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異世界生活編
54.ブドウの収穫とか
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少し前に聞いていた作物の収穫ラッシュが始まっている。小規模収穫は今までもちょいちょいあったけど、村全体での収穫というのは数少ないイベントだ。
まずはブドウの収穫。早めに熟しちゃったものはブドウ畑の代表管理者が収穫したり加工したりしているらしいんだけど、この一帯のブドウ畑ではほとんどが同時に収穫時期を迎えるとのことだ。なんとなく自然現象を捻じ曲げているような気もするけど、そもそも結界でやや気候を変えているんだから今更か。
「薬草以外の収穫はルイもやるんだね!」
「こればかりは滞在してればやらないわけにはいかないだろ。適性も関係ないし」
まだ暗くて霧の立ち込める道をルイと歩いてブドウ畑に向かう。こっちの方は俺は来たことがなかったな……。
村をあげての収穫のせいなのか、ところどころに松明だとか魔導具ランプだとかが設置されていて安心して歩けた。ルイが隣にいるってのが一番の安心材料ではあるんだけどね。それにしてもところどころに明かりが点って、その光が霧でぼやっと拡散されている様子は幻想的だ。
子どもや高齢者とか、作業に参加できない人以外は出てきている感じなのかな。全員ではないと思うけど、これだけの人が揃っているのは初めて見る。
ブドウ畑の管理者の人が村人の役割分担ごとにグループ分けして指示を出している。俺はルイとセットの扱いだ。通訳の関係上ってだけで俺とルイでちゃんと作業は二人分だけどね。
「じゃあ、あまり気にしないでブドウを収穫しちゃっていいって感じなんだ?」
「見るからに周りと違うのは収穫しないって感じで大丈夫だ。あと気をつけるのはカビてるやつとか熟しすぎて腐りかけてるやつとかは廃棄箱に入れるって感じだな。あと虫も収穫箱のほうには混ざらないように」
「了解!」
俺は周囲をキョロキョロと見回してサディさんやヴァンさんを探してみたけど見当たらなかった。どうやらヴァンさんみたいな魔導士さんや魔導士までいかなくても魔力が多めな人は収穫じゃない作業を担当するらしい。
とはいえ、そっちにヴァンさんがいるかどうかはルイにもわからないっぽい。もしかしたら自警団の方にいるかもしれないってことも言ってた。確かに収穫だからって警護をおろそかにはできないもんな。村長なんかも何かあっても大丈夫なようにもちろん家で待機だ。
テレビで見たようなワイナリーの畑みたいにひたすら続くブドウ畑って感じではないけど、村中のワインとジュースの材料になるからなのか俺からしたらそれでもかなり広い。だからこんな暗いうちから作業開始なのかなーなんて思ったんだけど、ブドウの甘さにも関係あるみたいだね。
日本でも朝採れ野菜とか日の出前に収穫したトウモロコシとか甘いって聞いたよなーって思って納得した。夜のうちに糖分を溜め込んで、日中になると光合成で蓄えた糖を使っちゃうっていうアレだろ?
やっぱり砂糖の代わりに使うだけあって少しでも甘いほうが村人的にはいいだろうしな。
俺はルイと背中合わせで作業をしていた。2人の真ん中に木箱があってそこにどんどんブドウを収穫していく。収穫が進むたびに木箱を引きずっていくんだけど、途中から重すぎて俺では歯が立たなくなった。まあ、ルイがやってくれるんだけどね……。
「さ、さすがに広いね……。もうかなり明るくなっちゃったし」
「でも総出でやってるしこの調子なら昼まではかからない。ほら、あっち見てみろ。これだけ終わったんだぞ?」
「へ? あ、ほんとだ。始めたのが暗い内だったからわかってなかったや」
夜間の濃霧と、渓谷沿いの変な立地っていうのも相まって、収穫済みの区画がわかりにくくなっていたけどルイに言われて見れば思った以上に進んでいた。
「ねえねえ、あっちは? あれもブドウ類じゃない?」
「確か……まだ植えて数年の木だったはず。定期的に植え替えが必要らしい」
「へぇ、植林的な感じ?」
ルイは植林については知らなかったから、ブドウについて俺が質問したはずだったのに何故か俺が説明する羽目になってた。ルイは村にあまり滞在していないのと、言われた畑仕事を手伝うだけだから作物事情はほとんどわからないらしいんだ。でも、手伝いだけはある程度大きくなってからはやっていたから作業の仕方は知ってる、みたいな。
少し雑談もしながら残りの収穫はラストスパートって感じでやっていった。俺たちだけじゃなくて、終わりが見えてきて収穫担当の村人全員の雰囲気がそんな感じになってたんだよね。
魔力を魔導具に注ぎまくってる魔力担当の人たちは収穫担当の仕事が終わっても作業が続くんだろうから大変だよな。つか、ワイン醸造のための魔導具とかなんなんだよって思っちゃうけどね。
あっちならむしろ収穫が機械で、醸造はどちらかというと自然に任せるって感じじゃん。不思議だよなぁ。
よくある半永久的魔導具はエハヴィールの欠片が使われているけど、このワイン醸造用の魔導具は回路だけで欠片は使われてないんだそう。だから魔力を注ぐ人たちが不可欠ってことなんだよね。
なんでかなーって思ったら、常時発動させるランプとか通訳のとかマジックバッグとかああいうのは欠片を魔導具の回路に組み込むけど、単発使用に近いものとか巨大なものは回路だけなこともあるんだって。よくわからないけど、お値段のこととかもあるのかなーなんて。
収穫担当のほうは作業終了となって、帰る人や他の作業をする人なんかでちょっとザワザワしていた。俺はというと、大きな魔導具に紫のブドウがどんどん投入されていくのを下から見上げていた。まあ、ほら、珍しいからね。
そして白いブドウは小屋に運び込まれていた。そっと覗くと中ではいつもの奥様方が皮なんかを取り除く作業を淡々としていた。なるほど、白ワインのほうが手間がかかるのか。こういうのは魔導具じゃどうにもならないのね……。
俺は「魔法」って自分の思った通りになんでも叶える力だと思っていたけど、こっちに来てその幻想は何度も打ち砕かれている。でも、この世界はそういう法則なだけで、俺の思ってたような魔法が使える世界もあるかもしれないよな。いや、そうであってほしい。
そんなくだらないことを考えつつ、あふ……と欠伸をすると、ルイが「少し寝るか?」と聞いてきた。
確かにいつもよりかなり早起きだったけど、過保護すぎないか?
まずはブドウの収穫。早めに熟しちゃったものはブドウ畑の代表管理者が収穫したり加工したりしているらしいんだけど、この一帯のブドウ畑ではほとんどが同時に収穫時期を迎えるとのことだ。なんとなく自然現象を捻じ曲げているような気もするけど、そもそも結界でやや気候を変えているんだから今更か。
「薬草以外の収穫はルイもやるんだね!」
「こればかりは滞在してればやらないわけにはいかないだろ。適性も関係ないし」
まだ暗くて霧の立ち込める道をルイと歩いてブドウ畑に向かう。こっちの方は俺は来たことがなかったな……。
村をあげての収穫のせいなのか、ところどころに松明だとか魔導具ランプだとかが設置されていて安心して歩けた。ルイが隣にいるってのが一番の安心材料ではあるんだけどね。それにしてもところどころに明かりが点って、その光が霧でぼやっと拡散されている様子は幻想的だ。
子どもや高齢者とか、作業に参加できない人以外は出てきている感じなのかな。全員ではないと思うけど、これだけの人が揃っているのは初めて見る。
ブドウ畑の管理者の人が村人の役割分担ごとにグループ分けして指示を出している。俺はルイとセットの扱いだ。通訳の関係上ってだけで俺とルイでちゃんと作業は二人分だけどね。
「じゃあ、あまり気にしないでブドウを収穫しちゃっていいって感じなんだ?」
「見るからに周りと違うのは収穫しないって感じで大丈夫だ。あと気をつけるのはカビてるやつとか熟しすぎて腐りかけてるやつとかは廃棄箱に入れるって感じだな。あと虫も収穫箱のほうには混ざらないように」
「了解!」
俺は周囲をキョロキョロと見回してサディさんやヴァンさんを探してみたけど見当たらなかった。どうやらヴァンさんみたいな魔導士さんや魔導士までいかなくても魔力が多めな人は収穫じゃない作業を担当するらしい。
とはいえ、そっちにヴァンさんがいるかどうかはルイにもわからないっぽい。もしかしたら自警団の方にいるかもしれないってことも言ってた。確かに収穫だからって警護をおろそかにはできないもんな。村長なんかも何かあっても大丈夫なようにもちろん家で待機だ。
テレビで見たようなワイナリーの畑みたいにひたすら続くブドウ畑って感じではないけど、村中のワインとジュースの材料になるからなのか俺からしたらそれでもかなり広い。だからこんな暗いうちから作業開始なのかなーなんて思ったんだけど、ブドウの甘さにも関係あるみたいだね。
日本でも朝採れ野菜とか日の出前に収穫したトウモロコシとか甘いって聞いたよなーって思って納得した。夜のうちに糖分を溜め込んで、日中になると光合成で蓄えた糖を使っちゃうっていうアレだろ?
やっぱり砂糖の代わりに使うだけあって少しでも甘いほうが村人的にはいいだろうしな。
俺はルイと背中合わせで作業をしていた。2人の真ん中に木箱があってそこにどんどんブドウを収穫していく。収穫が進むたびに木箱を引きずっていくんだけど、途中から重すぎて俺では歯が立たなくなった。まあ、ルイがやってくれるんだけどね……。
「さ、さすがに広いね……。もうかなり明るくなっちゃったし」
「でも総出でやってるしこの調子なら昼まではかからない。ほら、あっち見てみろ。これだけ終わったんだぞ?」
「へ? あ、ほんとだ。始めたのが暗い内だったからわかってなかったや」
夜間の濃霧と、渓谷沿いの変な立地っていうのも相まって、収穫済みの区画がわかりにくくなっていたけどルイに言われて見れば思った以上に進んでいた。
「ねえねえ、あっちは? あれもブドウ類じゃない?」
「確か……まだ植えて数年の木だったはず。定期的に植え替えが必要らしい」
「へぇ、植林的な感じ?」
ルイは植林については知らなかったから、ブドウについて俺が質問したはずだったのに何故か俺が説明する羽目になってた。ルイは村にあまり滞在していないのと、言われた畑仕事を手伝うだけだから作物事情はほとんどわからないらしいんだ。でも、手伝いだけはある程度大きくなってからはやっていたから作業の仕方は知ってる、みたいな。
少し雑談もしながら残りの収穫はラストスパートって感じでやっていった。俺たちだけじゃなくて、終わりが見えてきて収穫担当の村人全員の雰囲気がそんな感じになってたんだよね。
魔力を魔導具に注ぎまくってる魔力担当の人たちは収穫担当の仕事が終わっても作業が続くんだろうから大変だよな。つか、ワイン醸造のための魔導具とかなんなんだよって思っちゃうけどね。
あっちならむしろ収穫が機械で、醸造はどちらかというと自然に任せるって感じじゃん。不思議だよなぁ。
よくある半永久的魔導具はエハヴィールの欠片が使われているけど、このワイン醸造用の魔導具は回路だけで欠片は使われてないんだそう。だから魔力を注ぐ人たちが不可欠ってことなんだよね。
なんでかなーって思ったら、常時発動させるランプとか通訳のとかマジックバッグとかああいうのは欠片を魔導具の回路に組み込むけど、単発使用に近いものとか巨大なものは回路だけなこともあるんだって。よくわからないけど、お値段のこととかもあるのかなーなんて。
収穫担当のほうは作業終了となって、帰る人や他の作業をする人なんかでちょっとザワザワしていた。俺はというと、大きな魔導具に紫のブドウがどんどん投入されていくのを下から見上げていた。まあ、ほら、珍しいからね。
そして白いブドウは小屋に運び込まれていた。そっと覗くと中ではいつもの奥様方が皮なんかを取り除く作業を淡々としていた。なるほど、白ワインのほうが手間がかかるのか。こういうのは魔導具じゃどうにもならないのね……。
俺は「魔法」って自分の思った通りになんでも叶える力だと思っていたけど、こっちに来てその幻想は何度も打ち砕かれている。でも、この世界はそういう法則なだけで、俺の思ってたような魔法が使える世界もあるかもしれないよな。いや、そうであってほしい。
そんなくだらないことを考えつつ、あふ……と欠伸をすると、ルイが「少し寝るか?」と聞いてきた。
確かにいつもよりかなり早起きだったけど、過保護すぎないか?
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