霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

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異世界生活編

70.次の練習武器は弓になった

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 再度挑戦した長剣の1週間も終わって、俺は今、弓を構えている。
 1回だけ鞭も持ってみたけど、仮にメイン武器が使えなくなっても鞭を使うことはないねってなって、その時間を別のものに充てることになったんだ。
 弓は俺が興味示したから、それならそこそこ使えるようになるまでやろうかってことで2週間やってみることに。ほら、弓って日本でも弓道とか見るし、最近はオリンピックなんかでアーチェリーも見るしね。ちょっと面白そうじゃん。

 だけど……やってみたら弓は今までの剣なんかと勝手が違いすぎて正直戸惑いしかない。組み手をやるって感じでもないし。というか、今まであれだけトレーニングとかしてきたのに使う筋肉が違うのか知らないけど、腕も身体もめちゃくちゃ疲れるのに驚いた。最初の何回かはまだ言われたとおりに構えて矢を放つことができた――矢は明後日の方向へ飛んでいった――けど、もうその後は腕はブルブルだわ矢は落ちるわで散々だった。

「弓ってこんなキツかったんだ……」
「うーん、イクミ用に練習用の弓作ってもらうか。それか子ども用を……」
「え……いや、それはいいや。俺、頑張る。頑張ってもしんどそうだったらそのときお願いするよ」

 こっちの人が魔力で強化して使ってる弓なら俺にとってキツイのしょうがないんだけど、それでも子ども用って言われると少しばかりプライドが……。
 それに、強度がなければ遠くに射れないし、軌道も緩くなるみたいだから、ちゃんとしたのを使えるように練習したいしね。

「矢をつがえるまでの姿勢はキレイだよ。イクミの場合、やっぱ力が足りないんだと思うな」
「これでもかなり筋力ついたと思ってたのに」
「いや、実際ついてるだろ。ただ、まだ足りないだけで」
「それってフォローになってるの?」

 とりあえず、筋力トレーニングも少し負荷を上げるのと、筋力トレーニングと弓の練習を続けてやるのは俺の身体が耐えられないってことで時間の変更があった。今はまともに射れる数投を集中してやることでなんとかこなす。

「これって腕が長いほうが有利?」
「どうだろう、考えたことなかったが……」
「子どもの頃のルイも結構やらされてたよ。だから別に関係ないと思うな」
「でもさぁ、子どもとはいえルイなら体格もよかったんじゃない? それに魔力は俺と比べ物にならないだろうしさぁ」
「体格は昔はそんなじゃなかったよね。オレよりちっちゃかったし。急にデカくなったけど」

 そうなのか。ルイは昔からイケメンでデカかったのかと思ってたな。あ、でも前に見せてもらった子どもの時使ってたっていう練習武器は可愛いサイズだったっけ。
 今の俺に魔力の余裕はないけど、たくさん頑張って魔力で身体強化できるようになったら、”より強くなる”っていうのを目標に──ていうか心の拠り所に──してやるしかないよな。
 いつかカッコイイとこ見せてやるぜ。

「やっぱ、いろんな武器使えないと1人で旅するのは大変だよね?」
「普通はメインとサブが使えればいいんじゃないかとは思うが」
「あと、俺に知らない世界の地図とか読めるかな?」
「ん? 読めるようになりたいのか?」

 だって、俺が元の世界に帰る手がかりを探すにはここを出なきゃならないし、聞き込みをするには人のいるところに行かなきゃならないし、前提として地図は読めないとだよね……。正直、そっちも覚えないとだよなって体力ついてきたからこそ思うようになったんだよ。通訳の魔導具は文字は翻訳してくれないもん。
 てなことを俺がルイに話すと、ルイが変な表情をしていた。

「どうしたの?」
「まさかとは思うが、1人で旅立つつもりか?」
「え! だって……そんな迷惑かけられないよね」

 俺は最初の頃にナチュラルにルイに一緒に行ってもらおうって考えてたことを反省してずっと引きずっていたから、頼らないでなんとかしなきゃって思って頑張ってたんだよ。

「俺は、イクミと一緒に行くつもりだったが。……拾った手前、責任もあるし……」
「責任って! そんなのあるわけないじゃん」
「バカだなぁ、イクミ。ルイは照れて言ってるだけだよ。心配してるだけだって。ちなみにオレもついてくつもりだけど?」
「へ? な、なんで?」
「面白そうだから!」

 ヴァン……。うん、そういう人だよね。楽しそうでなによりだよ……。
 てか、2人とも来てくれるつもりだったのか。う、ちょっと泣きそう。でも強い2人が来てくれるからって甘えたり油断したりしたら駄目だよな。やっぱできることは頑張らないと。

「2人ともありがとう……俺、足引っ張らないように頑張るから」
「足引っ張るもなにも、イクミのための旅なんだからイクミ中心でいいんだよ?」
「情報収集するにもイクミのほうが異世界に関係ありそうなこと判断つくだろうしな」

 いや、俺が言ってるのは道中の魔物に遭遇したときの話だよ。どう考えても俺が足を引っ張りそうじゃんかって思って顔をしかめていたらヴァンに肩を叩かれた。

「オレらからしたらイクミが怪我をするとかじゃなきゃいいんだよ。3人で協力体制取れてれば基本心配いらないしさ。そもそも村から出る許可が出る時点でその辺はクリアしてると言えるし。つーか、ソロOKになるの待ってたらずーーっと先まで出られないよ?」
「ぐっ……」

 あまりにも悲しいごもっともなことを言われて何も言えない。
 つまり、俺は魔核持ちの魔物が出たり魔物の群れが出たりしたときに、自分の身を守りつつ2人の手助けになるような動きができればいいってことなのかな。

「イクミ、もっと、その……頼ってくれ」
「いや、だって、毎日頼りまくってるじゃん! そんな目しないでよ!」

 なんでルイがちょっと悲しそうなんだよ。でも、でもさ、俺少し自制しないとルイに甘えまくっちゃうんだ。なんていうか、無意識に? さすがにそれはヤバいと思うんだよね。
 ただ、無理に抑え込んで1人でやろうとするのだけはやめようか。

 ……甘えるんじゃなくて程々に2人に頼るくらいならいいのかな。

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