霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

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異世界生活編

47.久しぶりの3人トレーニング

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 翌日、トレーニング前なのに俺は2人に褒められていた。ヴァンさんが俺の身体をサワサワして、留守番中思ったより手を抜いてなかったんだって感心しててさ。そんなすぐわかっちゃうなんて、ちゃんとトレーニング続けててよかったよ。

 今日はヴァンさんがいるから倒れる気でやり込んでも大丈夫……なんだけど、できれば倒れたくはないって思って走りだしたんだけど、なぁ。

「きゅ、急に…………坂、増やすの……禁、止……」
「いや、頑張ってたみたいだからいけると思って」

 なんかいつもより距離伸ばされた走り込みでヘロヘロになってたのに、最後に急坂をダッシュで駆け上がれと言われてやって死んだ……。身体はヴァンさんがいるからいいとしても、やっぱり肺がね。でも復活が早くなってきたような気はするよ?
 それにしてもスパルタだな。コーチ復帰1日目じゃんか。
 でも、そう思っても2人がいることが嬉しすぎてさ。俺もつい頑張っちゃったよね。こうやって倒れてるのに顔が笑っちゃうし……。

 走り込みと筋トレの間の休憩で2人に調査中のことを質問したんだ。気になっていたけど昨日は時間も遅くて聞けなかったしね。

「上に関しては特に地割れなんかもなさそうだったし、魔核持ちも出現してなかった」
「良かったよ。そういうのってどうやって調べるの?」
「ヴァンがいるとかなり楽なんだ。コイツは闇属性が一番得意なんだが、周囲の探索にいい術式を組んでくれるからな。でも俺等も魔力で探知をしてるぞ。ただ、魔物は魔力探知でかなり引っかかるけど地盤の異常とかは無理だからな」

 って、ルイが説明してくれている横でヴァンさんが手の中で黒い小鳥を作って俺に向かって飛ばしてきた。立体のようにも見えるし真っ暗な穴が開いているようにも見える不思議な鳥だ。俺の目の前に降り立った小鳥はそのままふわぁっと消えてしまった。

「消えちゃった……」
「調査中はもっとちゃんとしたのを飛ばしてくれるけどな」
「すごいね。ヴァンさんの魔法とかもっと見てみたいよ」
「イクミが外に出られるようになったらいくらでも見られるようになるだろ」
「……先過ぎるよ」

 俺は魔力噴出が村よりももっと下からだったって聞いたから崖の上に魔核持ちの魔物は出ないよなって思いながらもドキドキしながらみんなの帰りを待ってたわけだけど、噴出の際に欠片が飛び出た場合、欠片がどこまで飛んでいくかわからないから魔核持ちは上に出ることもあるんだそうだ。えー、欠片やばい……。

 今回は上にも下にも魔核持ちは出てなかったってことで自警団もとりあえずは安心ってとこみたい。さすがに魔核持ちは普通1人では討伐は無理みたいだし、村に損害が出る可能性を考えるとこういうタイミングでチーム編成しての調査は必須なんだろうね。
 それと、やっぱりこういった噴出があるとちょっと普段の魔物も強くなるんだって。だから厄介そうなのとかは並行して討伐もしなきゃいけないそうだ。だからたくさん魔物肉を持って帰ってきたり、少し服がボロっとしたりしてたんだな。

 あと、上は大丈夫だったけど、下のほうは一部崩落もあったんだって。ただ、村に全然影響なさそうなところでだったからそこに関しては特に何かをすることはなくて情報共有だけだったみたい。
 そういった少しの変化はあったけど一応周囲の情報が集まったから、とりあえず異常なしって判定になったんだって教えてくれた。

「村の中とかで噴出しなくて良かったよね。俺、めちゃくちゃ怖かったし」
「まあ、魔力噴出自体は年に何回かはあるだろうな。慣れろとは言わないが、どうにもならないことだから対処の方を覚えたほうがいい」

 まあ、そりゃそうだろうけど。俺も一回経験したからもし次があったら少ぉしは冷静になれるとは思うよ……多分。
 てか、厳しい冬の間にそれが起こったらどうするのかなって思ったけど、やっぱそういう一大事の時は自警団の人たちがいろいろやるらしい。冬が厳しいっていうのはサディさんから聞いただけだから想像しかできないけど。俺はそこまで雪深い地方出身じゃないから身構えちゃうな。

 なんか話が止まらなくなりそうになって、筋トレは早めにやることにした。もう完全に自己流になりかけてたからフォームとか修正してほしくてさ。
 で、見てもらったらやっぱちょいちょい修正されたよね。ありがたい。やっぱり見てもらって要点教えてもらうとやりやすい。

 トレーニングしてて俺が気づいたのは前より言われたことをやるのが楽になってるってとこかな。基本のトレーニングがそんな感じで思ったよりできたから背筋用の重りはすっごい増えたし今のメニューの他に新しい腕トレと体幹トレが追加になった。腕ツラいからあんま好きじゃないんだけどさ。
 でも追加ってことは少しは俺が成長してるってことだよね。なんか久しぶりに見てもらったからこそ俺としても実感あったって感じ!

「ひ、久々に効いてるぅぅ」
「イクミは真面目なんだな。ヴァンも驚いてる」
「だって教えてもらってる立場で、しかも俺のためにやってもらってるのに当事者がサボれないだろ?」

 こんな親身になってもらっておいて俺が頑張らないとか裏切りだよな。今日はマッサージもついてるから余計に張り切っちゃったのもあるけど。
 ほんと不思議だけどこんな短期間に伸びるものなのかな。まあ、初心者は伸びしろしかないからある程度出来るようになってからが大変っていうのもあるかもしれないんだけど……。

 いつものように筋トレ終わったらヴァンさん帰るのかなって思ったけど今日はまだ残ってる。そんで3人で話しながらワチャワチャしてたらサディさんが帰ってきて夕飯の支度の声をかけてきた。

「ヴァン、あなたも今日はうちで食べていきなさいよ」
「OooOOOoOoOoo!」
「帰っていいのに」
「OoO!!」

 うーん、ルイってばヴァンさんをからかって遊んでるなぁ。本心ではそんなこと考えてないだろうに。シャー! ってなってるヴァンさんがちょっと可愛くて微笑ましい。兄貴分というにはいじられすぎだけど、この2人のやり取りは見ててほっこりするから好きだな。

 今日の夕飯は俺のリクエストで魔物肉の窯焼き。このあいだ食べたやつがすごく美味しかったから。で、いつも蒸かしているカロイモも一緒にグリルして搾りたてのミルクから作ったバターを乗せたら美味しいと思うんだよね。もちろんバターは俺の手作り。
 下ごしらえして窯に入れちゃえばあとはちょっと俺には手伝えなくて、窯の火加減とか時間の管理はサディさん任せになっちゃった。

 できるのをワクワクした様子で待っているのはヴァンさんだ。聞けばヴァンさんは村に家族がいるけど独り暮らししてるから食事はいつも結構適当なんだって。前もムシャーフ煮込みをごねてもらってたもんな。サディさんの料理は美味しいし気持ちはわかる。
 独り暮らしのキッカケはご両親がおじいさんおばあさんと暮らすようになったからってことなんだけど、それとは別にひとりが気楽っていうのもあるみたい。猫は気ままだから、なのかな?

 ちょうど予熱で魔物肉に火を通しているところで村長も帰ってきて、5人で夕飯を摂る支度をする。このメンツは初めてだ。

 グリルカロイモはなかなか美味しかった。じゃがバタのイメージで作ったけど、食感がちょっと違うから何もしてないのにマッシュポテト風な感じに。カロイモのこの不思議なねっとり感はクセになるなー。すっかり俺の中でも主食として定着しちゃった。

 それはそうと、ヴァンさんがびっくりするほど食べてて驚いた。いや、夕飯の用意をする時点でサディさんがいつもより多く作らないとねって言ってたから少しは予想してたつもりだったんだ。でも、俺が思った以上の食べっぷりだったんだよ。線が細いわりにルイより食べるとか、エネルギーどこに使ってるんだよ。

 前もヴァンさんにとって村長の家って我が家みたいなもんなのかなってちらっと思ったことあったけど、食いっぷりまで遠慮ないとかマジでウケる。でもそんなヴァンさんを村長もサディさんもニコニコ見てるからやっぱりルイと兄弟みたいなもんなんだろうな。

 子どものころのルイとヴァンさんか……見てみたい。絶対可愛いよね。

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