上 下
67 / 202
異世界生活編

67.村長が来た!

しおりを挟む
 数日、俺はスピードこそないけどヴァンとの棒術組み手を繰り返していた。
 ルイに申し訳なく思わせたくないのもあって、こないだみたいな愚痴はあまり言ってない――んだけど、俺の表情からヴァンが察して先回りして言われちゃうんだよな。空気読めよ……。ルイが気にしちゃうだろ。

 最初の方で言っていたとおり、俺が少し慣れたらヴァンはいろんな武器で相手をしてきた。どうして短剣みたいな小さい武器で俺が振り回してる長い棒を捌けるのか謎だ。しかも弾かれてよろけるのは俺っていうね。

「うらぁぁ!!」
「ムキになっても無駄な動きが増えるだけだよ、隙が増えるから注意してね!」

 ブンッブンッと大振りに棒を振る俺にヴァンが身をかがめて避けながら言う。そこにすかさず突きを繰り出すと「おっ」と言いながらヴァンがひらりと宙を舞った。

「フェイント使うなんてやるじゃん!」
「俺はっ、フェイントの、つもり、ないってのー!」

 俺に合わせた(多分かなりゆっくりな)攻撃を仕掛けてくるヴァンの武器を払いながら俺は叫ぶ。そんな余裕があるわけないじゃんか。でも続けて攻撃するか上手く距離を取って構え直さないとヴァンがダメ出しするからやってんのに。
 ただ……まあ、前よりはヴァンから目を離さないようにはできてるかな。俺がもっと魔力を感じられれば必死に目で追うんじゃなくて魔力を追えって言われちゃうんだろうけど。

「やってるね」

 急に声がかかって俺もヴァンも動きが止まる。
 見ると家の脇から村長がこっちに歩いてきてた。

「あ、村長。どうしたんですか? 珍しく帰り早いですね」
「ほら、イクミ君が棒術やるときは見させてもらうって言っていただろう? それで、ちょっと抜けて見に来てみたんだ」

 うん、言ってた。
 村長はなんでも使えるけど槍は得意なんだったよな。ていうか、社交辞令かと思ってたよ、俺。ここの人達って律儀だよなぁ。
 ヴァンもさすがに村長の前では俺とルイにするみたいにはチャラチャラはしてないんだな。食べてるときは遠慮ないけど。

「さっきみたいにヴァンと構えてご覧?」
「はい。さっきは、こんな感じで……」

 村長は俺の構えをざっと見て、簡単な組み手を見ると、俺の横に立って棒を指しながら言った。

「イクミ君の場合、利き手はこぶし1個分くらいずらしてこの辺を持つ方がいいだろう。あと、左手はもうちょっと間隔を狭く持って」
「こう、ですか?」

 こぶし1個なんて変わるか? って思ったけど、ちょっと今までと違う感じがする。今までのも結構慣れてきたとこだったけど、これも持ちやすいかもしれない。

「両手で同じように振り下ろしていただろう? あれもなかなか上手だったけど、左手はもう少し軽く持って細かいコントロールをするんだ。両方に同じように力をかけると動きが硬くなる」

 むむっ?
 なんか難しいことを言われているような……。コントロール云々は置いといて、左手はもう少し軽く、ね。

「こんな感じ?」

 ブォンと勢い良く棒が振り下ろされて、ヴァンがヒョイっと避ける。

「おお、すごい! アルさんに言われただけでそんなに良くなるんだ」
「いや、イクミ君が素直なんだよ。振り方に関しては変なクセもついてないしね」

 自分じゃどのくらい変わったのかよくわからないけど、ヴァンには褒められた。確かに少し振りやすくなったかもしれない? 少し前に風切り音が気持ちいいって思ったけど、そのときよりもっと鋭い感じになってるようか気がするっていうか。

「利き手じゃないほうが結構重要なんだよ。剣でもね。だから少し意識して使ってご覧。ルイにも言っておくから」

 俺とヴァンが引き続き組み手の練習をしている間、それを見ながらルイと村長がいろいろ話してから村長は仕事に戻っていったみたいだった。

 どんな話をしたのか聞くと、俺の「動き」のクセとか、ルイなら上手くやれるやり方でも身長とか力による俺との差を考えて動きを変えたほうがいいとかさ……。村長は俺に振り方のクセはないって言ったけど、組み手中の動きはある程度パターン化されているって言ってたんだって。パターン化はしょうがないよ……今のところ言われたことを忠実に守るような感じでやってるから。だから、俺はそれを説明されたところで改善点がよくわからなかったけどね。

 でもこういう話を聞くと、村長の経験豊富さとか今までいろんな人に教えてきたんだろうなってのとかわかるな。ルイだってめちゃくちゃ強いし決して教えるのが下手なわけでもないんだけど、村長はちょこっと見ただけで改善点を示せるっていうのがさ。

 でもまだ今ひとつ利き手じゃない方の大事さを体得するのは無理そうだよね。今までほとんど左手を意識したことなんてなかったからなぁ……やるぞって思って簡単にできることじゃなさそうだ。
 とりあえず、言われたことで今できることは左手に力を込めすぎないことかな。剣でも同じだって言ってたし、コツを掴んでおきたいなぁ。

 なんて思ってたらルイが少し難しい顔をしていた。

「やっぱり村長には敵わないな」
「ルイもすごいよ? ヴァンもだし。村長は3倍近く生きてるんでしょ? 違って当たり前じゃん。俺の師匠はあくまでもルイとヴァンだよ」
「イクミってばいい子!! ほら、ルイも細かいことは気にしない。最終的にイクミが強くなればいいんだから」
「そう、だな」

 ルイ……顔は無表情だけど、うーん。あれは気にしてそうだ。でもきっと聞いてもなんでもないって言って教えてくれないんだろうな。何にそんなに引っかかってるんだか俺にはさっぱりだから教えてほしいんだけど。
 だって、村長はルイの師匠なんだから自分より上なのはしょうがないって思えないか? それともルイはもう村長を超えたって思ってるのか? うーん、そんな風に考える人じゃないと思うんだけどな……。
 あとさ、動ける人が教えるのも上手いかというと全員が全員そうじゃないのもわかってるし。ルイは戦う才能のある人で身体が勝手に動いてわかっちゃう人なんじゃないかな。そういう人ってできない人にどう教えたらいいのかってわかりにくいもんだと思うし。

 なんて、ルイの様子に俺も悶々としてしまいそうだ。
 そんなことを思いながら横目でチラチラとルイを見ていたらヴァンが俺の腕をツンツンしてきた。ヴァンを見るとヴァンは目を閉じて首を横に振った。気にするなってことかな?

 てか、ヴァンはこういうときはチャラけていじるみたいなことしないんだな。こういうとき、ヴァンがルイのことよくわかっててめっちゃ見守ってる感あるって思っちゃうよな……。なんつーか、入れない2人の絆というかさ。

 ていうか! ヴァンは俺のこともおちょくらないで優しく見守ってよ!
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

処理中です...