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異世界生活編
72.今更だけどマヨネーズを作ろう
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実は、この間収穫したジャガイモはサディさんのプレゼンのせいで村中が盛り上がってしまってほとんど種芋化しそうってことを聞いた。え、ジャガイモ料理次の収穫後じゃないとできない感じ?
「私が種芋としてちゃんと育ちそうなものは選別することになってるわ。小さいものとかちょっと種芋としては成長に不安がありそうなものは食べましょ。本当は……前にイクミくんがサラダにするって言ってたのがずっと記憶に残ってて知りたいのよね」
「あー……サラダね……」
まいったな、マヨネーズのこと忘れてた。分量さえわかればできそうだって思ったのに実験とかする暇がなかったんだよね。
「サディさん、マヨネーズ作りの実験一緒にする?」
「マヨネーズ? っていうのがサラダの名前?」
「んにゃ、調味料だよ。粗く潰したジャガイモに混ぜるんだ。俺の世界じゃ手軽に買える調味料なんだけどさ、ここじゃ作るしかないでしょ? 幸いに材料はあるみたいだから――」
「やりましょ!」
即答。いや、想定内だけどさ。だってサディさんだし……料理も好きだけど実験も好きだもんね。
一応俺はマヨネーズがどんなものなのかをサディさんに説明した。サディさんは卵を使ったソース風の調味料ってことでかなり興味を持ったみたい。
「卵はまだ保管箱に4つあるわよ。足りるかしら? あとビネガーとオイルはいつもので大丈夫?」
「うん、その辺も好みになるからね。ただ、分量はちょっとわからないから実験するしかないんだ」
「適当じゃ良くないのね? 薬みたいな感じかしら……」
「うーん……材料を撹拌して乳化させるっていうだけなんだけどね。子どもの頃に調理実習で作っただけであまり覚えてないんだ。モノ自体は子どもの実験でできるようなものではあるんだけど、間違えると分離しちゃってマヨネーズにはならないからその辺がね」
俺は自分の班は上手くできたのに、隣の班は大雑把な女子がドバっとサラダオイルを卵液に加えてしまったせいで失敗してたのを思い出していた。あと、前から欲しかった泡だて器ができれば使いたいけど、あるわけないよなぁ。ガレット作る前に金属加工の上手い人紹介してもらおうって思ってたのに放置しちゃってたから。
「サディさん、針金……こう、細い金属の線ってないかな? あったら貰いたい」
「え? それが何か関係あるの?」
「泡だて器もどきを作りたいんだ」
サディさんのキョトン顔がちょっとかわいい。武器の修理などをするところにあるかもしれないってことで、2人で行ってみることになった。柔らかすぎないちょうどいいのがあるといいんだけどな……。
「おお、サディさんと君か! どうした?」
「イクミくんが欲しいものがあるそうなのよ。ちょうどいいのがあったら貰えないかしら?」
「すいません、突然。えっと、金属の細い線であまり柔らかくないものってありますか?」
さすがにステンレスがあるとは思ってない。けど、なんかいいのがあると助かるな。なんて思いながら俺が小屋を見回していると、厳ついおじさんはちょっと待ってろと奥に行ってしまった。
しばらくして、こんなのはどうだと持ってきたのは2種類の金属線。
「あまり種類はないんだ。一応修理なんかに使うものだけど、こういうのを使って修理するような武器を使ってる奴がこの村には少ないからな。この線もいつからあるんだか……」
「え、じゃあ頂いても問題ないですか?」
「構わんよ。どうやって使うのか教えてもらえれば自分が加工してやろう」
マジか。細いクセに思ったより硬かったからありがたい。ってことで地面に絵を描いてめっちゃ説明した。おじさんは「なんじゃこれ」と言いながらも細部まで聞いてくれて、これから作業してくれるって。
すぐできるとは言ってくれたけど、俺はその間にトレーニングへ。合間に取りに来ますねって言っておいた。
◇◇◇
受け取った泡だて器は、こう、なんていうか……武器っぽかった。ちょっと重いけど、まあ使えるだろ。
夕食後、俺とサディさんは材料を目の前に置いてとりあえず作戦会議。後ろのテーブルでルイが聞いてるけど口は挟んでこなくて、ただ見守られてるみたいな感じで笑っちゃう。
「卵黄とビネガーと塩少量をよく混ぜたところにほんとに少しずつオイルを入れながらよぉっく混ぜていく、ただそれだけなんだよ。卵黄1個からでも結構な量ができたからオイルの量はそこそこ使うかもしれない」
「その材料でちゃんと混ざるのかしら、不思議ね」
「水と油は混ざらないし混ぜても時間を置くと分離するんだけど、それを乳化でひとまとまりにさせるのが卵黄なんだよ。卵黄にはレシチンっていう成分が入っていてね、それが油を包み込んで水に馴染みやすくするんだ」
ここぞとばかりに実験好きの知識披露をする俺。こういうのが楽しくて理系に進んだんだよな。レシチンの効果はあっちの世界の人なら洗剤のCMをイメージしてもらうとわかりやすい。あの汚れを包み込んで浮かせるミセル化の図ね。人間の細胞膜のリン脂質と同じ構成だ。マッチ棒みたいな親水性と親油性の基質を持ってる。でもこっちの世界の知識と混ぜて説明できる気がしないからサディさんにはわからないだろう……。
とりあえず分量はわからないから全部同量っぽい感じでまずは始めてみた。
……はい、失敗。ですよねー。
「うーん、シャバシャバなところに油を入れたって記憶があまりないからビネガーが多すぎってことか……」
「やりたいことはわかったわ。次は私にやらせて?」
「じゃあ、サディさん、ビネガーの量半分にしてみようか」
そして作ったものは1回目よりは少しマシにはなった。けど、酸っぱくて……見た目の違和感も。俺の知ってるマヨネーズより酸っぱすぎるってことはまだまだビネガーが多いってことか。酢の量って実は結構少なかったんだな。
てことで、ビネガーの量はかなり減らしてよく卵黄と混ぜ込んでからの3回目。次は俺がメインでサディさんにお手伝いしてもらう。俺の声掛けで少量ずつ容器の縁からオイルを垂らしてくれるサディさんはさすが実験慣れしてるなと思わせる。
「あら! さっきと全然違うわ」
「うん、いい感じかもしれない。でもまだもう少しオイルは加えよう」
俺の知るマヨネーズの硬さに近くなるまでチビチビと加えてはよく混ぜるのを繰り返す。黄色が濃かったのがもったりとした黄白色になった。
サディさんが期待の眼差しで見てくる。俺もちょっとドキドキ。だって卵2個無駄にしてるからね。こういう自給自足の村で食材を無駄にすることがどんなにいけないことかって思うからさ。
俺は少しだけ匙で掬って手の甲にのせたソレを舐めてみる。そして、無言で匙をサディさんにも渡した。もう少しだけ味の調整をしたほうが良いかもしれないけど、俺の知ってるのにかなり近い。
「これが、マヨネーズ!?」
サディさんが味見をして声を上げると、いつの間にテーブルを立ったのかルイがヒョコっと俺とサディさんの間から顔を覗かせてきた。
「できたのか?」
「ルイ、これすごいわよ。卵のソース!」
明日の朝は種芋にしないジャガイモでサラダ作ろうかって話すとサディさんとルイは嬉しそうにしていた。そこまで酸っぱいのが好きじゃなさそうなルイでもマヨネーズくらいの酸味は美味しく感じるらしい。良かった。
こっちの世界は浄化の魔法があるおかげで生野菜とか生卵が気にせず食べられるのはありがたいよな。日本の感覚でいられるのはすごく助かる。
気になるのは……こっちの世界にマヨラーが発生しないかってことだよ……。
「私が種芋としてちゃんと育ちそうなものは選別することになってるわ。小さいものとかちょっと種芋としては成長に不安がありそうなものは食べましょ。本当は……前にイクミくんがサラダにするって言ってたのがずっと記憶に残ってて知りたいのよね」
「あー……サラダね……」
まいったな、マヨネーズのこと忘れてた。分量さえわかればできそうだって思ったのに実験とかする暇がなかったんだよね。
「サディさん、マヨネーズ作りの実験一緒にする?」
「マヨネーズ? っていうのがサラダの名前?」
「んにゃ、調味料だよ。粗く潰したジャガイモに混ぜるんだ。俺の世界じゃ手軽に買える調味料なんだけどさ、ここじゃ作るしかないでしょ? 幸いに材料はあるみたいだから――」
「やりましょ!」
即答。いや、想定内だけどさ。だってサディさんだし……料理も好きだけど実験も好きだもんね。
一応俺はマヨネーズがどんなものなのかをサディさんに説明した。サディさんは卵を使ったソース風の調味料ってことでかなり興味を持ったみたい。
「卵はまだ保管箱に4つあるわよ。足りるかしら? あとビネガーとオイルはいつもので大丈夫?」
「うん、その辺も好みになるからね。ただ、分量はちょっとわからないから実験するしかないんだ」
「適当じゃ良くないのね? 薬みたいな感じかしら……」
「うーん……材料を撹拌して乳化させるっていうだけなんだけどね。子どもの頃に調理実習で作っただけであまり覚えてないんだ。モノ自体は子どもの実験でできるようなものではあるんだけど、間違えると分離しちゃってマヨネーズにはならないからその辺がね」
俺は自分の班は上手くできたのに、隣の班は大雑把な女子がドバっとサラダオイルを卵液に加えてしまったせいで失敗してたのを思い出していた。あと、前から欲しかった泡だて器ができれば使いたいけど、あるわけないよなぁ。ガレット作る前に金属加工の上手い人紹介してもらおうって思ってたのに放置しちゃってたから。
「サディさん、針金……こう、細い金属の線ってないかな? あったら貰いたい」
「え? それが何か関係あるの?」
「泡だて器もどきを作りたいんだ」
サディさんのキョトン顔がちょっとかわいい。武器の修理などをするところにあるかもしれないってことで、2人で行ってみることになった。柔らかすぎないちょうどいいのがあるといいんだけどな……。
「おお、サディさんと君か! どうした?」
「イクミくんが欲しいものがあるそうなのよ。ちょうどいいのがあったら貰えないかしら?」
「すいません、突然。えっと、金属の細い線であまり柔らかくないものってありますか?」
さすがにステンレスがあるとは思ってない。けど、なんかいいのがあると助かるな。なんて思いながら俺が小屋を見回していると、厳ついおじさんはちょっと待ってろと奥に行ってしまった。
しばらくして、こんなのはどうだと持ってきたのは2種類の金属線。
「あまり種類はないんだ。一応修理なんかに使うものだけど、こういうのを使って修理するような武器を使ってる奴がこの村には少ないからな。この線もいつからあるんだか……」
「え、じゃあ頂いても問題ないですか?」
「構わんよ。どうやって使うのか教えてもらえれば自分が加工してやろう」
マジか。細いクセに思ったより硬かったからありがたい。ってことで地面に絵を描いてめっちゃ説明した。おじさんは「なんじゃこれ」と言いながらも細部まで聞いてくれて、これから作業してくれるって。
すぐできるとは言ってくれたけど、俺はその間にトレーニングへ。合間に取りに来ますねって言っておいた。
◇◇◇
受け取った泡だて器は、こう、なんていうか……武器っぽかった。ちょっと重いけど、まあ使えるだろ。
夕食後、俺とサディさんは材料を目の前に置いてとりあえず作戦会議。後ろのテーブルでルイが聞いてるけど口は挟んでこなくて、ただ見守られてるみたいな感じで笑っちゃう。
「卵黄とビネガーと塩少量をよく混ぜたところにほんとに少しずつオイルを入れながらよぉっく混ぜていく、ただそれだけなんだよ。卵黄1個からでも結構な量ができたからオイルの量はそこそこ使うかもしれない」
「その材料でちゃんと混ざるのかしら、不思議ね」
「水と油は混ざらないし混ぜても時間を置くと分離するんだけど、それを乳化でひとまとまりにさせるのが卵黄なんだよ。卵黄にはレシチンっていう成分が入っていてね、それが油を包み込んで水に馴染みやすくするんだ」
ここぞとばかりに実験好きの知識披露をする俺。こういうのが楽しくて理系に進んだんだよな。レシチンの効果はあっちの世界の人なら洗剤のCMをイメージしてもらうとわかりやすい。あの汚れを包み込んで浮かせるミセル化の図ね。人間の細胞膜のリン脂質と同じ構成だ。マッチ棒みたいな親水性と親油性の基質を持ってる。でもこっちの世界の知識と混ぜて説明できる気がしないからサディさんにはわからないだろう……。
とりあえず分量はわからないから全部同量っぽい感じでまずは始めてみた。
……はい、失敗。ですよねー。
「うーん、シャバシャバなところに油を入れたって記憶があまりないからビネガーが多すぎってことか……」
「やりたいことはわかったわ。次は私にやらせて?」
「じゃあ、サディさん、ビネガーの量半分にしてみようか」
そして作ったものは1回目よりは少しマシにはなった。けど、酸っぱくて……見た目の違和感も。俺の知ってるマヨネーズより酸っぱすぎるってことはまだまだビネガーが多いってことか。酢の量って実は結構少なかったんだな。
てことで、ビネガーの量はかなり減らしてよく卵黄と混ぜ込んでからの3回目。次は俺がメインでサディさんにお手伝いしてもらう。俺の声掛けで少量ずつ容器の縁からオイルを垂らしてくれるサディさんはさすが実験慣れしてるなと思わせる。
「あら! さっきと全然違うわ」
「うん、いい感じかもしれない。でもまだもう少しオイルは加えよう」
俺の知るマヨネーズの硬さに近くなるまでチビチビと加えてはよく混ぜるのを繰り返す。黄色が濃かったのがもったりとした黄白色になった。
サディさんが期待の眼差しで見てくる。俺もちょっとドキドキ。だって卵2個無駄にしてるからね。こういう自給自足の村で食材を無駄にすることがどんなにいけないことかって思うからさ。
俺は少しだけ匙で掬って手の甲にのせたソレを舐めてみる。そして、無言で匙をサディさんにも渡した。もう少しだけ味の調整をしたほうが良いかもしれないけど、俺の知ってるのにかなり近い。
「これが、マヨネーズ!?」
サディさんが味見をして声を上げると、いつの間にテーブルを立ったのかルイがヒョコっと俺とサディさんの間から顔を覗かせてきた。
「できたのか?」
「ルイ、これすごいわよ。卵のソース!」
明日の朝は種芋にしないジャガイモでサラダ作ろうかって話すとサディさんとルイは嬉しそうにしていた。そこまで酸っぱいのが好きじゃなさそうなルイでもマヨネーズくらいの酸味は美味しく感じるらしい。良かった。
こっちの世界は浄化の魔法があるおかげで生野菜とか生卵が気にせず食べられるのはありがたいよな。日本の感覚でいられるのはすごく助かる。
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