上 下
66 / 202
異世界生活編

66.俺の髪の毛が

しおりを挟む
 この村には鏡がない。
 と言っても、俺の知ってる鏡がないだけで、水魔法を使ってうまく反射させて姿を確認することはみんなやってるっぽい。
 俺は魔力がほんの少し貯まっただけで魔法がまだ使えないし、朝使っている水瓶に映る自分の顔を少し見るくらいだ。だから日本にいたときみたいに毎朝スタイルを確認して……なんてことはしてなくて。そもそもオシャレとかする余裕とかないしな。
 だから、ボサボサだろうが放置してた髪の毛にルイが突っ込んでくるまであまり気にしてなかったんだ。

 そう、プリンになっていることに。

 ◇◇◇

「イクミ……気になってることがあってな。その、髪が……色が変わってきてるけど具合は大丈夫なのか?」
「ほぇ?」
「黒くなってきてるんだ」
「あー。忘れてた。もう3ヶ月くらい経つもんね。そりゃ伸びるよね……リタッチできないもん」

 ルイは意味がわからないといった顔をしていた。

「こっちは髪を染めたりとかない感じ?」
「髪を……染める?」
「うん。俺は本当は黒髪直毛だよ。そっか……さすがに伸びちゃったよね。最近うざったいなとは思ってたんだけど、日中は布巻いたりしてたからね」

 あっちでいう手ぬぐいみたいな布を畑仕事とか鍛錬とかの間は汗止めも兼ねて巻いてたんだよね。だから、他の村人にはプリン状態はそんなに見られてないはず。
 なのに、ルイは俺が話してたらマジマジと髪の毛を見てくるからちょっと恥ずかしい。
 いつも何も言わずに頭グシャグシャ撫でたりするくせに、触ってもいいかと断ってから触れてくるのもなんか緊張するからやめて。

「イクミの世界ではみんな髪の色を変えているのか? というか、変えられるのがすごいんだが」
「みんなではないけど。てか、こっちにはないの? 魔法とかでこう……」
「そういうのは聞いたことがないけどな。魔法で髪の色を変える、ってイクミの魔法の認識はやっぱり面白いな」

 俺の髪の一部を指先でサワサワしながらルイが言う。
 うー。腰のあたりがゾワゾワするからあまり触り続けないでほしい……のに、なんか言えない。美容室じゃ触られてもそんなことないのにな。あ、でもシャワーしてもらってるときにゾワゾワしたことあったかも。俺、頭いじられるの実は弱いのか?

 でも、そうか……髪を染めるってこっちではないのか。じゃあこのままだと布を外したとき目立っちゃうのかなぁ。それはちょっとやだ。

「ねぇ、ルイ、俺の黒髪部分どのくらいある?」
「こんなもんかな」

 予想通り3cmちょいくらいってとこ。まだ黒髪部分が短すぎて切るのも躊躇しちゃうよ。俺、超短髪とかしたことないもん。
 とりあえず、基本は布を巻いてもう少し伸びたら切るかなぁ……なんて考える。パーマかけてたところも微妙にゴワゴワしてきちゃってるしね。

「ところで、ルイは髪ずっと伸ばしてるの?」
「これか? 旅してると面倒だからな。たまに切ってるが……こうやって」

 と、むんずと結わえた髪を掴んで前に持ってくるとナイフで切る仕草をする。

「えええ……」

 ルイのこだわりの無さと髪の扱いの乱暴さに少しだけ引く。
 でも村の人みんなきれいに整えてるよな。ヴァンだって伸びっぱなしって感じでもないし。なんて思ってたらルイが村にいる髪を切るのが上手な女性のことを教えてくれた。

「あー。じゃあ村の人はその人に切ってもらってるからいつも整えられてて、ルイはほとんど村と外を行き来してるから伸びっぱなしってこと?」
「それもあるし……」
「あるし?」
「髪とかそこまで気にすることか?」

 おぉう。
 まあ、ルイはどんな髪型でもイケメンだろうよ……。俺はイメチェンのために結構髪型とか頑張ってたんだけどな。髪色とか髪型でずいぶん印象変わるしさ。
 微妙に悔しい気分を噛み締めていると、ルイがまた俺の髪の毛を触りながら言う。

「髪が伸びたところを見てみたいもんだな」
「そう? 黒いから重く見えるし、面白くもなんともないよ?」
「面白いとかそういうのが目的じゃないからな。ただ、そのままのイクミが見たかっただけで」
「あ……うん……」

 無意識イケメン怖いっ。こんなこと女の子が言われたら絶対惚れちゃうじゃん。こんなことばっかり言ってるんじゃないだろうね……。てか、ドギマギしてるの俺だけ。ルイはただただ俺の黒髪部分に注目している。
 なんなんだよ、もう。

「まあさ、こっちで暮らしてる限り、カラーリングなんてしないしそのうち地毛だけになるよ」
「カラーリン……? あ、ああ、そうだな」
「俺もルイの短髪とか見てみたいかも。あはは」
「考えておく」

 え、マジで? ちょっと冗談だったんだけど。
 ルイの短髪かぁ……。やば、かっこよすぎるんじゃないか? 自分で言っておいてなんだけど、俺は見たいけどあまり他の人に見せたくないとか思っちゃう俺もどうかしてる。

「まあ、ほら、ルイはこれからも外に行ったりするんだろうし、ルイが一番楽なスタイルがいいと思うよ。俺は想像で楽しむし!」

 なんつー言い訳をしてるんだ俺は。
 そしたらいつもみたいにルイが俺の頭を撫でてきて、思わず「もう!」なんて声を上げてた。別に嫌じゃないのに、なんかもう反射みたいに。

「悪い悪い。イクミはいつも人のことを考えて話すんだな、と思ってな」
「そんなこと……ないよ」

 そう、今だって、俺はルイのことを考えて言ったようなフリして自分の独占欲みたいな気持ちを隠したんだよな……。ちょっと罪悪感。

「俺はそんないい人間じゃないもん。ルイのほうが……言葉は少なくてもちゃんと人を見てて行動に移せる人でしょ? そういうほうがいいよね」
「買いかぶり過ぎだ」
「でも俺はそれで助けてもらったし。あっちじゃさ、俺はあまり人と積極的に関わらなかったから」
「今のイクミはそういう風には見えないがなぁ」

 だって、ここでこんなに良くしてもらってるのに関わろうとしなかったら反感買うし、それ以前に死亡ルートまっしぐらじゃん。それに、なんでかこっちでは人と話すのにほんの少しだけあっちより緊張しない気もするんだよね。不思議だ。

「ところでこっちではあまり黒髪はいない感じ?」
「いや、そんなことはない。この村には少ないが、外ではよく見かける」
「ああ、良かった。差別とかもされないよね?」
「なんで差別……?」

 俺がラノベとか読みすぎなんだと思うけど、黒髪が忌避されたり迫害されたりとかよくあるんだもん……。でもなくて良かった。
 まあ、よくよく考えれば、いろんな人種とかいて平和に暮らしている世界ならあるわけないかぁ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...