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異世界生活編
83.卵と玉
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今日はサディさんがラキさんと用があるってことで、俺一人で朝食の用意をすることに。なんとなくスクランブルエッグを作っていたとき、ふと、「あ、卵か……」と思った。魔力を集めたら、それを維持してふわふわと身体の中を流して運ぶイメージじゃなくて卵みたいに殻で覆ってコロコロ転がすイメージはどうだろう。変なイメージではあるけど、いろいろ今まで試してみてるのがだめだからこんなのもやってみる価値アリじゃない? ていうか、なんとなく上手くいきそうな予感がする。
要は俺が納得して具体的に想像できるかなんだと思うんだよね。まあ、簡単な生活魔法に関してはってことだけどさ。
「よし、今夜の宿題タイムが少し楽しみ。折角だから卵の殻とかももっと観察しとこうかな……。生物によってはこういう硬い殻が体内でできるんだもんなぁ、あんま深く考えたことなかったけど面白いよな……」
俺は卵の殻の内側の薄皮とかそんなのも触りながら見ていた。そういえば、昔、生卵を殻ごと酢に浸けて殻を溶かしてプヨプヨの卵を作る実験とか見たことあるななんて思い出していた。鳥の卵の硬い殻がないようなのが爬虫類なんかの卵みたいな雰囲気? 魚の卵とはまた感じが違うよな。
「まあ、別に概念だから卵の仕組みに詳しくなくてもいいか……」
なんてブツブツ独り言をいいながら蒸かしたカロイモとスクランブルエッグと魔物肉入りスープをルイと村長に出す。
特に手のかかってない簡単朝ごはんだけどね。スープはサディさんが夜仕込んでおいてくれたやつだから温めるだけだしー。
村長のお祈りを毎日聞いて一緒にお祈りするのが当たり前になったけど、こういうところにいるとより食べ物のありがたさが身に染みるんだよね。神様にも感謝、育ててくれた人にも感謝、お肉になってくれた魔物にも感謝。日本じゃ買えるのが当たり前だったらここまでの実感がなかったんだよね。収穫とは言っても母親のハーブも趣味なだけだったしさ。
◇◇◇
弓の練習は前より良くなったとはいえまだまだだから、俺なりにとは言えめちゃくちゃ頑張ってる。そのせいで矢がどんどん駄目になるから、前に会った武器修理のオヤジさんにたくさん頼んでるんだ。あのオヤジさんすごい人だったんだな……。っていうのはさ、俺が歪めちゃったり曲げちゃった矢をちゃんとまっすぐな新品みたいな矢に修理してくれるんだよ。なんで手作業でこんなことができるのか不思議でしょうがない。日本の職人さんに通じるものがある気がするよ。
「イクミさ、そろそろ動く的も使ってみない?」
「は?」
「なんだよー、その顔。前にも話したじゃん」
「そういう意味じゃないってば。まだ動かない的でも俺は満足に射れてないのに何言ってるの? って顔だよ」
ヴァンはさ、魔法もそうだけどちょっとスパルタだよね。ルイはもうちょっと俺の意見とか聞いてから考えてくれるもん。最初こそ俺ぶっ倒れたけど、その後はそんなことほとんどなかったもんな。ってチラッとルイを見ると相変わらずの無表情ではあるけど、多分あれは口を出そうか迷ってるような顔だと思う。
「なんでヴァンはもう動く的にしてみようと思ったのさ……」
「だって、現時点で的に当たる確率が5割でしょ? もうかなり当たるようになってるし、それにオレの見立てではイクミは実戦絡めたような練習の方が上達が早い」
「……それは確かにな……」
「ルイまで……」
実際短剣とかで組み手やりだしたら伸びたっていうのがあったから否定もできないんだけど。まあ、特別料金がかかるとかもあるわけじゃないし、『先生方』が言うなら従うしかないよな。
「わかった。やる。ヴァンが魔法でなんか飛ばすとかって言ってたっけ?」
「そうそう! 最初は木片とかを投げようかと思ったけどコントロールが不安だから、オレの魔法で作った球体がいいかなーって思うんだよね」
魔法の球体? 全然イメージできなくて「ふーん?」って顔してたらヴァンが作ってくれた。黒いでっかい玉みたいなやつ。
「今ここで出してるから大きく見えるかもだけど、あそこにある的の位置らへんに飛ばすから実際は小さく見えると思うよ」
「あ、そっか……」
「試しにやってみる?」
そう言うと、ヴァンがふっと手を振り上げてソレを飛ばした。固定の的の上に玉が浮いて……というか止まってる。
「えっと……?」
「今は動かしてないだけだよ。最初は左右にだけ動かす感じでやってみようと思う。一定に動かすからイクミは軌道を予測して弓を放つタイミングとかを合わせるんだよ」
聞けば聞くほど難易度が高くて笑いしか出てこない。最初は……ってことはどんどん違う動きが追加されるってことか。ひぇぇ……。
いや、まぁさ、俺は俺で大変なんだけど、これやるヴァンもすごいよね。なんなの? 機械なの?
「イクミ、感覚を覚えろ。最初は当たった当たらなかったというのは気にしなくていい」
「うん……なんか変に緊張しちゃって」
「完璧にやろうとしなくていいんだ」
ルイに久しぶりに頭をポンポンされてブワッと顔に血が集まってくるような感じがする。恥ずかしいのと嬉しいのとなんかよくわからない感情でごちゃごちゃになりそうだ。
落ち着け! 落ち着け、俺。こんな感情グルグル状態じゃ的に当たるものも当たらなくなる……。
スーハースーハーと深呼吸をして準備運動をするフリをしながら気持ちを落ち着けると、ヴァンを振り返って始めていいよと声をかけた。
予想通り、タイミングの合わせ方が全然つかめなくて今日の練習は終了となった。早めに放つと的が動いて来る前に通り過ぎちゃうし、逆にちょっと遅いと的が通り過ぎた後になるし、焦ると明後日の方向に飛んでいくし……。
「初日でそんなに落ち込まないの! ちゃんといろんな方法試そうとしていて偉かったじゃん」
「実際惜しい軌道のもあったしな」
「でも、悔しい……」
なんでこういうのってムキになっちゃうんだろう。最初からできなくて当たり前、だから練習するんじゃんって考えられるようになりたいよ。これでもこっちに来てからだいぶ柔軟に考えられるようにはなってきた方なんだけどね……。
要は俺が納得して具体的に想像できるかなんだと思うんだよね。まあ、簡単な生活魔法に関してはってことだけどさ。
「よし、今夜の宿題タイムが少し楽しみ。折角だから卵の殻とかももっと観察しとこうかな……。生物によってはこういう硬い殻が体内でできるんだもんなぁ、あんま深く考えたことなかったけど面白いよな……」
俺は卵の殻の内側の薄皮とかそんなのも触りながら見ていた。そういえば、昔、生卵を殻ごと酢に浸けて殻を溶かしてプヨプヨの卵を作る実験とか見たことあるななんて思い出していた。鳥の卵の硬い殻がないようなのが爬虫類なんかの卵みたいな雰囲気? 魚の卵とはまた感じが違うよな。
「まあ、別に概念だから卵の仕組みに詳しくなくてもいいか……」
なんてブツブツ独り言をいいながら蒸かしたカロイモとスクランブルエッグと魔物肉入りスープをルイと村長に出す。
特に手のかかってない簡単朝ごはんだけどね。スープはサディさんが夜仕込んでおいてくれたやつだから温めるだけだしー。
村長のお祈りを毎日聞いて一緒にお祈りするのが当たり前になったけど、こういうところにいるとより食べ物のありがたさが身に染みるんだよね。神様にも感謝、育ててくれた人にも感謝、お肉になってくれた魔物にも感謝。日本じゃ買えるのが当たり前だったらここまでの実感がなかったんだよね。収穫とは言っても母親のハーブも趣味なだけだったしさ。
◇◇◇
弓の練習は前より良くなったとはいえまだまだだから、俺なりにとは言えめちゃくちゃ頑張ってる。そのせいで矢がどんどん駄目になるから、前に会った武器修理のオヤジさんにたくさん頼んでるんだ。あのオヤジさんすごい人だったんだな……。っていうのはさ、俺が歪めちゃったり曲げちゃった矢をちゃんとまっすぐな新品みたいな矢に修理してくれるんだよ。なんで手作業でこんなことができるのか不思議でしょうがない。日本の職人さんに通じるものがある気がするよ。
「イクミさ、そろそろ動く的も使ってみない?」
「は?」
「なんだよー、その顔。前にも話したじゃん」
「そういう意味じゃないってば。まだ動かない的でも俺は満足に射れてないのに何言ってるの? って顔だよ」
ヴァンはさ、魔法もそうだけどちょっとスパルタだよね。ルイはもうちょっと俺の意見とか聞いてから考えてくれるもん。最初こそ俺ぶっ倒れたけど、その後はそんなことほとんどなかったもんな。ってチラッとルイを見ると相変わらずの無表情ではあるけど、多分あれは口を出そうか迷ってるような顔だと思う。
「なんでヴァンはもう動く的にしてみようと思ったのさ……」
「だって、現時点で的に当たる確率が5割でしょ? もうかなり当たるようになってるし、それにオレの見立てではイクミは実戦絡めたような練習の方が上達が早い」
「……それは確かにな……」
「ルイまで……」
実際短剣とかで組み手やりだしたら伸びたっていうのがあったから否定もできないんだけど。まあ、特別料金がかかるとかもあるわけじゃないし、『先生方』が言うなら従うしかないよな。
「わかった。やる。ヴァンが魔法でなんか飛ばすとかって言ってたっけ?」
「そうそう! 最初は木片とかを投げようかと思ったけどコントロールが不安だから、オレの魔法で作った球体がいいかなーって思うんだよね」
魔法の球体? 全然イメージできなくて「ふーん?」って顔してたらヴァンが作ってくれた。黒いでっかい玉みたいなやつ。
「今ここで出してるから大きく見えるかもだけど、あそこにある的の位置らへんに飛ばすから実際は小さく見えると思うよ」
「あ、そっか……」
「試しにやってみる?」
そう言うと、ヴァンがふっと手を振り上げてソレを飛ばした。固定の的の上に玉が浮いて……というか止まってる。
「えっと……?」
「今は動かしてないだけだよ。最初は左右にだけ動かす感じでやってみようと思う。一定に動かすからイクミは軌道を予測して弓を放つタイミングとかを合わせるんだよ」
聞けば聞くほど難易度が高くて笑いしか出てこない。最初は……ってことはどんどん違う動きが追加されるってことか。ひぇぇ……。
いや、まぁさ、俺は俺で大変なんだけど、これやるヴァンもすごいよね。なんなの? 機械なの?
「イクミ、感覚を覚えろ。最初は当たった当たらなかったというのは気にしなくていい」
「うん……なんか変に緊張しちゃって」
「完璧にやろうとしなくていいんだ」
ルイに久しぶりに頭をポンポンされてブワッと顔に血が集まってくるような感じがする。恥ずかしいのと嬉しいのとなんかよくわからない感情でごちゃごちゃになりそうだ。
落ち着け! 落ち着け、俺。こんな感情グルグル状態じゃ的に当たるものも当たらなくなる……。
スーハースーハーと深呼吸をして準備運動をするフリをしながら気持ちを落ち着けると、ヴァンを振り返って始めていいよと声をかけた。
予想通り、タイミングの合わせ方が全然つかめなくて今日の練習は終了となった。早めに放つと的が動いて来る前に通り過ぎちゃうし、逆にちょっと遅いと的が通り過ぎた後になるし、焦ると明後日の方向に飛んでいくし……。
「初日でそんなに落ち込まないの! ちゃんといろんな方法試そうとしていて偉かったじゃん」
「実際惜しい軌道のもあったしな」
「でも、悔しい……」
なんでこういうのってムキになっちゃうんだろう。最初からできなくて当たり前、だから練習するんじゃんって考えられるようになりたいよ。これでもこっちに来てからだいぶ柔軟に考えられるようにはなってきた方なんだけどね……。
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