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異世界生活編
25.『最初』の晩餐
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俺がかまどの左側を占領してたからカロイモを蒸かせなかったのに今気づいた。
サディさんはカロイモなんて今から火にかけておけば足りないときに追加で食べるのには丁度いいでしょって言って、新たに鍋を火にかけながらムシャーフの煮込み料理を器によそい始める。
ああ、やっぱ旨そう!
これはあれだね、牛肉のワイン煮込みって感じ。合格は無理なんじゃないかって思ってた俺の大学が決まったときに家族4人でフレンチ食べに行ったけど、その時に食べたやつに見た目は似てる。あれは牛頬肉だったか。あれも美味しかったなぁ……妹の悠香がかなり気に入ってたんだよな。そこまで仲の良い兄妹でもなかったけど、やたら懐かしく感じてしまうのは帰りたくても帰れないからか。
少ししんみりしてしまいそうになるのを振り払うようにサディさんに声をかける。
「俺のも分けたいので小さい皿があれば貸してください」
「これでいいかしら?」
「あ、3つでいいですよ。俺は味わかるんで3人で食べてもらいたくて」
全員で食べましょうよというサディさんに4人で分けたら一人分がかなり少なくなっちゃうからと説得する。俺はカロイモだけでも平気だし。
そうしてテーブルにムシャーフの煮込み料理とツナの和風パスタが並ぶ。あと果実酒。俺もこっちなら注意してくる人もいないか、と果実酒も頂くことにした。あとから聞いたけど、この果実酒はそこそこ高級品だったみたい……。これも俺を歓迎してるよっていう表現だったんだな。
全員が席につくと、村長が――前にルイがやっていたように――何事かを呟く。ルイもサディさんも同じようにしているから俺はそれをそっと見ていた。これもあとでちゃんと聞いてみようと思う。
そして乾杯をして村長が食べ始めるとルイやサディさんも食べ始めた。3人して俺の作ったパスタから。待ちきれない、みたいに一斉に手をつけるの笑っちゃうからやめてよ。
「旨い!」
「美味しい!!」
ルイとサディさんの声が重なる。村長も多分同じようなことを言ったんだろう。これも口に合って良かった……やっぱ初めて食べてもらうときって緊張するな。
みんなの様子を見て安心した俺もムシャーフ煮込みを食べ始める。スプーンで肉をつついてみるとホロッと崩れた。圧力鍋とかなくてもこんなに柔らかくできるんだな。とりあえず肉だけ食べてみようと口に入れると……。
「~~ッ!!」
ちょっと言葉にならない衝撃的な美味しさだった。あのフレンチの店で食べたお高い牛肉のより美味しいんですけど。え、あの『3つ目熊』こんな味になるの!? スプーンだけで崩れたから柔らかいのはわかっていたけど、だからといって肉から肉汁や脂が抜け落ちているわけではなくて噛むと中から甘い脂が染み出してくる。野生動物的な臭みも全然ないし、なんだこれ。
うわー、ヤバいものを知ってしまった。もし日本に帰れてもこれは思い出しちゃうだろ。
俺たちはそれぞれ美味しさを噛み締めていて、傍から見たら変な光景だったろうな。
でも徐々に酒の入った3人が楽しげに話し出して、俺も釣られて果実酒飲んでみたけどダメだった。味じゃないよ、俺、酒弱いタイプだった……。すぐに真っ赤になってしまって顔が熱くなって水を貰ったんだよね。
だって明日からトレーニング始めるしさ、なったことないけど二日酔いってツラそうじゃん。せっかくルイが決めてくれた予定だから初っ端から計画倒れは嫌だったんだよ。
食事中の話題の中心は俺のパスタ。というか、ニンニクだな。
「ニンニクの香りってたまらないわねぇ」
「なんつーか、食欲をそそる」
「わかりますよ、俺もそれで好きなんです。ただ……めっちゃニオイが残ります。口もそうだけど、胃から上がってくるっていうか」
って俺が苦笑しながら話すとみんなも笑ってた。でも、それは気になっても美味しさの誘惑には勝てないってさ。だよなぁ、ニンニクってそうなんだよなぁ。
肉料理にも合うし、野菜にも合いますよって話すとサディさんは俄然栽培に熱が入るわって燃えてた。香辛料が高級品って言ってたし、その代わりにはなるかな?
香辛料……香辛料? あれ? 鷹の爪って育つのかな? まだ何本か袋に残ってるけど。カラッカラだから正直自信ない。小豆はプランターに撒いたら育ったことがあったから乾物って意外といけるのかもしれないんだけど……。でも、今言うことでもないか。畑仕事を手伝うときにでもサディさんに話してみようっと。
俺はいつの間にかサディさんが持ってきてくれていた蒸かしカロイモに手を伸ばす。煮込みと一緒に食べると美味しい。この芋は味があっさりしてるから何にでも合いそうだし、主食になるのもわかるな。他の味を邪魔しないところはまるで米みたいだ。ただ、まあ、保存食としてこれだけを毎日続けて食べるのはルイが言うように飽きそうだ。
水と交互に頂いたとはいえ、少量の果実酒にフワフワとした良い気持ちでいると、片付けはサディさんがやるからって部屋に戻された。ま、俺、魔法使えないしね……。
ところで、歯磨きがしたい……んだけど、水道がないんだよな。ルイかサディさんにお水を頼むしかないかと思って、もう一回階下に降りていくとサディさんが目でどうしたのと尋ねてくる。
「あのぉ、歯磨きしたいんですけど、お水とかってもらえたりします?」
「そうよね! ごめんなさいね、気が回らなかったわ」
「いえ、面倒かけてこっちこそすいません」
「ちょっと待っててね」
そう言うとサディさんはどこかに行ってしまった。
ちょっと……? てどのくらい、と不安になるくらい待っていると、戻ってきたサディさんの腕に大きめの壺? 瓶? が抱えられている。
「うちに良いのがなかったから借りてきたわ。ここに毎朝お水を張ってあげるからイクミくん専用で使ってね。飲水にも洗い物にもなんでも使えるから。足りなかったらいつでも声をかけてね」
うわぁ、めっちゃ手間かけさせちゃってる……ってちょっと申し訳なくなっちゃったよ。
それは俺用の水瓶ってことで、夕方野菜を洗った水道のないシンクっぽいところの横に設置してもらった。ありがたすぎる。
やっと歯磨きができるよ! って磨いてたら口を泡だらけにしてる俺をじっと見てるサディさん。あ、あれ絶対興味もたれたわ……。
思った通り、歯磨き後サディさんに捕まって歯ブラシと歯磨き粉をマジマジと見られて質問されたよ。歯磨き粉はいいけど歯ブラシはやめて。新品じゃないから。
でも、こっちではどうしてるのかなって思ったら魔物の毛を束ねた細いブラシみたいなのを見せてくれた。昔のアフリカみたいに木の枝噛んだりしてるんじゃなかった。俺の偏見やばいな……別にこっちは魔法が発達してるだけで文化レベルが特別低いってわけじゃないのに。汚れ自体は魔法でなんとかなるらしいから、そこまで必需品じゃないけど、歯に挟まったものを取ったり、よりスッキリするためだったりの物らしい。あと、こっちには歯磨き粉はなかったけど、口をスッキリさせる薬草の液もあるにはあるらしい。俺も自分の歯磨き粉なくなったら試しに使わせてもらいたいな。
さすがに風呂は言えない……。申し訳ないけど、1日置きくらいにルイに頼むしかないかなぁ……?
サディさんはカロイモなんて今から火にかけておけば足りないときに追加で食べるのには丁度いいでしょって言って、新たに鍋を火にかけながらムシャーフの煮込み料理を器によそい始める。
ああ、やっぱ旨そう!
これはあれだね、牛肉のワイン煮込みって感じ。合格は無理なんじゃないかって思ってた俺の大学が決まったときに家族4人でフレンチ食べに行ったけど、その時に食べたやつに見た目は似てる。あれは牛頬肉だったか。あれも美味しかったなぁ……妹の悠香がかなり気に入ってたんだよな。そこまで仲の良い兄妹でもなかったけど、やたら懐かしく感じてしまうのは帰りたくても帰れないからか。
少ししんみりしてしまいそうになるのを振り払うようにサディさんに声をかける。
「俺のも分けたいので小さい皿があれば貸してください」
「これでいいかしら?」
「あ、3つでいいですよ。俺は味わかるんで3人で食べてもらいたくて」
全員で食べましょうよというサディさんに4人で分けたら一人分がかなり少なくなっちゃうからと説得する。俺はカロイモだけでも平気だし。
そうしてテーブルにムシャーフの煮込み料理とツナの和風パスタが並ぶ。あと果実酒。俺もこっちなら注意してくる人もいないか、と果実酒も頂くことにした。あとから聞いたけど、この果実酒はそこそこ高級品だったみたい……。これも俺を歓迎してるよっていう表現だったんだな。
全員が席につくと、村長が――前にルイがやっていたように――何事かを呟く。ルイもサディさんも同じようにしているから俺はそれをそっと見ていた。これもあとでちゃんと聞いてみようと思う。
そして乾杯をして村長が食べ始めるとルイやサディさんも食べ始めた。3人して俺の作ったパスタから。待ちきれない、みたいに一斉に手をつけるの笑っちゃうからやめてよ。
「旨い!」
「美味しい!!」
ルイとサディさんの声が重なる。村長も多分同じようなことを言ったんだろう。これも口に合って良かった……やっぱ初めて食べてもらうときって緊張するな。
みんなの様子を見て安心した俺もムシャーフ煮込みを食べ始める。スプーンで肉をつついてみるとホロッと崩れた。圧力鍋とかなくてもこんなに柔らかくできるんだな。とりあえず肉だけ食べてみようと口に入れると……。
「~~ッ!!」
ちょっと言葉にならない衝撃的な美味しさだった。あのフレンチの店で食べたお高い牛肉のより美味しいんですけど。え、あの『3つ目熊』こんな味になるの!? スプーンだけで崩れたから柔らかいのはわかっていたけど、だからといって肉から肉汁や脂が抜け落ちているわけではなくて噛むと中から甘い脂が染み出してくる。野生動物的な臭みも全然ないし、なんだこれ。
うわー、ヤバいものを知ってしまった。もし日本に帰れてもこれは思い出しちゃうだろ。
俺たちはそれぞれ美味しさを噛み締めていて、傍から見たら変な光景だったろうな。
でも徐々に酒の入った3人が楽しげに話し出して、俺も釣られて果実酒飲んでみたけどダメだった。味じゃないよ、俺、酒弱いタイプだった……。すぐに真っ赤になってしまって顔が熱くなって水を貰ったんだよね。
だって明日からトレーニング始めるしさ、なったことないけど二日酔いってツラそうじゃん。せっかくルイが決めてくれた予定だから初っ端から計画倒れは嫌だったんだよ。
食事中の話題の中心は俺のパスタ。というか、ニンニクだな。
「ニンニクの香りってたまらないわねぇ」
「なんつーか、食欲をそそる」
「わかりますよ、俺もそれで好きなんです。ただ……めっちゃニオイが残ります。口もそうだけど、胃から上がってくるっていうか」
って俺が苦笑しながら話すとみんなも笑ってた。でも、それは気になっても美味しさの誘惑には勝てないってさ。だよなぁ、ニンニクってそうなんだよなぁ。
肉料理にも合うし、野菜にも合いますよって話すとサディさんは俄然栽培に熱が入るわって燃えてた。香辛料が高級品って言ってたし、その代わりにはなるかな?
香辛料……香辛料? あれ? 鷹の爪って育つのかな? まだ何本か袋に残ってるけど。カラッカラだから正直自信ない。小豆はプランターに撒いたら育ったことがあったから乾物って意外といけるのかもしれないんだけど……。でも、今言うことでもないか。畑仕事を手伝うときにでもサディさんに話してみようっと。
俺はいつの間にかサディさんが持ってきてくれていた蒸かしカロイモに手を伸ばす。煮込みと一緒に食べると美味しい。この芋は味があっさりしてるから何にでも合いそうだし、主食になるのもわかるな。他の味を邪魔しないところはまるで米みたいだ。ただ、まあ、保存食としてこれだけを毎日続けて食べるのはルイが言うように飽きそうだ。
水と交互に頂いたとはいえ、少量の果実酒にフワフワとした良い気持ちでいると、片付けはサディさんがやるからって部屋に戻された。ま、俺、魔法使えないしね……。
ところで、歯磨きがしたい……んだけど、水道がないんだよな。ルイかサディさんにお水を頼むしかないかと思って、もう一回階下に降りていくとサディさんが目でどうしたのと尋ねてくる。
「あのぉ、歯磨きしたいんですけど、お水とかってもらえたりします?」
「そうよね! ごめんなさいね、気が回らなかったわ」
「いえ、面倒かけてこっちこそすいません」
「ちょっと待っててね」
そう言うとサディさんはどこかに行ってしまった。
ちょっと……? てどのくらい、と不安になるくらい待っていると、戻ってきたサディさんの腕に大きめの壺? 瓶? が抱えられている。
「うちに良いのがなかったから借りてきたわ。ここに毎朝お水を張ってあげるからイクミくん専用で使ってね。飲水にも洗い物にもなんでも使えるから。足りなかったらいつでも声をかけてね」
うわぁ、めっちゃ手間かけさせちゃってる……ってちょっと申し訳なくなっちゃったよ。
それは俺用の水瓶ってことで、夕方野菜を洗った水道のないシンクっぽいところの横に設置してもらった。ありがたすぎる。
やっと歯磨きができるよ! って磨いてたら口を泡だらけにしてる俺をじっと見てるサディさん。あ、あれ絶対興味もたれたわ……。
思った通り、歯磨き後サディさんに捕まって歯ブラシと歯磨き粉をマジマジと見られて質問されたよ。歯磨き粉はいいけど歯ブラシはやめて。新品じゃないから。
でも、こっちではどうしてるのかなって思ったら魔物の毛を束ねた細いブラシみたいなのを見せてくれた。昔のアフリカみたいに木の枝噛んだりしてるんじゃなかった。俺の偏見やばいな……別にこっちは魔法が発達してるだけで文化レベルが特別低いってわけじゃないのに。汚れ自体は魔法でなんとかなるらしいから、そこまで必需品じゃないけど、歯に挟まったものを取ったり、よりスッキリするためだったりの物らしい。あと、こっちには歯磨き粉はなかったけど、口をスッキリさせる薬草の液もあるにはあるらしい。俺も自分の歯磨き粉なくなったら試しに使わせてもらいたいな。
さすがに風呂は言えない……。申し訳ないけど、1日置きくらいにルイに頼むしかないかなぁ……?
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