上 下
101 / 202
異世界生活編

101.心を落ち着けよう

しおりを挟む
 俺は春には村を出られる? 本当に?
 なんかドキドキする。やっと帰るための手がかりを探しにいけるのに、不安とか寂しい気持ちもあるんだ。村の人があまりにもいい人たちばかりだったから、俺はすっかりここに馴染んでしまった気がする。だって、大学にいるよりも長くここに住んでしまったんだもん……。
 でも春と言っても、外の雪解けまでは旅は厳しいだろうってことでまだ先のことだから、それまでは鍛錬も欠かさずやって……あとみんなと料理もやろうと思う。

「イクミくんがいなくなったら寂しいわね。でもイクミくんの希望が叶うように応援するわ」

 サディさんは後片付けをしながら言った。俺も寂しいけどいる間はたくさんいろんなことさせてねってお願いして2人で笑った。だってそろそろ収穫のジャガイモ水飴も教えなきゃだもん。砂糖ほど使い勝手は良くないけど料理とかお菓子とかに役立ててほしいなって思っちゃうよな。

「あ! サディさん、鷹の爪……トウガラシどうなった?」
「状態はいいわよ。結構適正気温が高いみたいだから魔力で温度管理するのだけはちょっと大変だけど鉢が少ないからなんとかなってるわね」
「あー、やっぱりそうだよねぇ」
「実は6鉢から5鉢になってしまったのよ。でもその5鉢は花が咲いてるわ」
「え! すごい! あっちなら夏とかのやつだと思うのに」

 だめになっちゃった鉢は温度管理を低めにして日にもあまり当てなかったやつなんだって。やっぱ暑い地域の作物なんだな。でもいろいろ実験しつつ1つしかだめにしてないのが本当にすごい。
 この分なら春には収穫できちゃう感じかな。魔法の温室があればもう少しいろんな作物育てられそうだよね。土壌の質とかまでは俺にはよくわからないけど。
 あー、こういうときに限っては俺の中途半端な知識が悔しいよな。浅く広くが便利なことも多くてそれをありがたいと思うこともあるからなんとも言い難いけど。

「農地で育てるのは無理そうだけど、少量育てて上手く村の中で使っていくって感じになるかしらね。それでもこういった香辛料が手に入るのは嬉しいわ」

 香辛料、買ったら高いんだろうなぁ……てことは育てられるのは貴重ってことか。

「ちゃんと受粉して実がなるかな?」
「そうね……今の時期は虫も少ないものね」
「俺の世界では花を筆でこしょこしょして受粉させるみたいのも見たことあるよ?」
「フデ?」

 おっとぉ……筆ないか。紙も貴重品だから筆記具もないのか……あるとしてもペンなのかな?

「ええっと、筆は毛を束ねてあって墨……インクをつけて紙に書く道具だよ。でも書くのに使わないで、その毛の部分で他の花の花粉をつけるっていうか」

 サディさんは俺の話を聞いて、ふむふむと理解したようだった。俺の下手な解説でわかるんだから頭良いよなぁ。そのあと、サディさんは人工受粉についていくつか質問してきて、俺は超あいまいな話をする羽目になった。なんか植物によっては雄株雌株があるんだよーとか、遺伝の仕組みの簡単なやつーとかね。
 品種改良の話はサディさんの心を大いに刺激したみたいだけど、俺にできる話は少ない。

「たまに突然変な育ちをするのはそういうことなのねぇ……」
「確か、そういうのだけを集めて継代していくとそういう品種になるんだよ」

 植物のことだからか俺の説明なんかでも把握していくサディさん。めっちゃ助かる……つか、俺がわかってなさすぎでごめんって気分。やっぱその道のプロには敵わないよな。

 俺は明日トウガラシの花を見させてもらう約束をした。実は俺も乾燥した実は知ってても花を見たことがないんだ。だから少し楽しみ。

 後片付けと翌朝の準備を簡単にしてからリビングに戻ると珍しくルイがまだいた。いつも村長の部屋に行っちゃったり自室に戻っちゃったりしてるのにな。

「ルイ、どうしたの?」
「いや……大丈夫か、と思って」
「何が?」
「なんでもない」

 少し居心地悪そうに席を立とうとするルイを見て、サディさんが俺に耳打ちした。

「ルイはイクミくんが心配だったのよ。落ち着く前の震えてる姿見てるんだもの」
「あっ……」

 やば……お礼言うどころか普通にスルーしそうになっちゃった。ワタワタしながらルイを追いかけて袖をつまんだ。

「ルイ……ありがと……」
「別に、俺は何もしてない」
「無事でいてくれて、ありがと……俺の心配してくれたのもだけど無事でいてくれたことのほうが嬉しい」

 俺がそう言えばルイは頭をポンポンしてくれる。俺の年齢を知って頭を撫でるのをためらっていたルイは最近は全然遠慮しない。でも俺もなんかこれが当たり前みたいになってるんだよな。
 そのあとルイは俺の部屋までついてきて俺の話を聞いてくれた。まあ、サディさんとの普段通りのやり取りのおかげで気分は落ち着いていたから単に俺がブチブチ言うだけだったんだけどね。

「俺がもう少し参戦を遅らせてイクミといたら早く終わらせられてたかもしれなかったな」
「でもあの時はいきなり複数現れたって感じだったし、前に出てた人の人数的にもしょうがなかったんだよ、きっと」
「でもどんなときでも見張り台に一人は残そうってことになった。今回は本当にイクミがいて良かった」

 うわぁ、ドキドキする。そういう意味じゃないのに! 俺の煩悩どこか行けってば……真面目な話をしてるんだってば。

「お……俺より弓が上手くて魔力もたくさんある人がいたらもっと良かった……んじゃないかな」
「そういうのは言い出したらキリがないぞ? それに弓はこの村のやつは少ないからな」

 村長とかルイはかなりの腕前だけど、みんな基礎をかじったくらいらしい。大体の人が剣を選ぶし、魔導士がいるからって遠距離を選ぶ人がまずいないんだそうだ。そういうもんなんだな……それを考えたら俺が弓選んじゃったのって本当に無謀だよ。教えてくれる人少なすぎじゃん……。でも基礎をかじったくらいだとしてもきっと俺よりは上手いんだろうなとは思うけど。

「今回のイクミの話を聞いて弓に興味を持った子が何人かいたらしいぞ」
「はぇ?」
「イクミは気づいてないかもしれないが、お前のこと好きな子ども多いからな。真似したくもなるんだろ」
「良いのか悪いのかよくわからない……ははは……」

 ルイは村の人の武器がかたよらないようになるのは良いことだって話してたけどね。
 俺がこの村に影響を与えてるっていうのがなんか不思議だよな……。だって日本にいたら俺が少し何かをしたところでほとんど影響なんかないわけじゃん。小さな世界ってすごい……けど、怖いな。こんな俺でもちゃんと責任持った行動しないとなって思っちゃう。

 眠くなってきたのをルイに見破られて「もう寝ろ」って部屋に帰っていった。もう少し一緒にいたかったな……。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

処理中です...