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異世界生活編

77.ふわふわと漂う白い……

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閑話です

**********

 ある朝、霧の中にフワフワと白いものが舞っているのが見えた。
 
「雪っ!?」
 
 俺は家の外に出て手を伸ばしてみるけど掴めそうで掴めない。気温は思ったほど低くなさそうなんだけどな……。
 
「それは虫だぞ?」
「虫!? ここだけじゃなくて、こんなに周り中降ってるのに?」
 
 聞けば冬の訪れを知らせる虫だそうだ。あっちにもいたよな、ユキムシとかいうやつ。あっちのユキムシも白いフワフワがついた虫だったはずだけど、今目の前に漂ってるやつはむしろフワフワがメインなんじゃないかっていうくらい虫に見えない。
 
「コイツを見るのは俺も久しぶりだな。ほとんど村にいなかったから」
「そうなの? どこにでも出るわけじゃないんだ?」
「この村周辺くらいしか俺は知らないな。まあ、俺はここと港町とかくらいしか知らないから……」
 
 そっか。いや、それにしても、アレ本当に虫なのかな? 見たい……。
 虫取り網……はないよな。なんていうか、手で捕まえたくても空気の流れでフワリと避けられてしまう。こんな霧の中にいるのにびしょっとしないでフワフワしてるんだからおかしいんだって!
 まあ、それ言うと、ややしっとりはするもののそれほど過ごしにくいと感じなかったわけだから、普通の霧とはやっぱ違うんだろうなとは思うんだけどね。
 
 俺がやたら捕まえてじっくり見たがったからか、ルイが風魔法で虫を地面に集めてくれた。
 白いフワフワの端っこを摘んでみる。うーん、やっぱり虫に見えないな。牡丹雪みたいにでっかい白いフワフワをゆっくりひっくり返してよーく見るとやっとモゾモゾ動く小さい脚が見えた。
 
「ホントに虫だった……」
「いや、そう言ってるだろう」
 
 白いフワフワ部分ははねが変化したものらしく、自分で羽ばたくことをしなくなっちゃった虫みたい。風に乗って漂って、風の中で繁殖行動をして、落ちた地面で卵を産んで消えていくんだって。不思議だ。
 
「こいつが来たら一気に寒くなる。本物の雪も降り出すだろうな」
「え、地面に落ちて卵を産んだら、潰されたり雪降って凍ったりしないの?」
「毎年現れるんだから大丈夫なんだろ?」
 
 そうだね……。こっちには昆虫研究者みたいな人はいないのか。あまり不思議だなって思って解明する人とかはいないみたいだね。こういうものだっていう受け入れがすごい。
 
「この虫も魔物になったりするの?」
「条件が重なればそういうこともあるんじゃないか? でもこいつは時期が限られてるしなかなかそういうこともなさそうだが」
 
 良かった。こんな可愛い虫が魔物化しちゃったらやだもんな。てもせっかくはねを持ってる虫なのに退化? 進化? しちゃって自分の思う通りに飛べないなんていいのか悪いのかわからないね。
 
「でも言われてみれば、こいつらが魔物化することがあったら1匹じゃなくて集団になりそうだな……可能性として考慮しておいたほうが良さそうだ」
「え、俺、適当に聞いただけだよ?」
「ああ、いいんだ。いつでも最悪を想定しておくことは大事だってだけだから。何も起こらなければそれはそれでいいだろ? そんなことは起こらないと思考停止して対策してなきゃいざというとき何も出来ないからな」
 
 ちょっと違うだろうけど、何かが起きたときに備えるって意味では避難訓練みたいなものかな? なんて考えながら聞いてた。
 
 それから俺とルイがこの村に来るときに出会った虫魔物について話したり益虫について話したりと話題は虫中心に。俺が苦手なのわかってて幼虫についての話は避けてくれてるの優しいよな。でも俺、話だけなら大丈夫なんだ。見たり触ったりは駄目だけどさ。
 
「霧蜘蛛の布は産業化したら儲かりそうだけどねぇ」
「そんなに人手を割けないし、村の消費分だけで精一杯で売るのは無理だろうな」
「そっかー。まあ、欲しい人が殺到しても困るもんね。この村ってあまり人を寄せ付けないし」
「まあララトゥ草だけでも結構突っ込まれるからな。だから信用できるところにしか持ち込まない」
 
 そうなっちゃうよね。ララトゥ草ってそれだけでも治癒の効果が高いのに他の薬草の効果も高めちゃうんでしょ? そりゃみんな欲しがるよ……。なのに生育条件とかから数も限られるだろうしね。
 そういった点ではララトゥ草も霧蜘蛛の布も同じなのか。普通に着てて町を歩いていても目ざとい商人なんかには声をかけられることもあるんだって。どこで買ったのかとか仕入れられないかとか。ルイが無表情で強くてデカいから無理は言われないんだそうだけど、俺なら絶対追い詰められるよね。想像しただけで怖い。
 信用できるところっていうのはこの村の出身の人の家系なんだそうだ。だいたいその人を通じて仕入れとか卸したりとかをやって、余計な揉め事を避けてるんだって。その人たちも腕っぷしは強いから他の商人なんかに下に見られることもなく安全にやれているらしい。うーん、やっぱりこの村出身の人達ってすごいな。
 
 それにしても、白いのが眼の前をフワフワ漂う様子は本当に雪みたいだ。ルイと話していてもつい目で追ってしまう……。
 
「ところでさ、この虫って名前あるの?」
「みんなは冬連れ虫と……」
「え、そのまんまっていうか雑すぎない!?」
 
 ルイは名前そんな必要か? みたいなことを言ってたけど、地球育ちとしては名前なくていいやみたいのが信じられなくてさ。あっちなら新種だとかって騒がれちゃうようなもんじゃん? ほんと文化が違いすぎて慣れないなぁ……。

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今日は秋庭一般参加してくるのでお話はのんびり回です。
ちょっと季節感を書いてみたかった……
初夏に迷い込んでもうこんな季節かぁ、と。
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