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異世界生活編

84.朝のひととき。

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 動く的の練習をした後は思った以上に疲れてて、魔力の練習はできなかった。だって目を閉じて集中しようとしたらそのまま寝落ちしちゃったんだ。ここのところそんな風に寝ちゃうことなんてなかったから、あの練習ってよっぽど神経使ったんだな。……ということは、今日も寝落ちの可能性が大ってことじゃないか。
 
「え、どうしよう。慣れるまで魔力の練習の時間を変えようかな……むしろ朝練とかにしたほうがいいかもしれない……えっと、早起きできたときだけ?」
 
 俺はそんなに朝弱いほうではないけど、朝食の用意だって俺に任された立派な仕事だしおろそかにはできないよな。たまに寝坊してサディさんだけに用意をやらせちゃってることもあるからできるだけそれは避けたい。サディさんは「もともとは私1人でやってたんだからそんなに気にすることないわよ」って言ってくれるんだけど、そう言われちゃうと余計気になるよな。

 最近はあまり使わないようにしているスマホで『目覚まし』でもかければいいんだろうけど。なんであまり使ってないかっていうと、ものすごく意味があるわけじゃないんだけど……みんなと同じように生活してこっちの流れの中にどっぷり浸かってみようかなと思ったからなんだよね。魔力を身近に感じるためにっていうか、あっちの世界でもあるじゃんデジタルデトックス。あんな感じで少しこっちのエネルギーとかに集中できないかなって思って少し前からほとんど触らないようにしてるんだ。と言ってもさ、こっちに来てからは電波の入らないただの機械にしか今はなってないからそこまでどうこうっていうわけじゃないんだよな。それに充電切れしたまま放置したら電源入らなくなることもあるし、充電の残りはチェックしてるから触らないことに意味があるのかないのか……。まあ、自己満足みたいなもんだよね。俺、頑張ってるって思いたいだけなんだ。
 
「とりあえず今日はもう無理っぽいから、頑張るのは明日から……ぶふっ! 母さんのダイエットの台詞みたいになってるじゃん……」
 
 ふと思い出す母親の「ダイエットは明日から」の台詞に笑ってしまった。あの人も大概自分に甘いからコンビニスイーツなんかをつい買ってしまってダイエットは継続されることはなかったんだ。俺は真面目にコツコツ決めたことはきちんとな父親よりはそんな母親の自由な感じを受け継いでしまったからなぁ。つーか、あの2人ってなんで結婚したんだろう。正直言って、あまり相性が良いようには思えないんだよな。父親が俺のことちょっとアレな目で見てたようにさ。うーん、謎だ。
 
 朝からそんな感じで親のことなんか思い出したけど、今の俺は焦ることもなくそこそこ落ち着いている。最初の頃のただただ不安で心細くてあっちがどうなっちゃってるのか考えるのが怖くてっていうのはとっくに過ぎ去っちゃったよね。だって、帰り方わかんないし考えても無駄だしそもそも俺のせいじゃないし? こういうの開き直りっていうのかな。それに、帰る手段を探すために村を出られるようになろうと俺なりに毎日努力してるんだから怒られる筋合いもないよな。
 そりゃね、無性に寂しくなることはある。男だからそんなこと大っぴらには言えないけどさ。でもそんなときルイやヴァンやサディさんたちが家族みたいに俺に接してくれてさ。みんなのおかげで気持ちが紛れるしホッとするんだよね。
 
「うん、やっぱみんなのためのお仕事は手を抜かない。それは絶対! だからうまく時間をやりくりしないとだな」
 
 ぶつぶつと独り言を言いながら朝食の下準備をしているとサディさんも現れて、いつものように2人で支度をする。昨日は俺がほとんどやったからって言って今日はサディさんメインで俺は助手だ。基本的に1日2食なこの村では朝もそこそこ量は食べる。でも、夜よりはあっさりしてるし簡単なものが多いんだよな。
 なんて思ってたけど、今日の朝食はそこそこどっしり系だ。サディさんいわく、寒くなってきたからスープを出すことが増えるけど食卓が代わり映えしなくなるから趣向を変えた、とのこと。
 
「なんか夕飯に近いね。でもルイと村長は喜びそう」
「たまにはこういうのもいいんじゃないかしらって思って。イクミくんがいろんな料理を考えてくれるからなにか私もアレンジできないかしらって考えるのが楽しいのよ」
 
 俺のやってることが少しでも役に立っているなら嬉しいよな。まあ、お料理教室なんかでは毎日はできないような材料の使い方をしちゃったりもするんだけど、サディさんとする毎日の料理はコスパも多少考えてるからね。
 と、今サディさんが作っているのは蒸かしたカロイモを厚く切ったやつに薄切りにした魔物肉を巻いて揚げ焼きにしたもの。塩と薬草だけの味付けだけど味見したらすごく美味しかった。それと村長お気に入りのライ麦もどきのガレットクレープ? と肉がホロホロになるまで煮込まれたあっさりめのスープ。
 
「最近しょっちゅうガレット作ってるけど粉まだあるの?」
「そこまで沢山はないわねぇ。でもアルが食べたいって言うからね。あの人は残り少ないから大事に食べようというよりは食べられるときに好きなものは食べたい人なのよ。冒険者してたときの『いつ食べれられなくなるかわからない』っていうのが染み付いているのね」
「へぇ、そういうもんなのか。俺は好きなものは最後まで取っておいちゃうほう!」
 
 へへへ……とサディさんと笑いながら食事を用意していく。朝と夕方、サディさんとの料理の時間は俺の精神をゆったりしたものにしてくれる大事な時間だ。祖母であり母であり先生でもあるような、そんな感じ? ルイと一緒にいるときの安心感(と、ドキドキ)とはちょっと違うんだけどね。 
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