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異世界生活編

73.ポテトサラダ

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 昨夜マヨネーズが完成したから約束通り今朝はポテトサラダを作る。
 さて、材料はどうしようか。日本なら彩りに人参を入れるけど、この村じゃねぇ。あの紫大根もどきもちょっと俺的にはやだな。ってことで、悩んだ挙げ句、ポテトサラダとたまごサラダの間の子みたいなのを作ろうかなと。幸い、緑色の野菜はたくさんあるし、卵の黄身の黄色でなんとか色合いは良くなるんじゃないかな? 日本にいたときはそこまで彩りを気にしたことなかったんだけど、ここに来てあまりの色のなさにむしろ気になるようになっちゃったのがなんともね。

 サディさんはいつものように畑に行っているようだけど、だいぶ涼しくなって作物も全盛期よりは落ち着いていることもあって最近は出て行ってから戻ってくるのが早い。だから早めに卵を貰いに行ってこようかなと俺がドアを開けると、

「あら、イクミくん?」
「サディさんおはよう。早かったね。俺、ちょっと卵貰いに行ってくるよ」
「卵大活躍ね。何かやっておくことある?」
「あ、じゃあビーヌをさっと茹でておいて! あとはできたら塩漬け魔物肉を薄切りにしてカリカリに炒めておいてくれたら嬉しい」

 サディさんが笑顔で頷いたので俺はひとっ走り行ってきた。今日もご主人と簡単な世間話をしつつ卵を頂く。ついでに搾りたてミルクもくれた。ご主人の最近のお気に入りはサディさんブレンドの薬草パウダーをまぶしてグリルした魔物肉の料理なんだそうだ。それ、俺関わってないけどねって思ったけど、薬草を料理に使うっていうのを提案したのが俺だから俺のおかげでもあるんだって。そうなの?
 遅くなるといけないからご主人にお礼を言って帰ってくると、サディさんは頼んでおいた2つのことをやり終わっていた。さすが仕事が早い。

「サディさん、ありがとう!」
「サラダ、楽しみだわ。ここに出しておいたジャガイモは料理にしちゃっていいやつよ」

 ほとんどが種芋になるかと思ったけど、使っていいものもそれなりにあった。俺からしたら種芋になるやつと料理に使っていいやつの見分けはつかないけど、サディさんからしたら切って植えたときにすくすく育つやつとちょっと難しいやつがわかるんだからすごい。とはいえ、料理にして不味いってわけではないからどういう差なんだろうな。

「じゃあ、まずジャガイモを茹でようか。蒸かすんでもいいけど、そこは好みだね。今回はゆで卵も作りたいから一緒に茹でよ?」

 サディさんとちゃっちゃかと作業を進める。毎日2人で料理しているから簡単な説明でもお互い連携して動けるのが助かる。茹で上がったジャガイモは熱いうちに皮を剥いて粗く潰していく。その間、ゆで卵はお尻の部分に軽くヒビを入れてから水に漬けておいた。

「こういうの見てるとカロイモっぽいけど、カロイモよりやっぱりほろりとしているわね。あと、ほんのり黄色いのもキレイだわ」
「ああ、こないだはフライドポテトとかにしちゃったから表面の色変わっちゃってたもんね。確かにカロイモは結構白いもんな」

 単品ずつだとあまりわからないけど、並べてみたらジャガイモってこんな黄色かったっけ? って思うくらい。
 ジャガイモを冷ましている間に固茹でにしたゆで卵の殻を剥く。別の容器の中でフォークを使って適当に崩した。白身は念入りに、黄身はほとんど手つかずな感じに。

「で、粗熱が取れたらここに他の食材を入れるね。ビーノはこんな風に斜め切りするとキレイだと思う……俺的には。あとカリカリ肉でしょ、薄切りにしたシャロでしょ、で、昨日作ったマヨネーズ入れるよ」
「ここにマヨネーズなのね。ず、随分入れるのね?」
「うん。ざっとこれをなじませるよ。俺の世界だともっと色のキレイな茹で野菜なんかが入るんだ。で、卵は卵でマヨネーズと混ぜてたまごサラダになったりするんだけどさ。ポテトサラダにしろたまごサラダにしろマヨネーズと混ぜるから今日は合体させちゃう!」
「じゃあ本来はゆで卵は入らないのね。なんでまだ入れないの?」

 入れると言いながら避けたままになっている崩したゆで卵を見てサディさんが質問してくる。俺は底からすくい上げるように全体をなじませながらマヨネーズを追加したりしていた。

「たまごサラダならいいんだけどさ、今日のゆで卵の役割は彩りなんだ。だから最初に入れて混ぜ込んじゃうと黄身が崩れて全部混ざっちゃうでしょ? だから最後にさっと混ぜようと思ってね」
「相変わらずイクミくんのアイディアは面白いわ」

 味を見て少し塩を足して、こんなもんかなというところでゆで卵投入。ざっくり混ぜ合わせた。うん、いい感じだ。欲を言えばコショウが欲しいけどね。でもちゃんと美味しい。

「よし! これがポテトサラダだよ。味見、してみて?」
「頂くわ!」

 サディさんが小皿に取ったポテトサラダをワクワクした様子で口に運ぶ。咀嚼しながらどんどん目が細くなっていってなんとも言えない表情になっていく。

「初めての食感と味! なのに手が止まらなくなりそうよ! イモのサラダがこんなに美味しいなんて」

 よし、サディさんの高評価ゲット。これなら多分ルイも喜んでくれるはず。村長もね。

「ジャガイモがたくさん収穫できるようになったらみんなにも作り方教えてあげて? サディさんならもっと美味しくできるんじゃない?」
「何言ってるのよ。イクミくんが料理教室でやればいいでしょ。マヨネーズも」

 え、だってもうサディさん作り方わかってるじゃん。そう俺が言うと、サディさんは「イクミくんがやるほうが異世界料理って思ってみんなの食いつきが違うのよ」って笑った。そんなものなのかなぁ……。

 何故か、村長が具のないガレット……つまりあの生地を気に入ったから、あれを何枚か焼いて一緒に用意した。せっかくミルクもご主人から貰ったからね。

「おはよう。イクミ、サラダできたか?」
「ルイ! おはよう! できたよ。ルイの口に合うといいんだけど」
「期待してる」

 村長のいつものお祈りのあと、4人で朝食を囲む。今日のテーブルの上はなんていうかあっちの食卓に似ていて少しばかり胸が軋む。

「早く、早く食べてみて! イクミくんのジャガイモのサラダ!」
「そう興奮しなくても……ちゃんと食べるに決まっているだろう?」
「アルはこの美味しさを早く知るべきよ!」

 サディさんと村長のやりとりを横目にひたすらもぐもぐしているのはルイだ。無言が怖いけど、手が止まらない様子は気に入ってくれたのがわかる。それをじっと見ていたらふとルイと目が合って、目の奥が笑ったのがわかった。あああ! 胸が痛い。
 村長もポテトサラダをとても気に入ってくれたらしく、カロイモでこれを作ったらどうなるだろうとかいろいろ言っていた。あと、あの生地でポテトサラダを包んで食べるという料理を勝手に作り上げて……そしてサディさんに奪われていた。

 食後、ルイがポテトサラダがとても美味しかったと俺に直接言ってきた。なんであの場で言わなかったのかなって思ったらサディさんと村長がワチャワチャしすぎてて口を挟めなかったみたい……可愛い……ゲフンゲフン。

「酸っぱすぎるのは苦手だが、あれはちょうどいいな。マヨネーズだったか? が油で酸味をまろやかにしてるからなのか? とにかくジャガイモが美味しい料理にしかならなくて驚いてばかりだ。イクミの世界はすごいな。いや、ああいうのが作れるイクミがすごいっていうか」
「な……なんか、いつになく饒舌だね。褒めすぎだよ」
「いや、本当に。初めて作ってくれた魚の飯も美味かったし、イクミはすごい」

 いきなりどうしちゃったんだよ! 照れる。料理はそこそこできるけどさ、俺はこっちの人が普通にできる護身術程度でもできないからね、それで相殺だよね……。そんな謙遜の気持ちも湧いちゃうけど、ルイに褒められるのは嫌じゃなくてほわほわとした気持ちになった。
 
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