霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

文字の大きさ
上 下
15 / 226
キャンプのはずだったのに……

15.休憩

しおりを挟む
「もう……今回は……しばらく、無理」

 俺は服が汚れるのなんか関係ないって感じで倒れるように地面に横になる。ザックも下ろして脇に寄せた。少し……目を……つぶりたい……。

 ……。

 はっとして目を開けると、ルイが少し心配そうにこっちを見ていた。

「俺、寝てた?」
「気が張ってただろうからしょうがない」
「うっわ、マジごめん」
「ほれ」

 ルイが干し肉を火魔法で炙って渡してくる。
 俺は起き上がってありがたく頂いた。ああ、染みるなぁ……。
 そういえば食べずに歩いてたよねと思ったら、こっちではあまり昼食を摂らないらしい。小腹を満たすために少しつまむ程度だそうだ。日本も昔は1日2食だったらしいし本来そんなもんなのかもしれない。

 ルイの様子を横目で見る。俺が寝ちゃったせいか、ルイもしっかりと腰を落ち着けてしまっている。脚を止めさせてしまったことが心苦しい。なのに全然責めてこないんだもんなぁ……。
 ルイは崖を背もたれにくつろいでいるけど、長身ゆえの長い脚が俺の方に伸びている。魔物と戦っている時、すごい跳躍してたけど脚の筋肉どうなっているんだろう。ムッキムキなのかなってちょっと思ったけど、それにしては全身はスラッとしてるんだよなぁ。なんて考えながら、俺は味がしなくなるくらいまで干し肉を噛みまくっていた。

 そんな俺をチラチラと見ていたルイはバッグの中から干し肉でも芋の粉でもない、茶色のシワシワした何かを取り出した。「ん」と俺にそれを差し出してきたから思わず受け取ってしまったけど、えっと、コレはなんだろう?

「えーと?」
「ああ、これは干した果実で……」

 少し気まずそうな表情なのはなんでなんだぜ?

「イクミが疲れた時には甘いものって言っていただろう?」

 俺がさらっと言ったことを覚えててくれたのか。え、ちょっと嬉しいな。
 そうか、これはこっちの世界のドライフルーツなんだな。香りはあまりないけど、元々はどんな果物だったんだろう。ルイがチビチビとかじっているので、俺も少しかじってみる。お菓子のような甘さはないけど、さっぱりした酸味とほんのりした甘さがある。
 俺が知ってるドライフルーツというとレーズン、プルーン、アプリコット、マンゴーといったところだけど、そのどれとも違うなって思った。ドライマンゴーなんて砂糖でかなり甘くなってるからあれは別物だなって感じだけど。
 コレは皮は少し硬くて実の部分は少しフカフカとしていて、口の中の水分はちょっと持ってかれるけど美味しい。酸味が疲れた身体に心地良いし、自然な甘みもたまらない。

「美味しいね」

 と、にへっと笑って言うとルイも目を細めてた。

「ザナの実というんだ。渓谷では干した果実はまず食べられないから、こうやって外に行ったときに……少し、買ってきてるんだ。ほら、えっと、土産というか……村の、子どもにも、やるし……」
「そうなんだ! そっか、こんないつも霧が出てたら干せない感じ?」
「いや、乾燥はできるが。干すのに向いてる果実があまり村にない」
「干せるの!?」
「天日じゃないけどな」

 ああ、なるほど。日本でも干物を乾燥室で作ったりしてるもんな。日本で言う技術的なところをこっちでは魔法でなんとかしてるって感じなんだろう。
 どうでもいいけど、俺としては魚の干物は天日干しが正義だと思う。

 それにしても……、ルイがどうも歯切れ悪い喋り方してるのが気になる。どうしたっていうんだろう。まさか、具合が悪いとかだったらどうしよう?

「あのさ、ルイ、なんかあった? 大丈夫?」
「……は?」

 明らかにルイが動揺してるから、俺もちょっと困惑する。でも聞かなかったほうが良かったのかな。なにかトラブルでもあって、俺に心配させないようにしているのかもしれない。
 と、そこまで考えて俺はさーっと自分の血の気が引くのがわかった。ルイに何かあったら俺はここで干からびるか落ちるか魔物に食われるかしか想像つかない……。

「ル、ル、ルイ……。怪我とか具合が悪いとか、それとも……」

 俺がアワアワとなりながらルイに近寄っていくと、

「ち、違う! 元気だ!」
「でも……」

 ルイは俺のおでこを押さえて近寄るのを拒否するけど、俺はそんなこと構っていられない。ルイの手足や顔に触れてみるが熱もなさそうだし痛いところもなさそうだ。どうしよう、わからん。

「…………本当は、子どもたちには買ってなくて……」
「へ?」

 そっぽ向いてすっごい小さい声でゴニョゴニョと呟いているんだけど。ちょっと話が見えない。これはツッコんでいいのか? いいよな?

「ルイ、話が見えないよ……」
「………………俺用で。俺の好物で。……その、村で、あまり言わないでくれたら……助かる」

 はぁとため息をついたあと、俺と目を合わさずに小さな声のままルイが言う。

(ちょおぉぉ! え、何。可愛いかよ。端正なイケメンが、ドライフルーツが好物で恥ずかしがってんの!?)

 俺が目を見開いていると「見るな」って呟くルイの頬に少し朱が走ったようにも見えた。
 いや、それにしても俺からしたらドライフルーツだけでそこまで恥ずかしいかって感じもするけどね。だって、俺、すでに飴をルイにあげてるし、高校生の時、男数人でケーキバイキングなんかにも行ってたからさ。

「ねえ、そんなの全然恥ずかしがらなくていいんじゃない? あ、でも、俺、ルイが嫌なら言わないよ」
「いや、でもいい大人の男が……」
「大人とか関係ないじゃん! 好きなものは好きなんだから!!」

 俺がつい大声で言っちゃうと、ルイもちょっと驚いてた。ていうか、堂々としてたら全然様子おかしいとか思わなかったのに……っていうのは多分言ったら可哀想だよな。
 それで、また俺の頭をグシャってしたあとポンポンされた。んー、ギャップ萌えのあとの頭ポンポンはヤバいんじゃない? なんか俺の脳内に女子数名がパタパタと倒れるような少女漫画みたいなシーンが浮かんで、ちょっと笑っちゃいそうになる。

 でも、そっか。俺が疲れたときには甘いものって言ったのを覚えててくれたのも嬉しかったけど、疲れ切ってる俺を見て自分のために買った好物をくれたのか……。やばい、嬉しい。やることまでイケメンなのかよ……。

「俺! めっちゃ元気出た! 歩けるよ」

 ルイは「そりゃ良かった」とまだ少しぎこちない風に言った。
しおりを挟む
感想などいただけると励みになります。匿名メッセージはマシュマロへWaveBoxへどうぞ。
感想 6

あなたにおすすめの小説

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騎士団長を咥えたドラゴンを団長の息子は追いかける!!

ミクリ21
BL
騎士団長がドラゴンに咥えられて、連れ拐われた! そして、団長の息子がそれを追いかけたーーー!! 「父上返せーーー!!」

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

王と宰相は妻達黙認の秘密の関係

ミクリ21 (新)
BL
王と宰相は、妻も子もいるけど秘密の関係。 でも妻達は黙認している。 だって妻達は………。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...