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異世界生活編

24.俺からの付け合せ料理

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 とりあえず、使いかけのニンジンとタマネギは育たないらしいし使っちゃわないとダメだな。量は少ないけど何か料理……うーん、一人分は減るけどやっぱパスタかな。サディさんの煮込み料理がメインで、付け合せのパスタって考えれば……ほら、よく洋食の鉄板にもナポリタンとか乗ってるじゃん。あんな感じで。うん、そうしよう。
 あ、一応サディさんに声はかけたほうがいいか。

「ルイ、ちょっとサディさんに料理のことで声かけてくるね」
「ん」

 ルイはまた俺の食材とか飴の袋を手にとって見てたからそれだけ伝えて、俺はまた階下に降りていく。村長とサディさんがテーブルで話していたけど、俺に気づくとすぐ笑顔で声をかけてくれる。

「サディさん、料理の付け合せ、俺も作っていいですか?」
「ええ!? 本当に? ねえ、アル、イクミくんが料理してくれるって!」
「あ、いや、量が少ないんで期待しないで下さい……。だから、カロイモ? は普通にあったほうがいいかと……」
「食べられるだけで嬉しいから気にしないで? アルも楽しみだって言ってるわ」
「あ、あはは……」

 期待値が高いんだよ……やめて。
 でもまあ、一応許可は取ったからそこはよしとしよう。 

 さっき野菜を入れてた籠を借りてもう一回部屋に戻ると、ルイはまだ俺の物をいろいろ眺めていた。まあ、見たことないものばっかだもんな。俺がこの世界でいろんなものに目移りして写真撮りたくなるのと一緒だよね。

「何か他に気になるものがあった?」
「この複雑な模様は綺麗に並んでいるからもしかしたらイクミの世界の文字なのか?」
「これ? そうだよ。俺の国の文字は特に難しいとは言われてる。これが漢字で、これがひらがな、で、これがカタカナでしょ。で、こっちはアルファベット……って言ってもわからないか。俺の世界は言語が沢山あるんだけど、俺の国は特にごちゃ混ぜかな。地方によって訛りもあるし、把握するのは大変。外国語なんかは翻訳アプリもあるけど、オフラインじゃ使えないしなぁ」
「??」
「ん、気にしないで。とりあえず、俺の国の言語は複雑なほうってこと」

 後半独り言みたいなめっちゃ適当な説明になってしまった。そういえばこっちの文字ってまだ見てないな。いや、もしかしたら村の中に表示してあったのかもしれないけど認識できなかっただけかもしれない。まあ、文字は後回しだよな。読み書きよりは理解して話せれば生活はできそうだし。

 そんな話をルイとしながら俺は籠に食材と折りたたみナイフやらメスティンやらも入れる。バラバラに持って降りるのは面倒だからね。まあ、さっきの包丁とか借りられると思ったんだけど、一応。
 俺のシェラカップはチタン製の320ミリリットルのもので目盛りもあるから料理にも使えるし、カップとしても家で普段使いしてたやつだ。この家でも俺のカップとして使うためにキッチンあたりに置いておいてもらおうかな。あと、この組み立て式のカトラリーとかね。

 こっちにチタンとかあるのかな……でもルイのカップとか食器は木製だったから金属ってそこまで気軽に使われるものでもないのかもな。武器防具とかどうしても金属を使うところっての以外は手に入りやすいものを使ってるのかも。俺、もしこの世界にあるならファンタジー定番のミスリルとか見てみたいんだけどな……あるのかな……ないか。

 そしてキッチンに降りようとすると今度はルイが着いてきた。しかもキッチンまで。何か用があるのかなって思ったけど、何も言わずに斜め後ろに立ってるの。
 え、また俺の料理するところ見てるつもりなの? なのになんでサディさんの手伝いしないんだよ。あ、いや、俺の料理も見てるだけで手伝うわけじゃなかったや。

「ルイ、実は料理に興味がある、とか?」
「いや」
「即答!?」
「料理というか、別の世界のってとこに興味がある」

 ああ……ね。さっきも飴の袋ずっと見てたもんね。
 でも、やってることは普通の料理なんだよ。異世界関係ないじゃんか。鍋をかき混ぜていたサディさんも苦笑してるよ。
 ていうか、ムシャーフ煮込みいい匂いすぎ! うわー、食べるの楽しみすぎる。

 俺もさっさとパスタを作ってしまおう。
 サディさんがやっぱり包丁は貸してくれた。日本の三徳包丁よりは厚みがあるから取り回しはちょっと大変だったんだけど、アウトドアナイフより大きいからその分は切りやすい。さっきたくさん皮剥きもしたしね。と、ニンジンを薄いイチョウ切りにしていく。

 ねぇ……俺を見る目が増えてるんですけど。
 ちょっと居心地悪いから、まだイチョウに切ってない生の薄切りニンジンを1枚ずつ渡してみた。二人は「甘い」とか話しながらかじってた。タマネギは毎度の薄切り。これもつまみ食いしたがったからあげたけど、新タマネギじゃないし水に晒してもないからちょっと辛いと思うんだけどな。この二人好奇心旺盛だなぁ……。ニンニクは今回はみじん切りにしよう。切るだけで周囲に独特の臭気が漂う。さすがに生ニンニクのつまみ食いはやめたほうがいいって言っちゃった。好きな人いるのも知ってるけど。
 これでほとんど準備は完了。

 あとは火にかけて調理していくんだけど、このかまど――と呼ぶのか?――は炭火の上に横長の漢字の井の字みたいに金属が渡してある造り。これが五徳代わりになってて、右側には煮込みのでかい鍋が乗ってる。だから空いてる左側を使わせてもらおう。炭火なら火加減はキャンプとそこまで変わらないしね。

 いつものようにオリーブオイルとニンニクをメスティンに入れて火にかける。油がプツプツとしてきてニンニクがきつね色になるとともに食欲をそそるあの香りが。ルイは既に知っているその香りに少し口の端が上がってる。サディさんも「お腹が空くわね」と言ってるし、なんならチラッと村長が覗きに来たのが目の端に見えたよ。
 こりゃ、サディさんがニンニク栽培成功したら流行っちゃうな……。

 そこにニンジンとタマネギを加えてさらに炒めてから、シェラカップに出してもらった水を200mlくらい加えて半分に折ったパスタと塩少々も投入。人によっては具材は避けておいて、パスタはパスタで茹でて後から合わせるらしいけど、俺はめんどくさがりだから一緒に茹でちゃうんだ。
 蓋をして茹でるけど、時々開けてかき混ぜる。パスタがいい感じになってきたら、パウチを開けてツナを加えて醤油を一回しした。醤油……もう少し大きいやつ持ってきてたら良かったのにな、100mlの少ボトルだからあと何回か使ったらなくなっちゃいそう……。
 すぐにニンニクと醤油の香ばしい香りが広がる。俺ですらゴクリとツバを飲み込むんだから、初めてこの香りを嗅ぐこの人たちもたまらんだろう。

「完成!」
「すごいわ! 昔アルたちと各地を回ったときに麺の料理は食べたことがあるけど、こんなの初めてよ」
「もしかして小麦があるんですか!?」
「あるわよー。暖かい地域の高級品だけどね」

 高級品か……ちょっと小麦粉を手に入れるのは無理そうだな。残念。粉もの食べたかった。

「ついでにお聞きしますが、米とかは知ってたりします? あの、麦みたいに穂ができる穀物で、畑じゃなくて水田で育てるやつなんですけど」
「ああ、水田といえば、あれかしらね。あまり詳しくはないけど……」

 米もメジャーじゃないんだな。ルイは完全に知らなかったし。
 でも、サディさんとの会話で一昨日仮説を立てた『この世界にあっても本人が知らなければイメージ変換出来ない』は合ってたことがわかったな。米はルイは知らなくてもサディさんは知ってたし、小麦もこっちで小麦と呼ばれてるかはわからないけど通訳ではそう変換されてるもんね。似たようなものがあればなんとなくモヤッとわかるって感じなんだろうな。
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