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異世界生活編

37.午前は今日もほのぼの

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 俺のアレンジしたムシャーフ煮込みのポテトグラタン風はあっという間になくなった。村長が意外とがっついていてお口にあったようで嬉しいよ。村長もしかして乳製品とか結構好きなのかな。

「イクミのおかげで食事の時間が楽しくなるな」
「え、そこまで?」
「私も楽しいわよー。一緒にいろいろしましょうね」

 サディさんが料理と食事を楽しんでるのは見るからにわかるけどね。ルイも楽しんでくれていたのか。
 食後の洗い物は毎度サディさんがちゃっちゃとやってくれるし、かまども消失してた。キッチン土間の土になったみたいだな。

「小麦粉が高級品でなければなぁ……」
「イクミくんは小麦をよく使うの?」
「それなりに使いましたね。いろいろ使えるんで」
「小麦粉ではないけど、似たようなものも少しはあるわよー」

 サディさんは倉庫の一角にある時間停止効果のある箱の中から2つの袋を取り出した。茶色い粉と黄色い粒子の粗い粉だ。小麦粉と似たようなってことは穀物粉なんだよな?

「少しだけもらっても?」
「もちろんよ。若い頃に買ったはいいけど、カロイモが便利すぎて使ってないのよ」

 確かに、そのまま長期保管できてそのまま焼いたり蒸かせば食べられるものがあれば、粉類を主食にしようとは思わないよな。俺だって米なら炊くけど、毎朝パンを焼くかって言われたらしないし。

 2種類の粉は味見をするために少し水で溶いて薄く伸ばして焼いてみた。バリバリになってしまう前に引き上げて端からクルクルと巻いて食べてみる。あー、なるほどなるほど……なんとなくわかったぞ。黄色い方はあっちで言うトウモロコシ粉みたいなもんだな。茶色の方は小麦じゃないってことは全粒粉でもないし、えん麦なら白いかな? そしたらライ麦あたりか?

「サディさん、これ使えますよ。むしろ使わないとかもったいない」
「定番のきび粉のお粥はいろんな人に不評でね……完全に放置してたのよ」
「あー、ちょっとだけわかります。不評ならお粥じゃない状態で出せばいいんですよ」

 俺がイタリアンにハマってポレンタを作ってみたときもちょっとだけ「うぅん……」ってなったんだよな。パルミジャーノを沢山入れて固めに作ったら美味しくなったけど、そうじゃなかったらちょっと味がボヤケて美味しくないかもしれない。香辛料もないしな。
 でもトウモロコシ粉は味にクセもないしめっちゃいい! 考えればいろいろ使えると思う。

 ライ麦粉はさすがに買ったことも使ったことないけど、ライ麦パンは買ったことがあったな。酸味があって黒くて硬めのパンだろ……? うーん、あれの粉をメインに使えって言われても特性とかがわからないんだよな。馴染みがなさすぎて思いつかないけど、単に「粉」として使うなら例えば唐揚げの衣みたいにするとかには使えるんじゃないだろうか。

 小麦粉にこだわらなくても工夫次第で似たようなもの作れそうじゃんって、俺がめっちゃワクワクした顔してるのをサディさんは見逃さなかったみたいで「好きに使っていいわよ、私にも教えてね」って言ってくれた。

 とりあえず薬草畑に行くので粉の話はおしまい。料理はまた追々考えようと思う。

 畑では村人が作業していて、ラキさんも何かを観察しながら動いていた。俺は今日もサディさんと薬草畑のほうに入る。昨日の雑草抜きの続き……といっても昨日俺が抜けたあとも他の人がやってくれたらしく、俺が思ってたところよりはだいぶ先からの再開だ。これ、分割で雑草抜いたりしても数日置きに元に戻るの繰り返しだな。でも薬の材料なら大事に育てないとだよね。

 種子を撒いたあととか株分けをしたばかりの薬草がある一角はサディさんが1人で見ている。俺があげたニンニクとジャガイモも当然そこに植えてあるはずだ。育つのは楽しみだけど、あれがみんなで食べられるくらいの量にまでなるのは結構先になるんじゃないかな。

「イクミくん、これこれ。ピージャっていうんだけど、葉先がこんなふうに赤くなって少し乾燥しているのが収穫時期なの。草むしりしててちょうどいいのがあったら収穫しちゃってね。これは根を残して土から第一関節分上のところで刈るのよ」

 俺は今日は充電の終わったスマホを持ってきてるから、それで写真を撮って自分用メモを残す。今度はちゃんと機内モードにしてきてるよ。ルイの絵本もそうだったけど、羊皮紙みたいなやつがメインだとすると気軽にメモを取るって感じじゃないから、スマホに記録するのはかなり有用だと思うんだよね。
 写真を見ればごっちゃになりやすい植物の見た目もわかりやすいし。うんうん、これはいいぞ。通訳の魔導具を通して俺に伝わってくる情報はスマホで録音しても日本語じゃないから、メモは俺が自分でわかりやすいように入力しないといけないけどね。

「サディさん! これなんか変なんですけどー」
「どれかしら。あら、よく見つけたわね。ラキ!」
「OOoOoooOOo」
「そうそう。……イクミくん、それはラキが処理するわ。それ、虫の卵なのよ」
「うえぇ」

 茎のところが微妙に他のと違ってプツプツしてるなって思ったんだけど、見逃しやすいっていう虫の卵だった。上手く風魔法を流せば卵だけ剥がすことができるんだって。でもナイフなんかで切り取ろうとすると薬草がダメになっちゃうらしくて、俺は発見したもののできることはなかった。

「あの卵は小さくて緑色だから見つけるのが一番大変なの。だから何もできなかったなんて思わなくていいのよ? 見つけられるのがすごいんだから」
「俺にできることからやってかないと、ですもんね」
「そうね。でも別に気負う必要はないわ。イクミくんは覚えも早いし応用もできる子だもの」

 あはは……。やっぱ慣れないな。
 サディさんて褒めて伸ばすタイプなのかな……。褒められることが多くて少しばかり照れくさくなる。ここまで何しても褒められるってないもん。料理のほうの評価のせいでサディさんの俺を見る目が曇ってるんじゃないだろうかって思ってしまう。

 必死で草むしりと害虫駆除の手伝いをしていたら今日もルイが入り口に来たのが見えた。そろそろかなって思って少し気にしてたからすぐわかったんだよね。ルイの髪の毛ってとってもキレイだし。
 俺はサディさんに声をかけてラキさんにも手を振ってルイのところに駆け寄った。

「ルイ! 今日もありがとう」
「畑は大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫だよ! 走る前に一度家に戻ってもいい? スマホを置いてきたいんだ、走るのに邪魔だし」

 ルイが「わかった」と言って、一緒に家に向かって並んで歩いていた。俺は行きもキョロキョロしていたけど、今も辺りを見回して道を覚えようとしていた。まあ、霧が立ち込めていなければ行けると思うんだけどさ。
 迷子だけはなりたくないよな。また村中のニュースになっちゃいそうだし……。
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