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異世界生活編

36.思いつきの煮込みアレンジ料理

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 俺はどうやら絵本を見ながら眠ってしまっていたらしい。鎧戸を開けると昨日と同じ濃い霧が立ち込めている。うん、やっぱり怖い……。

 階下のお手洗いに寄ってから俺用の水瓶のところに行くと水が満杯になっている。もうすでにサディさんが起きて貯めてくれたんだなってわかった。てことはまた畑を見に行っているのかも。見に行ってみたいけど俺1人じゃこの霧の中を畑に行くのは怖くて無理だなぁ。まだ一回しか畑に行ってないから迷いそうってのもあるし。

 サディさんは帰ってきてないけど、俺はとりあえずカロイモを8個ほど洗っておいた。これなら朝食用で蒸かしたいときにすぐ使える。
 大鍋を覗くと、もうこの朝食で食べ切りって感じだ。だいぶ味も濃くなってるしな。オシャレ料理のアレンジなんて思いつかないかもって思ったけど、オーブンとかあったらカロイモの薄切りの上に乗せて焼いたらミートポテトグラタンみたいになりそう。あー、パンとかあればなぁ。
 むむぅと鍋を前に考え込んでいたらサディさんが外から戻ってきた。

「あら、イクミくん、おはよう。どうしたの?」
「おはようございます。ちょっと料理のことで考えてました。あはは」
「聞かせて聞かせて!」

 サディさんが楽しそうに聞いてくる。でも大したことじゃないんだ。

「ちょっと聞きたいのは、オーブン……えっと、料理用の窯ってあるのかなって」

 俺が今なんとなく考えたやつはオーブンがないと難しいかなとか思って聞いてみた。いや、グラタンなら下火と上火があればいけるか……魔法があればなんとかなりそう?

「窯? できるわよー」
「え、できる?」
「このかまどの上に土魔法でドームを作って熱気を逃さないようにするの。うちでは邪魔だから常に設置してるわけじゃないのよ。でもお料理が好きな人の家にはかまどと窯が常にあることもあるわよ」

 なるほど。あっちみたいに組んでセメントみたいのが固まるまで待つとかを考えなくていいんだもんな。じゃあ、頼んだらそういうのが簡単にできちゃうのか。……そういうのが魔法で簡単にできるのに料理自体は魔法でやらないってのが不思議っつーか面白いんだよな。

「そしたら、ミルク? はすぐ手に入りそうですか?」
「すぐもらってくるわよ。卵とミルクは村でまとめて管理しているから」

 俺が次の言葉を言う前にいそいそと用意をしているサディさんに笑う。ほんと好奇心旺盛っていうかフットワーク軽いっていうか。
 俺も牧場と呼んでいいのかわからないけど家畜を見てみたかったから一緒に行くことにした。

「せっかくだから卵ももらってこようかしら」
「いいですね。魔物肉以外のタンパク質も大事ですよね」
「タンパクシツ……」
「あー。肉とか卵、豆、ミルクなんかにも含まれてる筋肉とかを作る栄養素ですね」

 俺とサディさんは基本的な栄養素について話しながら村の奥へ進む。崖を降りているときにルイがサディさんは栄養とかの話が好きだと思うみたいなこと言ってたけどその通りだな。食いつきがすごい。
 やっぱり霧は濃くて俺はちょっとビビっていたからサディさんの真横を歩いていた。ちょっとでも離れたら姿が見えなくなりそうなんだもん。

 家畜を管理しているというお宅に声をかけるサディさんの後ろに控えていると、その男性からめっちゃいい笑顔で挨拶された。まだ寝ている奥さんが料理好きで、今度のサディさんの薬草料理の会に行きたいと言っているのだそうだ。うーん、プレッシャー。

 育てられている家畜は毛の長い山羊みたいなやつと、鶏的なやつだった。良かった、知ってるような見た目の家畜で。ていうか、これなら全然地球にいてもおかしくない。
 多分だけど、ほとんど同じ生命体もいるんだろうと思う。人間とかそうだし、熊とか猫とかちゃんとイメージ変換できてるもんね。魔力の有無云々でちょっと差が出来ているって感じかなと予想。

 俺とサディさんが卵とミルクをもらって帰ってくると村長がニコニコと挨拶をしてくれた。
 自給自足の村だからこそだけど、必要なときにもらいに行くってなんかほのぼのしてていいなぁ。でも自給自足だけではできないこともあるからルイみたいに外に行って、薬草とかを売っては仕入れをして帰ってくるような役割を持つ人たちもいるんだよね。やっぱ完全自給自足ってのは難しいんだな。

 サディさんがカロイモと卵を茹でている間に、俺は昨日見せてもらった中にあったカンキツ類ももらってその果汁を搾った。ミルクを鍋に入れて沸騰させないように温めて、そこに搾り汁を加える。木べらで軽く混ぜるとタンパク質が分離してくる。これを濾せばカッテージチーズだ。よし、と俺は少しキツく絞って硬めに仕上げた。
 もちろんチーズを濾したあとの乳清も栄養がもったいないから捨てない。あとであの酸っぱいベリーと混ぜて酸味のある飲み物にしよう。冷やしたら運動後に良さそう……。

 カロイモとゆで卵とチーズが出来たから、かまどは窯にしてもらう。
 パエリア鍋みたいな金属製の浅い両手鍋みたいなやつに1cmくらいの厚さに切った蒸かしたカロイモを並べて、その上にムシャーフ煮込みを流して上に作りたてのカッテージチーズを乗せる。これを窯に入れて焦げすぎないようにだけ気をつけながら焼いていく。
 全部火が通ってるから窯じゃなくても良さそうに思えるけど、芋に味を染み込ませるにはこれが一番いいと思うんだ。窯を覗くと鍋の縁にはプツプツと油が跳ねてチーズ部分もほんの少し色味がついてきている。伸びる系のハードチーズがあればもっといい焦げ目がついたりとかするんだろうけど、手作りカッテージチーズだからほとんどそれはない。そんな窯の中を見ながら俺はサディさんとゆで卵の殻を剥いていた。

「なんか……やたらいい匂いがするんだけど」
「あ、ルイ、おはよう!」
「イクミくんのお料理よ」

 料理っていうか……。煮込みとカロイモって組み合わせは夜とほとんど一緒だけどね。ま、いっか。見た目が変わるとちょっと違うもの感が出るしね。

「あ、サディさん、そろそろ良さそう」
「じゃあ出すから、ちょっとどいててね」

 サディさんが金属の棒で鍋の取っ手の輪っかを引っ掛けて窯から出してくれた。おお、思いつきで作ったにしてはいい感じじゃないか。

 俺がゆで卵を半分に切ってそれぞれのお皿に乗せていると、サディさんは「先に取り分けちゃうのはもったいないわ」と鍋をそのままテーブルに持っていった。大皿形式か。まあ、それも楽しいよな。
 いつものように村長がお祈りを捧げて、サディさんが村長のお皿にまず取り分ける。あとはそれぞれどうぞって感じで。

「あっひぃ。……ん、でもなかなか良くできたかも」
「美味しいわ。カロイモの上にかけて別の料理にしちゃうなんて。いつもカロイモは別添えだったから」
「OOOooOoo」
「うっま……」

 白ご飯のイメージなんだな、カロイモ。オカズと白米みたいな。丼ものみたいに考えられるようになったらもっとアレンジできそう。米より芋の方が崩れやすいってのだけは考えなきゃだけどね。

 なんていうか、制限ある中で料理するのって意外と面白いじゃん。手探りにはなるけど、想像した味と近いものになったときの喜びもあるし、違うものになっても意外性って感じで。だけは作り出さないようにしないとな、とは思うけど……。

 みんなで揃って食卓を囲む朝食夕食は俺の楽しみになってる。まあ、まだ来てから間もなくてやることがないし言葉がわからないからなんだけどさ。
 でも何か料理作れば褒めてくれるんだからいい気にもなっちゃうよね。薬草料理の会も頑張ろうっと。


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手作りカッテージチーズにハチミツかけて食べるのが好きです。
明日も更新予定です。
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