ。でも期待されてるっぽいのが少し透けて見えるから反論しないけど。なんて言ってたら自警団の人がひょこっと顔を出した。

「やってるかー?」
「あ、こんにちは」
「何かあったのか?」
「いや、ないけど。イクミ君どうしてるかなーって話題が出たから自分が見に来てみた」

 えええ……。昨日までと自警団の人たちの俺を見る目が違うのがほんとに恥ずかしい。マジで俺はたいしたことしてないんだって。アイツが動いてなかったのと、俺が雑魚すぎて認識されてなかったから当たっただけなんだよ?

「鳥を何回か狙ったけど全部外れたとこー……」
「ああ! まあ鳥は難しいよな! イクミ君が無理なら自分の弓の腕前じゃ絶対無理だわ」

 ぶははと笑いながらその人は戻っていった。

「な、何だったのかな……」
「イクミと話したかったんだろ?」

 確かに今日は村の人から話しかけられることが多い気はしてた、けど。俺から話せることなんてないんだから、謎の高評価やめていただきたい。でもなー、自警団の人には俺も世話になってるからなぁ。なにしろ、ここのところ外に向けて俺が矢を放つからどっかに行っちゃったやつを見つけたら回収してくれてるんだよ。別に消耗品だから怒られないんだけど、1から作るよりは修復するほうがオヤジさんも楽そうだしさ。

「えーっと、俺、そろそろ筋トレしようかな」
「戻るか」

 自警団の人に帰るから見晴らし台に今人いないよって声をかけてルイと防壁から出た。筋トレの途中でヴァンが現れて、そこからはいつも通りのまったりとしたペースだったから俺的にはちょっと落ち着いたよね。
 
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