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異世界生活編

51.冒険者が旅に出る準備って?

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 トレーニングを始めたのが遅かった上にルイとおしゃべりしていたから家に入ったのがいつもより大分遅れちゃって、「あっ」と思ったときにはサディさんが夕飯の支度をほとんど終わらせてた。

「サディさん、呼んでくれれば良かったのに……」
「鍛錬の途中なら悪いじゃない?」

 なんとなく俺がルイと話してるだけだったのわかってて呼ばなかったんじゃないかなって思っちゃったんだけど……。
 野菜や肉は全部下処理が終わっていて、あとは火にかけるだけみたいになってるんだもんなぁ。ここまで完璧に終わってるのに、なんで火にかけてないんだよ。匂いしたら俺らが気づくからじゃないの? まあ、いいけどさ。

「あ、じゃあ、今日俺何もしなかったから米 炊いちゃう?」
「え? 米?」
「俺がここに迷いこんだときに持ってきちゃったやつなんだけど、さすがに食べちゃわないとかなーって思って。2合あるから4人で食べても大丈夫だよ」
「前に知ってるか聞いてきたのは、イクミくんの世界の主食だったからなのね。いいの? 使っちゃって」
「玄米じゃなくて、精米してあるやつだから悪くなっちゃうし……あ、時間停止の箱に入れれば保つのか。サディさんの好きにしていいよ」

 俺がポリ袋に1合ずつ入れて持ってきた米は部屋に置きっぱなしになっていた。レトルトカレーとか缶詰なんかはかなり日持ちするけど、米は袋に分けて持ってきただけだから使うタイミングを考えていた。
 米、カレー、缶詰以外はふりかけと粉末スープと味噌汁、あと塩、コショウ、醤油、オリーブオイルなんかの調味料が少し残ってるくらい。粉茶と飴ちゃんは食材に含めなくてもいいか。

「そうねぇ……。米は時間停止箱に入れておきましょう? イクミくんの調味料なんかもまとめて保管しておいてあげるわ」
「え、そう?」

 てっきりサディさんは食いつくと思ったから俺はちょっとだけ驚いちゃった。

「その代わり、お願いがあってね。 イクミくんがここを発つときがきたら、その米をみんなで食べましょう?」
「あ……」

 サディさんは俺と俺の世界をちゃんと大事にしてくれてるんだなって伝わってきて、ちょっとだけだけどジワッときてしまった。別にまだいつここを出ていくかなんてわからないのに。そういえば、崖下ってるときにルイにも取っておけって言われたよな。

「そういう故郷を思い出すものってあるだけでも力になるときがあるのよ。イクミくんがよく持ってるスマホ? とかいう魔導具とかもあるだろうけど……。食べ物っていうのは記憶に染み付いているからね」
「そっか。サディさん、ありがとう。じゃあ、俺の残りの食材は預けちゃってもいいかな? 塩コショウ鷹の爪なんかは保管しなくて大丈夫だけど」
「入れておくわね。もちろんいつでも出せるから遠慮なく言ってね」

 俺は返事をして部屋から食材を持ってきた。とりあえず、ここに入れさせてもらえれば米が悪くなっちゃうことはないから安心。意外と米は乾燥しちゃったり湿気で悪くなったり匂いの問題とかで保管に困ることあるよね。でも、ここに入れさせてもらったからもう何も気にしなくて良さそう。

「じゃあ、今日の夕飯の手伝いはなしかぁ……」
「そんなにしたかったの?」
「どうしてもってわけじゃないよ。なんとなくいつもの仕事がなくなって手持ち無沙汰なだけ」
「たまにはゆっくりしなさいな」

 結局サディさんに押し切られる感じでキッチンから追い出されちゃった。最近はサディさんも弾いた薬草を料理に使おうとしたり、前はほとんどやらなかったっていう揚げ物なんかもやるようになったりしたんだよね。揚げ物は完全に俺の影響だ。

 前に見せてもらったトウモロコシ粉なんだけどね、パン粉の代わりにまぶして揚げる使い方を提案してみたんだ。まあ、定番というかイモと肉が手に入りやすいこの村で作りやすそうと思ってコロッケもどきをさ。そしたらこれは意外と奥様方に好評で、サディさんの買っちゃったけど使わないどうしよう……だったトウモロコシ粉は物々交換されて結構減った。

 今シーズンはルイは販売仕入れには出ないけど、他の人が請け負うことになったみたいで、その人にいろんな注文が入ってるらしい。トウモロコシ粉なんかは今まで注文なんてなかったのにって感じみたいだし、海の塩もいつもより多めに仕入れてほしいってことになってるんだって。そんなこともあって冬になる前にララトゥ草を売りに旅立つのは2人になりそうってことだ。いつもはルイがかなりの量を引き受けてるみたいだったんだけどね。

 なんて話をダイニングテーブルについてルイと話してた。サディさんに料理を任せっきりにして俺がここでルイと話してるなんて珍しいんだよな。

「いつもはルイが1人でやってたっていうのがすごいよ。野営とかのことも考えたら最低人数2人なんじゃないの?」
「……まあ。俺が問題ないのと……俺のバッグの容量が中だから」
「バッグの容量と身の安全は関係ないと思う」

 普通の冒険者はマジックバッグの容量は小で十分らしい。食料、薬、魔物の解体セット、予備の武器・鎧・衣類等、修理セット、ランプや結界石みたいな魔導具、この辺が入れてあれば最低限なんとかなるとか。残りのスペースに仕留めた魔物の素材なんかを収納してギルドで売るみたいな感じらしく、冒険者になるならマジックバッグ小は必須アイテムぽい。
 そりゃ重くて大きくてみたいな荷物持って戦ったりできないだろうしねぇ……。でもそれって、冒険者になるためにお金がいるってことだろ? 世知辛いな……。

 あれ? こういう村で冒険者になりたい場合ってそういう武器とかマジックバッグなんかをどうしてるんだ? お金を稼ぐ手段もあまりなさそうだし、必須グッズを買うところもないよね?

「ここの村の場合はまず貸与だな。で、自分の得物とバッグを誂えてから貸与品を返しに一回村には戻る」
「おお、思ったより高待遇だね。返さない人っていないの?」
「さすがに村の伝統というかシステムだし、みんな先人がそうして繋いできたの知ってるからな。そこで止まったら新たに冒険者……だけじゃなくて自警団員になりたいやつまで困るのわかってるし、自分が面倒見てきた年下が困るかもって思ったらそういうことはできないだろ」
「そりゃ確かに。ここの良い人たちがそんなことするはずないか」

 そうやって強い人たちは一回外に出て自分に合った武器を誂えたり試行錯誤したりしながら冒険者になるか、村で自警団するか、販売仕入れをするか、みたいに別れていくみたいだ。
 それにしてもやっぱ長年運用されているシステムってのは上手くできてるよね。この村ならではなんだろうけど。

「イクミもそろそろ木剣でも振ってみるか?」
「ほえ?」

 いやいや、無理でしょ。俺、剣道もやったことないのにさ。 
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