上 下
95 / 202
異世界生活編

95.久々に来たアレ

しおりを挟む
 ――ズズン
 
 夕飯の支度をしているときよくわからない衝撃を感じた。特に音が聞こえたとか何かがあったという感じではなかったんだけど、これは一体なんなんだろうと思っているとサディさんが顎に手を当てて上を向いていた。
 
「遠いわね」
「何が?」
 
 さっきのズーンときたアレのことだとは思ったんだけどアレがなんなのかわからなくて俺はサディさんに尋ねる。
 だってね、別に家が揺れたりとかがあったわけじゃなくて、変な波みたいのが身体の中を通っていったみたいな感じでオエッてなるみたいな感覚だったんだよね。
 
「魔力噴出よ?」
「うそ!? 前にめっちゃ爆発してたやつ?」
「あのときは村の近くであったものねぇ。今回はかなり遠そうね。魔力波の名残だけきたもの」
「アレがそうなんだ?」
 
 魔力噴出は年に何度かはあるから経験するだろうとは言われてたけど、今回は地震で言えば震度1みたいなものってことかな。オエッてのがなかったら全然わからなかっただろうし。
 ていうか、魔力噴出かぁ。前回のときはここに来たばっかりで本当に怖くてしょうがなかったよな……。通訳の魔導具も使えなくてルイもいなくてさ。あの時の心細さは筆舌に尽くし難いものがあったよな。
 
「今回も偵察に行くの?」
「かなり遠そうだからないんじゃないかしら。近場ならどんなに雪が深くても行くとは思うけど、空気が響きもしなかったでしょう?」
 
 それを聞いて安心した。魔力噴出は俺にとってトラウマみたいなもんなんだもん。
 それにしても……前回夏至みたいな日を過ぎたあたりだったと思うけど、今回は冬至みたいに日が一番短い日が近いんじゃないか? そういうのなんか関係あるのかなぁ。いや、ありそう。地球だって満月や新月の時は引力で地震が起きやすかったりするし、原理は違ってもそういうことがあっても不思議じゃない。
 
 でも、とりあえず遠くで起こって村にほとんど関係ないなら良かったよ。俺は霧がない日をみんなと楽しみたいんだって。不思議な魔力の霧の謎とか解明出来たら面白いだろうなぁ。冒険映画みたいにさ、謎を解き明かして行くと財宝が……とか、異世界なんだし新たな能力が……とかあったら面白そうだよね。娯楽映画の見すぎかなぁ。
 
 夕飯のときに村長が魔力噴出について話していた。サディさんの言った通り、前みたいにチームに分けた偵察隊を出すことはしないって。でも噴出が起こった辺りで魔化した生物がいるだろうから、村の中からの警備は強化するということだ。
 
「イクミ君、やってみる?」
「へ?」
「防壁の見晴らし台から少し当番で待機するだけだよ。イクミ君は弓が使えるからいいんじゃないかな?」
「で、でも……見逃したり失敗したりしたら……」
「俺が一緒にいるから」
 
 俺が戸惑っているとルイがすかさず口を挟んでくる。フォローのつもりかもしれないけど、俺からしたら逃げられないように背後からグイグイ押し出されてるみたいに感じる。
 
「村から出ないで場合によっては魔物を狙えるチャンスだろ?」
「チャンス……っていうかさぁ……」
 
 村から出るっていうのを目標に武器の練習をしてきた俺だけど、やっぱりいざとなると尻込みしちゃうもんだな。村に来るまでにルイに守られてたときの魔物なんかを思い出してかなりビビっていると、ルイがスッと目を細めて俺を見たのがわかった。
 あ……。ルイの期待は裏切りたくないかも。
 
「ん。ルイがサポートしてくれるなら……やってみようかな。でも、頭数には入れないでっ」
 
 テーブルでみんなに見られながら言うのはちょっと恥ずかしかった。でも3人の視線は優しくて、ホント俺みたいなよそ者になんでここまで優しいんだよ。そんな重要なことにまで関わらせてくれてさ。
 
「イクミくん最近とっても頑張っているものねぇ。ルイもヴァンもイクミくんの弓の腕がかなり上達してるってアルに話してたわよ」
「そっ……だから、バラすなよ……」
「むしろなんで言ってあげないのよ」
 
 俺の知らないところで情報共有されてた……。いや、前からそうだったんだけど、こうやって他の人から聞くと急に『うわー』って思っちゃうよね。そんで、思ってないところでサディさんに言われて照れるルイが相変わらず……ゲフンゲフン。
 それにね、サディさん、俺、別にルイに褒められてないわけじゃないんだよ。いつも『よくやってる』『ちゃんと上手くなってる』って言ってもらってるし、悩んでたらさりげなく声かけてくれたりフォローしてもらってるもん。
 
「え、えっと……明日から? 担当する時間とか決まってるの?」
「イクミ君には昼間の短い時間だけ立ってもらおうか。いつもやってることの合間だけでいいよ」
「他の人に悪くないかな?」
「頭数に入れないんだろ? 気にするなって」
「そうは言ったけど……」
 
 ルイも村長も、これは魔物を発見したり対峙したりする練習だからって言うんだよね。他の人たちもわかってるからいいって。いや、おかしくない!? 村の安全に関わることだよ?
 
「イクミが真面目でわざとサボるようなヤツじゃないってみんなわかってる。大丈夫だ」
 
 村長も魔物が大挙して押し寄せるなんてことはないから大丈夫だって言うんだよねぇ。大型の魔物が村に近づいたら自警団を村の外に行かせるからっていうけど、むしろそのほうが俺の未熟な弓が味方を射ってしまいそうで怖いよ……。
 俺はちょっとソワソワした気持ちで夕飯を終えて、緊張で熟睡できなかった。うーん、メンタルがまだまだだなぁって思っちゃうよね。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...