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異世界生活編

94.ヴァンへのお仕置き!

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「え、本当に!? イクミ、水出たの?」
「うん。ね、ルイ」
「本当だ」

 俺は水をほんのちょびっとだけど出せたんだって話を早速ヴァンにした。そしたらヴァンは目をまんまるにしてびっくりしてた。わかるよ……だって俺も驚いて混乱しまくって訳もなく部屋グルグルしたりルイに対してカタコトみたいになっちゃったからね。

「えー、ずるい。なんでオレに見せてくれないんだよー、もう! 魔法の先生はオレなのに」
「だって自主練なんだからしょうがないじゃんか。1人じゃ証拠にならないからルイに見てもらったし」

 ルイはうんうんと頷いている。今日のルイは少し機嫌が良さそうに見える。俺……前よりももっとルイの無表情読めるようになってきたよな。
 ヴァンは俺に座るよう言って、俺が座ると頭に手を置いてなんやらやってた。時々チリッとしたから魔力を流したのかなって思う。

「あー、ホントだね。いつもより半分くらいしかない感じする。マジかー見たかったなー」
「つ、次はヴァンの許可が出たらヴァンの前でやってみるからさ……」
「うんうん、よろしくね。でもこんな早くできるとか思ってなかったんだよ。そのうちできるようになるとは思ってたけど早すぎない?」
「俺もできると思ってなかったから、まだよく感覚がわからないんだ。アレ? って思って見たらカップに水が少したまってたんだよ」

 次にやるときはちゃんと『ヴァン先生』に見てもらって、どんな感じだったのかとか聞きたい。改善点とかもあるなら聞きたいし、俺がいろいろ考えたコスパ作戦とかも一緒に考えてくれたらなぁとか……無理かな。
 折角できたんだから続けて練習したいのに、俺の魔力はいったいいつ回復するんだろう。

 俺がちょっとびっくりしたのは弓の練習中に今まで感じなかった微妙なだるさがあったこと。

「あ、イクミにもそれわかるようになったんだ? それがこっちの常識なんだよー」
「ううー。別にすっごいしんどくて動けないとかじゃないけど、こうやって弓を構えるとなんとなく違うって分かる感じっていうの?」
「イクミ、無理は……」
「してないしてない!」

 身体強化ってどうやるのかなって思ってたんだけど、魔力があるだけである程度意識せずとも強化されるってのが身をもってわかったよ。これもちゃんと意識して巡らせればもっと強化できるみたいだね。こりゃ確かに全部使い切るわけにはいかないや……。

「なんか、俺の身体、ちゃんとこっちに馴染んでたんだね。結構びっくりした」
「夏から冬までいるんだからそれなりに順応するだろうなぁ」
「だねぇ。でも魔力の使い過ぎは倒れるってのが少しわかってもらえたみたいで良かったよ」
「俺が倒れるかはわからないけど、それがこの世界の常識ってのは、うん。で、元の量くらいに戻るのはいつくらいになるかなぁ?」

 そこが一番大事だよね。えっと……俺がこの世界に迷い込んじゃってからだいたい4ヶ月半てとこだから、半分使っちゃって……。え、まさかまた2ヶ月とかかかるの?

「んー、そんなにかからないと思うよ。病気とかじゃない限り1回貯まった量って記憶されてんだよ。だから半分残ってりゃ回復が早い。でも上限量まで貯めていくのは初回は時間がかかる……みたいな感じかな」
「ふぅん?」
「じゃなかったら毎日毎日何かするたびに魔法使ってたらなくなっちゃうでしょ?」
「あ、そっか。そういえば、サディさんも身体の中の魔力が循環して変換してくみたいなこと言ってたんだった」
「イクミの量なら1週間もかからないだろ」

 いやね、偶然とはいえ水魔法を使えたって思ったら、やっぱもっと試してみたいっていうかさ。だから魔力の回復については気になるところ。でも思ったより元に戻るの早そうでよかったよ。数カ月貯めて水二口はさすがにねぇ……?
 元の魔力量が増えなかったら少量の水量からは変化しないんだろうけど、俺が考えた水蒸気巻き込み作戦とかが成功したら俺の魔力水プラス自然界の水になって出る水の量は増えるわけで……。それは是非チャレンジしたいとこなんだよね。カラカラの土地じゃ難しいかもしれないけど、霧の多いこの村ならではじゃん?

「そうだねぇ。残った魔力がどれだけ効率よく変換してくれるかにもよるらしいよ。オレにはよくわからないけど、師匠がそんなこと言ってた」
「え、ヴァンの師匠?」
「うん。あ、今はもういないんだけどね」
「なんだ……そっか。色々聞いてみたかったのに」
「オレがいるじゃん」

 いや、ヴァンはすぐ『オレにはよくわからないけど』って言うから参考にならないよね。俺が知りたいのは根拠に基づく理論的な……って、ん? 待てよ……ヴァンって魔導士で魔法を構築して術式を組んだりするんだったよな。なのに魔力の運用とか変換とか知らないとかってあるのか?
 急にヴァンの言ってることが嘘っぽく聞こえてきたんだけど……。

「何、その目ぇ!」
「ヴァン……俺に説明したり教えたりするのが面倒くさいからってわからないフリしてない? どう考えても怪しいんだけど」
「ん? んんっ?」

 ヴァンの耳がピッピッとはねまくってる。知らん顔してるけどあれは絶対怪しい。

「ルイ! ヴァンを押さえて!」

 俺が声を出すと、別に事前に打ち合わせしたわけでも何でもないのに素早く身を翻してルイがヴァンを羽交い締めにしてくれた。デカいルイに背後からガッチリとホールドされてるヴァンは『えー』って顔をしている。
 別に痛めつけようとかそういうのは全く考えてないけど、いつもいつも人をおちょくるようなのは良くないよね? うん。これはね、それをわかってもらうだけ……。

「ヴァーンー? 俺、いつも真剣に練習したり質問したりしてんの。……知ってることは全部吐けーー!」
「あひっ! ちょ……だめっ! うひゃひゃ! 待って待って、降参! 降参ってば! あっひゃ」

 もちろん暴力なんてことは俺はしない。ルイが押さえてくれてるのをいいことにひたすらヴァンをくすぐりまくってやった。
 ヴァンは身体を捩って逃げようとするけど、そこはルイが慣れたもんで、ちゅるんと逃げようとするヴァンを先取りして再固定。俺は思う存分ヴァンをくすぐることができた!

「か、身体攣った……」

 ヴァンが地面に倒れてる横で俺はルイとハイタッチする。言わなくてもわかってくれたのも嬉しい。

「もうこれからは『わかんないけど』は禁止だからね! 本当に知らないときもちゃんと考えて答えてよ。全くもう!」

 そのあと俺が『こんなのしたことない』とか言ってるヴァンに無理やり正座させて魔力について質問しまくったのは言うまでもない。
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