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異世界生活編

27.サディさんの薬草畑

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 美味しすぎる朝食を食べ終わって、ズボンの裾をサディさんに見てもらってから、俺はサディさんやサディさんの娘と孫娘のカリナさんラキさんたちと薬草畑に来ていた。薬草畑はサディさん直轄らしく、女性陣しかいないんだけど? 俺はいいのかな……?

 村長の家からは少しだけ歩いて村の奥に行く感じで、渓谷の崖のほうから少し段々畑みたいになっていた。野菜畑と隣接しているけど薬草畑は野菜畑よりはかなり小さい規模なんだそうだ。とはいえ、野菜畑と並んでいるからそこそこ広く見える。

 朝めっちゃ濃い霧に覆われていた村は今は薄っすらとした霧が漂ってる感じに変化していた。確かに昨日村の中をルイと歩いた時もそこまで『霧!』って感じではなかったもんな。1日の中でこんなに様子が変わるのが不思議だけど面白い。
 朝、サディさんが恵みの霧って言ってた意味もわかった。ていうのは、あのものすごい朝霧は植物に水分を与えてくれて、人が水やりなんかしなくてもいいんだそうだ。この人数の規模の村でこれだけのことができるのは全て霧のお陰なのよとサディさんは言う。

 野菜や薬草の類はこうやって育てることができて、魔物駆除でお肉も手に入るんだからなぁ……。こういうところだから辺境とか言いつつも自給自足みたいなことができてるんだな。魔物は強いし怖いし、完全に安全ってわけでもないんだろうけどさ。

「イクミくん、そういえばルイにジベラのことを聞いたって?」
「あ、ああ! はい。俺のよく使うショウガっていうのに香りが似てるらしいんでちょっと興味が」
「ジベラはラキのいるあたりに植わっているのよ」

 薬草畑に入って左手のほうにラキさんがいた。ラキさんはサディさんの孫娘でルイと同い年ってことなんだけど、なんていうのかな、真面目文学少女みたいなイメージ? ルイよりは若く見える。つまり俺とも歳とか見た目が近い。それだけで俺緊張しちゃうんだけど。べ、別によく見られたいとか思ってるわけでもないし意識してるとかじゃないんだけどなぁ。まあさ、言葉通じないから直接話したりしないしマシ……かな。

 サディさんに着いていってジベラを見せてもらう。うーん、見た目はショウガと全然違う。地下茎はなくて肉厚な葉っぱがシュッとした植物……無理矢理地球の植物に当てはめるとしたら多肉植物? みたいな感じだった。一株抜いてくれて、俺に渡してくれる。嗅いでみたけどショウガの香りはしない。

「香りはあまりしない?」
「葉っぱを折ってみていいわよ」
「あ、はーい」

 パキッと小気味好い音がして葉が折れると少し青臭いけど確かにショウガみたいな香りがする。あ、いいなって思って、サディさんに生でかじって大丈夫か聞いてから少し口に入れる。

「おお……味も似てる。爽快感のある辛味」
「身体を温めたり、胃腸の具合があまり良くないときに作る薬に使われる一般的な薬草ね。最近はラキがいろいろな薬の勉強をしているの。反対にカリナはその辺興味なくてね。あの子は薬が嫌いだったから私が味や香りをなくすのにどれだけ試行錯誤したか……」
「ええ! 味と香り全部消しちゃうんですか? 薬以外には使わないんですか?」
「薬草を?」

 あれ? 薬草は薬の材料ってだけで食材ってイメージはないのかな。あっちだとその辺結構境界線ないよね。漢方、薬膳、ハーブメディカル……サプリとかさ。

「さっき言った俺の世界のショウガっていう植物なんですけど、料理に使って風味を良くしたり加工して薬の材料として使われたりするんです。あと、サディさんに渡したニンニクもそうですよ? あれもあのときは食材として使いましたけど、スタミナ回復みたいなことも言われてて――」

 いつの間にかサディさんの質問攻めにあっていて、その横でラキさんがサディさんの通訳でさらに聞いてた……。
 でも、ごめん。俺、母親がアロマとかハーブとか好きだったから雰囲気で知ってるだけでそこまで詳しくない。
 ただ、彼女らの研究心には火をつけてしまったらしい。二人が盛り上がっていたから、俺はなんとなく他の薬草も眺めていた。

 カリナさんは確かにそこまで薬草研究とか薬の作成には興味がないようで雑草を抜いたりするような雑務を作業的にこなしていた。俺は近くに行ってジェスチャーでこれは抜いていいかとか確認しながらカリナさんと同じような作業をしてみる。抜いた雑草は籠に入れていく。収穫ってわけじゃなくて別のところに捨てるっぽいね。

 カリナさんは、ラキさんの歳から考えたら俺の母親と歳が近いはずだよな。でも見た目はカリナさんのほうが若いかな。ラキさんにしろカリナさんにしろ派手さはないけど綺麗な人だ。サディさんも若いときはかなり綺麗だったんだろうなと思う。

「イクミくん、放っておいてごめんなさいね。あとでまた話を聞かせてね。とりあえず、雑草の除去と害虫がいたらそれも退治ね」

 害虫と聞いて嫌な予感がした通り、葉の裏に青虫を見つけてしまって俺は情けない声を上げていた……。

「まさか、あんなに小さな青虫にあそこまで驚くとは思わなかったわ」
「す……すいません……なぜか昔から幼虫だけは苦手で」
「苦手なものくらいあるわよね。その辺は無理しなくていいのよ」
「なるべく、がんばります、けど」

 俺は基本は雑草抜きをしたりの手伝いをメインに、の害虫退治と、後々は収穫時期の見極めとかもお願いしたいって言われた。そんな大事そうなこと俺が関わっていいのかな……できることはするけど。

 村の他の人たちは薬草畑ほど気を使わない野菜畑の方の管理を手伝っていて、サディさんが直接頼んだ人しか薬草畑の方は入らないそうだ。それで、今後サディさんは本格的にラキさんに薬作りを伝えたいらしいんだけど人手が足りなかったみたい。だから、ラキさんとの時間を取るためにもしばらくは俺にくっついて畑のことを教えてくれるって。でも、俺、いつかここを出ちゃうかもなのにな。――いつ出ていいって言われるかは全くわからないけども。

 俺がニンニクは食材でもあり薬効みたいなのもあるって言ったからか、サディさんは2片のニンニクを薬草畑の方に植えることにしたらしい。ついでにジャガイモもこっちに植えちゃうらしい……俺が最初1個渡したジャガイモはどうせならって残りの1個もサディさんにあげた。でも種芋としては少ないから大事に育てようって思ったみたいだな。
 こっちでも同じように育つのか、は俺もちょっと気になるんだよねぇ。だから植えたニンニクとジャガイモを近くで見られるのは楽しみだったりもする。

 ルイが外部に売りに行っていた「村で育ててる特別な薬草」はララトゥ草という名前だそう。単品でも傷を治したりすることが出来る他、薬の作成時に少量加えるだけで品質や効能を格段に上げるんだって。育成環境は結構シビアらしく、この渓谷じゃないと育たないし、さらに段々畑の上から2番目で育てるのが一番質がいいらしい。そこまで細かく変わるのか! ってちょっと驚いた。
 しかも、ララトゥ草は村の外で見た夜光花みたいに少し光を発するって聞いた。見てみたかったけど、それだけデリケートな薬草だから俺はまだそっちには入れない。貴重な薬草って言ってたしそりゃそうだよね。普通の薬草畑で作業とか注意事項とか知って慣れてからだよな。
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