霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

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異世界生活編

97.獲物を仕留めたい!

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 最初に狙った鳥は外して逃げられたけど、その後も何回かはチャレンジした。まあ、全部外れたんだけどね。そんな話をヴァンにしたけど、意外やヴァンは笑わずに聞いてくれてどうしたらいいのかを考えてくれた。
 え、こないだくすぐりまくったからかな?

「練習場所の広さの関係もあって距離は伸ばすのが難しいから的を小さくしてみよっか!」
「あ、うん。それならできるね」

 さっきは短い時間だったし動物はあまりいなかったしってことで、そこまでボロクソではなかったけど悔しいのには変わりないから的を小さくしてもらうのは俺も賛成。たださ、今までもヴァンの的で百発百中とかじゃなかったわけで……。

「とりあえず、動物に見立てて地面に近い位置で、小さい的を動かさないってのはどうだ?」
「そうだねー、それやってみよっか」
「動かないのは俺も助かるかも……」

 そうして的を徐々に小さくしていく作戦はなかなか良かった。当たるか掠ったら少し小さくして、当たらなかったら当たるまで同じ大きさでやるって感じでね。
 地面スレスレな感じで浮いてる的は俺的には狙いやすかった。感覚なんだけど、多分地面の位置とかが目に入るから目測が合いやすいのかもしれない。ていうのは、鳥に見立てて木の枝の上とかに的を置かれると結構狙いにくくてさ……だからそうかなーって。

「今日は……もう俺、限界!」
「だよねぇ」
「頑張りすぎなくていいって言ってるだろ」

 また2人に呆れられちゃったや。だってさ、走り込みとか筋トレはもう負荷上げるとかもなくなって、同じのを継続してるわけ。で、俺の体力なんかはかなり底上げされたから基礎トレは余裕がでてきたからと思ってつい。
 鳥に逃げられたのがめちゃくちゃ悔しかったのもある。

「でも結構慣れたと思わない?」
「それはオレたちも思ってるよ、ねえ?」
「ああ」

 ルイはともかくとして、ヴァンがまともだ! いや、真面目なときもあるの知ってるけどさ。おちゃらけが多いせいで俺は多分偏見を持ってる!

「明日の見張りではせめて何かを仕留めたい……」
「焦るな」
「そうだよー。時間があったらオレも行こうか?」
「俺がいるから無理しなくていい」
「無理じゃないっての! なんだよもう、オレのこと除け者にしてさぁ」

 あはは……。でも実際ヴァンが結構忙しくしてるのも知ってるからな。俺としてもなんにでも付き合わせるのは少し申し訳ないんだよね。別に除け者とか思ってないもんな。お……俺はルイと2人が嬉しいとか、ほんのちょっとしか思ってないし!

 ◇◇◇

 今日、起きていつもみたいに外を見たら霧がなかった。

「え……今日なの?」

 皆も昨日何も言ってなかったから知らなかったよ。あ、でも思い返せば前の霧のない日も特に誰も話題にしてなかったような……。俺ばっか楽しみにしてるんじゃん、なんだかなー。

 サディさんといつものように料理をして皆で朝食のときに話題を出したら一応霧のない日について話すことができた。村長が言うには上の遺跡と村が魔法陣で繋がってるから不思議な力が働くんだろうってことだ。やっぱり面白い。古代遺跡見たいなぁ……村から出られるようにならないと見れないんだよね。
 いつもよりちょっと長めに会話しながら食事をして畑仕事をして走り込みのあと、今日もルイと一緒に防壁の見張り台に向かう。

「あー、せめて昨日より大きい獲物が来たらなぁ」
「気合入りすぎだろ」
「うん、俺も最初無理って思ってたのなんでかなってくらい仕留める気になってるよ。だって今日は霧もないしさ! 雪はあるからちょっと見づらいのは変わりないけど霧がないだけでだいぶ違うじゃん」

 俺の獲った食材欲しい。できれば少しでも美味しく食べられるものを!
 俺は見張り台から少し身体を乗り出すように見てしまって、ルイにベルト紐を引っ張られてしまった……。

「ひえっ」
「危ないからあまり身を乗り出すな」
「だって早く見つけようと思ってさ……あっ! あれは?」
「岩、だな」

 ……。
 くそー。俺だってそこまで目が悪いわけじゃないのに!
 せっかく見張り台に来たのに昨日より全然動物を見かけないのはなんでなんだ。霧がないからなのか?
 そんな感じで俺が少し諦めかけていたとき、そっとルイに肩を叩かれた。ルイを見ると口に手を当てて首を振っていて静かにしろってことかなって思った。

『右手の木のところ、木の皮をかじってる。音に敏感だからあまり大きな声は出すなよ?』

 ルイが小声で俺に耳打ちして、ひゃ……ってなった。こんなときにごめんなさい。ルイの言う方向を見てみると本当にわかりにくいけど、確かに木にくっついてる黒いものが見えた。しかも鳥なんかより全然比べ物にならないくらい大きい!

『あれ、食べられるの?』
『もちろん。……アレならイクミなら絶対当てられる。でも仕留めるには1射だけじゃなくて連射しろよ?』
『わかった』

 俺らの小さな作戦会議のあと、俺はそっと矢筒から矢を引き抜いて弓を引く。今までの練習で素早く狙うのもできるようになってるけど、最初はちゃんと狙いを定める。連射する時に練習の成果を発揮できればいいな。

 ──ヒュッ

 しっかりと重い弓から放たれた勢いのいい矢は、俺の思い描いた軌道を進んで……。

 ──フゴォォォ!!

 当たった! よし! と思う間もなく、ルイの言うとおり追加で連射をした。3本の矢が刺さったあとくらいから動物が暴れまくって狙いをつけにくくなる。冷静に……なんとなくでも動きを予想して、射る!
 動物は暴れてはいるものの動きが段々と鈍くなってきていて、それを見たルイが俺にストップをかけた。

「もう大丈夫だ。アレはイクミの獲物だぞ。待ってろ」

 そう言うと、ルイは見張り台をおりていって防壁の外へ出ていく。俺は許可がないからあそこにはついて行けないんだけど、門のところでルイを待った。

「イクミ君が狩ったって?」
「あ、はい」
「遠いのにすげぇなぁ、自分は弓はからきしで……でも盾術なら自慢できるレベルだ」
「へぇ、盾術……」

 今日の門番さんと話しているとルイが動物を引きずってきた。
 ……え? 思ったよりはデカいって実物を見てちょっとびっくりした。この動物はなんなんだろう。うーん、イノシシ的な? 毛が長いけど多分種類的にはそういうやつだと思う。

「おおー、いいとこにヒットしてんなぁ! やるじゃねぇか!」
「えっと……狙ってそこに当たったわけじゃないけどね」
「そんなの言わなきゃわかんねぇっての」
「解体も教えようかと思ってそのまま持ってきた。門脇借りるぞ?」

 なんかすごいな。これを俺一人で仕留めたなんて嘘みたい。動物さん、ごめんね……美味しく食べるからね。
 
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