上 下
65 / 202
異世界生活編

65.棒術もなんとか順調?

しおりを挟む
 筋力トレーニングはここのところ安定して同じメニューをこなしている。
 別にムッキムキに肥大させたいわけじゃないからどんどん負荷をあげるって感じでもなく、ちょっとキツイみたいなトレーニングの継続って感じ。これに関しても俺にはわからなくて、ルイのおまかせコースみたいになっちゃってるけどね。

 ヴァンのマッサージも最初の頃と比べると短時間で終わるようになってる。俺の身体がそこまで悲鳴をあげてないからみたい。ちょっと嬉しい。

 で、棒術なんだけど。この練習用の棒はただの真っ直ぐな棒。前の長剣のときにルイがバランス調整したような加工はされていない。剣みたいな鍔があるわけでもないし、ちゃんと棒術としての扱いをしないと手を怪我するからって言われた。剣の類みたいに受け止めようとするんじゃなくて払えってね。リーチの長さを活かして相手を間合いに入れないことをまずは考えろって。ま、これは初心者の俺だからっていう助言ね。
 一人で棒の素振りしてたのと違ってヴァンの真似をするのはわかりやすい。でも、同じようには振れてないんだけどさ。

「うー、なんか違うんだよな……」
「いや、上手いじゃん。イクミは求めるレベルが高すぎるんだよ」
「だって、めちゃくちゃ上手い人をお手本にしてるんだからしょうがないだろ!」
「んふ。まあそれはそうか」

 ヴァン……機嫌よくなってるんじゃねーよ。
 でもヴァンはこういうところが良いとこなんだろうなとは思う。マイペースで自信家だけど嫌味がなくて、スルッと人の内側に入り込むような感じ。それに自信家って言ってもうぬぼれじゃなくてちゃんと実力もある人だしね。

「そうそう、突いたらすぐ戻す。ちゃんとすぐ次の攻撃ができる体勢を取ってね」
「剣よりなんかシビアだよ……」
「さっきも言ったが、上級者ならいざ知らず、イクミは間合いに入られたら相手への攻撃とか防御がきついと思う。棒で薙ぎ払ったり突いたりしつつ自分の近くに寄せない、みたいに考えたほうがいい」

 ヴァンとすごく動きのゆっくりな組み手みたいなことをしているんだけど、ルイもヴァンもたくさん口を出してくるから混乱しそうになる。

「寄せない、寄せない……受け止めるんじゃなくて払う……」

 俺はブツブツ呟きながらゆっくりヴァンの棒を払ったり、自分に寄ってきそうなヴァンに突きを出したり距離を取ったりとひたすら練習した。

 このくらいなら短剣のときの組み手とは違ってなんとかついていけそう……と思っていたときが俺にもありました!

「いつも思うんだけど、ヴァンの、その急に本気出す、みたいの……やめて……」
「なーに言ってんの。できてるならステップアップするのは当たり前でしょ」

 座り込みながら弱音を吐き、ちょっと涙目でルイを見上げれば困ったような心配そうな他にも感情が込められてそうな微妙な目をしていた。
 うう……。別に鍛錬が嫌なわけじゃないんだよ。一言あってから練習レベルあげるんでもいいんじゃないかなっていうだけでさ。俺の心構え的に!

「わかってる……けどぉ」
「オレ、ちゃんと見極めてると思うけど?」

 俺は最近「わかってるけど」が口癖になりつつある、かもしれない。だって、頭で理解できてるからって身体がついていくかは別問題じゃん。
 ヴァンがちゃんと調節してくれてるのだってわかってる、けどぉ。

「うん。そうだね。そうだよ。ほんっと、いつもギリギリのところ仕掛けてくるもんっ」

 きえぇーー! っとなりかけてる俺の頭をポンポンとルイが撫でるから、俺はふにゃっと力が抜けた。

「イクミはよくやってる。俺もすごいなと思って見てる」
「あ……ありがと」
「ヴァンをあまり恨まないでやってくれ。俺が頼んでるから」
「恨んでるんじゃないってば。組み手中に何も言わずに難易度上げてくるから愚痴っただけだよ。絶対怪我しないようにしてくれてるのもわかってるし……でもわかってても愚痴りたいのっ」

 背後でブハッとヴァンが笑いを堪えられなくて吹き出したのが聞こえた。

「ほんと、イクミって可愛いね。くっくっく……」
「可愛いってなんだよ!」
「オレからしたら2人とも可愛いよ」
「えええ……」

 なるほど……これだからルイもヴァンの扱いが雑になってきたんだな。3人のうちで一番年上のはずなのにヴァンが一番おちゃらけてるもんな。ルイのことを可愛いって言えちゃうヴァンには敵いそうにないなぁ。

「でも本当にちゃんとできてるよ。それはオレもルイも保証する。だからイクミは人と比べないで1個ずつやってこ?」
「そうだぞ。棒終えたら1回長剣に戻して振ってみてもいいかもしれないってくらい動きが良くなってるしな」
「そ、そうかなぁ。俺、長剣はちょっと自信なくしちゃってて」

 なんていうか、苦手意識みたいなのが刷り込まれちゃったとでもいうか。結構長く素振りしたのにダメダメだったからな。

「イクミは素振りだけじゃなくて組み手スタイルのほうが向いてるみたいだから、あのときは俺のプランが良くなかったかもしれないな。すまない」
「ちょっと! なんでルイが謝るわけっ?」

 それに多分組み手とか言われてもあのときの俺はめちゃくちゃ嫌がっただろうし。通訳の魔導具もルイにつけてもらっていたから2人の言葉を俺がちゃんと聞いて練習したわけでもなかったし。だからルイのせいな訳がない。

「ルイはね、早くイクミの力になってあげたいんだよ。イクミが帰りたいって思ってるなら少しでも早くそれを実現させてあげたいんだって。だから長剣への自信を失わせたと思って自分を責めてるんだよ」
「ヴァン!」
「なんだよ、別に言ったっていいじゃん。イクミだってわかってるよ。ねえ?」
「うん……ルイには感謝ばっかりだよ。だから自分が悪いとか思わないでほしい」

 今までルイが自分のことより俺を優先させてくれてるの何度も感じてるもん。長剣を上手く扱えなかったのは俺の経験がなさすぎのせいだろうし、それをしょうがないって思わないで向いてないのかもって自信喪失したのも俺のメンタルの問題だろ?

「よし! ルイ! 俺、この棒術の期間が終わったら長剣もっかいやるよ。前より上手く振ってやる!」

 ちょっと驚いた顔をしたルイはその後なんとも言えない優しい色を瞳に浮かべて、俺はそれを見てドキドキしてしまった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

処理中です...