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異世界生活編

60.次の練習は

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 短剣型の練習も2週間が終わって、次はどうしようかって話題でルイとヴァンと俺は話していた。やっぱ剣は基本だから最初に持ってきたけどって感じで、あとはそれぞれクセがあるらしい。
 アックス系は重量もあるしもう少し身体強化なんかもできるようになってからがいいんじゃないかとか、鞭系や弓系は重くはないけど技術がいるだとか、なんだかんだと騒いで結局は棒術をやってみるかってことに。長いものを振る感覚の方に戻してみようってルイが言ったからなんだけどね。

 本来、棒は最古の武器だってことで基礎の基礎ではあるらしい。木のような物はどこでも手に入るからね。確かに金属が貴重品だった戦時中の日本でも庶民が竹槍持って練習してたもんな……。
 ゲームなんかに出てくるランスキャラって結構かっこよかったからちょっとテンションはあがるけど、俺がやっても不格好にしかならない自信はある。ていうか、ランスじゃなくて俺なら『ひのきのぼう』だろう……悲しい。

「本来は棒術から杖、槍、棍みたいに更に細分化していくんだが、イクミにはそこまで時間がないとみなして、いろんな武器の基礎をやったら一番やりたい1つに絞って徹底的に練習したほうがいいと思うんだ。村長方式は時間がかかりすぎる」
「まあ、俺としてもそのほうが助かるかなぁ……」

 俺は元から器用貧乏体質だからね。まんべんなくやってたらいつまでも実践レベルに到達する気がしない。

「で……棒は素振りだよね?」
「組み手入れるか?」
「いやいや。これって身体の使い方が違うよーって理解するためなんだよね? 組み手しなくていいじゃん」
「でも、オレと組んでやったときいい動きしてたよー。そういうほうがイクミはコツ掴みやすいんじゃないかってオレは思うな」

 ヴァンが余計なことを言って、短剣のときと同じように前半1人、後半組み手で計画された。いや、余計なこととか言ったらダメだよな。すべては俺のため……。

 で、硬い木を乾燥させている小屋にルイが取りに行って、めっちゃ長いのを持ってきたから俺はぎょっとしてしまった。ルイの背丈よりは短いけど俺よりでかいんだもん。太さがあるわけではないから持てるけど、重いし、持つ場所によってバランスが不安定になる。

「うわ、これ振り回すの?」
「そうだな。このあたりを持って素振りをしたり突きを繰り出す練習からしてみるか」

 そう言ってルイが示したのは棒の半分くらいの場所。当たり前だけど一番重心が取りやすい位置だ。でも教えてもらう前に俺が長剣みたいに両手で正面で構えようとすると身体に棒が当たってしまう。そりゃそうだよな、こんなに棒が長いんだから。どうやって持ったらいいんだ……とかって思ったらすかさずヴァンが教えてくれる。

「イクミさぁ、ちゃんと話聞いてからやろうよ。まずはやってみようって姿勢は嫌いじゃないけど。ルイが言ったみたいに真ん中あたりを利き手で持って、左手はもっと間を開けて下の方持って斜めに構えて?」

 もっともなことを言われて反省……。なるほど、斜めに構えるのが正解なのか。今度はちゃんと話を聞こうとルイとヴァンを順に見る。
 ルイとヴァンは足の位置とか構え、振り下ろし方、突き、払いなどを一通り教えてくれる。これまた長剣とも短剣とも違っていて、全部似たように振っているんだと思っていた俺は驚きの連続だ。
 棒が長いからか、振り下ろすとブンッと風切り音が鳴る。気持ちいい。
 これこれ! これを長剣のときに鳴らしたかったんだよって思った。

「そうそう。そんな感じだな。初日にしては上手い」
「ほんとだね。イクミが自分でコツを掴むのは得意って言ってたのがわかるよ」

 俺がひたすら棒をブンブン振り回している後ろから2人の声が聞こえてくる。2人に褒められるのはこそばゆいけど嬉しい。
 結構な時間、俺は棒を振ったり突きをしたりしてその日の練習を終えた。今までの剣の練習で手のひらは厚くなってきていたけど、棒はまたかかる力加減が違うのか少しだけ擦りむけている。

「大丈夫か?」
「うん。ちょっとヒリヒリするだけ。最初みたいに皮がベローンってむけたりもしていないし、このくらい平気だよ」

 そう言ったのに、ルイは薬草を渡してきた。俺が薬を使うのをためらうからか、最近は薬になっていない薬草を「すりつぶして塗っとけ」みたいに渡してくることがあるんだ。でもまあ、これがまた効くんだよね。もちろん薬みたいに傷があっという間に塞がるとかはないんだけど、痛みが和らいで治りが早くなるっていうか。
 ルイとサディさんが言うには、自分の中の治る力を引き出すんだそうだ。これも俺に微々たるものだとしても魔力が宿ったからなんだそうだけど。

 そうやって薬草の汁を手のひらに塗り込んで、ちょっと落ち着いたらサディさんと夕食の支度をする。昨日、上に行っていた自警団の人が帰ってきて、倒した魔物肉を村人たちに配っていたから質のいい魔物肉があるとかでサディさんが張り切っていた。
 乾燥させた薬草の粉を塩と一緒に肉に擦り込んで味付けをしてグリルしたものがメインだ。ただ焼くだけでも美味しいのは経験済みだけど、焼いているそばからとんでもなく美味しそうな匂いが充満する。

「サディさん……これ、やばくない?」
「イクミくんもそう思う? ジベラとピージャとビルサを混ぜた粉なのよ。ちょっとずつしかないから混ぜちゃったんだけど、それが良い方に働いたみたいね」

 まさかの偶然の産物……。とは言っても、そこはサディさん。単品で肉と合う薬草ばかりだったから悪いことにはならないだろうって選んだようだ。他にも余りの薬草はあったけど、なんでもかんでも混ぜたわけじゃなかった。

「これ、村で共有したいですね! 絶対流行るよ」
「じゃあもうちょっと分量なんかも研究してから料理教室で出してみたいわねぇ」

 俺たちはそんな話をしながら窯の中を覗き込んでいた。

 当たり前だけど、帰宅したルイと村長も匂いだけでノックアウトされたのかいそいそとテーブルに着いて食事を待っている。いつも思ってても言わないけどさ、この人達食べ物に関して可愛すぎるだろ……。ていうか、血が繋がってないのが嘘みたいに行動が似てるんだよな。
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