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異世界生活編

86.意外すぎるよ

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 今日は弓の練習がいつもより短くて、しかも魔力の話なんかしてたもんだから夜寝る前に絶対やろうって決めてた。あの卵の殻の妄想のはまだ試してなかったからね。

「まずは丹田に集めてから……」

 これはまあまあ慣れてきたかな。どのくらい集まっているのかは把握できてないけど、ポカポカしてくることでできてるんだろうなぁと判別する。で、これを……卵……えっと……。

「だぁぁぁ! 卵の殻で覆う想像があんまできないっ」

 少し前こういう硬い殻が身体の中でできるのすごいなって思ったけど、すごいなということはあまり身近じゃないってことで。どうもうまくいかなかったんだよね。というか、集めた魔力を維持しつつ周りに殻を出現させるのが意外と難しかった。別のこと考えてる時間が長いとせっかく集めた魔力が散っちゃうんだ。……これは俺が未熟だからだろうけど。

「振り出しに戻るってか?」

 何度か卵の殻作戦を試してみたけどなかなか思うようにはいかなくて、半ばヤケクソになってた俺は卵の殻を捨てて適当なことを想像してた。もう、なんていうのかな……どうせ今日はできなさそうだし! みたいな感じでね。
 まさか、アレがふと頭に浮かんで、それが上手くいくなんて誰が想像できる? アレってなにかって? アレだよ、アレ。ガチャガチャのカプセル。
 もうどうでもいいやって気分でいたから特に一生懸命にならないでいて、なんとなく頭に現れたカプセルででカパッと集めた魔力を挟み込むように閉じ込めたんだよね。

「はぁ?」

 そしたら、カプセルの想像を消さない限りそこに維持できてるのがなんとなく自分でもわかった。こういうのアリなわけ? だって自分で作り上げたんじゃなくて、ふと思いついたプラスチックの……いわゆるゴミだよ?

「魔法の世界、理解不能……」

 理解はできないけど、する必要ないかと開き直って想像のカプセルを身体の中でコロコロと転がすイメージをする。うん、なんか大丈夫そう。ヴァンが言ってた宿題は手に移動させるってことだったから……。

「あ、できる」

 手のひらは実際の厚みは薄いけど、俺の想像の中では『俺』は黒いポッカリとした空洞のピクトグラムみたいな感じだから中を転がしていってるようなイメージ。指先の一点に集めろって言われたらもっと細かい想像が必要になりそうだけど、今の時点ならこれで大丈夫だと思う。
 手の先までカプセルが移動したらちゃんと右手だけ温かく感じてるからね。

「変なの……今までの努力は一体……」

 子供の頃さんざんガチャガチャをしていたからか、あのカプセルは質感やらサイズやらをありありと思い描くことができる。もしかしてそのせいで上手くいったのかな……。卵だってよく買っていたけど、卵は割って中身を『出す』だけのモノだから閉じ込めるのが上手くできなかったのかもしれない。そんなことを考えながら今日の練習はとりあえず終了。ヴァンにはまだ見せないよ。再現性とかちゃんとチェックしたいしね。

 ◇◇◇

 それから数日試してみたけど、コツが掴めたというか……俺的にはできてると思う。コツは深く考えないこと? っていうのかな。ガチャガチャのカプセルがどこから現れたんだとかそっちに気を取られると失敗するんだ。だから、とにかくもうここにカプセルがあるから使いまーすみたいなノリでやっちゃうのが大事。まあ、俺の想像の世界だからね。そういう意味では何でもありなのかもしれないよね。

 ルイにもどんなふうに集中させてるのか聞いてみたけど、全然参考にならなかったからもうこの変な方法で突っ走るしかないよなって思ってる。こうなりゃとことん地球のアイテムと融合させたるわって感じ。だって俺はそのほうが想像しやすいもん。『ヴァンがヒントくれない』とか思ってたけど、むしろ訳のわからないお作法がなくて良かった……のかもしれない。

「ガチャガチャのカプセルに閉じ込めるイメージしてなんとなく自分の少ない魔力の塊がわかるようになったかも……これはやってみて初めてわかる感覚だな……」

 俺の少ない魔力を一箇所に集めちゃってるせいか、他の部分との差っていうのがわかる感じ。多分、これはこっちの人にはわからない感覚かもしれない。だって、こっちの人は身体中に魔力が満ちているんだろうからね。ここまでの差にはならないと思うんだよ。

「これって、俺がやりたいことに近いイメージを探す作業って感じだな。そういえば最初に魔力を集めるときも俺がイメージしやすいものに当てはめたんだったっけ。最初からヒントはあったんだ……」

 あのときだって子供の頃の理科の実験がキッカケだったんだよな。なんか俺ってあっちじゃ大したことしてなくていろいろ中途半端でどうしようもない人間だったような気がしてたけど、そんないろんな手を出したちょっとした経験がここでは役立ってる。結果を出せなくてもやったことは無駄になってなかったのかなって思えて、それがなんだかとっても不思議だ。

「中途半端……とかって思わなくてもいいのかな……。違うか。中途半端だとしてもやりようによっては使い道があるって感じなのかな。深い専門知識が必要なことはできないけど、浅く広くいろんなことを知ってるからこそ意外なところ同士を組み合わせることもできるのか……」

 少なくともこの世界では俺のそんな浅く広い知識が少しは役に立っている気がするもんな。主に料理でだったけど、魔力の扱いでも役に立ちそう。
 さーて、これからヴァンに見てもらうまでもう少し練習を重ねるぞ。
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