霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

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異世界生活編

56.俺が持ち込んだ作物はどうなった?

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「イクミくん! これ、どうかしら?」
「おおお……」

 俺は今、ジャガイモとニンニクが育っている畑にサディさんとしゃがみこんでいる。
 ニンニクはネギみたいな細い緑の葉がシュッと伸びているし、ジャガイモは畝のところにワサワサしている。ニンニクは青々としていて健康に育っているのがわかるし、ジャガイモはちょっと萎れてきているけど問題ないそうだ。

「茎を持って読んだ感じだと、ジャガイモのほうはもうそろそろ収穫時期っぽいのよ。こんな早いのかしら?」
「確か、小学生の頃に理科の授業で植えたときも春に植えて夏に掘ったような……」
「じゃあ異世界のものを持ち込んだから異常が起きてるというわけではないのね? よかったわ」

 カロイモは雪解けの頃から植えて7~8ヶ月かかるらしくて、サディさんはジャガイモの成長速度に驚いていた。
 俺も、ここで育ったジャガイモが同じ味になるのかってのが気にになってる。全く同じに育ってくれてるならいいんだけどな。
 ちなみにニンニクは冬を越さないと無理っぽい。今土の中でどうなっているのか気になるところ。でもサディさんが順調と言っていたから大丈夫なんだろう。

「ところで、鷹の爪……唐辛子はどうですか? ラキさんと実験中なんですよね?」
「あれも芽は出てるわよ。これからどんどん涼しくなってくるからちょっと工夫しないとね」
「確かに、なんか急に夜涼しく感じるようになったかも」

 そっか、唐辛子のほうもちゃんと育ってるんだ。すごいな。

「薬の作業場は魔力を満たしたり環境を整えやすいから、そういう意味では管理しやすいわね」

 俺がサディさんとラキさんへと渡した2本の鷹の爪は中の種を撒いて、そこから発芽したものを更に選別して丈夫で大きくなりそうな6苗を鉢植えで育てているらしい。脇芽なんかのいらないものを摘んだり肥料を足したりしながら鉢によって少しずつ育て方を変えて実験中ってこと。

「3種類の作物の行方が気になりすぎる……。あ、でもジャガイモはもうすぐか」
「楽しみだわ。イクミくんにまたお料理を教えてもらわないとね」
「えええ? カロイモと似たようなもんだけど」

 風味とか食感が多少違うけど、他の料理の味をほとんど邪魔しないって面は同じなんだよね。蒸かしたり焼いたりってのもそうだしさ。でも、ジャガイモが沢山収穫できたらやりたいことはあるっちゃあるんだよなー。
 そういえば、そろそろ依頼されていた子ども用料理ってやつも考えなきゃだよな。本当はデザートなんかも作ってあげたいけど、まだそれは難易度が高いから無理かも。

「俺がここに滞在している間に3つの作物の収穫までは見られそうだね」
「そしたら一緒にいくつか料理を作りましょ。イクミくんのレシピをいっぱい残していってほしいわ」

 サディさんは俺がいつかいなくなることをいつも意識しているのか……って感じるようなことをよく言ってくる。最初は俺の料理とかあっちの話とか好奇心が勝ってたみたいだけど、今は俺をほぼ家族みたいに思ってくれてるのがわかる。
 サディさんは息子さんが冒険者になってもうずっと帰ってきていないし、村の人も旅立って帰ってこない人もいるってことだからいつか来る別れっていうのに慣れているのかもしれない。サディさん自身も冒険者だったから出会いと別れをいっぱい経験してきたんだろうな……。

「俺のレシピっていうか、2人で作りましょうよ。サディさんのアイディアも盛り込んでさ」
「あら、楽しそうね。私からも是非お願いしたいわ」
「ジャガイモは気候によっては秋植えもできるみたいなこと聞いたことあるけど、こっちの気候とか生育条件についてはサディさんのほうがわかってるだろうし……。でもできるだけ増やしたいよね。何個かレシピ考えるなら尚更」

 俺がそんな話をしていると、サディさんはあと1週間くらいでジャガイモは収穫してみて、そのときにまた読み取って植えるか考えると言っていた。上手く畑さえ回せば芋の収穫に困らなそうだと少し嬉しそうにもしている。

 ジャガイモといえば、フライドポテトとか作ったらしょっぱくてもおやつとしては良さそうじゃない? 子ども向けでもいけそう。カロイモのコロッケもどきはそこそこ人気だったから、本物のコロッケも良さそうだし、マヨネーズが作れたらポテサラもいいな。うん、やっぱジャガイモって万能だよね。

「……ダイコンがあったらな……」
「ダイコン? それは何?」
「あ、えっと、根菜の一種。こっちに似たようなのないかな? んっと、少しだけ辛味があって消化に良くて……俺の世界だと白くてこーんな形のやつ」

 俺は地面に絵を描いて説明してみた。サディさんは少し首をかしげたあと、立ち上がって俺を手招きした。野菜畑の方まで着いていくとサディさんが下を指さした。

「これが似てるかもしれないわ? 少し辛味がある根菜」

 確かに葉がダイコンに似ているかもしれない。でも地面から顔を覗かせている首の部分はうっすらと紫だ。この村で緑と白以外の野菜って珍しいかも。

「収穫はもう少し先だけど、1本くらい抜いてもいいわよー」
「美味しくなってからでいいよ! そのときは味見させてね」

 俺はサディさんと味見の約束してちょっと楽しみが増えた。
 色は白くないけど、あっちにも紫大根みたいのあるし、もしこれがダイコンと同等なら……と脳内でいろいろ計画を練ったよね。

 ニンニクと唐辛子の収穫は来年になりそうだけど、この2つがあっちと同じように育ったらペペロンチーノ風な味付けのものが作れちゃうわけじゃん? やばくね?
 でもやっぱり唐辛子を育てるのはここだと大変そうだよね。魔法管理についてサディさんたちが研究してるから、一番いい方法が見つかったらいいよな。

「よし! まずは1週間後のジャガイモ収穫だね。と言っても種芋になったのって2個だからそんなにないかぁ」
「カロイモだと1つの種芋から5つくらい採れるけど、これはどうなのかしら」
「んーと、確かジャガイモは結構増えたような。でもね、ひとくちサイズみたいな小さいのも混じると思うから量的にはどうだろうね?」

 小学生の実験とちゃんと肥料もあげて手をかけて育てたのとで差はあるだろうとは思うんだけど、ちょっと俺には想像もつかなくて収穫時のお楽しみかねぇなんて話してた。

 いや、本当に俺も楽しみなんだよ、ジャガイモ久しぶりに食べたいし。
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