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異世界生活編
44.心がザワザワする。
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明け方にルイと村長が戻ってきた。
「ルイ! 大丈夫だった?」
「寝てないのか?」
「寝ないで待ってたわけじゃなくて、ビビって眠れなかっただけ……」
俺がボソボソ言うと、ルイが頭をポンポンしてきた。もうどんな気持ちでポンポンしてきててもいいや。だって安心するから。
「俺もヴァンも自警団の奴らと上に行ってくるから、数日鍛錬に付き合えなくなる。悪いな」
「なにかあったの?」
「いや、村の中とかすぐ周辺なんかの被害とかは今のところは特に。ただ、念のため魔核持ちが現れてないかだけはもっと広範囲や上も見に行かないと」
確かにそんなの現れたら危ないけど、もし本当に現れてたら見に行った人たちは危なくないの?
いや、ルイみたいな強い人が何人かで組んで行くなら少しは安全なんだろうけど。
「村の周囲を警戒する自警団の連中もいるし、村長もこっちにいるから。不安かもしれないが村の中にいればほとんど問題ないから」
そうじゃない、そうじゃなくって。でも……。
「……絶対に怪我とかしないで、帰ってきてね……」
俺が絞り出すように言えた言葉はそれが精一杯だった。サディさんに夜中言われた言葉が頭に浮かんで何も言えないよね。
準備をして出会った時のような格好をしたルイが「行ってくる」と家を出ていくのをサディさんと見送る。通訳の魔導具は一時的に村長に渡してくれって言われて預かった。
ほのぼのしてるなんて思ったけど、やっぱそれだけじゃないんだな。これは自然災害にあたるのかな……。
もし魔核持ちの魔物が出てたらどうしよう。でも、ルイは強いし、魔導士のヴァンさんもいるし、他の人もいるし、きっとサディさんの薬もいっぱい持ってるよね。大丈夫だよね。
「イクミくん、そんなにソワソワしなくても大丈夫よ。あの子たちそこまで弱くないわ」
「俺もそう思うんだけど、こんなときに『ネガティブ俺』がめっちゃ顔出してきてて。……俺、ちょっと走ってきます!」
「え?」
驚くサディさんに声をかけるといつも走っている門のところに来る。門のあたりも少しざわついている。そりゃそうか。
1人でそんなところに現れた俺に話しかけてくれる人もいたけど、俺が今わからないみたいなジェスチャーをすると「ああ」というような顔をして肩を叩いてくる。
そしてちょうど村長に会ったからルイから預かった通訳の魔導具を渡した。村長もすぐ把握したようで受け取って装着してくれる。
「これを届けに?」
「いえ……モヤモヤするんでいつも通り走ろうかと……」
「そうか。1人だし無理はしないようにね」
今はさすがに忙しいらしく村長は仕事に戻っていった。
俺はいつものペースを心がけて1人黙々と走る。ルイがいないからって怠けたらここで潰れそうって思って。あと、ルイが村の安全のために頑張ってくれてるのに俺がのほほんとしてるのもなんか違うなって思ったのもあって。
1人で走るのはやっぱりちょっとしんどい。話さなくても見守っててもらえるだけで力が出るってことがあるんだな。
いつもの距離と近いくらいは走れた、と思う。いや、いつもよりはちょびっと距離は短かったかもしれない。だって今日はヴァンさんいないから倒れる寸前までやりこんだら帰れなくなっちゃうから。やっぱあのマッサージってすごいんだなって思いながら少しだけ木に寄りかかって休憩する。
走って少し余計なことを考えないで済んだから、そのまま俺は薬草畑に向かった。
急に俺が走ってくるなんて出ちゃったからいつもとスケジュールがズレちゃったんだよね。
もちろん明るい時間ならもう道には迷わないよ。早朝はちょっとまだヤだなとは思うけど。
「サディさん、遅くなってごめんなさい! 合流します」
「あら、大丈夫?」
「無理はしてないし、ちゃんと少し休んできたから!」
何か起ころうとも畑のお世話はしないと……作物が取れなくなるのは困るもんね。
草むしりはかなり慣れたしスピードアップ出来てる。むしりながらその位置の薬草に異変がないかなんかも目視で確認。最近は雑草用のデカいザルを持って、さらに腰に小さめの籠を下げて収穫時期の薬草を刈り入れもしている。あと、休ませている畑に灰や肥料を撒いたり次に備えて耕したりとかね。
少しずつできることが増えているのは役立っている感じもして素直に嬉しい。
村人にとっては昨夜の出来事はそんなに大したことでもないみたいで、畑ではいつもと同じまったりとした空気が流れている。
やたらビビってたのは俺だけか……。でも、この村人の様子で俺も少し平常心を取り戻した。
「イクミくん、もう大丈夫そうね」
「あ……ちょっと取り乱してすいませんでした」
「未知のことっていうのは怖いものよ。イクミくんの世界にはああいうのがないんでしょう?」
相変わらずのサディさん節。なんで異世界をまるっと受け止められちゃうんだ?
てか、異世界に限らないのか……。サディさんの人生観とか世界観が影響しているものの見方なのかもしれない。ある意味悟ってるよな。
俺は先に走っちゃったのもあって、いつもより時間をかけて畑仕事をした。一段落してサディさんとラキさんが作業場に行ってしまったから俺も家に戻って筋トレに備えて一休みすることにした。
ふらふらっとベッドに倒れ込むとスマホで1時間のアラームをかけて仮眠する。夜中から起きてたからアラームが鳴っても目を開けるのがつらかったんだけど、気合で起きた俺は偉い。
筋トレもルイやヴァンさんがいるときみたいには出来なかったけど、自分なりには頑張ってこなした。でもやっぱり今ひとつかなぁ……。まだ筋肉を意識するより回数をクリアすることのほうばかりに集中してしまう。
「あー、きっつ……」
俺が家の裏の広場で座り込んでいるとサディさんが来た……わざわざ見にくるって絶対気にかけられまくってるよね。まあ、昨夜の俺があんなだったからしょうがないか。
サディさんは俺に「疲れてなければお料理しましょ」と誘ってきて、俺はプルプルしつつも一緒に料理をした。
今日のメニューは、俺のことを考えてくれたのかいつもの優しいスープだ。これは本当に口に入れるとホッとする味で、多分こっちの「おふくろの味」みたいなやつなんだと思う。日本で言えば味噌汁的な。ああ、そういえばインスタント味噌汁残ってたな……なんて思いながら野菜を切りまくった。
今日はルイが戻ってこないし、村長もいつ戻ってくるのかわからない。
サディさんと二人で食事をしながら話すけど、二人きりの家はちょっとだけ寂しく感じる。俺、あっちじゃ独り暮らしで数ヶ月平気だったのに、こんな短期間でここのみんなとの生活に馴染んでたんだなって不思議な気分になった。
早くみんな帰ってこないかな……。
「ルイ! 大丈夫だった?」
「寝てないのか?」
「寝ないで待ってたわけじゃなくて、ビビって眠れなかっただけ……」
俺がボソボソ言うと、ルイが頭をポンポンしてきた。もうどんな気持ちでポンポンしてきててもいいや。だって安心するから。
「俺もヴァンも自警団の奴らと上に行ってくるから、数日鍛錬に付き合えなくなる。悪いな」
「なにかあったの?」
「いや、村の中とかすぐ周辺なんかの被害とかは今のところは特に。ただ、念のため魔核持ちが現れてないかだけはもっと広範囲や上も見に行かないと」
確かにそんなの現れたら危ないけど、もし本当に現れてたら見に行った人たちは危なくないの?
いや、ルイみたいな強い人が何人かで組んで行くなら少しは安全なんだろうけど。
「村の周囲を警戒する自警団の連中もいるし、村長もこっちにいるから。不安かもしれないが村の中にいればほとんど問題ないから」
そうじゃない、そうじゃなくって。でも……。
「……絶対に怪我とかしないで、帰ってきてね……」
俺が絞り出すように言えた言葉はそれが精一杯だった。サディさんに夜中言われた言葉が頭に浮かんで何も言えないよね。
準備をして出会った時のような格好をしたルイが「行ってくる」と家を出ていくのをサディさんと見送る。通訳の魔導具は一時的に村長に渡してくれって言われて預かった。
ほのぼのしてるなんて思ったけど、やっぱそれだけじゃないんだな。これは自然災害にあたるのかな……。
もし魔核持ちの魔物が出てたらどうしよう。でも、ルイは強いし、魔導士のヴァンさんもいるし、他の人もいるし、きっとサディさんの薬もいっぱい持ってるよね。大丈夫だよね。
「イクミくん、そんなにソワソワしなくても大丈夫よ。あの子たちそこまで弱くないわ」
「俺もそう思うんだけど、こんなときに『ネガティブ俺』がめっちゃ顔出してきてて。……俺、ちょっと走ってきます!」
「え?」
驚くサディさんに声をかけるといつも走っている門のところに来る。門のあたりも少しざわついている。そりゃそうか。
1人でそんなところに現れた俺に話しかけてくれる人もいたけど、俺が今わからないみたいなジェスチャーをすると「ああ」というような顔をして肩を叩いてくる。
そしてちょうど村長に会ったからルイから預かった通訳の魔導具を渡した。村長もすぐ把握したようで受け取って装着してくれる。
「これを届けに?」
「いえ……モヤモヤするんでいつも通り走ろうかと……」
「そうか。1人だし無理はしないようにね」
今はさすがに忙しいらしく村長は仕事に戻っていった。
俺はいつものペースを心がけて1人黙々と走る。ルイがいないからって怠けたらここで潰れそうって思って。あと、ルイが村の安全のために頑張ってくれてるのに俺がのほほんとしてるのもなんか違うなって思ったのもあって。
1人で走るのはやっぱりちょっとしんどい。話さなくても見守っててもらえるだけで力が出るってことがあるんだな。
いつもの距離と近いくらいは走れた、と思う。いや、いつもよりはちょびっと距離は短かったかもしれない。だって今日はヴァンさんいないから倒れる寸前までやりこんだら帰れなくなっちゃうから。やっぱあのマッサージってすごいんだなって思いながら少しだけ木に寄りかかって休憩する。
走って少し余計なことを考えないで済んだから、そのまま俺は薬草畑に向かった。
急に俺が走ってくるなんて出ちゃったからいつもとスケジュールがズレちゃったんだよね。
もちろん明るい時間ならもう道には迷わないよ。早朝はちょっとまだヤだなとは思うけど。
「サディさん、遅くなってごめんなさい! 合流します」
「あら、大丈夫?」
「無理はしてないし、ちゃんと少し休んできたから!」
何か起ころうとも畑のお世話はしないと……作物が取れなくなるのは困るもんね。
草むしりはかなり慣れたしスピードアップ出来てる。むしりながらその位置の薬草に異変がないかなんかも目視で確認。最近は雑草用のデカいザルを持って、さらに腰に小さめの籠を下げて収穫時期の薬草を刈り入れもしている。あと、休ませている畑に灰や肥料を撒いたり次に備えて耕したりとかね。
少しずつできることが増えているのは役立っている感じもして素直に嬉しい。
村人にとっては昨夜の出来事はそんなに大したことでもないみたいで、畑ではいつもと同じまったりとした空気が流れている。
やたらビビってたのは俺だけか……。でも、この村人の様子で俺も少し平常心を取り戻した。
「イクミくん、もう大丈夫そうね」
「あ……ちょっと取り乱してすいませんでした」
「未知のことっていうのは怖いものよ。イクミくんの世界にはああいうのがないんでしょう?」
相変わらずのサディさん節。なんで異世界をまるっと受け止められちゃうんだ?
てか、異世界に限らないのか……。サディさんの人生観とか世界観が影響しているものの見方なのかもしれない。ある意味悟ってるよな。
俺は先に走っちゃったのもあって、いつもより時間をかけて畑仕事をした。一段落してサディさんとラキさんが作業場に行ってしまったから俺も家に戻って筋トレに備えて一休みすることにした。
ふらふらっとベッドに倒れ込むとスマホで1時間のアラームをかけて仮眠する。夜中から起きてたからアラームが鳴っても目を開けるのがつらかったんだけど、気合で起きた俺は偉い。
筋トレもルイやヴァンさんがいるときみたいには出来なかったけど、自分なりには頑張ってこなした。でもやっぱり今ひとつかなぁ……。まだ筋肉を意識するより回数をクリアすることのほうばかりに集中してしまう。
「あー、きっつ……」
俺が家の裏の広場で座り込んでいるとサディさんが来た……わざわざ見にくるって絶対気にかけられまくってるよね。まあ、昨夜の俺があんなだったからしょうがないか。
サディさんは俺に「疲れてなければお料理しましょ」と誘ってきて、俺はプルプルしつつも一緒に料理をした。
今日のメニューは、俺のことを考えてくれたのかいつもの優しいスープだ。これは本当に口に入れるとホッとする味で、多分こっちの「おふくろの味」みたいなやつなんだと思う。日本で言えば味噌汁的な。ああ、そういえばインスタント味噌汁残ってたな……なんて思いながら野菜を切りまくった。
今日はルイが戻ってこないし、村長もいつ戻ってくるのかわからない。
サディさんと二人で食事をしながら話すけど、二人きりの家はちょっとだけ寂しく感じる。俺、あっちじゃ独り暮らしで数ヶ月平気だったのに、こんな短期間でここのみんなとの生活に馴染んでたんだなって不思議な気分になった。
早くみんな帰ってこないかな……。
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