霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

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キャンプのはずだったのに……

17.新たな……

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 坑道内はさっきまでの崖沿いに比べたらマシだなって思った。あ、人によっては無理かも……。虫とか蛇とか蝙蝠みたいなやつとかが結構いた。俺は幼虫じゃないなら、まあ、うん。
 毒虫・毒蛇は出ないって聞いてたから安心してたのもある。別に魔物みたいに襲いかかってくるわけでもないし、どっちかというとあっちが逃げるから。まあ、何度も言うけど、幼虫じゃないからね! 蛇も足がなくてうにょうにょしてるのになんでこんなに全然違う感覚になるんだろうな、謎だ。ただ、某冒険映画みたいな一面蛇の中に入れって言われたら無理だけどね。

 それはそうと、寒い。防寒着を出したいくらいだけど、ザックの下の方に押し込んじゃったからちょっと我慢している。夏だからって半袖ハーフパンツとかじゃなくて長袖長ズボンなのはアウトドア慣れしてるからだけど、登山靴に引き続いてそのことについても自分自身を褒めてやりたい気分だ。

 中は木枠があったり石が積み重ねられたりしているわけではなく、岩盤を掘って作ったみたいに見える。でもところどころから水が染み出していたりするから、鍾乳洞っぽくも見えるな。
 初めて上から水が垂れてきたときは変な声上げてルイをビックリさせちゃった……ごめん。だからそのあとはパーカーのフードはかぶってる。少しマシかなって思って。

 俺はルイがあまり離れるなって言ってた言葉通りにルイの近くを歩いていた。でもルイが何かを後ろに避けることがあったら邪魔かなって思って少し斜め左後ろらへん。ルイにもその辺でオッケーもらったし。

「イクミ、もうそこまでキツい道はないから」
「えっと、それはルイからしたらキツくないだけでは?」
「いや、本当に。今までのイクミを見ていたらどういうところがしんどそうなのかはわかるから」

 そうなのか? と、考えていると、いきなり腕に衝撃がきた。
 ルイの反応より先に俺に何かが当たったのは初めてだ……。

「うっ!」

 見ればパーカーの左袖が破けて血が出てる。何が起こったのかさっぱりわからない。

「な……なに? え?」

 ルイが俺を振り返って少し驚いた表情をしていたから本当にわからなかったんだと思う。

 チッと舌打ちしたルイが短剣で何かを弾いたあと、俺の斜め上の天井? 岩盤に火の玉を連発して叩き込む。すると岩盤だと思ってたところがデロ~ンと剥がれて、変な粘性の塊――知ってるモンスター名で言えばスライム――が地面に落ちてきた。
 丸くてプルプルして可愛い……のはゲーム内だけかよ。デロデロビチョビチョのくせにそこそこ素早くて気持ち悪い。俺の要注意リストに幼虫の次に載せたくなった。
 というか、ルイの魔法とか短剣を食らってまだ生きてるんだぜ? スライムって雑魚じゃないのかよ。
 と思ったけど、ルイの次の一撃でサラサラの水状になって消えていった。やっぱり生活魔法よりは剣のほうが強いんだな。
 それを見届けたら安心したのか急にクラクラして、俺はその場に座り込んだ……。

「イクミ、大丈夫か?」
「あ、うん。ちょっと急に力抜けて。ごめん」
「いいから。傷見せてみろ」

 俺の腕からはドバドバじゃないけど、それでもダラダラと血が流れていて傷口が脈打つようにジンジンドクドクしているように感じた。それに傷口の周囲が黒っぽくなっている……。

「あ、貰った薬……ザックに……」
「いや、そっちじゃない。まずは毒消しを」
「え? 毒?」

 俺が呆けている間に、ルイはさっさとバッグから俺が貰った薬とは別の色の栓がしてある瓶を取り出して傷口にかけてきた。カッと一瞬熱くなったけど、脈打つような感じが少し減った気がした。

「瓶に残ってる分は飲んどけ。あと、こっちも飲んで」

 次に渡されたのは俺が貰ったのと同じのみたいだった。俺は言われるがままに両方の薬を飲み干した。瓶が小さくて助かる……。2本目の薬を飲んだら、すーっと傷口が塞がっていくのは見ていてちょっと面白かった。なにあれ、すごい。
 あ、そういえば、見たいと思っていたのに薬の色見るの忘れたや。毒消しは傷口にかけたから淡水色なの見えたけど。

「ルイ、いつもごめんね。ありがとう」
「謝る必要はない。むしろ俺こそすまない。――あんなの初めて見たんだが……。気配もなかったし何だったんだ。……村に戻ったら報告が必要だな」

 後半独り言のように呟いているルイを見ながら、俺がクラクラしたのって毒のせいだったのかって思い返していた。攻撃されたの腕だったから良かったものの、首だったら終わってたんじゃないか? こっわ!
 しかもスライム――と勝手に呼んでるけど――に殺される俺。そんなんになったら悲しすぎる!

 でも、何度もここを通っているはずのルイが初めて見たってどういうことなんだ。新種発生? それともどっかからやってきたのかな。気配がないってやばいよね……俺が気配なんてわからないということはこの際置いといて。あのスライムの仲間、この奥にもまだいるんだろうか。
 と考えた俺と似たようなことをルイも考えたんだろうな。後ろを振り返って、その後、少し考えたような顔をして言った。

「少し乱暴な手を使うから、そのまま座っててくれ。顔も伏せて覆っていてくれれば尚良い」
「も、もちろん!」

 俺はすぐさまルイに言われた通りにする。
 すると、坑道内のをゴウっと突風が前方に向かって流れている? 見えないからちょっとよくわからないけど、空気が持っていかれるような変な感覚。そうして、ずっとうずくまっているとパーカーのフードの上から頭をポンと叩かれた。

「とりあえず顔あげて良いぞ」
「な、何したの?」
「風魔法を何回か放った。壁や天井に張り付いてるアレがいたら、多分通路に落ちたと思う。眼の前の下に落ちてたら流石に気づくだろう」
「なるほど? さっきみたいに火だとやっつけられないから?」
「いや、通路の先の方まで届くような火魔法は俺には使えないし、仮に使えてもこんな狭いところで使ったら蒸し焼きだ」
「…………そうだね」

 俺もうっかりしていた。ゲームなんかじゃ最上級の火炎魔法もダンジョンで使ってたから。とか思ってたんだけど、『魔導士』ならその辺のコントロールもできる人が多いんだって。
 生活魔法はただその現象を起こすだけに近いけど、魔導士が使う魔法は術式を構築して対象・範囲・威力なんかを設定するのだそうだ。ああ、もう学問だね。難しそう。
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