上 下
100 / 202
異世界生活編

100.お……お手柄っ!?

しおりを挟む
 その日は午後のトレーニングはなしになった。俺もヘロヘロだったし、ルイは村の人たちに情報共有があったし。ヴァンも一旦俺の顔を見に来てくれて、何故か頭を撫でてくれて、共有の場に向かっていった。
 夕飯を作るには少し早い……というか、俺が立っていられなくて部屋に戻ってベッドの上で座り込んでたんだけど、サディさんがドアをノックして入ってきた。

「イクミくん、お手柄だったんですってね」
「サディさん……」
「みんなが怪我をしないで済んだのはイクミくんのおかげなのよ。自慢してもいいくらい」
「俺、怖かったんだ……だから、必死で……今さら震えがきてる」

 ベッドの上で俺の身体がカタカタしてるのを見たサディさんが優しく抱きしめてくれてくれる。優しくて暖かい腕の中に包まれていると少しだけ落ち着いた。

「ルイやみんなのことをいっぱい心配してくれたのね。ありがとう」

 うん、ルイなら大丈夫って思ってたけどやっぱりすごく心配だったんだ。見てるしかできないし劣勢ではなかったけど優勢でもなかったし、魔物の数は減らないし。思い出すだけで心臓がキュッてなる……。

「サディさん、俺、今日いつものスープが食べたい……」
「お祝いじゃなくていいの?」
「お祝いは昨日のでいい。今日はあれがいい。あれが落ち着く……」
「じゃあそうしましょう。なんの変哲もないあのスープをイクミくんが落ち着くって言ってくれるの、嬉しいわ?」

 俺の震えが収まるまでサディさんはポンポンしたりさすったりしてくれて側にいてくれた。ちょっと恥ずかしくなってきたよ……。俺、メンタル弱すぎじゃないか?

 サディさんと一緒にキッチンに行って、料理の話をしながらスープを仕込んでいく。クズ野菜とか皮とかを炒めてから布袋に入れるのはサディさん。俺は具になる食材を切っていく。こうやって普段のなんでもない行動をしているとだいぶ心が落ち着いてくる。
 蒸かしカロイモもたくさん用意する。あと、マヨネーズを作った。カロイモにつけても美味しいんだ。

「あ、タルタルソースみたいのも作っちゃおうかな」
「タルータル?」
「うん。具の入ったマヨネーズみたいな感じなんだ」

 俺はゆで卵を作って、シャロの球根をみじん切りにする。みじん切りにしたシャロをピクルスの代わりになるようにビネガーに少し漬け込んでみた。他にも加えてもいいかもしれないけど急に思い立って作り出しちゃったから今日はこんなシンプルなやつ。

「ゆで卵もみじん切りにして、シャロがいい感じに漬かったら汁気を切って全部混ぜるだけなんだ」
「いいわね。簡単だし!」
「これは、結構いろんなものに合うよ。揚げ物にもいいし多分ステーキでも合うと思うな」

 なんかやっといつもの俺に戻った感じがする。俺はやっぱ平和がいいな。とはいえ、こっちのメイン食材の肉は魔物を狩らないといけないわけで……。うーー。
 きっと二人が帰ってきたら昼の魔物の話になるんだろうな。もう落ち着いたから話しても大丈夫だと思うけど、一応心構えはしておこうって思う。

「ビネガーって酸味を加えるだけの調味料だと思っていたけど、こうやってイクミくんと料理しているといろいろ使えそうって思うわね」
「これも酸味つけてるだけだよ? 砂糖がもっと使えるとビネガーももっと使いやすくなると思うんだけどね」

 日が暮れて、ルイと村長が戻ってきた。俺とサディさんはカロイモとスープをテーブルに並べる。直前に混ぜたタルタルソースもね。

「ん? 酒とか出ると思ってた」
「ルイ、昨日も飲んだでしょ」
「このメニューはイクミくんのリクエストなんだから拒否権はないわよ?」
「じゃあしょうがないな」

 しょうがないんだ……なんでだよ。でもタルタルソースにはちょっと食いついてたな。ルイもマヨネーズは気に入ってたからね。俺とサディさんはカロイモとスープだけで、ルイと村長にはプラスでステーキ。タルタルソースは好きに使ってねって感じで真ん中に置いた。
 夕飯はのんびりスタートして、食事中は魔物の話は出なかった。あれ? もしかして気を使われてるかも。サディさん以外には弱音吐いてないつもりだったのに……。
 食事もほとんど終わったくらいに村長から魔物について話があった。

「今回出没した魔物だが……結論から言うと魔核持ちの一種だった。魔力の強さからそれはないとみんな思っていたんだが、小さな棘状のエハヴィールの欠片が体内ではなくて耳に刺さっていた。しかも……ヤツは元は2頭だったようだ。どういうわけか、片方がもう片方を取り込んでしまったようだな。解体したらそういう痕跡があった。元々群れを作る動物だったからそういう性質が変に能力として引き継がれたのかもしれない。本体のほうが認識できなかった件はまだ魔導士と一緒に仮定から検証中だ」
「これが欠片だ。みんながイクミにって」
「は?」

 確かにすごく小さいくさびみたいな形だった。けど……そうじゃなくて。

「なんで、俺?」
「今回の功労者だからだろ」
「俺は矢をちょっと当てただけじゃん……倒したわけじゃないよ」
「イクミがそれをしなかったら本体を叩けなかったんだ。本体を叩けなかったらやられてた可能性がある。まあ、防壁が壊されることはなかったと思うが」

 当たり前だろ? みたいな顔してルイが言って、村長も頷いていた。そんなこと言われても俺からしたら大したことしてないのにって気持ちが強い。だから、そのあとも俺の遠慮と受け取れってやり取りが繰り返されて、どうしようもなくて一旦ルイのマジックバッグに保管しておいてほしいってお願いして落ち着いた。自分で持ってたらあのときのこと思い出して心臓バクバクしちゃいそうだからって言ったらルイはすぐしまってくれたんだ。

「まあ、今回の魔物のおかげで我々も魔物への認識を少し改めないといけないということがわかった。防壁も入り口をメインに所々に団員を常駐させているが、もう少し配置とか陣形とか考えないといけないな。今は冬で上に人を取られているのもあったからなぁ……」

 村長は少し考え込んでいた。そうだよね……今はガルフさんもサグさんも戦闘に長けた魔導士さんも他にも数人行っちゃってるんだもんな。これで数カ月後に追加で上に行かせるのはちょっと不安になっちゃうよねぇ。
 なんだか難しい話になりかけたけど、その後、改めて村長からたくさんお褒めの言葉をかけてもらった。俺が見張り台にいてくれて、弓を使えて良かったって。この分なら春にはルイやヴァンがいるなら村を出てもいいかもしれないって。
 照れるぅって落ち着かない気分で聞いてたけど、最後ちょっと心臓が跳ねたよね。


**********

年内の更新はこれでおしまいで、大晦日の更新はお休みします。
次は1月3日水曜日に更新します。
楽しみにしていてくれる方がどのくらいいるのかはわかりませんが、お読みいただいている方には本当に感謝しかありません。
今年はこれを初めて書き始めて、これだけ書ければいいやと思っていたのになんやら短編とかも書くようになって、本当にお世話になりました。
また引き続きお読みいただける方は来年もよろしくお願いいたします。良いお年を~
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

処理中です...