霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

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異世界生活編

53.武器によって違う身体の使い方

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 こっちの世界に迷い込んでそろそろ丸2ヶ月半が経とうとしている。

 走り込み、筋トレは丸2ヶ月が終わる頃からギュンと負荷が増してきた感じだけど、なんとかそのメニューについていってる俺すごい。
 そっちは素直に自分を褒められるんだけど、木剣の素振りだけはいまだにコツを掴めていないという、俺からしたらなかなかに珍しい状況。さすがに剣を振るみたいな生活に縁はなかったからか全然身体の動かし方がしっくりこない。

 それこそ、ルイやヴァンさんが手取り足取り教えてくれているのにわからなすぎて申し訳なくなってくる。

「俺、向いてないのかなぁ……」
「今までどれだけ早く新しいことを習得してきたんだ?」
「んー……自慢じゃないけど、1週間もあればそこそこ形にはできてたんだよ。あ、でも大会に出られるとかそういうレベルじゃないよ?」
「タイカイ?」
「あ、ごめん。えっと、つまり上級者ほど上手くできなくても、初心者レベルはすぐクリアできてたっていうか」

 俺はなんとなく心の何処かで拠り所にしていた自分のなんでも人並みにはできるって面が発揮できないことにちょっと落ち込んでいた。やり始めた頃はできなくてもしょうがないって言いながら、何度かやればできるようになるだろうって思ってたんだよ。それが、もうすぐ素振り始めてから1ヶ月くらいになるのに……。

「ちょっと別の武器なんかも試してみるか」
「うぇ!? この剣でさえ無理なのに?」
「それぞれ特徴があるって言っただろ? 別のを持ってから戻ったらまた違うかもしれない」

 それを聞いて、そっかぁ……なんて呟くけど不安しかない。でも、ルイやヴァンさんに従おうと思って俺は今後の計画を聞いてみる。

「とりあえずは短剣の使い方とかいいかもな。俺もヴァンも……サディさんも……いるし?」

 てことで、明日からは短剣型の木剣を使うことに。ルイは短剣で半月くらい使い方を学んで、そしたらまた別の練習用武器に変えていくことにしたみたい。
 そんなにコロコロ変えたら忘れちゃわない? って思ったんだけど、今回、一通りローテーションするのは武器によって全然身体の動かし方とか力の入れ方が違うってのを理解するためだからいいんだそうだ。

 こういう練習があるからルイが子どものときに使ってた小さい木製の武器シリーズがあるのか……なんて思った。ていうか、俺がやってるようなこういう鍛錬をあんな小さい武器がしっくりくる『子どものルイ』がやってたのか。くそぅ、逆立ちしたって追いつける気がしないよ。

 そして、俺が今日まで使っていた木剣は回収されてしまった。ルイ曰く、「イクミに持たせたままにすると勝手に自主練して、そのときやってる武器の使い方と混じるだろうから」だそうだ。うん、よくわかってるね。言われれば、そんなことやりそうだわ、俺。

 で、俺が使わせてもらっていた木製の長剣なんだけど、実はルイが手作りしてくれていたことを初めて知った。でも、こういうのは標準なのが一応用意はされているらしい。子どもたちも鍛錬するし、大人でも使うし、使ってれば折れるしってんでね。
 でも体格とか筋力に合わせて調整は必要だし、標準の練習用武器を使うにしても手は入れなきゃいけないらしいんだけどね。
 俺のだってそんなので良かったのに、わざわざルイが手作り? ってかなりびっくりしちゃった。なんでか聞いたらさ、用意されてるやつを俺の体格に合わせて削るとかなりバランスが悪くなるらしくて金属パーツで重りをつけるとさらに悪くなるからって。

「でもさ、こっちの子どもたちもそういうの使ってるんだろ? その子たちと何が違うの?」
「子どもたちは数年単位で鍛錬して基礎ができれば本物だって使うけど、イクミは短期間で実戦に近い仕上げ方をしていかなきゃならないだろ?」
「あ、はい……」

 で、俺に合わせて固くて重い木で作ってくれたんだって……至れり尽くせりすぎないか?

「短剣はそこまで気にしなくてもいいかもな。丈夫さは欲しいが」
「素振りじゃないの?」
「短剣は素振りよりカカシのほうがいい。それかヴァンと組み手――」
「無理!!!」

 ルイは何を言い出すのかな? こわっ……。
 武器を人に向けるってのもビビるだろうし、当てるのもさぁ。そりゃ自分より遥かに上手い人だからちゃんと受け止めるなりしてくれるんだろうってわかるんだけど、段階ってもんがあるだろ。

 ふと横を見ると、ヴァンさんが拗ねた顔をしていた……。あー、ルイが通訳しなくても俺が即答で断ったのわかっちゃった感じ?
 いやいや、無理だよね。拗ねてどうにかなる問題じゃないよ。俺、武器初心者なんだから。

「カカシで!!」

 ヴァンさんが変なこと言い出す前にと、俺はルイに念押ししておいた。ルイは苦笑しつつも、「じゃあ、まあ、明日はカカシで」と言った。ってなんなんだろうね?

 ◇◇◇

 言葉通り、翌日から短剣型の木剣を持たされた。重さとか持った感じとか、当たり前だけど長剣と全然違った。短剣にも、長剣ほどじゃないけどブレードの長さがあるものからナイフに近いものまでいろんな種類があって、やっぱりそれぞれ扱いは違うんだって。サディさんの使っていたという双剣も短剣の分類だそうだから、サディさんは投擲剣も含めて「短剣の使い手」といったところか。

 長剣は人が剣を操るってイメージで、短剣は身体を動かして手の先に剣があるってイメージ? 確かにこれじゃ素振りって感じじゃないかも。

 あまり使われていなかったようなカカシに枯れ草やボロ布とかを巻いてくれてグルグルと縛り上げていくルイ。なんでそんなことしてるのかと思ったら、俺が怪我しないためだった……。

「怪我しそうなほどガチでぶつける感じ?」
「いや……できるなら寸止めとか当たった瞬間に力抜いてもいいんだけどな。普通はそのままぶつかるし衝撃が跳ね返ってくる。ある程度本気でやらなきゃ意味がない」
「そりゃそうだわ、聞いた俺がバカだった」

 木剣での素振りにしろカカシ叩くにしろ、自分自身の身を護る術の基礎なんだもんな。なんとなく『練習』みたいな感覚が抜けてない俺……しっかりしろ。

 まずはカカシを叩く前に基礎の構えと身体の動かし方を教えてもらう。長剣のときは剣を上に構えて振り下ろしたり脇に構えて振り上げたりしたんだけど、今回はそもそも剣を両手で持たないしなんていうか格好がつかない。

「うーん、このときの左手の宙ぶらりん加減が……」
「それはスピードがゆっくりで手のこと考える余裕があるから気になるだけだぞ。本来、2本武器を使うか、バックラーなんかと組み合わせて使うかだからな」

 じゃあなんで左に何も持たないんだろうって思ったら単純に「まだ早い」ってことだ。持つものが増えればその分意識が散漫になるからって。てことで、左手は背中に回して握りこぶしでも作っておくことになった。

 突きや身体の回転力を使った切りつけみたいなことを何度も練習。そのあとにカカシ相手にやってみたけど、ガッツリぶつかるわ手がジンジンするわで……。

「もっと重心は下げたほうがいい」
「こ……こう?」
「武器が小型化するほど力より技巧が物をいうからイクミにはこういうほうが向いているのかもな」

 これっぽっちも向いてるとは思わないけど、それでも確かに長剣を振るよりは少しだけマシな気がする……まあ、頑張るよ。 
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