上 下
31 / 202
異世界生活編

31.トレーニングの合間の休憩

しおりを挟む
 とりあえず、俺らは村長の家まで戻ってきた。戻るまでの間にいろんな人から声かけられて俺はもうずっとペコペコしまくってたよ……。

「なんか違う意味で、疲れた気がする」
「話題の中心だな」
「倒れたって話ででしょ! 嬉しくない……」

 村長とサディさんは外出中みたいだ。サディさんはまだ畑かな、それか、ラキさんと薬の作業場かもしれないか。俺も薬作りはいつかちょこっと覗かせてもらいたいな。

 ヴァンさんも勝手知ったるって感じで村長の家なのにくつろいでる。ていうか、帰らないのか? 俺の夕方のトレーニングにまで付き合うつもりなのかな。

「ヴァン、勝手にうちの夕飯に手をつけるな」

 振り返るとヴァンさんが大鍋の蓋を開けてる。
 本当に我が家みたいに振る舞うんだねってちょっと笑っちゃう。ルイの兄貴分ってことは実際我が家みたいに育ってきたのかもしれない。

 あの煮込みはやたら美味しかったから気持ちはわかるよ。朝も俺たちは食べたからこの辺匂い残ってるもんね。てか、ルイと俺が村に着いたとき、ヴァンさんは村の外だったからムシャーフ肉が貰えなかったのかもしれない……。結局ヴァンさんがごねてルイが少しだけならいいって言ったのか、ヴァンさんは小鍋によそって温めてる。しかも炭火を熾さないで鍋を両手で包んで魔法でやってる。さすが村一番の魔導士!

 俺はと言えば、気持ちを切り替えようと水瓶の水をシェラカップに汲んで飲んでた。
 帰り道でのあの生暖かい視線と励ましの声掛けが、なんていうか、思っていた以上に男のメンツをゴリゴリ削ってきたから。昨日は小さい子と頑張るもんとか思ったけど、やっぱ、ねぇ? ……って、むむぅという顔をしてたのをルイは見てたようだ。

「眉間にシワが寄ってる」
「あっ」

 トンっとそこを突かれて俺は額を押さえた。

「さっきは、悪かったな。もう少しちゃんとイクミに合わせるべきだった」
「あ、えっと、ルイのせいじゃないよ……俺がひ弱だから……」
「でも、それでも、居心地悪くさせただろ?」

 まあ、ちょっとね……俺、日本人だから『恥』ってのは気にしちゃうんだよね。
 今まで鍛えたことなかったからしょうがないとは思うんだよ。誰でも『最初』があるもんだし最初からできる人なんていないし。でも頭で思うのと心は違うっていうか。俺っていい加減なのか完璧主義者なのかどっちなんだ……まあ、変なとこにこだわっちゃうのは認める……。

「居心地悪いとは違うよ。村の人はみんないい人たちだと思うし。俺が勝手に恥ずかしくなっちゃっただけ」
「そうか……でも、何かあったら言ってくれ」
「ん、ありがと。気持ち切り替えて頑張ろうって思ってるから大丈夫!」

 俺に合わせてトレーニングしてたら、多分……出来る範囲でしかやらなくて成長がゆっくりすぎになる気がするんだよ。動けなくなるほど負荷かける必要はないと思うけど、せっかく付きっきりのコーチがいるんだから頑張らないとだよね。
 それに、少しでも早く村長たちから村を出ていいって言われたい。

「えっと、筋力トレーニングはどこでするの?」
「ここの裏手の広場でいいんじゃないか? 基礎的なのしかしないつもりだから」
「室内じゃないんだ」
「トレーニングを室内で?」

 ああ、こっちだと室内ではやらない感じなのか。そりゃそうか……ジムとかないもんな。中高でも運動部は外でトレーニングしてたんだったわ。俺は文化部系だったから見てただけだけど。

 服の汚れもこっちだとあまり気にしなくても良さそうだしね。浄化魔法すごい。ただ、血液汚れはモノによって落ちないっぽいね。聞いたら、俺のパーカーの血が落ちなかったみたいに、本人の血は無理っぽいんだ。魔物とか他人の血が付着した場合は汚れ判定になるらしいんだけど。そういうの聞くと、魔法って万能ってんでもないんだなぁって思う。よくわからないけどなんか法則があるんだね。
 俺も魔法が使えたらまずは水属性使いたいよ。お水も出せるし汚れキレイにできるし絶対便利だもん。

「あとどのくらいでトレーニングの時間?」
「イクミ次第? 今日はサディさんとなんかやるのか知らないけど」
「うわ、マジか」

 俺も畑で夕飯の用意については特には言われなかったな……。まだ煮込みが残ってるからかもしれない。午後の走るのがなくなったから早めに筋トレしたほうがいいのかも。今日はヴァンさんがずっと付いていてくれるみたいだし。

「じゃあ、もうちょっとしたらにしようかな。実はちょっと寝不足もあって、少しだけ身も心も休めたい……かも」
「昼寝してきてもいいぞ。声かけるし」
「起こしてもらうってのは悪い気もするけど。でも……言葉に甘えちゃおうかな」
「そうしろ。ヴァンのことは気にしなくていい」

 ありゃ、ヴァンさんのこと気にしてたのバレてたか。だって俺まだルイ以外の人には遠慮しちゃうもん……。ルイにお礼を言って部屋に戻るとベッドに横になる。マッサージされて身体のつらさは消えてたけど、それでも昨夜は熟睡してなかったからか横になった途端にすぅっと眠りに引きずり込まれた。

 寝すぎた!? ってハッと目が覚めると結構スッキリした感覚があった。頭も身体もね。でも、ルイが起こしにきてないからそこまで長時間寝てないのかな。ぐーっと伸びをして窓に寄って外を見下ろしてみたらルイとヴァンさんが戦って(遊んで?)た。

「うっわ、すげー」

 ヴァンさんは魔導士のはずなのに短剣持ってるし、魔法を使ってないからそういう縛りでやってるのかな。本当に魔導士なのかなってくらい動いてるし、ヒラリヒラリとルイの攻撃を躱していく姿はまさにニャンコ。俺からは手元が見えなくて素早く移動しては衝突するって感じで、なんかアニメのワンシーンを見てるみたいだった。

 村に着くまでは目の前でルイが魔物を倒してくれても、俺は正直びびっちゃっててあまり見れてなかったんだよね。だからこうやって落ち着いて見るのは初めてだった。二人ともかっこよすぎる。

 俺は棚に置いてたザックからすっかり存在を忘れそうになってたスマホを取り出してみたんだけど充電切れしてた。電波ないのに機内モードとかにしてなかったから早く充電が切れちゃったんだと思う……。せっかくカッコイイ動画が撮れると思ったのにと、とりあえずモバイルソーラーバッテリーに繋いでおく。ソーラー機能がここでどのくらい使えるのかは全くの謎だけど、今はまだ家で満充電にしてきているから問題ない。

「よし! また倒れる覚悟で……行くか!」

 俺は階段を降りて裏の広場に向かった。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

処理中です...