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異世界生活編

98.お肉の処理について

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 防壁の門の上が見晴らし台になってるわけだけど、門の横は結構スペースが取られていていろいろ作業が出来るようになっていた。こうやって獲物を捌いたり、怪我人がいたら応急処置をしたりってできるらしい。

「前にイクミの前で処理したときはあんまり見たくなさそうだったが、基本的なことくらいは覚えておいたほうがいい。基本は俺がイクミの側にはいるつもりだが……何かあったときに一人でなんとか生き延びる術は知っておくべきだ」
「わかった!」

 確かにいつでもルイがいてくれるとは限らないもんね。はぐれちゃったりとか、もしかしたらルイが怪我しちゃったりすることもあるかもしれない。そんなときに俺が食材を仕留めても何もできなかったら困っちゃう。気持ち悪いとか言ってられないよな。
 と、思ったんだけどさ……。

「えー! 水魔法使いまくりじゃん……俺、まだ無理だよ」
「今やれって言ってるわけじゃない。手順とポイントを覚えろ。……もちろん一回で覚えなくていいから」

 ルイは魔物にしろ動物にしろ、まずは血を抜くのが大事だと教えてくれた。太い血管を切って水魔法を使いながら血を抜きつつ浄化を行っていく。2箇所切ることで流し入れる方と出す方で上手く処理できるらしい。皮を剥ぐとかそういうのの前にまずは血を抜かないと肉が臭くなるからなるべく早くやるんだって。
 肉まで切ってしまわないように腹の表面のど真ん中をつまみ上げて薄く薄く、皮と脂肪の部分だけに刃を入れる。

「うわっ、くさっ」
「糞が出てきたな……まあ大抵こうなる。だから本来は外で解体をしてるんだ」
「そうなんだ。俺がまだ外に出られないからかぁ」
「まあ、気にするな。浄化かけるから。とはいえ、食べる部分にはつけないほうがいいな」

 ルイはテキパキと作業を進めていく。腹の皮を開いたやつをまた浄化をかけつつ、今度は慎重に肉に刃を入れてから内臓を取り出していく。うう……さすがにこれはやっぱ気持ち悪いな。

「内臓を傷つけないほうがいいから取り出す時は刃物をあまり使わないようにしてる。でも刃物がないと剥がせないところもあるから注意しながらだな。病気を持ってないかもこういうときに見る」
「病気とかわかるもの?」
「全部とは言わないが、見るからにってのは捌くの中止して破棄にする。コイツは大丈夫だろう」

 内臓を抜いたやつの腹の空洞もまた水魔法で洗って浄化していく。今回は俺が見やすいように作業しながら水を蒸発させるとかはしてなくて、意外と水を使っているのがわかる。このくらい水が出せたらいいよなぁ……。
 俺は唯一やったことのある魚を捌くのを頭に思い浮かべつつルイの作業を見ていた。

「ここまでやったら肉質の劣化がだいぶ抑えられるから、皮を剥いでいく。とにかく血抜きと内臓抜きを素早くだな」
「やっぱ魔法が肝だねぇ……魔法なしでやるとなったら大変そうだよ」
「魔法なしは確かにやったことがない。うーん……」

 話しながらも皮をサッサッと剥がしていくルイ。俺の放った矢の刺さった部分は省いていきながらどんどん小さな肉塊にしていく。大きな骨なんかも抜いていた。
 やっぱ手慣れてるよな。初めて出会ったときのでっかいムシャーフをあっという間に捌いてマジックバッグに入れてたんだから当たり前なんだけどさ。

「コイツは魔物じゃないから余計な魔力を抜くとかはしなくていい。だが、動物の肉は魔物肉より質の観点で少し置いたほうが美味い」
「結局すぐは食べられないの?」
「そんなこともないが。これはこれで別の美味さもある」

 どういうこと? と思って首を傾げると、少し待ってろとルイが外に行って戻ってきた。

「ほら」
「これ、焼いてきたの?」

 金属の太めの串に刺さった湯気の立つ肉を差し出されてびっくりした。火魔法で焼いてきたのかな……。差し出されたから受け取ってかじってみると肉はかなり硬かった。けど、噛んでると不思議と今まで食べたことのないようなほんのりとした甘みもあってクセになる感じで美味しい。塩だけの味付けだから若干野性味はあるけどね。

「な?」
「ほいひい」

 確かに柔らかくはないし、味に深みがあるってわけでも無さそうなんだけど、なんか止められなくてルイと一緒に捌きたて焼きたて串肉を頬張る。人によっては好きじゃない人もいるかもしれないけど俺的にはアリだなって思った。
 少しは今日の夕飯に使って、残りは時間を置いてから共有かなって言ってた。おお……共有するに価する獲物だったか! やったね、俺! っていうか、見つけてくれたルイに感謝だよね。俺には最初見えなかったからなぁ……。

「これ、ヴァンにも自慢したい! お肉もあげようよ」
「まあ……イクミがそうしたいなら」

 だってまた除け者にされたとかって拗ねちゃうよ。面倒くさいじゃん。まあ言わないけど……。
 とりあえずお肉は全部ルイのマジックバッグに一旦保管してもらって、皮とか骨とか内臓とかは使えるものは加工して、捨てるものは渓谷の川に投げ捨てていた。えー、それでいいんだってちょっと思ったけど、こっちじゃさほど環境問題にはならないのかもね。むしろ村の近くで捨てるのは魔物なんかが寄ってくるからタブーみたいだ。

 トレーニングでヴァンと合流してちょっと自慢した。ルイ視点での解説も入って、ふむふむと聞いたヴァンはちゃんと褒めてくれた。なんだかんだ言っても一応一番年上なんだよなぁ。肉も喜んでもらっていたから肉の好き嫌いはあまりないのかなぁ……。
 一応今日も小さい的での練習で、でも動かさないよりはほんの少し震えさせるような感じの動きが追加された。うん、動物っぽい。なんか、急に実践めいてきたよね。いや、すでに狩ったんだから実践なのか。
 今日は霧がないから本当にやりやすい。だからこそ獲物を仕留められたともいうよね。

 トレーニングを終えて家に入れば、サディさんがなんかあの肉を使っていろいろ下ごしらえしててびっくりした。聞けば俺のお祝いパーティーのつもりだったんだって。『祝・初狩り』みたいな? 少し恥ずかしい。いや、嬉しいけどさ。
 あのお肉は下ごしらえがかなり大事だね。硬いから厚く切って焼くのはあまり向いてない。でも叩いて繊維を崩したりすりおろした野菜に漬け込んだり、やり方次第で柔らかくできるっぽい。臭み取りはもちろんジベラ。俺はあのくらいの野性味なら全然問題ないんだけど、ジベラは万能だなーって思うよ。

 村長が帰ってきてからはちょっとした宴会みたいだった。
 料理とお酒で盛り上がって、ルイが俺の弓を褒めてくれて、村長がそれに感心して声をかけてくれて、サディさんが獲物の料理を次々出してくれてさ。俺はもちろん霧がなかったしルイがいてくれたからって言ったんだけど、そんなの些細なことだって言われちゃった。

 まだあと数日は魔力噴出の警戒を続けるってことだから俺ももう少し頑張ろう! こういう成果があるとなんか頑張ろうってより気合が入るよな!
 
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