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異世界生活編
59.お子様料理
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ふっふっふ。俺はとうとうお子様料理を完成させた。てことで、もう第何回目かになる料理教室だけど、今日は奥様方も楽しみにしてきたみたい。
「依頼されてからお待たせしてしまってすいません。今日は子ども向け料理を考えてみたのでやってみます。いつも通り、皆さんでアレンジしてくださいね」
みんながワクワクした顔で見ている。俺が通訳の魔導具を使えるようになって初めての料理教室だから質問も直接できるっていうんで余計にかも。
「作るのは俺の世界でハンバーグステーキって呼ばれていたものなんですけど、ハンバーグって元々は確かハンブルグっていう俺の世界の地名だったはずなんでここではなんて呼んだらいいのやらって感じなんですよね。ま、いっか。材料は魔物肉と、シャロの球根、歯ざわりのいい根菜……今回はこのネルンを使ってみます。あと、保存食に使っているイモの粉、ブドウ果汁、塩、ジベラ、ビルサですね」
俺が材料を次々紹介していく。さすがにもう何度もやっているから最初の出だしは慣れたもんだ。いつものようにそこまで材料も多くないし。
「まずシャロの球根はみじん切りにしますね。俺の世界じゃこれと似たタマネギっていう野菜をしっかり炒めてから使う人が多いと思うんだけど、シャロは加熱でどろどろになりやすいから生のまま使いますね。とりあえずみじん切りにしたら避けておいてください。あとネルンもみじん切りで」
俺はみじん切りにしたシャロの球根とネルンを皿に移して、次の魔物肉を取り出した。今回はサディさんがちょっとずつ余ってしまっていると言ってた2種類の魔物肉。1つはちょっと独特の味がある。
「今回はこの2種類を使いますけど、家庭に余ってる肉で作ってみてください。臭みとか味とかは好みがあると思うので好きな組み合わせを試したり、1種類で作ってみたりとかもいいと思います。で、この肉をまずは薄切りにしてから……ひたすら叩きます!」
と言うなり2本の包丁でダダダッと叩き始めた俺に奥様方が驚いていた。これちょっと疲れるんだよね……。
「あ、えっと、俺は魔力が子ども以下なんでこうするしかないんですけど、風魔法が得意なら深鍋に肉を入れてウィンドカッターみたいなのでガーってやると楽かもです。それ知りたい人はサディさんに聞いてみてください」
言いながらもずっと叩き続ける俺。奥様方は魔法のやり方はあとで聞けばいいからって俺のやり方を囲んで見ている。今までは周りで何かを言っていてもわからなかったけど、ちゃんと俺宛に話してくれることはわかるからちょいちょい返事をしながら叩きまくる。囲むとは言っても、目の前はうっかり包丁がすっぽ抜けたら怖いからやめてもらった。
「お肉をこんなにしてどうなるのかしら……ステーキなのよね?」
「分類的にはステーキなんですよ。って、このくらい肉が細かくなったらオッケーです。ここにさっきのシャロのみじん切りとか、残りの材料を加えていきます。イモの粉はこのくらいかなぁ。これはツナギになります。あとジベラのすり下ろしを適量……今回の肉は少し独特の臭みがあるから多めにしますね! あとビルサも少量。これも臭み取りに良いんじゃないかなって思って試してみたら良かったので。それと塩ですね」
ビルサはセージとかローズマリーみたいに肉料理に合いそうな香りがする薬草だ。少しで十分香りがするから間引きしたり虫喰いしちゃったりした捨てるやつでも十分だ。
「はい! 質問なんですけど、ツナギってなんですか?」
「ツナギ? 肉をまとめる役割、かな。卵でもいいんですけど、卵も加熱すると固まるから硬くなりそうだし、イモの粉のほうが中で肉汁を吸って閉じ込めてくれそうだから俺はこっちを選んでみたんです。でも実はツナギは使わなくてもなんとかなります」
こっちじゃパン粉は手に入らないからね。あのライ麦粉みたいなやつは薄パンみたいなの作れそうな気もするけど試していない。
そして説明しながらすべてがまとまるようにこねていく。包丁で叩いた肉だからところどころ肉の塊がある。これもいい食感になるだろう。
「で、捏ねたタネを丸めて……。これを焼きます」
「お肉が1回ペーストになってまたまとまった……」
俺は両面に焼き色がつくようにひっくり返す。普通にステーキを焼くような鉄板じゃなくて今日はあのパエリア鍋みたいなやつを使っている。
「で、ここにブドウ果汁をどばーっと」
ちょっと贅沢使いだな、とは思ったんだけど肉の厚みの半分くらいまで注ぎ込んだ。奥様方もちょっとぎょっとした顔をしている。
「んっと、今日は子ども向けってことで甘さ強めでやってます。ほら、ワイン煮込みとかあるじゃないですか。あれの甘い版みたいに考えてもらえれば……」
俺がここまで言って奥様方は「あー」って顔になった。これにずらして蓋をしてやや蒸し焼き、かつ、煮詰めていく。少し時間がかかるからみんなと話しながら時折中を見て、途中で1回ひっくり返してさらに煮詰める。ここは炭火だから気をつけないと焦げちゃうんで注意だ。
「このくらいトロっと煮詰まったらいい感じかな。あとは盛り付けて完成!」
いつもみたいにサディさんが付け合せを用意してくれて試食タイムだ。
「お肉が柔らかくなってる!」
「この肉汁と果汁のソースがすごい。甘いのにしょっぱさも旨味もあって美味しい」
「スジとか噛み切るのが大変な小さい子には確かに良さそう」
概ね好評のようだ。シャロのみじん切りとかを生で入れたのも良かったみたい。焼いて肉が詰まっちゃうのを根菜がクッションになってくれて、生のシャロなんかが加熱されて水分が閉じ込められていい感じにジュワッと柔らかく仕上がっている。
みんなは食べながらサディさんに魔法で肉を細かくする方法なんかを聞いていた。うん、俺にはわからないからな。ていうか……今更なんだけど、全部まとめて深鍋に入れて風魔法でも良いんじゃないだろうか。フードプロセッサーなんて使ったことなかったからよくわからないけどさ。そもそもあっちじゃひき肉が売ってるんだもん、俺には思いつかないよな。
「イクミさん、ありがとう! これは面白いわ!」
「ちょっと手間がかかるけど魔法の方法ならいいかもしれないね。うちの子小さいから試してみる」
「肉の種類とか、薬草の種類とか、いろいろ変えて実験してみてください。皆さんなら絶対美味しいもの作れますから。で、美味しい組み合わせ見つけたら俺にも教えてほしいです」
正直、みんなのほうが料理上手いと思うんだよな。俺があっちの料理を参考にしてこっち用にアレンジするのもそろそろ難しくなってくるっていうかさ。
あ、でも、ジャガイモとかこないだ聞いたダイコンみたいなやつとか、来年になったらニンニクとか唐辛子ができるかもだからもうちょい俺でも活躍できるかな……。おぼろげな記憶を頼りに出せる知識は出していこう。
それにしても、今日の料理教室は直接いろいろ話せて楽しかったなぁ。これからはこんな感じなんだね。よし! 頑張ろう!
「依頼されてからお待たせしてしまってすいません。今日は子ども向け料理を考えてみたのでやってみます。いつも通り、皆さんでアレンジしてくださいね」
みんながワクワクした顔で見ている。俺が通訳の魔導具を使えるようになって初めての料理教室だから質問も直接できるっていうんで余計にかも。
「作るのは俺の世界でハンバーグステーキって呼ばれていたものなんですけど、ハンバーグって元々は確かハンブルグっていう俺の世界の地名だったはずなんでここではなんて呼んだらいいのやらって感じなんですよね。ま、いっか。材料は魔物肉と、シャロの球根、歯ざわりのいい根菜……今回はこのネルンを使ってみます。あと、保存食に使っているイモの粉、ブドウ果汁、塩、ジベラ、ビルサですね」
俺が材料を次々紹介していく。さすがにもう何度もやっているから最初の出だしは慣れたもんだ。いつものようにそこまで材料も多くないし。
「まずシャロの球根はみじん切りにしますね。俺の世界じゃこれと似たタマネギっていう野菜をしっかり炒めてから使う人が多いと思うんだけど、シャロは加熱でどろどろになりやすいから生のまま使いますね。とりあえずみじん切りにしたら避けておいてください。あとネルンもみじん切りで」
俺はみじん切りにしたシャロの球根とネルンを皿に移して、次の魔物肉を取り出した。今回はサディさんがちょっとずつ余ってしまっていると言ってた2種類の魔物肉。1つはちょっと独特の味がある。
「今回はこの2種類を使いますけど、家庭に余ってる肉で作ってみてください。臭みとか味とかは好みがあると思うので好きな組み合わせを試したり、1種類で作ってみたりとかもいいと思います。で、この肉をまずは薄切りにしてから……ひたすら叩きます!」
と言うなり2本の包丁でダダダッと叩き始めた俺に奥様方が驚いていた。これちょっと疲れるんだよね……。
「あ、えっと、俺は魔力が子ども以下なんでこうするしかないんですけど、風魔法が得意なら深鍋に肉を入れてウィンドカッターみたいなのでガーってやると楽かもです。それ知りたい人はサディさんに聞いてみてください」
言いながらもずっと叩き続ける俺。奥様方は魔法のやり方はあとで聞けばいいからって俺のやり方を囲んで見ている。今までは周りで何かを言っていてもわからなかったけど、ちゃんと俺宛に話してくれることはわかるからちょいちょい返事をしながら叩きまくる。囲むとは言っても、目の前はうっかり包丁がすっぽ抜けたら怖いからやめてもらった。
「お肉をこんなにしてどうなるのかしら……ステーキなのよね?」
「分類的にはステーキなんですよ。って、このくらい肉が細かくなったらオッケーです。ここにさっきのシャロのみじん切りとか、残りの材料を加えていきます。イモの粉はこのくらいかなぁ。これはツナギになります。あとジベラのすり下ろしを適量……今回の肉は少し独特の臭みがあるから多めにしますね! あとビルサも少量。これも臭み取りに良いんじゃないかなって思って試してみたら良かったので。それと塩ですね」
ビルサはセージとかローズマリーみたいに肉料理に合いそうな香りがする薬草だ。少しで十分香りがするから間引きしたり虫喰いしちゃったりした捨てるやつでも十分だ。
「はい! 質問なんですけど、ツナギってなんですか?」
「ツナギ? 肉をまとめる役割、かな。卵でもいいんですけど、卵も加熱すると固まるから硬くなりそうだし、イモの粉のほうが中で肉汁を吸って閉じ込めてくれそうだから俺はこっちを選んでみたんです。でも実はツナギは使わなくてもなんとかなります」
こっちじゃパン粉は手に入らないからね。あのライ麦粉みたいなやつは薄パンみたいなの作れそうな気もするけど試していない。
そして説明しながらすべてがまとまるようにこねていく。包丁で叩いた肉だからところどころ肉の塊がある。これもいい食感になるだろう。
「で、捏ねたタネを丸めて……。これを焼きます」
「お肉が1回ペーストになってまたまとまった……」
俺は両面に焼き色がつくようにひっくり返す。普通にステーキを焼くような鉄板じゃなくて今日はあのパエリア鍋みたいなやつを使っている。
「で、ここにブドウ果汁をどばーっと」
ちょっと贅沢使いだな、とは思ったんだけど肉の厚みの半分くらいまで注ぎ込んだ。奥様方もちょっとぎょっとした顔をしている。
「んっと、今日は子ども向けってことで甘さ強めでやってます。ほら、ワイン煮込みとかあるじゃないですか。あれの甘い版みたいに考えてもらえれば……」
俺がここまで言って奥様方は「あー」って顔になった。これにずらして蓋をしてやや蒸し焼き、かつ、煮詰めていく。少し時間がかかるからみんなと話しながら時折中を見て、途中で1回ひっくり返してさらに煮詰める。ここは炭火だから気をつけないと焦げちゃうんで注意だ。
「このくらいトロっと煮詰まったらいい感じかな。あとは盛り付けて完成!」
いつもみたいにサディさんが付け合せを用意してくれて試食タイムだ。
「お肉が柔らかくなってる!」
「この肉汁と果汁のソースがすごい。甘いのにしょっぱさも旨味もあって美味しい」
「スジとか噛み切るのが大変な小さい子には確かに良さそう」
概ね好評のようだ。シャロのみじん切りとかを生で入れたのも良かったみたい。焼いて肉が詰まっちゃうのを根菜がクッションになってくれて、生のシャロなんかが加熱されて水分が閉じ込められていい感じにジュワッと柔らかく仕上がっている。
みんなは食べながらサディさんに魔法で肉を細かくする方法なんかを聞いていた。うん、俺にはわからないからな。ていうか……今更なんだけど、全部まとめて深鍋に入れて風魔法でも良いんじゃないだろうか。フードプロセッサーなんて使ったことなかったからよくわからないけどさ。そもそもあっちじゃひき肉が売ってるんだもん、俺には思いつかないよな。
「イクミさん、ありがとう! これは面白いわ!」
「ちょっと手間がかかるけど魔法の方法ならいいかもしれないね。うちの子小さいから試してみる」
「肉の種類とか、薬草の種類とか、いろいろ変えて実験してみてください。皆さんなら絶対美味しいもの作れますから。で、美味しい組み合わせ見つけたら俺にも教えてほしいです」
正直、みんなのほうが料理上手いと思うんだよな。俺があっちの料理を参考にしてこっち用にアレンジするのもそろそろ難しくなってくるっていうかさ。
あ、でも、ジャガイモとかこないだ聞いたダイコンみたいなやつとか、来年になったらニンニクとか唐辛子ができるかもだからもうちょい俺でも活躍できるかな……。おぼろげな記憶を頼りに出せる知識は出していこう。
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