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異世界生活編

22.いろいろ気になることはあるけれど

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 ルイはガルフさんとまだ話していた。不思議なことにルイがガルフさんと話している内容は俺には分からなかった。「内容が」っていうんじゃなくて、「言葉が」。

「イクミ、待たせてすまない」
「いいよー。ねえ、通訳の魔導具ってどうなってんの? 俺、ルイの言葉は全部わかるのかなって思ってたんだけど、ルイとガルフさんの話全然わからなかった」
「あ、退屈だったよな。俺が意識向けるの忘れたから……」
「意識……」
「あーー、つまり、どんな内容を誰に伝えたいか、っていうのがしっかりしてないとダメなんだ。今の場合、ガルフと話しつつ、イクミにもわかるようにって俺が意識してればイクミにも伝わったってことだ」

 おお……そんな仕組みだったんだ。
 つまり考えても伝えたいという意思が伴わなければ伝わらないってことか。俺の独り言が伝わらないで済んだのも、ルイの考えてることが筒抜けにならないのもそういうことなのね。
 でも、ルイが今のガルフさんとの会話を気を使って伝えようとしてくれても俺にはどうせガルフさんの言葉はわからないから、あっちでいう電話してる人の片方だけ聞いてるみたいな感じになっちゃうよな。だから俺の関わる会話以外はどっちでもいいかなぁとは思うんだけど、ルイはちょっと気にしてるみたい。

「大事な話だったんでしょ? 俺のことは気にしなくていいんだ。魔導具の仕組みが気になっただけだから」
「大事と言えば大事だな。昨日の坑道の魔物のこととか」
「あー、アレね……」

 スライム、見たことない魔物って言ってたもんな。情報共有ってやつね。そりゃ大事な話だわ……ガルフさん自警団の副団長って言ってたし。
 あとは、昨日上に村の人が数名行ってたのは何か特別なことがあったのかとか、そういう話だったみたい。そういえば、笛の音聞こえてからどうなったのかなぁ……。追い抜かれたりはしてないと思うから、まだ帰ってきてないってことなんだろうけど。

「それにしても、外に魔物が出るなんて思えないくらいほのぼのとしてるね」
「ここは村って規模の割に強固な結界があるからな。他の村が同じような感じとは思わないほうがいいぞ」
「そうなんだ。あ、でも魔物が強いんだっけ?」
「手応えとしてはそうだと思う。魔核持ちでもないのに硬くて強いのに出くわすことが多いっていうか」

 やっぱ強いのかぁ……俺、いつになったら村を出られるようになるんだろ。
 あとまたボヤンとしたイメージのわからんもの出てきた。ものすごく俺の中のラノベやらゲームやらの複合された謎の変換やばい。

「魔核っていうのは何か聞いてもいい?」
「あ、ああ。……そうだな、ざっくり言えば、このエハヴィルドのエネルギーの欠片かけらだな。小さな欠片でも膨大な魔力を帯びていて、これが生物に取り込まれてしまうと普通の魔物よりも強大に変化してしまう。滅多に出会わないがな」
「へぇ……怖いな……」
「魔核は大金で売れるから一攫千金狙いのトレジャーハンターがいたりして悪いことばかりじゃない。魔導具の動力源なんだ。この宝石みたいなやつな」

 魔導具の黒い石のことだった! 強大な魔物とか聞いたあとだと怖く見える。
 そんなの付けてて大丈夫なのかなって思っちゃったんだけど、膨大な魔力を魔導具の回路に流すことでそっちに魔力が回るから装着者には影響はないって。当たり前か。魔物化するような物売れないもんね……。
 魔物にあるうちは魔核と呼んで、取り出されたものはエハヴィールの欠片と呼ばれることもあるんだとか。エハヴィルドとエハヴィールって何が違うんだろ。ま、いっか。

 門からまた村長の家の方に向かって歩きながら色々話す。俺が起きたのがすでに昼近かったし、その後みんなで話し合いしてからの案内だったから今日は本当に簡単にしか回らないって感じ。

「明日からは昼前と夕方くらいに走るのと筋力トレーニングを予定してる。余力次第で畑仕事は考えればいい。武器の扱いはある程度身体ができてないと怪我をするからまだダメだ」
「うん……。頑張るけど、そういうのやったことないから心配だよ」
「ここまで歩ける根性があるんだから大丈夫だろ」

 と、多分無意識にルイが俺の頭に手を乗せて、バッと手を離すと固まった。

「あーー……すまない」
「今更だよ」

 昨日一昨日と散々ポンポンワシャワシャされてるのにって俺は苦笑した。喜んで撫でられたいわけじゃないけどね。でもまあ、ルイならいいかな。
 嫌なことから逃げがちだった俺としては、「根性ある」って言われたことは今までなかったから実は内心嬉しかったんだよね。

 俺らはそうしてとりあえず明るいうちに村長の家に帰ってきた。そしたら村長とサディさんが笑顔で俺を呼んでる。

「えっと?」
「イクミくんの部屋、何もなかったでしょ? とりあえずアルが机と棚とかを作ってみたの。どうかしら?」
「えぇ! なんか、すいません!」

 俺らが出ていってから数時間経ってるとはいえ、いくつかの家具が出来ていることに驚いた。別に塗装されてるとかじゃないのに木の手触りはすべすべとして気持ちいい。
 俺が「うわーうわー」って感激していると村長が部屋に運んでくれた。重そうなのに軽々運ぶなぁ……めっちゃ優しそうな見た目してるけど、元冒険者って言ってたし、きっと村長も強い人なんだろうなって思う。一緒に着いて行ってこの辺に置こうかとかボディランゲージでやり取りした。そのくらいなら喋れなくても伝わるね。
 机とかそこまで必要なものでもなかったけど、『俺が生活するから』って用意してくれたことが心の底から嬉しい。俺、ここに居ていいんだって思って。

 俺に与えられた部屋の窓から徐々にオレンジになっていく空が見える。窓ガラスはないんだなって思って鎧戸を閉めてみようと窓に近づく。

「あ……あれ?」

 窓から村長の家の裏手が見下ろせたんだけど、そこには剣の練習用のカカシとかがある小さな広場があった。妙な既視感があるけど、なんか似たような施設でもあっちにあったっけ? 思い出せなくて「うーん」と言いながら窓からしばらく下を見ていたら、ひょこっと部屋を覗き込んだサディさんから声がかかる。

「イクミくん、夕飯の支度しましょ!」
「あ、はい! 今、行きます!」

 俺はサディさんに着いてパタパタと階段を降りていく。
 既視感はきっと気のせいだよね。普段でもちょいちょいそんな感覚に陥ることってあるけど、ああいうのって大抵似たようなことと勘違いしてる脳のバグだしさ。
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