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異世界生活編
85.魔力雑談
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動く的の練習を始めてから1週間。なかなかヴァンの操る的に当てるのは大変だけど、それでも最初よりは少しは成長してる……はず。まず、弓をつがえて矢を放つまでの時間が短くなったと思うし。別にスピード重視して外れても構わないとかっていう感じにはしてないからね。実際的に当たるかどうかは別問題だけど、俺はちゃんと当てるつもりで練習してる!
「イクミ、結構掠めてくるようになったよね。やっぱこういう練習のほうが向いてるんじゃない?」
「今! 声、かけないでよ!」
実力がまだまだの俺はちょっとしたキッカケで簡単に集中力が切れる。矢は全然思ってもない方向へ飛んでいってしまった。はぁ……とため息をついて地面に座り込む。
「そこまで落ち込まなくてもさぁ……」
「だって!」
俺が噛みつくようにヴァンに意見しようとするとルイの手が頭の上に乗る。頭に巻いた布の上からワシャワシャと撫でられてイラッとしていた気持ちは途端に消えてなくなった。ちろっと上目使いに見上げればルイの鋭いようで優しい視線とぶつかる。
「ルイ……」
「頑張ってるからちょっと休憩にしろってことだ。イクミが嫌がっても俺は休ませるからな」
「ほらぁ、ルイもこう言ってるでしょ?」
ヴァンは少し黙っていてくれるかな。本当は何も考えずに俺に話しかけてきたくせにルイに乗っかるなんてずるいんだよ。ほんと調子がいいったらさ……。
でもルイが休憩って言うから休憩する。こういう鍛錬の途中でルイが出してくれる水はとっても身体に染み渡る気がするんだよな。身体だけじゃなくて俺の気持ちも潤うっていうか。魔法で出してくれた水ってさ、その人のエネルギーを使ってくれてるってことじゃん? つまりこの水はルイの一部なんじゃないかって思うんだよね……この考え方は気持ち悪いだろうから言わないし内緒だけど。
魔力のコントロールの練習を始めたからこそ行き着いたこの変態ちっくな俺の妄想。でも、しょうがないじゃんね。一度そう思ってしまってからはどうしてもそう考えるようになっちゃったんだもん。こっちの人はこうやって水を出すのが当たり前だからきっとなんとも思ってない。だから絶対言えないよな。
「イクミ、魔力の練習のほうはどうだ? 最近あまりそっちの話してこないだろ」
「あ、うん。そっちはボチボチ……。あまり毎日はできてなくて、さ。俺もやりたい気持ちはあるんだよ? でも、その、疲れてて時間取れなかったり……えっと……」
「それくらいでちょうどいいだろ? 前にも根を詰めすぎるなと言ったと思うが」
「そそ。イクミは頑張りすぎだよねー」
俺が毎日できてなくても決して責めてこない。ここの人たちは俺の父親とは違うんだよな。遊びながらのんびりみたいなことも言われたし、それを聞いてから俺としても少しは必死になりすぎないようには意識してるけど。それでもやっぱり気になるじゃん……魔法早く使えるようになってみたいしさ。
「それは、俺が頑張りたくてやってるだけだから」
「義務でやるのはツラいよー?」
「別に義務とか思ってないよ。自分の力で水を出してみたいんだもん」
魔法のない世界の俺が魔法で水を出すなんて、それだけですごいじゃん。それを実現させてみたいっていうかさ。
でも魔法は使えなくても戦い方なんかが一定のレベルを超えてれば村を出られるっていうんだから、頑張る優先順位はどうしても体力と武器の扱い方の方に傾いちゃうからなぁ。それで疲れちゃって魔力コントロールの練習ができてないんだけど。
「焦るなよ? イクミは絶対近いうちにできるようになるから。疲れて上手くコントロールできないくらいなら休んだほうが身体にはいいだろ?」
「そういうもの?」
「イクミはまだ魔力が少ないんだからとにかく無理は禁物だ。仮に水が出せるようになっても今の魔力量なら毎日は出させられないと思うしな」
「ええー」
なんだよ、魔法。思ったよりシビアだな。RPGでMPが全然ないキャラみたいだ。一回使ったら宿泊して回復しないと使えないやつね。つーか、俺のほうが回復が遅い分、そのキャラよりダメダメじゃん。
「つまんないね……」
「そういうこと言わないの。イクミは魔力ゼロの状態から今の量までやっと増えたから体調不良になってないんだと思うけど、魔力が少ないのって結構きついんだよ?」
「え? そうなの?」
「だから魔力量の多いやつじゃなきゃ魔導士になれないんだよ。使う魔力量が多くなるから。普通のレベルとかだと魔力欠乏で倒れる」
マジかよ。えっと、貧血みたいなもん? あ、こっちには普通に貧血もあるのか。うーん……ややこしいな。だいたい魔力量の上限ってどうやって決まるのさ。みんな同じように生活してるんだろ? そんなことを疑問に思って質問してみたけど、2人にもあまりよくわかってはいないようだった。生まれながらの素質とかそういうものだっていう認識みたいだね。まあ、才能とか素質ってあっちだと遺伝とかもあるけど、こっちだとどうなのかわかんないよな。
でも、「魔力が貯まる」のは前に聞いた話からだと、魔力の含まれたものを食べたり飲んだりして体内で吸収するのが必要なんだったよな。魔力なんて関係ない世界の俺が魔力ありになるってことはなんかのキッカケで上限ゼロからでも増えるってことな気がするのに、人によって上限が違うっていうのがわからないんだよなぁ。
「うーん、イクミにも本来の魔力上限があると思うよ? 多分だけど。ゼロだったのはそういう世界に居たからってだけでしょ? それがここに来てちょっとずつ貯まっていってるだけだと思うな」
「なるほど……わからん」
ルイには「深く考えずに、でも無理をするな」と念を押されてしまった。まったくもう、相変わらずの心配性だなぁ……。
「イクミ、結構掠めてくるようになったよね。やっぱこういう練習のほうが向いてるんじゃない?」
「今! 声、かけないでよ!」
実力がまだまだの俺はちょっとしたキッカケで簡単に集中力が切れる。矢は全然思ってもない方向へ飛んでいってしまった。はぁ……とため息をついて地面に座り込む。
「そこまで落ち込まなくてもさぁ……」
「だって!」
俺が噛みつくようにヴァンに意見しようとするとルイの手が頭の上に乗る。頭に巻いた布の上からワシャワシャと撫でられてイラッとしていた気持ちは途端に消えてなくなった。ちろっと上目使いに見上げればルイの鋭いようで優しい視線とぶつかる。
「ルイ……」
「頑張ってるからちょっと休憩にしろってことだ。イクミが嫌がっても俺は休ませるからな」
「ほらぁ、ルイもこう言ってるでしょ?」
ヴァンは少し黙っていてくれるかな。本当は何も考えずに俺に話しかけてきたくせにルイに乗っかるなんてずるいんだよ。ほんと調子がいいったらさ……。
でもルイが休憩って言うから休憩する。こういう鍛錬の途中でルイが出してくれる水はとっても身体に染み渡る気がするんだよな。身体だけじゃなくて俺の気持ちも潤うっていうか。魔法で出してくれた水ってさ、その人のエネルギーを使ってくれてるってことじゃん? つまりこの水はルイの一部なんじゃないかって思うんだよね……この考え方は気持ち悪いだろうから言わないし内緒だけど。
魔力のコントロールの練習を始めたからこそ行き着いたこの変態ちっくな俺の妄想。でも、しょうがないじゃんね。一度そう思ってしまってからはどうしてもそう考えるようになっちゃったんだもん。こっちの人はこうやって水を出すのが当たり前だからきっとなんとも思ってない。だから絶対言えないよな。
「イクミ、魔力の練習のほうはどうだ? 最近あまりそっちの話してこないだろ」
「あ、うん。そっちはボチボチ……。あまり毎日はできてなくて、さ。俺もやりたい気持ちはあるんだよ? でも、その、疲れてて時間取れなかったり……えっと……」
「それくらいでちょうどいいだろ? 前にも根を詰めすぎるなと言ったと思うが」
「そそ。イクミは頑張りすぎだよねー」
俺が毎日できてなくても決して責めてこない。ここの人たちは俺の父親とは違うんだよな。遊びながらのんびりみたいなことも言われたし、それを聞いてから俺としても少しは必死になりすぎないようには意識してるけど。それでもやっぱり気になるじゃん……魔法早く使えるようになってみたいしさ。
「それは、俺が頑張りたくてやってるだけだから」
「義務でやるのはツラいよー?」
「別に義務とか思ってないよ。自分の力で水を出してみたいんだもん」
魔法のない世界の俺が魔法で水を出すなんて、それだけですごいじゃん。それを実現させてみたいっていうかさ。
でも魔法は使えなくても戦い方なんかが一定のレベルを超えてれば村を出られるっていうんだから、頑張る優先順位はどうしても体力と武器の扱い方の方に傾いちゃうからなぁ。それで疲れちゃって魔力コントロールの練習ができてないんだけど。
「焦るなよ? イクミは絶対近いうちにできるようになるから。疲れて上手くコントロールできないくらいなら休んだほうが身体にはいいだろ?」
「そういうもの?」
「イクミはまだ魔力が少ないんだからとにかく無理は禁物だ。仮に水が出せるようになっても今の魔力量なら毎日は出させられないと思うしな」
「ええー」
なんだよ、魔法。思ったよりシビアだな。RPGでMPが全然ないキャラみたいだ。一回使ったら宿泊して回復しないと使えないやつね。つーか、俺のほうが回復が遅い分、そのキャラよりダメダメじゃん。
「つまんないね……」
「そういうこと言わないの。イクミは魔力ゼロの状態から今の量までやっと増えたから体調不良になってないんだと思うけど、魔力が少ないのって結構きついんだよ?」
「え? そうなの?」
「だから魔力量の多いやつじゃなきゃ魔導士になれないんだよ。使う魔力量が多くなるから。普通のレベルとかだと魔力欠乏で倒れる」
マジかよ。えっと、貧血みたいなもん? あ、こっちには普通に貧血もあるのか。うーん……ややこしいな。だいたい魔力量の上限ってどうやって決まるのさ。みんな同じように生活してるんだろ? そんなことを疑問に思って質問してみたけど、2人にもあまりよくわかってはいないようだった。生まれながらの素質とかそういうものだっていう認識みたいだね。まあ、才能とか素質ってあっちだと遺伝とかもあるけど、こっちだとどうなのかわかんないよな。
でも、「魔力が貯まる」のは前に聞いた話からだと、魔力の含まれたものを食べたり飲んだりして体内で吸収するのが必要なんだったよな。魔力なんて関係ない世界の俺が魔力ありになるってことはなんかのキッカケで上限ゼロからでも増えるってことな気がするのに、人によって上限が違うっていうのがわからないんだよなぁ。
「うーん、イクミにも本来の魔力上限があると思うよ? 多分だけど。ゼロだったのはそういう世界に居たからってだけでしょ? それがここに来てちょっとずつ貯まっていってるだけだと思うな」
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