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異世界生活編
67.村長が来た!
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数日、俺はスピードこそないけどヴァンとの棒術組み手を繰り返していた。
ルイに申し訳なく思わせたくないのもあって、こないだみたいな愚痴はあまり言ってない――んだけど、俺の表情からヴァンが察して先回りして言われちゃうんだよな。空気読めよ……。ルイが気にしちゃうだろ。
最初の方で言っていたとおり、俺が少し慣れたらヴァンはいろんな武器で相手をしてきた。どうして短剣みたいな小さい武器で俺が振り回してる長い棒を捌けるのか謎だ。しかも弾かれてよろけるのは俺っていうね。
「うらぁぁ!!」
「ムキになっても無駄な動きが増えるだけだよ、隙が増えるから注意してね!」
ブンッブンッと大振りに棒を振る俺にヴァンが身をかがめて避けながら言う。そこにすかさず突きを繰り出すと「おっ」と言いながらヴァンがひらりと宙を舞った。
「フェイント使うなんてやるじゃん!」
「俺はっ、フェイントの、つもり、ないってのー!」
俺に合わせた(多分かなりゆっくりな)攻撃を仕掛けてくるヴァンの武器を払いながら俺は叫ぶ。そんな余裕があるわけないじゃんか。でも続けて攻撃するか上手く距離を取って構え直さないとヴァンがダメ出しするからやってんのに。
ただ……まあ、前よりはヴァンから目を離さないようにはできてるかな。俺がもっと魔力を感じられれば必死に目で追うんじゃなくて魔力を追えって言われちゃうんだろうけど。
「やってるね」
急に声がかかって俺もヴァンも動きが止まる。
見ると家の脇から村長がこっちに歩いてきてた。
「あ、村長。どうしたんですか? 珍しく帰り早いですね」
「ほら、イクミ君が棒術やるときは見させてもらうって言っていただろう? それで、ちょっと抜けて見に来てみたんだ」
うん、言ってた。
村長はなんでも使えるけど槍は得意なんだったよな。ていうか、社交辞令かと思ってたよ、俺。ここの人達って律儀だよなぁ。
ヴァンもさすがに村長の前では俺とルイにするみたいにはチャラチャラはしてないんだな。食べてるときは遠慮ないけど。
「さっきみたいにヴァンと構えてご覧?」
「はい。さっきは、こんな感じで……」
村長は俺の構えをざっと見て、簡単な組み手を見ると、俺の横に立って棒を指しながら言った。
「イクミ君の場合、利き手はこぶし1個分くらいずらしてこの辺を持つ方がいいだろう。あと、左手はもうちょっと間隔を狭く持って」
「こう、ですか?」
こぶし1個なんて変わるか? って思ったけど、ちょっと今までと違う感じがする。今までのも結構慣れてきたとこだったけど、これも持ちやすいかもしれない。
「両手で同じように振り下ろしていただろう? あれもなかなか上手だったけど、左手はもう少し軽く持って細かいコントロールをするんだ。両方に同じように力をかけると動きが硬くなる」
むむっ?
なんか難しいことを言われているような……。コントロール云々は置いといて、左手はもう少し軽く、ね。
「こんな感じ?」
ブォンと勢い良く棒が振り下ろされて、ヴァンがヒョイっと避ける。
「おお、すごい! アルさんに言われただけでそんなに良くなるんだ」
「いや、イクミ君が素直なんだよ。振り方に関しては変なクセもついてないしね」
自分じゃどのくらい変わったのかよくわからないけど、ヴァンには褒められた。確かに少し振りやすくなったかもしれない? 少し前に風切り音が気持ちいいって思ったけど、そのときよりもっと鋭い感じになってるようか気がするっていうか。
「利き手じゃないほうが結構重要なんだよ。剣でもね。だから少し意識して使ってご覧。ルイにも言っておくから」
俺とヴァンが引き続き組み手の練習をしている間、それを見ながらルイと村長がいろいろ話してから村長は仕事に戻っていったみたいだった。
どんな話をしたのか聞くと、俺の「動き」のクセとか、ルイなら上手くやれるやり方でも身長とか力による俺との差を考えて動きを変えたほうがいいとかさ……。村長は俺に振り方のクセはないって言ったけど、組み手中の動きはある程度パターン化されているって言ってたんだって。パターン化はしょうがないよ……今のところ言われたことを忠実に守るような感じでやってるから。だから、俺はそれを説明されたところで改善点がよくわからなかったけどね。
でもこういう話を聞くと、村長の経験豊富さとか今までいろんな人に教えてきたんだろうなってのとかわかるな。ルイだってめちゃくちゃ強いし決して教えるのが下手なわけでもないんだけど、村長はちょこっと見ただけで改善点を示せるっていうのがさ。
でもまだ今ひとつ利き手じゃない方の大事さを体得するのは無理そうだよね。今までほとんど左手を意識したことなんてなかったからなぁ……やるぞって思って簡単にできることじゃなさそうだ。
とりあえず、言われたことで今できることは左手に力を込めすぎないことかな。剣でも同じだって言ってたし、コツを掴んでおきたいなぁ。
なんて思ってたらルイが少し難しい顔をしていた。
「やっぱり村長には敵わないな」
「ルイもすごいよ? ヴァンもだし。村長は3倍近く生きてるんでしょ? 違って当たり前じゃん。俺の師匠はあくまでもルイとヴァンだよ」
「イクミってばいい子!! ほら、ルイも細かいことは気にしない。最終的にイクミが強くなればいいんだから」
「そう、だな」
ルイ……顔は無表情だけど、うーん。あれは気にしてそうだ。でもきっと聞いてもなんでもないって言って教えてくれないんだろうな。何にそんなに引っかかってるんだか俺にはさっぱりだから教えてほしいんだけど。
だって、村長はルイの師匠なんだから自分より上なのはしょうがないって思えないか? それともルイはもう村長を超えたって思ってるのか? うーん、そんな風に考える人じゃないと思うんだけどな……。
あとさ、動ける人が教えるのも上手いかというと全員が全員そうじゃないのもわかってるし。ルイは戦う才能のある人で身体が勝手に動いてわかっちゃう人なんじゃないかな。そういう人ってできない人にどう教えたらいいのかってわかりにくいもんだと思うし。
なんて、ルイの様子に俺も悶々としてしまいそうだ。
そんなことを思いながら横目でチラチラとルイを見ていたらヴァンが俺の腕をツンツンしてきた。ヴァンを見るとヴァンは目を閉じて首を横に振った。気にするなってことかな?
てか、ヴァンはこういうときはチャラけていじるみたいなことしないんだな。こういうとき、ヴァンがルイのことよくわかっててめっちゃ見守ってる感あるって思っちゃうよな……。なんつーか、入れない2人の絆というかさ。
ていうか! ヴァンは俺のこともおちょくらないで優しく見守ってよ!
ルイに申し訳なく思わせたくないのもあって、こないだみたいな愚痴はあまり言ってない――んだけど、俺の表情からヴァンが察して先回りして言われちゃうんだよな。空気読めよ……。ルイが気にしちゃうだろ。
最初の方で言っていたとおり、俺が少し慣れたらヴァンはいろんな武器で相手をしてきた。どうして短剣みたいな小さい武器で俺が振り回してる長い棒を捌けるのか謎だ。しかも弾かれてよろけるのは俺っていうね。
「うらぁぁ!!」
「ムキになっても無駄な動きが増えるだけだよ、隙が増えるから注意してね!」
ブンッブンッと大振りに棒を振る俺にヴァンが身をかがめて避けながら言う。そこにすかさず突きを繰り出すと「おっ」と言いながらヴァンがひらりと宙を舞った。
「フェイント使うなんてやるじゃん!」
「俺はっ、フェイントの、つもり、ないってのー!」
俺に合わせた(多分かなりゆっくりな)攻撃を仕掛けてくるヴァンの武器を払いながら俺は叫ぶ。そんな余裕があるわけないじゃんか。でも続けて攻撃するか上手く距離を取って構え直さないとヴァンがダメ出しするからやってんのに。
ただ……まあ、前よりはヴァンから目を離さないようにはできてるかな。俺がもっと魔力を感じられれば必死に目で追うんじゃなくて魔力を追えって言われちゃうんだろうけど。
「やってるね」
急に声がかかって俺もヴァンも動きが止まる。
見ると家の脇から村長がこっちに歩いてきてた。
「あ、村長。どうしたんですか? 珍しく帰り早いですね」
「ほら、イクミ君が棒術やるときは見させてもらうって言っていただろう? それで、ちょっと抜けて見に来てみたんだ」
うん、言ってた。
村長はなんでも使えるけど槍は得意なんだったよな。ていうか、社交辞令かと思ってたよ、俺。ここの人達って律儀だよなぁ。
ヴァンもさすがに村長の前では俺とルイにするみたいにはチャラチャラはしてないんだな。食べてるときは遠慮ないけど。
「さっきみたいにヴァンと構えてご覧?」
「はい。さっきは、こんな感じで……」
村長は俺の構えをざっと見て、簡単な組み手を見ると、俺の横に立って棒を指しながら言った。
「イクミ君の場合、利き手はこぶし1個分くらいずらしてこの辺を持つ方がいいだろう。あと、左手はもうちょっと間隔を狭く持って」
「こう、ですか?」
こぶし1個なんて変わるか? って思ったけど、ちょっと今までと違う感じがする。今までのも結構慣れてきたとこだったけど、これも持ちやすいかもしれない。
「両手で同じように振り下ろしていただろう? あれもなかなか上手だったけど、左手はもう少し軽く持って細かいコントロールをするんだ。両方に同じように力をかけると動きが硬くなる」
むむっ?
なんか難しいことを言われているような……。コントロール云々は置いといて、左手はもう少し軽く、ね。
「こんな感じ?」
ブォンと勢い良く棒が振り下ろされて、ヴァンがヒョイっと避ける。
「おお、すごい! アルさんに言われただけでそんなに良くなるんだ」
「いや、イクミ君が素直なんだよ。振り方に関しては変なクセもついてないしね」
自分じゃどのくらい変わったのかよくわからないけど、ヴァンには褒められた。確かに少し振りやすくなったかもしれない? 少し前に風切り音が気持ちいいって思ったけど、そのときよりもっと鋭い感じになってるようか気がするっていうか。
「利き手じゃないほうが結構重要なんだよ。剣でもね。だから少し意識して使ってご覧。ルイにも言っておくから」
俺とヴァンが引き続き組み手の練習をしている間、それを見ながらルイと村長がいろいろ話してから村長は仕事に戻っていったみたいだった。
どんな話をしたのか聞くと、俺の「動き」のクセとか、ルイなら上手くやれるやり方でも身長とか力による俺との差を考えて動きを変えたほうがいいとかさ……。村長は俺に振り方のクセはないって言ったけど、組み手中の動きはある程度パターン化されているって言ってたんだって。パターン化はしょうがないよ……今のところ言われたことを忠実に守るような感じでやってるから。だから、俺はそれを説明されたところで改善点がよくわからなかったけどね。
でもこういう話を聞くと、村長の経験豊富さとか今までいろんな人に教えてきたんだろうなってのとかわかるな。ルイだってめちゃくちゃ強いし決して教えるのが下手なわけでもないんだけど、村長はちょこっと見ただけで改善点を示せるっていうのがさ。
でもまだ今ひとつ利き手じゃない方の大事さを体得するのは無理そうだよね。今までほとんど左手を意識したことなんてなかったからなぁ……やるぞって思って簡単にできることじゃなさそうだ。
とりあえず、言われたことで今できることは左手に力を込めすぎないことかな。剣でも同じだって言ってたし、コツを掴んでおきたいなぁ。
なんて思ってたらルイが少し難しい顔をしていた。
「やっぱり村長には敵わないな」
「ルイもすごいよ? ヴァンもだし。村長は3倍近く生きてるんでしょ? 違って当たり前じゃん。俺の師匠はあくまでもルイとヴァンだよ」
「イクミってばいい子!! ほら、ルイも細かいことは気にしない。最終的にイクミが強くなればいいんだから」
「そう、だな」
ルイ……顔は無表情だけど、うーん。あれは気にしてそうだ。でもきっと聞いてもなんでもないって言って教えてくれないんだろうな。何にそんなに引っかかってるんだか俺にはさっぱりだから教えてほしいんだけど。
だって、村長はルイの師匠なんだから自分より上なのはしょうがないって思えないか? それともルイはもう村長を超えたって思ってるのか? うーん、そんな風に考える人じゃないと思うんだけどな……。
あとさ、動ける人が教えるのも上手いかというと全員が全員そうじゃないのもわかってるし。ルイは戦う才能のある人で身体が勝手に動いてわかっちゃう人なんじゃないかな。そういう人ってできない人にどう教えたらいいのかってわかりにくいもんだと思うし。
なんて、ルイの様子に俺も悶々としてしまいそうだ。
そんなことを思いながら横目でチラチラとルイを見ていたらヴァンが俺の腕をツンツンしてきた。ヴァンを見るとヴァンは目を閉じて首を横に振った。気にするなってことかな?
てか、ヴァンはこういうときはチャラけていじるみたいなことしないんだな。こういうとき、ヴァンがルイのことよくわかっててめっちゃ見守ってる感あるって思っちゃうよな……。なんつーか、入れない2人の絆というかさ。
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