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異世界生活編
74.弓っていうか、さぁ……
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弓の練習は前より数をこなせるようになったからこその問題で、左腕が弦で傷つくことが増えてしまった。多分俺が下手なだけだと思うんだけどね。
それを見たルイが心配して革製のアームガードを頼んでいてくれてた。とはいっても練習用のを少しサイズ調整してくれたってだけなんだけど。ほんとに俺の鍛錬のサポートが手厚い……。こんなにしてもらっていいのかなって毎度のことながら思う。
「こういうのって使うのが普通?」
「まあ、人によるとしか……でもこういうのがあるってことは普通なんじゃないか?」
「ちなみにルイは……」
「使ってなかったな」
なるほど。それで忘れてたのか。大体教える人が基準になるもんな。最近は日中もだいぶ涼しくなってきたから長袖で過ごすことも多いってこともあって、俺の腕がそんなことになっているのに2人ともすぐ気づかなかったんだって。袖をまくったときに左前腕が痣だらけなのを見てぎょっとしたらしい。下手くそでごめんよ……こういうもんだと思ってた。
「実際はさらにグローブをすることが多い。ただ……難易度が上がる。左手だけならつけるのはありかもしれないが」
「あー、グローブして矢をつがえるのは確かに難しそうだね。うぇぇ、結構剣より難しいじゃん」
「そりゃそうだよ。弓を得意としてる人がそこまで多くないのもわかるでしょ?」
「いやいや、俺はこの世界に弓の人が少ないとか知らないしっ」
弓矢使う人少ないのかぁ……やっぱ魔法と剣が王道なのかね。ソロ旅とかじゃなきゃ弓だっていいと思うんだけどな。
「でも弓も使いようなんだよ。魔導士は魔法全振りじゃない限りは短剣か弓持つ人多いから」
「そうなの?」
「まぁね。魔導士ってのはさぁ魔法が使えなくなった状況でどうするか、なんだよ。ソロだと魔法全振りじゃもうどうしようもないじゃん? でも他の物理の人ほどそういうのが上手いわけでもないわけ。イクミはわかると思うけど、そこまで重いもの振り回す技量はないしね。で、短剣をサブで持つ人は多い。オレほど使いこなしてる魔導士は多くないと思うけど」
こそっと自慢ぶっ込んできてるな。さすがヴァンだよ。
「で、なんで弓? 最初の弓なんか結構重かったよ?」
「魔導士用の特注を作ってもらうんだよ。軽めで魔力通しやすくて普通にも使えるようなやつをさ」
弓は遠距離だし、目標に向かって放つのが気持ち的には魔法攻撃と似ているんだって。でも俺には魔法がよくわからないから「ふーん」って聞いてた。
魔導士が魔法を使えない状況ってどんなときだろう……。ゲームみたいなMP切れってこと? みんながみんな魔力を持っている世界で、世界を構成するエネルギーみたいなことを聞いていた俺は今ひとつわからなかった。聞いてもいいんだろうか? でも当たり前過ぎて答えられないってこともありそう……。まあいいか。そのうち覚えてたら聞こう。
「じゃあ、俺は上手くなるまではやっぱ素手でやろうっと。上手くなるのいつになるかわからないけどー」
「無理だけしなけりゃイクミの好きにしていい」
「ルイはイクミに対して過保護じゃない?」
うひ。俺が思っても言えなかったことをヴァンが言っちゃったよ……。ルイがめっちゃ刺すみたいな目でヴァンのこと見てるのも怖いっ。その目、魔物を前にしたときの顔じゃん。だめだよ、ルイ、そこにいるのはヴァンだから。
「イクミはこの世界で生まれ育ったやつと違うんだから気にかけてやって当然だろ。何かあってからじゃ遅い」
「それにしたってさぁ?」
「まあまあ……俺も無理しないし、頑張るし……」
このいたたまれなさ……助けて。
俺がへばるくらいのは許せるけど、皮がむけたり血が出たりするのはルイ的に許せないらしい。ヴァンにはそれっぽい理由つけてるけど見透かされてるよね、アレ。
気を遣ってもらうのは嬉しい。それは前に思った通りだけどさすがにヴァンの前だと少し恥ずかしいんだよね。
「大げさなくらい言わないと俺がこっそり無理しちゃうからだよね? ごめんね、ルイ」
「あ、いや……」
「イクミも大概ルイに甘い」
「そ、そうかな?」
自覚なかったけど、ヴァンが言うならそうなのかな。ヴァンってよく人のこと見てるし……。そう言われたら余計に恥ずかしくなってきた!!
「そうだよ! なんでオレには優しくしてくれないんだよ、2人とも! オレは2人の兄貴だよ?」
「へ?」
「は?」
ヴァンは俺とルイがいかに自分に対して適当にあしらうかをブチブチブチブチ言いまくっている。なんだよ……俺の照れを返せよ……。ヴァンってたまに一番年上なの本当かよって思う言動するよな。そういうのがいいところって思ってたけど、これはどうなんだよ。
「お、俺、ヴァンに優しくない?」
「いや……イクミはいつもみんなに優しいだろ?」
「違うっ! ルイとの扱いが違いすぎる! ずるい!」
「えーー……それは被害妄想ってやつだよ、ヴァン」
でも人への対応って関係性で変わってくるじゃん。ルイは最初っから俺のこと心配してくれて守ってくれてさ。ヴァンはどっちかというと俺のことからかうことが多いんだもん。もちろんマッサージしてくれたりいろいろ考えてくれたりしてるのはわかってるけど。そういうとこが少しばかり差として出ちゃってるだけだよ。俺はちゃんとヴァンにも感謝してるし。
それにしても、俺の弓の話が意外なところに飛び火しちゃったなぁ……。
「俺、ちゃんとヴァンはすごい魔導士だなって思ってるし、できるようになったら魔法教えてもらうの楽しみにしてるんだよ? 今は俺に魔力がほんのちょびっとしかないからできないけどさ。だから先生がそんな拗ねないでよ。もっとかっこいいとこいっぱい見せてほしいなぁ」
「オレかっこいい!? だよね? イクミはわかってるね」
バッと両腕を広げて俺に向かってくるヴァンをルイが捕まえたのが見えた。そこからまた2人は――というか主にヴァンが――ギャーギャー言い合ってるから俺は1人で弓の練習を再開したよね……。
それを見たルイが心配して革製のアームガードを頼んでいてくれてた。とはいっても練習用のを少しサイズ調整してくれたってだけなんだけど。ほんとに俺の鍛錬のサポートが手厚い……。こんなにしてもらっていいのかなって毎度のことながら思う。
「こういうのって使うのが普通?」
「まあ、人によるとしか……でもこういうのがあるってことは普通なんじゃないか?」
「ちなみにルイは……」
「使ってなかったな」
なるほど。それで忘れてたのか。大体教える人が基準になるもんな。最近は日中もだいぶ涼しくなってきたから長袖で過ごすことも多いってこともあって、俺の腕がそんなことになっているのに2人ともすぐ気づかなかったんだって。袖をまくったときに左前腕が痣だらけなのを見てぎょっとしたらしい。下手くそでごめんよ……こういうもんだと思ってた。
「実際はさらにグローブをすることが多い。ただ……難易度が上がる。左手だけならつけるのはありかもしれないが」
「あー、グローブして矢をつがえるのは確かに難しそうだね。うぇぇ、結構剣より難しいじゃん」
「そりゃそうだよ。弓を得意としてる人がそこまで多くないのもわかるでしょ?」
「いやいや、俺はこの世界に弓の人が少ないとか知らないしっ」
弓矢使う人少ないのかぁ……やっぱ魔法と剣が王道なのかね。ソロ旅とかじゃなきゃ弓だっていいと思うんだけどな。
「でも弓も使いようなんだよ。魔導士は魔法全振りじゃない限りは短剣か弓持つ人多いから」
「そうなの?」
「まぁね。魔導士ってのはさぁ魔法が使えなくなった状況でどうするか、なんだよ。ソロだと魔法全振りじゃもうどうしようもないじゃん? でも他の物理の人ほどそういうのが上手いわけでもないわけ。イクミはわかると思うけど、そこまで重いもの振り回す技量はないしね。で、短剣をサブで持つ人は多い。オレほど使いこなしてる魔導士は多くないと思うけど」
こそっと自慢ぶっ込んできてるな。さすがヴァンだよ。
「で、なんで弓? 最初の弓なんか結構重かったよ?」
「魔導士用の特注を作ってもらうんだよ。軽めで魔力通しやすくて普通にも使えるようなやつをさ」
弓は遠距離だし、目標に向かって放つのが気持ち的には魔法攻撃と似ているんだって。でも俺には魔法がよくわからないから「ふーん」って聞いてた。
魔導士が魔法を使えない状況ってどんなときだろう……。ゲームみたいなMP切れってこと? みんながみんな魔力を持っている世界で、世界を構成するエネルギーみたいなことを聞いていた俺は今ひとつわからなかった。聞いてもいいんだろうか? でも当たり前過ぎて答えられないってこともありそう……。まあいいか。そのうち覚えてたら聞こう。
「じゃあ、俺は上手くなるまではやっぱ素手でやろうっと。上手くなるのいつになるかわからないけどー」
「無理だけしなけりゃイクミの好きにしていい」
「ルイはイクミに対して過保護じゃない?」
うひ。俺が思っても言えなかったことをヴァンが言っちゃったよ……。ルイがめっちゃ刺すみたいな目でヴァンのこと見てるのも怖いっ。その目、魔物を前にしたときの顔じゃん。だめだよ、ルイ、そこにいるのはヴァンだから。
「イクミはこの世界で生まれ育ったやつと違うんだから気にかけてやって当然だろ。何かあってからじゃ遅い」
「それにしたってさぁ?」
「まあまあ……俺も無理しないし、頑張るし……」
このいたたまれなさ……助けて。
俺がへばるくらいのは許せるけど、皮がむけたり血が出たりするのはルイ的に許せないらしい。ヴァンにはそれっぽい理由つけてるけど見透かされてるよね、アレ。
気を遣ってもらうのは嬉しい。それは前に思った通りだけどさすがにヴァンの前だと少し恥ずかしいんだよね。
「大げさなくらい言わないと俺がこっそり無理しちゃうからだよね? ごめんね、ルイ」
「あ、いや……」
「イクミも大概ルイに甘い」
「そ、そうかな?」
自覚なかったけど、ヴァンが言うならそうなのかな。ヴァンってよく人のこと見てるし……。そう言われたら余計に恥ずかしくなってきた!!
「そうだよ! なんでオレには優しくしてくれないんだよ、2人とも! オレは2人の兄貴だよ?」
「へ?」
「は?」
ヴァンは俺とルイがいかに自分に対して適当にあしらうかをブチブチブチブチ言いまくっている。なんだよ……俺の照れを返せよ……。ヴァンってたまに一番年上なの本当かよって思う言動するよな。そういうのがいいところって思ってたけど、これはどうなんだよ。
「お、俺、ヴァンに優しくない?」
「いや……イクミはいつもみんなに優しいだろ?」
「違うっ! ルイとの扱いが違いすぎる! ずるい!」
「えーー……それは被害妄想ってやつだよ、ヴァン」
でも人への対応って関係性で変わってくるじゃん。ルイは最初っから俺のこと心配してくれて守ってくれてさ。ヴァンはどっちかというと俺のことからかうことが多いんだもん。もちろんマッサージしてくれたりいろいろ考えてくれたりしてるのはわかってるけど。そういうとこが少しばかり差として出ちゃってるだけだよ。俺はちゃんとヴァンにも感謝してるし。
それにしても、俺の弓の話が意外なところに飛び火しちゃったなぁ……。
「俺、ちゃんとヴァンはすごい魔導士だなって思ってるし、できるようになったら魔法教えてもらうの楽しみにしてるんだよ? 今は俺に魔力がほんのちょびっとしかないからできないけどさ。だから先生がそんな拗ねないでよ。もっとかっこいいとこいっぱい見せてほしいなぁ」
「オレかっこいい!? だよね? イクミはわかってるね」
バッと両腕を広げて俺に向かってくるヴァンをルイが捕まえたのが見えた。そこからまた2人は――というか主にヴァンが――ギャーギャー言い合ってるから俺は1人で弓の練習を再開したよね……。
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