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異世界生活編
71.くっ……弓を……
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弓練習は、少しずつ打てる数が増えてきてはいる。それにしても俺は弓のことかなり侮っていたな……。矢をつがえるまではまだマシなんだ。でもそこから狙いを定めようとしても腕がブルブルして安定しないし、ここだ! って思っても矢を放つときにずれちゃうんだ。腕の力だけじゃなくて体幹も必要だし、なんなら集中力っていうかそういうのまで練習レベルでいうと俺の中では今までと段違いに難しい。そりゃ、敵を前にしたらどんな武器でも集中力必要だとは思うんだけどね。
「また外れちゃった。なんかすごく悔しい……」
「でも距離出るようになってきたじゃないか」
「前はイクミの矢、ビヨーンって変な軌道描いてたよね。あはは」
「笑うなよっ! これでも頑張ってるんだから」
「頑張ってるのは十分わかってるよ」
全然上手くできてはいないんだけど弓の練習はなんか楽しい。なんていうか、ゲーム感覚でもあるんだよな。まあ、俺のこんなへっぽこ弓矢じゃ敵が目の前にいたら構える前にやられるだろうけど。
「イクミ、弓を握る手が力みすぎてるんじゃないか?」
「え? そう? でもちゃんと握らないと引けないよ?」
「んー、必要以上に身体全体に力が入っているように見えるんだ。それだと反動が強くなりすぎて外しやすくなる。あと、まっすぐに立とうとして踏ん張りすぎてるだろ? それも筋肉が小刻みに揺れて狙いがブレるし疲れやすくなる」
マジか……。でも力を入れないと引けないし、そもそもこの弓も見た目以上に重いんだよ。だから余計に力が入って疲れるのかもしれない。弓を身体の前にちゃんと構えてようと左手をまっすぐ前に突き出しているのもプルプルしてくるし、その状態で引くと別方向の力がかかってくるんだよな。それをこらえようと体幹にも力が入りすぎて……うん、悪循環。
「うーん……やっぱ慣れるまで子ども用を使ったほうがいいのかな。悔しいけど」
「そうだねぇ。感覚をつかむのにそういうの使って、平行して身体作りも進めてちゃんとやってみたいと思ったらそのときはちゃんとした弓使ってみれば?」
「ヴァンもそう思う? 俺、弓は楽しいって思うよ。全然できてないけど。だから今はもっと矢を射って的に当てる感覚知りたいかも……」
「じゃあ、少し小さいのを持ってきてみるか」
ルイが子どものとき使っていたっていう弓と今の弓の間くらいの大きさの弓をルイが持ってきてくれた。これも子ども用ではあるんだって。少し軽めの木でできていて持ちやすかった。
「あ、これなら少し楽かも」
「力を入れるところと抜くところ、つまり集中とリラックスがなんにしても大事だ」
「そそ。それはどんな武器でも一緒なんだよ。魔法もね」
「全然違って見えるけどなぁ……それに戦闘中にリラックスってなんなのっ!?」
「過緊張が駄目って言ってるんだよ」
でも肝心なところにだけ力を入れるっていうのが大事なのはなんとなくわかるな。ずっと重いものを持ち続けるのは無理だし、同じようにずっと気が張ってたらめちゃくちゃ疲れるし。普段は休めて、いざというときに使うって感じなのかなーなんてふんわりと解釈する。
ん? てことは、ずっと的を睨みつけて時間かけて矢を射るのは本当はあまりよくないのかな。なんてことを疑問に思って聞いてみた。
「そう、だな。実戦ではできればすぐに狙いを定めて射るのが理想だ。そのほうが敵を寄せ付けないで攻撃できるからな」
「今はさ、イクミは自分の放つ矢の軌道とかクセとかわからないでしょ? だからゆっくりやっていいんだよ。安定したらそれも考慮してスピードを上げても狙い通り射れるようにするって感じかな」
「うぐぅ。奥が深い……あ、でもそれ言ったら剣も棒もそうなのか」
「だね。でもそれに気付けるようになってきたってことだよ。成長してる成長してる」
ヴァンがなんか褒めてくれた。
さすがに長剣一ヶ月、短剣と棒術2週間ずつ、もっかい長剣1週間やってって武器の練習を2ヶ月以上やってるんだもん。少しは武器系のことも慣れて自分で考えられるようになっていかなきゃね。弓は少し勝手が違うとか思っていたけど、本質は一緒ってことでいいってことだよな。
「よし、もっかい構えとか教えて? こっちで上手くやってみたい!」
「ん。立ち方はそれでいい。きれいにまっすぐ立ててる。で、そう。矢をつがえて、左手で調節する感じで。目線は一定に、まっすぐ。うん、いいな」
「構えは前からきれいだったよ?」
俺が右手をパッと離すと矢はきれいに飛んでいって……初めて的に刺さった。
「あ!」
「おおーー! やるじゃん」
「上手いな」
子ども用に変えたらできるとかやっぱちょっと悔しいけど。それでも的に当たるのはめっちゃ嬉しいもんだな。でもそのあとはムラがあるというか、当たったり外れたり。でも最初の弓では的にかすりもしなかったんだからいい方だよな。
よし、こんな感じで感覚をつかんで連射もできるようになりたい……みたいなことを考えて頑張っちゃったせいで、両手の皮が剥けてルイにそこまで無理するなってちょっと叱られちゃった。
無理したつもりはなかったんだよな。少しばかり楽しくなっちゃっただけで。でも叱られたから今日は薬草じゃなくて大人しくサディさんの薬を使うことにした。ルイが見てるんだもん。俺はバッと両手を広げてルイに見せる。
「ほら。ちゃんと治ったよ? ね? 大丈夫だから」
「もう血が出るまではやらないでくれ、頼むから」
「う、うん。わかったよ。……その、心配かけてごめんね?」
ルイは俺の頭をくしゃってしてから肩をぽんと叩いてきた。キリッとした彫りの深い顔が少し困った顔になっていて、いつもみたいな無表情じゃなかったからめちゃくちゃ心配させちゃったんだろうなって思ったんだよね。ここには薬草もサディさんの薬もあるし、そもそも魔物に襲われて死にそうになってるわけでもないんだから心配しすぎだとは思うんだけど、ルイにそんな顔させたことが申し訳なさすぎて。
今までやれなかった分を取り戻していっぱい練習して上手くなったら喜んでくれるかなって思ったけど、ちょっと選択間違えたな……。でもそうだよな、俺だってルイが怪我したらやだもんな。
明日からはちゃんと気をつけながら練習しようって決めた。
「また外れちゃった。なんかすごく悔しい……」
「でも距離出るようになってきたじゃないか」
「前はイクミの矢、ビヨーンって変な軌道描いてたよね。あはは」
「笑うなよっ! これでも頑張ってるんだから」
「頑張ってるのは十分わかってるよ」
全然上手くできてはいないんだけど弓の練習はなんか楽しい。なんていうか、ゲーム感覚でもあるんだよな。まあ、俺のこんなへっぽこ弓矢じゃ敵が目の前にいたら構える前にやられるだろうけど。
「イクミ、弓を握る手が力みすぎてるんじゃないか?」
「え? そう? でもちゃんと握らないと引けないよ?」
「んー、必要以上に身体全体に力が入っているように見えるんだ。それだと反動が強くなりすぎて外しやすくなる。あと、まっすぐに立とうとして踏ん張りすぎてるだろ? それも筋肉が小刻みに揺れて狙いがブレるし疲れやすくなる」
マジか……。でも力を入れないと引けないし、そもそもこの弓も見た目以上に重いんだよ。だから余計に力が入って疲れるのかもしれない。弓を身体の前にちゃんと構えてようと左手をまっすぐ前に突き出しているのもプルプルしてくるし、その状態で引くと別方向の力がかかってくるんだよな。それをこらえようと体幹にも力が入りすぎて……うん、悪循環。
「うーん……やっぱ慣れるまで子ども用を使ったほうがいいのかな。悔しいけど」
「そうだねぇ。感覚をつかむのにそういうの使って、平行して身体作りも進めてちゃんとやってみたいと思ったらそのときはちゃんとした弓使ってみれば?」
「ヴァンもそう思う? 俺、弓は楽しいって思うよ。全然できてないけど。だから今はもっと矢を射って的に当てる感覚知りたいかも……」
「じゃあ、少し小さいのを持ってきてみるか」
ルイが子どものとき使っていたっていう弓と今の弓の間くらいの大きさの弓をルイが持ってきてくれた。これも子ども用ではあるんだって。少し軽めの木でできていて持ちやすかった。
「あ、これなら少し楽かも」
「力を入れるところと抜くところ、つまり集中とリラックスがなんにしても大事だ」
「そそ。それはどんな武器でも一緒なんだよ。魔法もね」
「全然違って見えるけどなぁ……それに戦闘中にリラックスってなんなのっ!?」
「過緊張が駄目って言ってるんだよ」
でも肝心なところにだけ力を入れるっていうのが大事なのはなんとなくわかるな。ずっと重いものを持ち続けるのは無理だし、同じようにずっと気が張ってたらめちゃくちゃ疲れるし。普段は休めて、いざというときに使うって感じなのかなーなんてふんわりと解釈する。
ん? てことは、ずっと的を睨みつけて時間かけて矢を射るのは本当はあまりよくないのかな。なんてことを疑問に思って聞いてみた。
「そう、だな。実戦ではできればすぐに狙いを定めて射るのが理想だ。そのほうが敵を寄せ付けないで攻撃できるからな」
「今はさ、イクミは自分の放つ矢の軌道とかクセとかわからないでしょ? だからゆっくりやっていいんだよ。安定したらそれも考慮してスピードを上げても狙い通り射れるようにするって感じかな」
「うぐぅ。奥が深い……あ、でもそれ言ったら剣も棒もそうなのか」
「だね。でもそれに気付けるようになってきたってことだよ。成長してる成長してる」
ヴァンがなんか褒めてくれた。
さすがに長剣一ヶ月、短剣と棒術2週間ずつ、もっかい長剣1週間やってって武器の練習を2ヶ月以上やってるんだもん。少しは武器系のことも慣れて自分で考えられるようになっていかなきゃね。弓は少し勝手が違うとか思っていたけど、本質は一緒ってことでいいってことだよな。
「よし、もっかい構えとか教えて? こっちで上手くやってみたい!」
「ん。立ち方はそれでいい。きれいにまっすぐ立ててる。で、そう。矢をつがえて、左手で調節する感じで。目線は一定に、まっすぐ。うん、いいな」
「構えは前からきれいだったよ?」
俺が右手をパッと離すと矢はきれいに飛んでいって……初めて的に刺さった。
「あ!」
「おおーー! やるじゃん」
「上手いな」
子ども用に変えたらできるとかやっぱちょっと悔しいけど。それでも的に当たるのはめっちゃ嬉しいもんだな。でもそのあとはムラがあるというか、当たったり外れたり。でも最初の弓では的にかすりもしなかったんだからいい方だよな。
よし、こんな感じで感覚をつかんで連射もできるようになりたい……みたいなことを考えて頑張っちゃったせいで、両手の皮が剥けてルイにそこまで無理するなってちょっと叱られちゃった。
無理したつもりはなかったんだよな。少しばかり楽しくなっちゃっただけで。でも叱られたから今日は薬草じゃなくて大人しくサディさんの薬を使うことにした。ルイが見てるんだもん。俺はバッと両手を広げてルイに見せる。
「ほら。ちゃんと治ったよ? ね? 大丈夫だから」
「もう血が出るまではやらないでくれ、頼むから」
「う、うん。わかったよ。……その、心配かけてごめんね?」
ルイは俺の頭をくしゃってしてから肩をぽんと叩いてきた。キリッとした彫りの深い顔が少し困った顔になっていて、いつもみたいな無表情じゃなかったからめちゃくちゃ心配させちゃったんだろうなって思ったんだよね。ここには薬草もサディさんの薬もあるし、そもそも魔物に襲われて死にそうになってるわけでもないんだから心配しすぎだとは思うんだけど、ルイにそんな顔させたことが申し訳なさすぎて。
今までやれなかった分を取り戻していっぱい練習して上手くなったら喜んでくれるかなって思ったけど、ちょっと選択間違えたな……。でもそうだよな、俺だってルイが怪我したらやだもんな。
明日からはちゃんと気をつけながら練習しようって決めた。
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