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異世界生活編

79.魔力を感じたい。

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 実は少し前から普通の鍛錬に加えて魔法の練習を始めたんだ。まだ全然できてないけどね……。
 
「まずは自分の身体の中の魔力を感じるところからだよ。それができなきゃ何もできないからね」
「簡単に言わないでよ。俺には魔力がどんなものなのかもまだはっきりしてないのにさ」
「そんなのわかってるよ。でもイクミは魔法を練習したいんでしょ? だったらやらないと」
「はーーい」
 
 とは言ったものの、どうやって感じ取ったらいいんだろう。
 
ここ数日ヴァンと同じようなやり取りを繰り返してるけど、ヴァンからの宿題は『自分の魔力を感じ取れるようになること』なんだよね。それができたら次に進むからって言って詳しく教えてくれないんだ。
 前に俺がピリッとするかもって言ったのは当たらずとも遠からずだったみたいなんだけど、それは俺がヴァンの放出した魔力を感じたときであって自分の中の魔力じゃないんだもんな。謎すぎるよ。
 血液なら脈でわかるんだけど、よく考えたらあれも心臓のポンプの動きを感じてるんであって血液の流れそのものを感じてるんじゃないだろ? そう考えたら余計にわからなくなってきてさ……。
 
「難しいなぁ……」
 
 俺が部屋でベッドでころころしながらもにょもにょしてたらドアをノックされた。
 
「あ、ルイ。どうしたの?」
「魔力のことでずいぶん悩んでるみたいだったから少し様子を見に来てみた。俺じゃ役には立たないだろうが」
 
 なんとなく居心地悪そうに言うルイに胸がキュンとする。
 もうね、こういうところなんだよ。素っ気ないようでちゃんと俺のこと見ててくれてフォローしてくれる。まあ、俺には素っ気なくないけどな……っていう自惚れもちょっとあるけど。
 
「うん……。全然わからないんだよね。そもそも魔力って何って状態だしさ。だから何もまだ掴めてなくて。ヴァンはそれも含めて考えろって感じみたいなんだけどさ」
「まあ、アイツはそういうところあるからな。見守って自らが気づくのを待ってるというか。そういうのが押し付けがましくなくていいっちゃいいんだが……肝心なときにスルッと躱されるとムッとすることもあるな。でも魔法を教えるのは上手いとは思うから」
「うん。頑張るね。水出せるようになるかなぁ」
「なるだろ、イクミは努力家だから」
 
 ルイと話してると胸がホカホカしてきてなんかできるような気がしてきた! 早く糸口を掴みたいなぁ……。
 
「イクミ、手を……」
「ん?」
 
 ルイが俺に向かって両手を出してきたんだけど、なんだかわからなくてつい手をじっと見てしまった。ルイの手は大きくて剣をずっと握ってきた男の手って感じでカッコいい。
 
「いや、魔力を流してみるから手を乗せてみてくれ」
「あ、そういうことか。わかった」
 
 そっとルイの手に自分の手を重ねると、ぎゅっと握られてドキドキしてくる。やばい、手汗出てきそう……。これじゃ魔力を感じるどころじゃないんじゃ、なんて不安になる。でもそれは一瞬で、ルイの手から自分の腕を通って何かが巡る感じがした。
 
「え、なにこれ……」
「わかるか?」
「うん。なんかあったかいね」
 
 これは今まで感じなかった感覚だ。なんか気持ちいいな……ふわふわほかほかする。ヴァンにやってもらったときは時々ピリッとするような感じだったけど、あれとはなんか違って身体の中を温かい何かがぐるぐるしてるみたいで気持ちいい。
 
「前にもイクミに同じように流したことがあるんだぞ?」
「え、嘘!? いつ? こんなのわかんなかったよ」
「わかるようになったってのはそれだけ魔力が溜まって認識しやすくなってきてるってことだろうな」
 
 聞けば鍛錬のときとかに俺には何も言わずにやってたことがあるんだって。どうしてかと思ったらヴァンに言われて魔力感知できるかってのを観察するためにしてたらしい。全然知らなかったな。だって、魔導具を渡されたときだって俺にはヴァンのピリピリを自信を持って魔力だって言えなかったし。
 
「ヴァンのはピリッとしたのをたまに感じるくらいだったのに……」
「ん? 違うか?」
「全然違うよ! これって人によって違うの?」
「ヴァンはイクミに合わせてよりわかりやすいようにしてたかもな」
 
 そんなこともできちゃうのか。確かにこのほわほわよりピリピリのほうがわかりやすいかもしれないもんな。改めてヴァンってすごいんだな……何回も思ってるけど。
 
「でも、これはルイの魔力で自分の中の魔力じゃないんだもんね。……んー、こういうのが俺の中にもあるってことなのかなぁ。量が少ないから同じようには感じないよね……」
「そうだな……俺やヴァンみたいにはならないかもしれない。ただ、ヴァンが感じてみろと言ったなら同じじゃなくてもできると判断されたんだろうから」
 
 そうなんだよねぇ。俺もヴァンのことは信用してるから、ヴァンが言うならできるレベルにはあるんだろうとは思ってるんだ。まあ、だからこそ『できないよ』って逃げられないんだけどさ。
 ただ、ルイの今のやつを感じてみて魔力って想像してたよりもっと曖昧なものなのかもっていう認識は広がったかな。いろんな形がありそうっていうのかな? なんとなく最初のヴァンのピリッというのを引きずってたから、その考えを破壊するには良かったかも。それにしても……ルイはいつまで俺の手を握ってるんだろ。
 
「ねえ、ルイ。これってルイの魔力が俺に移ったりは……」
「しないな。あくまでもイクミの身体を通してるだけだ」
「まあ、そりゃそうだよね。わかってた。そんな簡単に移せたら魔導具使えない時点でやってただろうし」
「その通りだな。ヴァン達が言うには受け入れる器が整っている前提で体内で魔力を含むものを吸収することで自分の魔力に変換されるだのなんだのと……」
「この世界のものには全部魔力が含まれてるんだもんね。俺がこの世界で生きるために食べたり飲んだりしてやっと今の状態になったんだよね。俺の器が整ったってのがどういうことなんだろうとは思うんだけどさ。で、今も別に魔導具が使えるようになったときから比べてそこまで増えたわけじゃないはずじゃん?」
 
 俺はなんとなくの不安をルイにぶちまけていた。なんだろうな、普段なら言葉で言わないことまで口から出ちゃってる感じ。ルイの魔力の心地よさでなんかポロポロ出ちゃうっていうか。ああ、なんか癒やされる……なんか温泉みたいだ。
 
「ありがと、ルイ。なんかまた頑張れそう」
「少しでも役に立ててたらいいんだけどな」
 
 そんなことを言ってルイが戻っていった。少しでも、なんて……何言ってるんだか。ルイは自分が俺にとってどれだけの存在だかわかってないからしょうがないけどさ。さっきのことで俺の魔力のことがわかったわけじゃないけど、モヤモヤしてしてた気持ちはすっかり軽くなった。とりあえず今日はもう寝よう。この心地よさに浸って寝ちゃいたい……いい夢見れそうだもん。
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