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異世界生活編

39.いつもの俺の悶々タイム

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 今日の夕飯は、今まで煮込みが続いていたからかあっさりめのスープとカロイモってことだった。こういうのが普段の料理なんだろうな。俺が初めて食べさせてもらったやつもそうだったし。

 てことで、今日の俺のお手伝いは野菜のカットを手伝うだけ。
 ちょっと余裕があるから野菜の特徴なんかを観察したり生野菜の味見をしたりなんかしちゃった。見た目は違っても似てる食感とか味とかがふわっと頭に浮かぶ。ただ、やっぱり見た目に引きずられて口にしたときに一瞬だけ頭が混乱するんだよな。こればかりは慣れだと思うんだけど。

「彩りがなぁ……」
「どうしたの?」
「あ、いや。野菜が緑とか白っぽいのしかないなって思って」
「そうね。この辺はそういうのが多いの。もっと暖かい地域なんかでは赤いものとか鮮やかなものも多いわよ?」

 わざわざ遠方まで行って時間停止機能のあるバッグとかで仕入れてくるまでじゃないってことか。まあ、そりゃそうだよな。ルイの持ってるバッグも時間停止はついてなくて容量が中くらいって言ってたし、実際どのくらい入るのか知らないけど、武器系とか金属とか村で自給自足できない生活必需品を仕入れるのがメインなら野菜に割く余裕はないだろうし。
 気候とか土地の持つ特徴で育てられないものがあるのはしょうがないもんな。むしろそういう差があるからララトゥ草が高値で売れるんだろうしね。

 そういう地域差みたいなことを考えると、ここって結構寒冷地っぽいところなんだろうなとは思うんだよね。何回も「小麦は暖かいところの高級品」って聞いてるし……。日本じゃ品種改良が進んでて北海道でも小麦なんて普通に育てられてたけど、本来小麦は寒冷地では育たない穀物だったはず。

「サディさん、すっごい基本的なことを聞きますけど……今って夏ですか?」

 なんかあまり気にしてなかったけど、気候とか考えていたから気になってきてしまった。あっちでは夏だったんだけど、こっちでもそうなのかな。俺の体感ではここは湿度はあれど高すぎることもなく、気温は涼しくて過ごしやすいとまで思うんだけど。

「そうね。初夏よ?」
「んー……。やっぱ時間の流れは似てるのかな。それともたまたまかな」

 こればかりはあっちと比べることができないから全然わからない。だって、俺がいたのが日本だから夏だったけど、俺がオーストラリア在住だったら冬だったんだもんな。考えても無駄そうだ。
 1日の時間の感覚はほとんど同じと思うんだけど。スマホの時計も違和感なく1日ずつ経過してたしな。

「ついでになんですけど、ここって冬……厳しかったりします?」
「よくわかったわね。冬は村の外には基本的には出られないわよ? 魔物退治は必要だから自警団が上と下に分かれて冬期警護にあたるの。村の中は結界である程度生活できるようになってるけど」

 冬は村の外に出られない……ってことは。考えたくないけど、やっぱ、あれだよな。
 今初夏。1年が大体同じで巡ってくるなら冬になる前ってあと3~4ヶ月くらい? それまでに魔物退治ができるようになる――わけない。最短でも春まで村から出られないよね? いや本当は春も怪しいけど。

 村から出られるようになったとして、まずは手がかり探しだろ。車とか電車がない旅ってことは年単位になる可能性か。
 行方不明から数年後とかに唐突に現れる『俺』とかも怖いな。その場合大学とかどうなってるんだろう。
 それか、よくある不思議系の話みたいに消えた時間とほとんど変わらない時点に戻れるとか。そっちならまだしれっと復帰しやすいな。でも数年勉強とかしてない状態で戻って頭がついていけるのか?

「イクミくん、顔、顔!」
「へ?」
「すごーく眉間にシワ寄ってたわよ?」

 俺はバッと右手の平でおでこを押さえてグリグリと円を描くように解した。考えすぎると眉間にシワを寄せるのがクセになってるらしい。

「俺、考えこむと難しい顔しちゃうみたいで……あはは、すいません」
「しょうがないわよね。冬に出られないって聞いて不安になったんでしょう? 私だっていきなり知らない世界に放り出されたらそうなると思うわ」
「俺がこの世界の人間で逆にあっちに飛ばされたとしたら、か。……ホームレスかな、いや、どっか研究施設に連れてかれていろいろ調べられちゃう、とか。魔力とかバレたら人間兵器にさせられちゃいそう。こわっ」
「なんか物騒ねぇ」
「サディさん、どの世界もこんないい人ばかりで助けてくれると思ったら大間違いですよ。俺は運が良かったんです」

 俺はこの世界でルイに助けてもらって村長の家に住まわせてもらってる幸運をサディさんに切々と訴えた。俺が思うに……言葉もわからない得体のしれない人物に無条件で良くしてくれるほど世の中は多分甘くない。逆バージョンじゃなくて良かったな。

「イクミくんがうちに来たことを運が良かったって言ってくれて嬉しいわ」
「そりゃあもう!」

 運が良い以外何があるっていうんだよ。まだたった数日だけどめちゃくちゃ良くしてもらってるよ。衣食住の面倒見てもらってるだけじゃなくて鍛錬までしてくれてるしさ。こんなことってある? だからこそ、俺は料理とかで少しでも役に立ちたいわけなんだけどさ。

 まあ、そう考えたら1年くらいこの村から出られなさそうなのもある意味いいのかな。年間通じて過ごせば俺が出来そうなこと伝えられそうなこともある程度できそうだもん。野菜とかも季節によって違うだろうし。

 うん、悪く考えないで、それで良かったって思えることを探すようにしないとな。……同じようなことを何回も考えてるってツッコミはなしだ。だって解決策がないんだから不安になったり何度も悩んだりしちゃうのはしょうがないだろ。

 俺が嬉しく思うのは、ルイもサディさんもこんな悶々してる俺を見ても「そんなこと悩んでも意味がない」とかって切り捨てないことなんだよな。もちろん優先順位が上のものがあるときはちゃんと誘導してくれるんだけど、俺が悩んじゃうこと自体はそのまま受け入れてくれる。それがとっても安心するんだ。

 俺はポツポツと不安を口にして、サディさんはそれを「うんうん」って聞いてくれて、でも2人とも野菜を洗って切ったり肉を切ったりしてる。そんな状態がなんだか無性に笑えてくる。

「ああ、こういう空気感がここのいいところですね」

 俺は笑いながら本音をこぼす。サディさんはちょっと不思議そうな表情をしてるな。

 いいんだ、わからなくて。

 父親には忍耐力がないとか一度決めたことはやり通せとか色々叱られてたから、こんな俺をそのまま認めてくれることにほっこりしちゃっただけなんだ。でも、俺は別に父親のことが嫌いだったわけじゃない。父親は真面目でコツコツ継続するタイプで、それで成功した人だからね。だから最初は俺もそうするべきだって思ってたし、今もそういうことできる人はかっこいいって思ってるし。
 たださ、父親と俺は違う人間だから。生き方が変わっちゃうのは当たり前だよね。
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