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キャンプのはずだったのに……

15.休憩

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「もう……今回は……しばらく、無理」

 俺は服が汚れるのなんか関係ないって感じで倒れるように地面に横になる。ザックも下ろして脇に寄せた。少し……目を……つぶりたい……。

 ……。

 はっとして目を開けると、ルイが少し心配そうにこっちを見ていた。

「俺、寝てた?」
「気が張ってただろうからしょうがない」
「うっわ、マジごめん」
「ほれ」

 ルイが干し肉を火魔法で炙って渡してくる。
 俺は起き上がってありがたく頂いた。ああ、染みるなぁ……。
 そういえば食べずに歩いてたよねと思ったら、こっちではあまり昼食を摂らないらしい。小腹を満たすために少しつまむ程度だそうだ。日本も昔は1日2食だったらしいし本来そんなもんなのかもしれない。

 ルイの様子を横目で見る。俺が寝ちゃったせいか、ルイもしっかりと腰を落ち着けてしまっている。脚を止めさせてしまったことが心苦しい。なのに全然責めてこないんだもんなぁ……。
 ルイは崖を背もたれにくつろいでいるけど、長身ゆえの長い脚が俺の方に伸びている。魔物と戦っている時、すごい跳躍してたけど脚の筋肉どうなっているんだろう。ムッキムキなのかなってちょっと思ったけど、それにしては全身はスラッとしてるんだよなぁ。なんて考えながら、俺は味がしなくなるくらいまで干し肉を噛みまくっていた。

 そんな俺をチラチラと見ていたルイはバッグの中から干し肉でも芋の粉でもない、茶色のシワシワした何かを取り出した。「ん」と俺にそれを差し出してきたから思わず受け取ってしまったけど、えっと、コレはなんだろう?

「えーと?」
「ああ、これは干した果実で……」

 少し気まずそうな表情なのはなんでなんだぜ?

「イクミが疲れた時には甘いものって言っていただろう?」

 俺がさらっと言ったことを覚えててくれたのか。え、ちょっと嬉しいな。
 そうか、これはこっちの世界のドライフルーツなんだな。香りはあまりないけど、元々はどんな果物だったんだろう。ルイがチビチビとかじっているので、俺も少しかじってみる。お菓子のような甘さはないけど、さっぱりした酸味とほんのりした甘さがある。
 俺が知ってるドライフルーツというとレーズン、プルーン、アプリコット、マンゴーといったところだけど、そのどれとも違うなって思った。ドライマンゴーなんて砂糖でかなり甘くなってるからあれは別物だなって感じだけど。
 コレは皮は少し硬くて実の部分は少しフカフカとしていて、口の中の水分はちょっと持ってかれるけど美味しい。酸味が疲れた身体に心地良いし、自然な甘みもたまらない。

「美味しいね」

 と、にへっと笑って言うとルイも目を細めてた。

「ザナの実というんだ。渓谷では干した果実はまず食べられないから、こうやって外に行ったときに……少し、買ってきてるんだ。ほら、えっと、土産というか……村の、子どもにも、やるし……」
「そうなんだ! そっか、こんないつも霧が出てたら干せない感じ?」
「いや、乾燥はできるが。干すのに向いてる果実があまり村にない」
「干せるの!?」
「天日じゃないけどな」

 ああ、なるほど。日本でも干物を乾燥室で作ったりしてるもんな。日本で言う技術的なところをこっちでは魔法でなんとかしてるって感じなんだろう。
 どうでもいいけど、俺としては魚の干物は天日干しが正義だと思う。

 それにしても……、ルイがどうも歯切れ悪い喋り方してるのが気になる。どうしたっていうんだろう。まさか、具合が悪いとかだったらどうしよう?

「あのさ、ルイ、なんかあった? 大丈夫?」
「……は?」

 明らかにルイが動揺してるから、俺もちょっと困惑する。でも聞かなかったほうが良かったのかな。なにかトラブルでもあって、俺に心配させないようにしているのかもしれない。
 と、そこまで考えて俺はさーっと自分の血の気が引くのがわかった。ルイに何かあったら俺はここで干からびるか落ちるか魔物に食われるかしか想像つかない……。

「ル、ル、ルイ……。怪我とか具合が悪いとか、それとも……」

 俺がアワアワとなりながらルイに近寄っていくと、

「ち、違う! 元気だ!」
「でも……」

 ルイは俺のおでこを押さえて近寄るのを拒否するけど、俺はそんなこと構っていられない。ルイの手足や顔に触れてみるが熱もなさそうだし痛いところもなさそうだ。どうしよう、わからん。

「…………本当は、子どもたちには買ってなくて……」
「へ?」

 そっぽ向いてすっごい小さい声でゴニョゴニョと呟いているんだけど。ちょっと話が見えない。これはツッコんでいいのか? いいよな?

「ルイ、話が見えないよ……」
「………………俺用で。俺の好物で。……その、村で、あまり言わないでくれたら……助かる」

 はぁとため息をついたあと、俺と目を合わさずに小さな声のままルイが言う。

(ちょおぉぉ! え、何。可愛いかよ。端正なイケメンが、ドライフルーツが好物で恥ずかしがってんの!?)

 俺が目を見開いていると「見るな」って呟くルイの頬に少し朱が走ったようにも見えた。
 いや、それにしても俺からしたらドライフルーツだけでそこまで恥ずかしいかって感じもするけどね。だって、俺、すでに飴をルイにあげてるし、高校生の時、男数人でケーキバイキングなんかにも行ってたからさ。

「ねえ、そんなの全然恥ずかしがらなくていいんじゃない? あ、でも、俺、ルイが嫌なら言わないよ」
「いや、でもいい大人の男が……」
「大人とか関係ないじゃん! 好きなものは好きなんだから!!」

 俺がつい大声で言っちゃうと、ルイもちょっと驚いてた。ていうか、堂々としてたら全然様子おかしいとか思わなかったのに……っていうのは多分言ったら可哀想だよな。
 それで、また俺の頭をグシャってしたあとポンポンされた。んー、ギャップ萌えのあとの頭ポンポンはヤバいんじゃない? なんか俺の脳内に女子数名がパタパタと倒れるような少女漫画みたいなシーンが浮かんで、ちょっと笑っちゃいそうになる。

 でも、そっか。俺が疲れたときには甘いものって言ったのを覚えててくれたのも嬉しかったけど、疲れ切ってる俺を見て自分のために買った好物をくれたのか……。やばい、嬉しい。やることまでイケメンなのかよ……。

「俺! めっちゃ元気出た! 歩けるよ」

 ルイは「そりゃ良かった」とまだ少しぎこちない風に言った。
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