霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

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異世界生活編

43.魔力噴出

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 今日の夕飯はもちろんジベラ焼き。
 俺がやったのを思い出しながらちゃちゃっとサディさんが作ったやつだ。作り方も簡単なやつだったからサディさんにはお茶の子さいさいだろうね。

「イクミが作ってくれたやつと味が少し違う」
「そうかな……同じじゃない?」
「ルイ、いくらイクミくんの作ってくれたのが美味しかったからって文句言うなら食べなくていいのよ?」
「文句じゃない、美味いし」

 正直、俺も調味料を計量して入れているんじゃなくて、味を見ながらその時のさじ加減で決めてるからいつも同じ味ってのにはならない。それがザ・家庭料理! お店やってるんじゃないしそのくらいイージーにいかないとね。

「俺が作っても毎回味変わるからね、あはは」
「そういうもんか。でも味が変わると言っても不味くはならないんだからすごい」

 村長もジベラを使った料理は気に入ってくれたみたいで食後にサディさんと料理について話していた。本当に畑の拡充が必要かも? いや、まさかな。

 のんびりとした食後の時間が過ぎていく。片付けをしながらも取り留めもない話をしていつもより遅い時間になったから俺やルイはそれぞれの部屋に戻った。

 俺は部屋で1人こっそりプランクをしている。自主練的な感じだから無理しない程度にね。メニュー外で頑張りすぎて考えてもらったスケジュールを崩したくはないから。だからプルプルして身体が潰れたらそれで終了ってことにしてるんだ。
 まあ、少しでも頑張ってるんだぞっていう自己満だね。

 魔導具ランプを消すと、すぐに睡魔に襲われる。興奮で眠りが浅かったのは村について最初の2日間くらいで、運動してるせいか最近はすぐ眠くなる。



 ◇◇◇



 ――ドォォンッッッ!!! バリバリバリッ!!



 フワフワと波間を漂っているような心地よいまどろみの世界にいた俺は強烈な揺れと地響きと爆音に飛び起きた。ベッドから転がり落ちて腰を打ちつけつつも枕元のLEDライトを探す。

「な、な……何?」

 混乱しながらライトを点灯させたところでルイが部屋に入ってきた。

「大丈夫か?」
「ルイ……地震?」
「いや、欠片が弾けて出てきたか、魔力噴出したんだろ」

 欠片……欠片ってあのエハヴィールの欠片? 普段より強い魔物の元になる魔核の……アレ?
 こうやって急に地面から飛び出してくるのかよ。それって防ぎようないじゃん。

「魔物になっちゃう?」
「直撃すれば、そういうこともあるかもしれないが」
「そっか……体内に入ると、だっけ」
「そうだ。適切に取り扱えば欠片自体には害はないんだ。ただ、こういうときは一緒に噴出した魔力がすごすぎて岩盤の弱い渓谷の奥底が崩れたりはするんだが」

 俺がルイに説明されていると、村長とサディさんも来てくれた。ビビり散らかしている俺を3人が心配してくれている。
 嘘だろ、こんな怖いことが近くで起こってるのにこの人たち平然としてる……。俺からしたらミサイルでも落ちてきたんじゃないかって思うくらいだったのに。

「サディさん、イクミのことよろしく」
「はいはい、大丈夫よ」
「え?」

 よろしくってどういうこと? ってルイを見る。ルイは村長と真剣な表情で話しながら俺の部屋を出ていった。
 それを俺が情けない顔で見ていたのに気づいたサディさんが説明してくれる。

「ルイとアルは自警団詰め所に行くのよ。一応村に被害がないかとか確認が必要でしょ?」
「危なくないの?」
「そうねぇ、今まで連発で起こったことはないから大丈夫じゃないかしら。でも、仮に危なくてもやらなきゃいけないことってあるのよ?」

 そりゃそうだ。村長は村の責任者だもんな。
 でも俺は心臓がバクバクして……さっきの揺れと爆音にまだ心が落ち着いてないのか、それともルイが危ないところに行くんじゃないかっていう不安なのか全然わからないけど落ち着かなかった。

「なんか、もう眠れそうにない、かも……」
「初めてだと驚くかもしれないわね。そこまで頻発するものでもないけど、時々あるから覚えておくといいわ」

 時々って怖すぎだろって思ったけど、日本の地震も似たようなものか。外国人とか震度2でも悲鳴あげて外に飛び出す人いるっていうし。いや、でも下から何か噴出してくるってやっぱ怖くないか!?

「イクミくん、眠れないなら良ければ下に行きましょ。話していたら少し落ち着くでしょう?」
「あ、はい。じゃ、俺、お茶持って行きますね」

 俺はお気に入りのはずなのに使っていなかったパウダー緑茶を引っ掴んでサディさんの後ろをついていった。でも、こういう心がささくれだってるときは緑茶がいいと思う。ほっと一息したい。
 俺はサディさんにかまどが消えてしまっているけどお湯が欲しいと言ってみた。

「少しの量ならかまどの炭火を熾さなくても魔法で木に火をつければできるわ」

 サディさんが小鍋に水を出してわざわざお湯を沸かしてくれて、俺は二人分のカップにパウダー緑茶をスプーン1杯ずつ入れてそれを待つ。
 沸騰寸前の小鍋のお湯に少しだけお水を足して少し温度を下げてからカップに注ぎ込むと緑茶のいい香りがダイニングに広がった。馴染みのある香りに俺の気持ちが少し落ち着く。

「いい香りね。それに……ふぅふぅ、甘みも感じるわ」
「俺の国のお茶なんだ。本来は茶葉なんだけど、これは手軽に飲めるように茶葉を粉にしていて溶かすだけでいいように加工されてて。サディさん、こんな安物の緑茶の甘みもわかるなんて高級な玉露とか飲んでみてほしいかも」
「ギョクロ」
「お茶の品種っていうか、栽培方法的な……」

 俺はサディさんとお茶をすすりながら色々なことを話した。というか、サディさんを付き合わせてしまったというほうがしっくりくるな。
 サディさんとは2週間くらい薬草畑も料理も一緒にしているし、俺はもうだいぶ口調が崩れてきてる。でも完全に丁寧語が抜けるってこともないんだけどね。

 ここの霧の渓谷は嘘か本当か、守護者であるドラゴンが降り立ったときにえぐった亀裂で出来た地形らしい。それで深くえぐれた比較的地表が薄い部分から内部の魔力が吹き出すことがあって、それでああいう噴出がたまにあるってことなんだ。たまに、と言ってもそんな地形だから強い岩盤のところよりは頻度は多いみたい。
 ああ、ルイが前に強い魔物が出る地域差はわからないみたいなこと言ってたけど、サディさんの話からするとそういうのもあって霧の渓谷のあたりは魔物が強かったり、魔核持ちが出たりするってことなのかな。

 魔核持ちはトレジャーハンターに狙われることが多いからこの地域も時々そういったハンターがくるそうだ。でもそういう人たちってそこまでガラが良いわけでもないようで、上にいるならいいけどあまり下にはこないでほしいんだって。
 上の奥のほうにある転移先の遺跡は大昔からのもので財宝なんかもないから荒らされることもないようなんだけどね。

 秘境の謎、少し解明?
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