上 下
74 / 202
異世界生活編

74.弓っていうか、さぁ……

しおりを挟む
 弓の練習は前より数をこなせるようになったからこその問題で、左腕が弦で傷つくことが増えてしまった。多分俺が下手なだけだと思うんだけどね。
 それを見たルイが心配して革製のアームガードを頼んでいてくれてた。とはいっても練習用のを少しサイズ調整してくれたってだけなんだけど。ほんとに俺の鍛錬のサポートが手厚い……。こんなにしてもらっていいのかなって毎度のことながら思う。
 
「こういうのって使うのが普通?」
「まあ、人によるとしか……でもこういうのがあるってことは普通なんじゃないか?」
「ちなみにルイは……」
「使ってなかったな」
 
 なるほど。それで忘れてたのか。大体教える人が基準になるもんな。最近は日中もだいぶ涼しくなってきたから長袖で過ごすことも多いってこともあって、俺の腕がそんなことになっているのに2人ともすぐ気づかなかったんだって。袖をまくったときに左前腕が痣だらけなのを見てぎょっとしたらしい。下手くそでごめんよ……こういうもんだと思ってた。
 
「実際はさらにグローブをすることが多い。ただ……難易度が上がる。左手だけならつけるのはありかもしれないが」
「あー、グローブして矢をつがえるのは確かに難しそうだね。うぇぇ、結構剣より難しいじゃん」
「そりゃそうだよ。弓を得意としてる人がそこまで多くないのもわかるでしょ?」
「いやいや、俺はこの世界に弓の人が少ないとか知らないしっ」
 
 弓矢使う人少ないのかぁ……やっぱ魔法と剣が王道なのかね。ソロ旅とかじゃなきゃ弓だっていいと思うんだけどな。
 
「でも弓も使いようなんだよ。魔導士は魔法全振りじゃない限りは短剣か弓持つ人多いから」
「そうなの?」
「まぁね。魔導士ってのはさぁ魔法が使えなくなった状況でどうするか、なんだよ。ソロだと魔法全振りじゃもうどうしようもないじゃん? でも他の物理の人ほどそういうのが上手いわけでもないわけ。イクミはわかると思うけど、そこまで重いもの振り回す技量はないしね。で、短剣をサブで持つ人は多い。オレほど使いこなしてる魔導士は多くないと思うけど」
 
 こそっと自慢ぶっ込んできてるな。さすがヴァンだよ。
 
「で、なんで弓? 最初の弓なんか結構重かったよ?」
「魔導士用の特注を作ってもらうんだよ。軽めで魔力通しやすくて普通にも使えるようなやつをさ」
 
 弓は遠距離だし、目標に向かって放つのが気持ち的には魔法攻撃と似ているんだって。でも俺には魔法がよくわからないから「ふーん」って聞いてた。
 魔導士が魔法を使えない状況ってどんなときだろう……。ゲームみたいなMP切れってこと? みんながみんな魔力を持っている世界で、世界を構成するエネルギーみたいなことを聞いていた俺は今ひとつわからなかった。聞いてもいいんだろうか? でも当たり前過ぎて答えられないってこともありそう……。まあいいか。そのうち覚えてたら聞こう。
 
「じゃあ、俺は上手くなるまではやっぱ素手でやろうっと。上手くなるのいつになるかわからないけどー」
「無理だけしなけりゃイクミの好きにしていい」
「ルイはイクミに対して過保護じゃない?」
 
 うひ。俺が思っても言えなかったことをヴァンが言っちゃったよ……。ルイがめっちゃ刺すみたいな目でヴァンのこと見てるのも怖いっ。その目、魔物を前にしたときの顔じゃん。だめだよ、ルイ、そこにいるのはヴァンだから。
 
「イクミはこの世界で生まれ育ったやつと違うんだから気にかけてやって当然だろ。何かあってからじゃ遅い」
「それにしたってさぁ?」
「まあまあ……俺も無理しないし、頑張るし……」
 
 このいたたまれなさ……助けて。
 俺がへばるくらいのは許せるけど、皮がむけたり血が出たりするのはルイ的に許せないらしい。ヴァンにはそれっぽい理由つけてるけど見透かされてるよね、アレ。
 気を遣ってもらうのは嬉しい。それは前に思った通りだけどさすがにヴァンの前だと少し恥ずかしいんだよね。
 
「大げさなくらい言わないと俺がこっそり無理しちゃうからだよね? ごめんね、ルイ」
「あ、いや……」
「イクミも大概ルイに甘い」
「そ、そうかな?」
 
 自覚なかったけど、ヴァンが言うならそうなのかな。ヴァンってよく人のこと見てるし……。そう言われたら余計に恥ずかしくなってきた!!
 
「そうだよ! なんでオレには優しくしてくれないんだよ、2人とも! オレは2人の兄貴だよ?」
「へ?」
「は?」
 
 ヴァンは俺とルイがいかに自分に対して適当にあしらうかをブチブチブチブチ言いまくっている。なんだよ……俺の照れを返せよ……。ヴァンってたまに一番年上なの本当かよって思う言動するよな。そういうのがいいところって思ってたけど、これはどうなんだよ。
 
「お、俺、ヴァンに優しくない?」
「いや……イクミはいつもみんなに優しいだろ?」
「違うっ! ルイとの扱いが違いすぎる! ずるい!」
「えーー……それは被害妄想ってやつだよ、ヴァン」
 
 でも人への対応って関係性で変わってくるじゃん。ルイは最初っから俺のこと心配してくれて守ってくれてさ。ヴァンはどっちかというと俺のことからかうことが多いんだもん。もちろんマッサージしてくれたりいろいろ考えてくれたりしてるのはわかってるけど。そういうとこが少しばかり差として出ちゃってるだけだよ。俺はちゃんとヴァンにも感謝してるし。
 それにしても、俺の弓の話が意外なところに飛び火しちゃったなぁ……。
 
「俺、ちゃんとヴァンはすごい魔導士だなって思ってるし、できるようになったら魔法教えてもらうの楽しみにしてるんだよ? 今は俺に魔力がほんのちょびっとしかないからできないけどさ。だから先生がそんな拗ねないでよ。もっとかっこいいとこいっぱい見せてほしいなぁ」
「オレかっこいい!? だよね? イクミはわかってるね」
 
 バッと両腕を広げて俺に向かってくるヴァンをルイが捕まえたのが見えた。そこからまた2人は――というか主にヴァンが――ギャーギャー言い合ってるから俺は1人で弓の練習を再開したよね……。
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...