上 下
89 / 202
異世界生活編

89.魔力半分作戦

しおりを挟む
 俺の魔力半分作戦はこう。まずはいつもみたいに全部を1か所に集めて、それを想像で作り出した包丁で半分に切る。その片方が散っちゃわないうちにカプセルに閉じ込める。これなら半分以外でも自分の好きな分量の魔力を手に移動させられそう。俺って頭いい! うそうそ……ちょっと調子に乗った。

「よし。とりあえず、想像はできてる。でもちゃんと魔力の半分だけ移動させられてるかは俺じゃいまひとつわからないんだよな」

 いつものように自主練をしながら独り言が止まらない。俺こっち来てから独り言増えたよな。前も自宅じゃぼちぼち言う方だったけど明らかに増えたなとか思って笑っちゃう。でもね、意外と言葉として口に出すことで考えがまとまったり気持ちが落ち着いたりするんだから侮れない。さすがに人が多いところで言う勇気はないけどさ。

「1回ヴァンにチェックしてもらったほうがいっか。ルイがわかるならいいんだけど……やっぱ魔力のことだからヴァンだよな」

 てことで、今日の朝の自主練は終了! さて、朝食の用意をしていつものお仕事頑張ろっと。

「あら、イクミくん。なんか今日はいつもより元気ね」
「え、そう? あ、魔力の練習が思ったとおりにできてそうだからかな」
「そうなのね。良かったじゃない。どんなことをしているの?」

 そういえば俺はサディさんに魔力の練習なんかはあまり話したことがなかったかもしれない。それこそ最初の悩みまくってたときはぽろっと話したかもしれないけど、カプセル作戦を思いついたあたりからは何も言ってなかったかも。

「──って感じで今は半分の魔力を集めるのにチャレンジ中なんだ」
「すごいじゃない。イクミくんの世界のわかりやすいものを使った想像ね。私たちはあまり意識しないからそういう話はとても興味を惹かれるわ。それにヴァンが言っている魔力をある程度残しておかないと回復が遅くなるというのも本当よ。だからその練習はとても大事ね」
「そうなんだ。なんでそうなるとかはわかってるの?」
「詳しくは私にもわからないけど。でも残っている魔力が体内を循環して新たに取り入れた魔力を自分のものに変換していく……みたいな感じかしら。だから循環する魔力が少ないと変換も少ないのよ」

 魔力の仕組みは俺にはよくわからない。けど、こっちの人もよくわかってないから聞いても曖昧な返答ばかりだ。こっちの世界の学者さん、もっと頑張ってよ! 絶対研究とかしてる人いるだろ? ここが秘境だからあまり情報が伝わってこないのかなぁ。紙が貴重だからとかもあるのかもだけど。

「なんとなく魔力の回復についてはわかったようなわからないようなって感じだけど……。あと、現象を起こすってのが俺にはまだよくわからないんだよね」
「そうねぇ、私の場合は魔力を放出するときに何に変わってほしいかをイメージしてるかしらね。人によって感覚は違うみたいよ? でも色々試していると自分にあったやり方がわかってくるものなのよ」
「ルイは取り出すって言ってた……けど、サディさんは放出、か」
「ルイはそんなこと言ってたのね」

 サディさんも「初めて聞いたわ」なんて感じだった。生活魔法なんて当たり前の魔法すぎてどうやってるとかそんなこと話す人がいないのかもしれない。でもルイの言ってた『取り出す』よりはサディさんの言う『放出のときにイメージ』の方が俺にとってはやりやすいかも。

「サディさん、めっちゃいいヒントになったよ。ありがとう!」
「あら、そう? なら良かったわ! そういえば、冬の野菜がね――」

 サディさんと冬の寒い時期だけに採れる栄養豊富な野菜の話をしながら、前に作ったカロイモポタージュみたいなとろっとして身体の温まるスープを作った。カロイモがそもそもねっとり系のイモだから入れて潰すとそうなるんだよね。今日のはミルクを使ってないんだけど、いろんな野菜が入っててそれを風魔法で全部ガーッとやった感じのスープ。それに魔物肉の串焼きだね。少しサディさんの料理も俺風になって来ちゃってるな。でもスープのバリエーションが増えたってサディさんは喜んでたからいいか。

 ◇◇◇

 俺は弓練習のあと、早速ヴァンを引き止めて半分の魔力を見てもらった。今まではある程度出来てからって感じだったけど、これに関しては俺が知覚出来るようになるのは先過ぎるからさ。

 そしたら、やっぱ作戦は成功して、出来てるって言うんだから「よしっ!」って感じだよね。なんかイメージのコツがわかってきたようにも思うよ。
 あれをこうして、それから……みたいな理屈で考えてからそのついでに場面が思い浮かんでもイメージじゃないんだ。いや……イメージはイメージなんだろうけど、考えまくっちゃってるっていうかね。で、脈絡なかろうがぽんぽんと受け入れて出していっちゃうのがイメージ、って言うのかな……。正確には違うかもだけど、俺的認識はそんな感じ。前者でも俺が最初に魔力を集める練習をしたときみたいに出来るには出来るんどけど、色々試してみた結果圧倒的に後者の方が成功率が高いんだよな。でもリアルに想像するにはある程度の裏付けは必要だからその辺の兼ね合いがね……。

「えー、イクミすごいじゃん! あっという間に出来るようになっちゃうんだねぇ。人並みにはすぐ出来るって言ってたの本当にそうだね」
「いや、それはちょっと違うんじゃ? 今回はたまたまひらめいた作戦が……」
「何言ってんの。そのひらめくのがスゴイんだよ? さらにひらめきをちゃんと活かすところもね」

 そうかな? よくわかんないけど……まあ褒められるのは嬉しいからありがたくそう思っておくか。とりあえず、俺の魔力の半分をちゃんと移動させるのは出来てるみたいだから水を出す練習してみようっと。

「前にルイに水を出してもらったときにさ、出してくれた水が玉になって浮いてたんだけど、あんなふうになる?」
「いや、それはイクミには無理かな。保持できないと思うよ?」
「てことは、俺がやると地面に落ちちゃうのか……シェラカップ用意して練習かな」
「あと、昨日も言ったけど、もし出せたとしたらその1回でやめといてね。その後はオレがいいよって言うまでは集めたり移動させたりするコントロールの練習だけするようにして」
「わかった」

 回復しにくくなったら練習も遅れるだろうし、それは俺もやだから先生の言うことはちゃんと聞いておこう……。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

処理中です...