上 下
20 / 202
異世界生活編

20.村長夫妻

しおりを挟む
 次に俺が目を覚ました時、俺はベッドに寝ていた。
 外は明るい……朝っていうより昼って感じの明るさっぽい? あれ? 夜中に門に着いたはず、と思って上半身を起こした。
 ベッドの足元側、そこに寄り掛かるようにルイが寝ている。野営の焚き火の傍でウトウトしていた時とは違って俺の動きですぐに目を開けないってことは完全に寝ているのかな。

 というか、この状況……俺、倒れて運ばれて寝かされたのか。やっちまった。
 ルイを起こさないように、と、そっとベッドから出ようとしたんだけど、さすがにギシッとベッドが軋んでルイが目を覚ます。

「イクミ、起きたか。身体は?」
「ご、ご、ごめん……。俺、気を……」
「謝らなくていいって何度も言ってるだろ。昨日、イクミが無理してるのはわかってたんだ。なのにイクミが望むからって野営を挟まなかったのは俺だ」

 あ、バレてたんだ。そりゃそうか。
 なんて思ってたら盛大に腹が鳴る。そういえば昨日はロクに食べてなかった……。

「腹減ってるだろ。とりあえず、干し肉かじっててくれ。なんか貰ってくる」

 と、2切れの干し肉と水の入ったカップを渡され、ルイが部屋を出ていく。

 貰ってくる? というか、ここはどこなんだろ。ベッドとサイドテーブルがあるだけで、ほとんど何もないような質素な部屋。俺のザックも置いてある。
 でも、何もわからないのにうろつくのも憚られてベッドに座り直すとゴクゴクと水を飲んで干し肉をかじる。ルイがいつもしてくれたみたいに炙ってあるわけじゃないから、あの美味しさより一段下がる気がする。でも空きっ腹に染みるよ。
 それが呼び水になったのかグルグルと腸が動くような感じがしてくる。

 すると、コンコンとドアがノックされた。

「……ルイ?」
「入るわよー?」

 と、入ってきたのはトレイにいくつかの器を乗せた女性だ。ルイだと思っていた俺は飛び上がってぎょっとした顔をしてしまった。

「あらあら、驚かせちゃったわね。大丈夫?」
「あ、え、……あの」
「ルイから話を聞いているから落ち着いて。ね、私もコレつけているから話わかるわよ?」

 と、サイドテーブルにトレイを置くと俺と目線を合わせてくれる。
 コレというのは額の魔導具だ。自分の祖母くらいの歳だろうか、優しそうな女性がゆったりとした口調で話しかけてくる。

「あなたも色々言いたいこともあるかもしれないけど、とりあえず食事を持ってきたから食べてね。ルイもすぐ上がって来るわよ」

 コクコクと頷くと女性はニッコリと笑って、「見てたら食べにくいでしょう?」と部屋を出ていった。

(ビックリしたー!)

 ルイの知り合いなら警戒しなくていいんだろうけどと、持ってきてくれた食事を見るとスープと芋かな? どうしよう、と戸惑っているとルイが戻ってきた。

「まだ食べてなかったのか?」
「あ、ちょっとビックリしちゃって……」
「イクミの作るような料理じゃないだろうけど、不味くはないから安心しろ」
「うん……いただきます……」

 両手を合わせてからペコっとお辞儀をして、そっとスープをすくって飲んでみる。優しい味だ。素材の組み合わせがいいのかな? 多分味付けは塩くらいだと思うのに味が引き出されてるような感じでスプーンを口に運ぶ手が止まらない。
 何かの芋を蒸かしたようなものは淡白な味だった。ややしっとりした食感はメークインと里芋の間みたいな感じ。味があまりないけど、スープと一緒に食べるといい感じになる。

 俺のそんな様子をルイが見てるんだけど、昨日まで見てたルイと違ってラフな格好をしているからなんかイメージ違ってちょっとドキドキした。

「落ち着いてきたか?」
「うん。食事も美味しかった」
「なら良かった。動けるか? 下で村長たちが待ってる」
「はぇ? 村長!?」

 え、ここ村長の家なの? じゃあさっきの人って村長夫人? 俺、失礼な態度取っちゃったかなって急に緊張してきた。荷物も持って降りたほうがいいかなってワタワタしていると、「そのままでいいから」ってルイに言われた。
 さすがに気になったので、ちょっと申し訳ないけどルイに頼んで身体を綺麗にする――浄化の魔法をかけてもらって身体をスッキリさせてもらってからルイに着いて階下に降りた。

「あの、ごちそうさまでした。美味しかったです」

 と言うと女性は「良かったわ」と笑って俺からトレイを受け取った。
 ダイニングテーブルみたいな大きめのテーブルに、こちらも人の良さそうな男性が座っていて、ルイと何か話している。俺がどうしようと部屋の隅で棒立ちになっていると、ルイが声をかけてきて座らされた。

「イクミ、こちらがこのムル村の村長のアルモスさんと奥さんのサディさんだ」

 すぐ二人を紹介してくれたんだけど、あれ? サディさんって……。

「ルイはね、お母さんって言ってくれないのよ」
「……言えるか」

 ルイがボソッと呟いたのが聞こえたんだが。ていうか、村長夫妻がルイの親代わりってことだったのか!
 通訳の魔導具を付けているのはルイとサディさんだけで、村長さんはしてないから何か呟いていることはあるのに理解できない。それがなんか申し訳ない。

「私たちは昨日ルイがあなたを担いて帰ってきてから、一応何があったか話は聞いているの。大変だったわね。まだ、こんな子どもなのに可哀想に……」
「いやいや! 待って!! 俺18ですけどっ!?」

 あまりにも聞き捨てならない言葉が聞こえて村長の奥さんなのにツッコミ入れてしまったんだけど、さらに衝撃的なことに、俺の言葉を聞いたルイまでも驚愕の表情を浮かべていた……待ってくれ。

(え、俺ずっと子どもと思われてたの!? 保護対象ってそういうこと? だから頭ポンポンだったのかよ!)

 俺と目が合ってルイが気まずいといったようにフッと視線を逸らした。冗談じゃなく本気でそう思ってたみたいだな、チクショー……。
 ルイは俺にむかって商人かとか料理人かとか言ってきたし、子どもと思われてるとは想定外だった。俺は俺で「学生だよ」って伝えてたし……いや、学生でわかるわけないか。

 俺たちのそんな様子を見たサディさんが「世界が違うならしょうがないわよ」なんて、動じない態度でフォローしてくる。しかも、かなり歳上だと思っていたルイと俺って4歳しか違わなかった……マジかよ。
 そうだね、そうだよ、あっちでも日本人は幼く見えるんだ……でもさ、悔しい。

 少しばかり衝撃で固まってしまったけど、立ち直ってまた話を再開する。

 俺の話はルイとサディさんが都度村長に通訳してくれている。
 ルイの魔導具を村長が付けて話すという案も出たんだけど、村長からは細かい事情はルイが把握していたほうが良いだろうと言われてこういう形になった。でも、ルイの通訳の魔道具は元々は村長の物だったんだって。本当は村長は冒険者になった息子さんにあげようとしたけど、時代遅れとか言われて貰ってくれなかったのをルイが引き継いだってのを聞いた。

 ルイが村長夫妻に俺のことをざっくりと話しているとは聞いたけど、俺からも経緯や俺の考えなんかを改めて話した。

「――って感じで、俺が違和感を覚えた後すぐルイに出会っているのでお二人がルイに聞いたことでほとんど間違いはないと思います。……それで、俺は元の世界に帰る方法を探したいと思ってるんです」
「でも、それにはここを出て各地に行ってみなくてはならないんじゃないかしら? 少なくとも私たちはこの村に何十年も住んでいて、その前は別のところも行ったけどそういう話は聞いたことがないもの」

 サディさんは頬に手を当て少し困り顔で答えてくれる。
 マジか……。こういう事例は全くのゼロってことなのか? と思っているとルイが村長の言葉を通訳してくれた。

「村長が言うには、自分たちが冒険者をしていたときにはそういうことを意識して調べたり聞いたりしていなかったから耳に入ってこなかっただけかもってことだ。大昔からの色々な記録のある大神殿の神官なら少しは特別なことを知っている可能性があるって。あくまでも可能性だけみたいだが」
「本当? 可能性が少しでもあるなら確かめたいよ」
「ただし!」

 逸る気持ちで大神殿のことを聞きたがった俺に釘を刺すようにルイが言う。

「村の者たちがある程度の腕前にならないと外に出してもらえないのと同様に、イクミも一度村に入ったからには村長の許可なしに出ることは許されない」
「え……」
「ごめんなさいね、イクミくん。こればかりはルイも私たちも破らせる訳にはいかないわ。例外を作ると他の者に示しがつかないもの」

 ちょっと言葉を失う俺。村長は難しい顔をしているし、サディさんは眉尻を下げたような顔になっているし。
 俺だって、ここに来なければ野垂れ死にだったから、村に来ない選択肢はなかったけど……困ったな。

「じゃあ、俺、どうしたら……」
「鍛錬するしかないだろ」
「そうよ? イクミくん、ここに来るまでにルイに守られていたんでしょう? 大神殿のことを知ったとしてどうやって行くつもりだったの?」
「う……」

 痛いところを突く。でも、そうだよな。ナチュラルにルイに一緒に行ってもらえばいいやって思いかけてた。なんて失礼なんだろ、俺。


**********
いつもより長くなってしまいました。区切りが……。
ここからは村人との交流も出てきます。
本日も妄想垂れ流しにお付き合いくださりありがとうございます!
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

処理中です...