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異世界生活編

23.サディさんと料理

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「サディさん、何しましょうか?」
「今日は少し贅沢にしようかと思ってね。ルイがムシャーフなんて持って帰ってくるから昨夜から吊るしてあるの。ルイが下処理してくれてるから余計な魔力もほとんど抜けてると思うわ」

 うちだけじゃなくてみんなにも分けたしね、と嬉しそうに話すサディさん。おお……俺を殺そうとしてきたアイツか。食うのか。まあ、もう魔物の干し肉とか何回も食べてるから抵抗はなくなってきてるけどさ。
 名前のある魔物とそうでないやつはなんか差があるのかと思ったら、やっぱ需要があって売れたりするやつは名前がつくんだそうだ。確かに売り物に名前がないのは困るもんな……。

 ルンルンしながら籠に根菜や野菜を何種類か取っていたので、俺がその籠を持つ。芋とかカブとかみたいな形の根菜や葉物で、見た目で「こんなの食うのかよ」みたいなのはなかった。地球の植物にちゃんと似てる。だからといって、知ってる野菜でもなかったけどね。

「イクミくんは野菜の下ごしらえを……って、お水を出してあげないといけなかったわね。ちょっと待っててね」

 すいません……お水出せなくて。これって手伝いになってるんだろうか、と思っていると、木製のたらい? 桶? のようなものを引っ張り出してきたサディさんがお水をいっぱい張ってくれた。

「根菜は洗って土を落としたら一口大に切ってほしいの」
「はい。皮は剥きますか?」
「そのままでもいいけど、剥いたほうが食感はいいのよね」
「じゃあ剥きます」
「無理はしなくていいからね」

 いやいや、皮剥きして切るくらいできるぞって思うけど、それは言わずにゴシゴシと野菜を洗う。一度に大量に作るのか、4人の量ではないくらいあったからね。浄化の魔法が使えたらあっという間に土も落とせたのかな。だとするとサディさんがやったほうが早そうだけど……。

「こうやって二人でここに立つのが楽しいのよ。本当にうちの男連中は私にばかり食事は任せて……」
「はは……。それはきっとサディさんの料理が美味しくて自分たちが邪魔になっちゃうからじゃないですかね」
「ほんとイクミくんはいい子ねぇ」

 と俺に話しかけたり鼻歌を歌ったりとご機嫌で肉を切り分けていくサディさん。
 俺は俺で、一回水を変えてもらって洗い終えて、根菜の皮剥きをしていた。それを見てサディさんが感心したように褒めてきた。さっきはサディさんに村長とルイのフォローいれたけど、どんだけ料理しないんだよってちょっと思っちゃったよ。
 いや、俺も独り暮らしするまで母親の手伝いしたことなかったや……他人のこと言えなかった、ごめん。

 一口大って聞いてはいたけど一応一回は見本を見せてもらってから種類毎にどんどん切っていく。葉物はみじん切りで、俺が全部野菜を切り終わった時、サディさんはでっかい鍋を熱すると肉を脂身側から炒めだした。どんどん脂が出てきて甘めの匂いが充満する。
 ムシャーフって元々は熊ってことだろ? 日本じゃ熊肉って食べたことなかったなぁ……。どんな味がするんだろう。ルイがくれた干し肉みたいな感じならかなり美味しいのかもしれないけど。

「おおお。すごい。脂身が多いから油で炒めなくてもそのままで全然いけちゃうんだ……」
「しつこそうに見えるでしょ? そんなことないのよ。じゃあ、切った野菜をいれましょ」

 二人で大鍋を覗き込みながら笑う。
 なんか、こういうの結構楽しいな。サディさんは祖母くらいの歳に見えることもあって、そんなに緊張しないで済んでるっていうのもある。

 脂が野菜全体に回り、少し火が通ったかなというところでサディさんが果実酒(と言ってた。色的には赤ワインかな)と、いつの間にか用意してたキノコと水を加えた。

「煮込んでいる間はたまにアク取りをするくらいね。カロイモは食べる時間近くになったら蒸かしましょ」

 煮込み料理の手順はあっちとだいたい一緒だ。安心。ていうか、やっぱ芋が主食なのかな。

「あとは好きにしていていいわよ。野菜の下ごしらえを手伝ってくれたから早く準備できたわ」
「少しでも役に立ったなら良かったです」
「少しなんて! 手際が良くてビックリしたわ。私もルイが食べたっていう珍しい料理を食べてみたかったわー」

 めっちゃ残念そうにサディさんが言う。
 サバの炊き込みご飯かぁ、さすがにもうサバ缶持ってないんだよな……。今残ってる材料で作れるもの、か。ツナなら魚繋がりだけどどうだろうか。さすがにレトルトカレーを出すのはなぁ。焼き鳥缶とかサンマ蒲焼缶とかも残ってるけど料理じゃないよな。あとはパスタかな。

 そもそも、俺の材料はそれぞれ一食分なんだよ。俺は食べないにしても……3人で分けたら足りないよな。ちょっと悩みつつ俺は部屋に戻って自分のザックの中の食材を広げてみた。

 村長が作ってくれた棚を早速使わせてもらう。テントとかの大物系グッズは棚の下側に置いて、食材は机に並べてみる。あ、ニンニクも何片か残ってるし、ジャガイモは丸まる2個使ってなかった。ニンジンとタマネギは使いかけか……。
 俺がめっちゃうーんうーんって悩んでいると、出かけていたルイが部屋を覗き込んで声をかけてきた。

「部屋にいたのか。料理は終わったのか?」
「あ、帰ってきたの? おかえり、ルイ。煮込んでる間、自由にしてていいって言われてね。そんで、俺の料理が食べたかったって話されたから何かできるかなーって見てたんだ。でも量が少ないからさぁ」
「ああ……」
「今日サディさんが作ってくれてるのっていつもより豪華らしいから、どうしようかなとは思ってるんだけどね」

 って話しながら頭の中では最初に予定してた献立をいかに応用するかって考えてた。そしたら、ルイもいつの間にか俺のすぐ傍に立って俺の食材を面白そうに見てた。ルイは一回見てるのにね。

「イクミ、俺はこのイモが気になる」
「へ? ジャガイモ?」
「ジャガイモっていうのか。この辺はカロイモが多いからな。クセがないから食べやすいんだが飽きるんだよ……」
「夕飯のときジャガイモ食べる?」
「ちょっと待った。サディさんに聞いてみよう」

 よくわかんないけどルイはサディさんを呼びに行ったようだ。するとすぐ二人で戻ってきた。

「イクミくんの世界のジャガイモっていうのがあるっていうから見に来ちゃったわ」
「あ、はい。コレなんですけど」

 俺がひとつサディさんに渡すと、目をキラキラさせてジャガイモを見ていた。
 そのあと、両手で包み込んで目を閉じてるんだけど……え、何?

「これ、育てられそうよ!」
「はい?」
「イクミくんさえ良ければ1個貰えないかしら?」
「それは全然構わないですけど……」

 確かにジャガイモは小学生のとき種芋として植えて育てて収穫したことがあったけど、こっちでも育つのかね? って微妙な表情してたのがバレたかな。

「サディさんは植物との相性がすごいから。育成条件とかも結構読み取るぞ」
「マジか……ジャガイモこっちで食べられるようになっちゃうの?」
「食べ物が増えるのは嬉しいわ。楽しみ」
「あ! じゃあ、これは? ニンニクって言うんですけど」

 って俺は5片残ってるニンニクもサディさんに渡してみた。さっきと同じように両手で包んで目を閉じて、パッと嬉しそうな顔をした。あ、これも育てられるんだなって思った。
 だから育てる用にサディさんにニンニクも2片あげたら嬉しそうにジャガイモとニンニクを持って降りていった。
 異世界で俺発祥の植物が育つかもしれないのか……すげーな。
 さすがに切っちゃったニンジンとタマネギはダメだった。タマネギは切ってなかったら育てられそうだったみたいだけど、ニンジンは切ってなかったとしても波長が合わないみたい。残念。
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