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異世界生活編
100.お……お手柄っ!?
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その日は午後のトレーニングはなしになった。俺もヘロヘロだったし、ルイは村の人たちに情報共有があったし。ヴァンも一旦俺の顔を見に来てくれて、何故か頭を撫でてくれて、共有の場に向かっていった。
夕飯を作るには少し早い……というか、俺が立っていられなくて部屋に戻ってベッドの上で座り込んでたんだけど、サディさんがドアをノックして入ってきた。
「イクミくん、お手柄だったんですってね」
「サディさん……」
「みんなが怪我をしないで済んだのはイクミくんのおかげなのよ。自慢してもいいくらい」
「俺、怖かったんだ……だから、必死で……今さら震えがきてる」
ベッドの上で俺の身体がカタカタしてるのを見たサディさんが優しく抱きしめてくれてくれる。優しくて暖かい腕の中に包まれていると少しだけ落ち着いた。
「ルイやみんなのことをいっぱい心配してくれたのね。ありがとう」
うん、ルイなら大丈夫って思ってたけどやっぱりすごく心配だったんだ。見てるしかできないし劣勢ではなかったけど優勢でもなかったし、魔物の数は減らないし。思い出すだけで心臓がキュッてなる……。
「サディさん、俺、今日いつものスープが食べたい……」
「お祝いじゃなくていいの?」
「お祝いは昨日のでいい。今日はあれがいい。あれが落ち着く……」
「じゃあそうしましょう。なんの変哲もないあのスープをイクミくんが落ち着くって言ってくれるの、嬉しいわ?」
俺の震えが収まるまでサディさんはポンポンしたりさすったりしてくれて側にいてくれた。ちょっと恥ずかしくなってきたよ……。俺、メンタル弱すぎじゃないか?
サディさんと一緒にキッチンに行って、料理の話をしながらスープを仕込んでいく。クズ野菜とか皮とかを炒めてから布袋に入れるのはサディさん。俺は具になる食材を切っていく。こうやって普段のなんでもない行動をしているとだいぶ心が落ち着いてくる。
蒸かしカロイモもたくさん用意する。あと、マヨネーズを作った。カロイモにつけても美味しいんだ。
「あ、タルタルソースみたいのも作っちゃおうかな」
「タルータル?」
「うん。具の入ったマヨネーズみたいな感じなんだ」
俺はゆで卵を作って、シャロの球根をみじん切りにする。みじん切りにしたシャロをピクルスの代わりになるようにビネガーに少し漬け込んでみた。他にも加えてもいいかもしれないけど急に思い立って作り出しちゃったから今日はこんなシンプルなやつ。
「ゆで卵もみじん切りにして、シャロがいい感じに漬かったら汁気を切って全部混ぜるだけなんだ」
「いいわね。簡単だし!」
「これは、結構いろんなものに合うよ。揚げ物にもいいし多分ステーキでも合うと思うな」
なんかやっといつもの俺に戻った感じがする。俺はやっぱ平和がいいな。とはいえ、こっちのメイン食材の肉は魔物を狩らないといけないわけで……。うーー。
きっと二人が帰ってきたら昼の魔物の話になるんだろうな。もう落ち着いたから話しても大丈夫だと思うけど、一応心構えはしておこうって思う。
「ビネガーって酸味を加えるだけの調味料だと思っていたけど、こうやってイクミくんと料理しているといろいろ使えそうって思うわね」
「これも酸味つけてるだけだよ? 砂糖がもっと使えるとビネガーももっと使いやすくなると思うんだけどね」
日が暮れて、ルイと村長が戻ってきた。俺とサディさんはカロイモとスープをテーブルに並べる。直前に混ぜたタルタルソースもね。
「ん? 酒とか出ると思ってた」
「ルイ、昨日も飲んだでしょ」
「このメニューはイクミくんのリクエストなんだから拒否権はないわよ?」
「じゃあしょうがないな」
しょうがないんだ……なんでだよ。でもタルタルソースにはちょっと食いついてたな。ルイもマヨネーズは気に入ってたからね。俺とサディさんはカロイモとスープだけで、ルイと村長にはプラスでステーキ。タルタルソースは好きに使ってねって感じで真ん中に置いた。
夕飯はのんびりスタートして、食事中は魔物の話は出なかった。あれ? もしかして気を使われてるかも。サディさん以外には弱音吐いてないつもりだったのに……。
食事もほとんど終わったくらいに村長から魔物について話があった。
「今回出没した魔物だが……結論から言うと魔核持ちの一種だった。魔力の強さからそれはないとみんな思っていたんだが、小さな棘状のエハヴィールの欠片が体内ではなくて耳に刺さっていた。しかも……ヤツは元は2頭だったようだ。どういうわけか、片方がもう片方を取り込んでしまったようだな。解体したらそういう痕跡があった。元々群れを作る動物だったからそういう性質が変に能力として引き継がれたのかもしれない。本体のほうが認識できなかった件はまだ魔導士と一緒に仮定から検証中だ」
「これが欠片だ。みんながイクミにって」
「は?」
確かにすごく小さい楔みたいな形だった。けど……そうじゃなくて。
「なんで、俺?」
「今回の功労者だからだろ」
「俺は矢をちょっと当てただけじゃん……倒したわけじゃないよ」
「イクミがそれをしなかったら本体を叩けなかったんだ。本体を叩けなかったらやられてた可能性がある。まあ、防壁が壊されることはなかったと思うが」
当たり前だろ? みたいな顔してルイが言って、村長も頷いていた。そんなこと言われても俺からしたら大したことしてないのにって気持ちが強い。だから、そのあとも俺の遠慮と受け取れってやり取りが繰り返されて、どうしようもなくて一旦ルイのマジックバッグに保管しておいてほしいってお願いして落ち着いた。自分で持ってたらあのときのこと思い出して心臓バクバクしちゃいそうだからって言ったらルイはすぐしまってくれたんだ。
「まあ、今回の魔物のおかげで我々も魔物への認識を少し改めないといけないということがわかった。防壁も入り口をメインに所々に団員を常駐させているが、もう少し配置とか陣形とか考えないといけないな。今は冬で上に人を取られているのもあったからなぁ……」
村長は少し考え込んでいた。そうだよね……今はガルフさんもサグさんも戦闘に長けた魔導士さんも他にも数人行っちゃってるんだもんな。これで数カ月後に追加で上に行かせるのはちょっと不安になっちゃうよねぇ。
なんだか難しい話になりかけたけど、その後、改めて村長からたくさんお褒めの言葉をかけてもらった。俺が見張り台にいてくれて、弓を使えて良かったって。この分なら春にはルイやヴァンがいるなら村を出てもいいかもしれないって。
照れるぅって落ち着かない気分で聞いてたけど、最後ちょっと心臓が跳ねたよね。
**********
年内の更新はこれでおしまいで、大晦日の更新はお休みします。
次は1月3日水曜日に更新します。
楽しみにしていてくれる方がどのくらいいるのかはわかりませんが、お読みいただいている方には本当に感謝しかありません。
今年はこれを初めて書き始めて、これだけ書ければいいやと思っていたのになんやら短編とかも書くようになって、本当にお世話になりました。
また引き続きお読みいただける方は来年もよろしくお願いいたします。良いお年を~
夕飯を作るには少し早い……というか、俺が立っていられなくて部屋に戻ってベッドの上で座り込んでたんだけど、サディさんがドアをノックして入ってきた。
「イクミくん、お手柄だったんですってね」
「サディさん……」
「みんなが怪我をしないで済んだのはイクミくんのおかげなのよ。自慢してもいいくらい」
「俺、怖かったんだ……だから、必死で……今さら震えがきてる」
ベッドの上で俺の身体がカタカタしてるのを見たサディさんが優しく抱きしめてくれてくれる。優しくて暖かい腕の中に包まれていると少しだけ落ち着いた。
「ルイやみんなのことをいっぱい心配してくれたのね。ありがとう」
うん、ルイなら大丈夫って思ってたけどやっぱりすごく心配だったんだ。見てるしかできないし劣勢ではなかったけど優勢でもなかったし、魔物の数は減らないし。思い出すだけで心臓がキュッてなる……。
「サディさん、俺、今日いつものスープが食べたい……」
「お祝いじゃなくていいの?」
「お祝いは昨日のでいい。今日はあれがいい。あれが落ち着く……」
「じゃあそうしましょう。なんの変哲もないあのスープをイクミくんが落ち着くって言ってくれるの、嬉しいわ?」
俺の震えが収まるまでサディさんはポンポンしたりさすったりしてくれて側にいてくれた。ちょっと恥ずかしくなってきたよ……。俺、メンタル弱すぎじゃないか?
サディさんと一緒にキッチンに行って、料理の話をしながらスープを仕込んでいく。クズ野菜とか皮とかを炒めてから布袋に入れるのはサディさん。俺は具になる食材を切っていく。こうやって普段のなんでもない行動をしているとだいぶ心が落ち着いてくる。
蒸かしカロイモもたくさん用意する。あと、マヨネーズを作った。カロイモにつけても美味しいんだ。
「あ、タルタルソースみたいのも作っちゃおうかな」
「タルータル?」
「うん。具の入ったマヨネーズみたいな感じなんだ」
俺はゆで卵を作って、シャロの球根をみじん切りにする。みじん切りにしたシャロをピクルスの代わりになるようにビネガーに少し漬け込んでみた。他にも加えてもいいかもしれないけど急に思い立って作り出しちゃったから今日はこんなシンプルなやつ。
「ゆで卵もみじん切りにして、シャロがいい感じに漬かったら汁気を切って全部混ぜるだけなんだ」
「いいわね。簡単だし!」
「これは、結構いろんなものに合うよ。揚げ物にもいいし多分ステーキでも合うと思うな」
なんかやっといつもの俺に戻った感じがする。俺はやっぱ平和がいいな。とはいえ、こっちのメイン食材の肉は魔物を狩らないといけないわけで……。うーー。
きっと二人が帰ってきたら昼の魔物の話になるんだろうな。もう落ち着いたから話しても大丈夫だと思うけど、一応心構えはしておこうって思う。
「ビネガーって酸味を加えるだけの調味料だと思っていたけど、こうやってイクミくんと料理しているといろいろ使えそうって思うわね」
「これも酸味つけてるだけだよ? 砂糖がもっと使えるとビネガーももっと使いやすくなると思うんだけどね」
日が暮れて、ルイと村長が戻ってきた。俺とサディさんはカロイモとスープをテーブルに並べる。直前に混ぜたタルタルソースもね。
「ん? 酒とか出ると思ってた」
「ルイ、昨日も飲んだでしょ」
「このメニューはイクミくんのリクエストなんだから拒否権はないわよ?」
「じゃあしょうがないな」
しょうがないんだ……なんでだよ。でもタルタルソースにはちょっと食いついてたな。ルイもマヨネーズは気に入ってたからね。俺とサディさんはカロイモとスープだけで、ルイと村長にはプラスでステーキ。タルタルソースは好きに使ってねって感じで真ん中に置いた。
夕飯はのんびりスタートして、食事中は魔物の話は出なかった。あれ? もしかして気を使われてるかも。サディさん以外には弱音吐いてないつもりだったのに……。
食事もほとんど終わったくらいに村長から魔物について話があった。
「今回出没した魔物だが……結論から言うと魔核持ちの一種だった。魔力の強さからそれはないとみんな思っていたんだが、小さな棘状のエハヴィールの欠片が体内ではなくて耳に刺さっていた。しかも……ヤツは元は2頭だったようだ。どういうわけか、片方がもう片方を取り込んでしまったようだな。解体したらそういう痕跡があった。元々群れを作る動物だったからそういう性質が変に能力として引き継がれたのかもしれない。本体のほうが認識できなかった件はまだ魔導士と一緒に仮定から検証中だ」
「これが欠片だ。みんながイクミにって」
「は?」
確かにすごく小さい楔みたいな形だった。けど……そうじゃなくて。
「なんで、俺?」
「今回の功労者だからだろ」
「俺は矢をちょっと当てただけじゃん……倒したわけじゃないよ」
「イクミがそれをしなかったら本体を叩けなかったんだ。本体を叩けなかったらやられてた可能性がある。まあ、防壁が壊されることはなかったと思うが」
当たり前だろ? みたいな顔してルイが言って、村長も頷いていた。そんなこと言われても俺からしたら大したことしてないのにって気持ちが強い。だから、そのあとも俺の遠慮と受け取れってやり取りが繰り返されて、どうしようもなくて一旦ルイのマジックバッグに保管しておいてほしいってお願いして落ち着いた。自分で持ってたらあのときのこと思い出して心臓バクバクしちゃいそうだからって言ったらルイはすぐしまってくれたんだ。
「まあ、今回の魔物のおかげで我々も魔物への認識を少し改めないといけないということがわかった。防壁も入り口をメインに所々に団員を常駐させているが、もう少し配置とか陣形とか考えないといけないな。今は冬で上に人を取られているのもあったからなぁ……」
村長は少し考え込んでいた。そうだよね……今はガルフさんもサグさんも戦闘に長けた魔導士さんも他にも数人行っちゃってるんだもんな。これで数カ月後に追加で上に行かせるのはちょっと不安になっちゃうよねぇ。
なんだか難しい話になりかけたけど、その後、改めて村長からたくさんお褒めの言葉をかけてもらった。俺が見張り台にいてくれて、弓を使えて良かったって。この分なら春にはルイやヴァンがいるなら村を出てもいいかもしれないって。
照れるぅって落ち着かない気分で聞いてたけど、最後ちょっと心臓が跳ねたよね。
**********
年内の更新はこれでおしまいで、大晦日の更新はお休みします。
次は1月3日水曜日に更新します。
楽しみにしていてくれる方がどのくらいいるのかはわかりませんが、お読みいただいている方には本当に感謝しかありません。
今年はこれを初めて書き始めて、これだけ書ければいいやと思っていたのになんやら短編とかも書くようになって、本当にお世話になりました。
また引き続きお読みいただける方は来年もよろしくお願いいたします。良いお年を~
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