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キャンプのはずだったのに……
13.崖っぷち
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この卵型の石はこの分かりづらい下り口の目印なんだろうな。門柱みたいだなと思って石を撫でながら石と石の間を通る。
最初こそ背丈の低い植物が生えてて獣道っぽさがあるけど、すぐに人がすれ違うのは難しいくらいの崖沿いの細い道に変わっていく。
なんかあれだ、外国の山岳地帯の細い板しか渡してないところなのに子どもが何時間もかけて通学してるみたいなのをテレビで見たことあるんだけど、あんな感じっていうか……。道じゃないじゃん、みたいな。
足元を見ないのは踏み外しそうで怖いけど、足元を見ると崖が見えて怖いっていうね。でも霧のお陰で高さが誤魔化されてるのはちょっとマシかもな。
あと、俺のザックが邪魔……。マジックバッグ欲しい。
多分、ルイがひとりでここを行くならもっと早くひょいひょいと進んでいくんだろうなって思う。でも俺に合わせてくれてるのがめっちゃわかって申し訳ないやら嬉しいやら。
本当は話しながら歩きたいんだけど、道も悪いし危ないからひたすら無言。滑落とかしたらそれこそ洒落にならないもんね。
ていうか、ここで魔物が出たらどうするんだろうか。戦うの無理そうだけど……。なんて思いながら慎重に着いていくんだけど、この崖沿いの道だけやたら静かだ。黙々とルイについていって、あの石のところから2時間くらい歩き続けたかなってくらいでやや広くなっている場所があった。
「休憩」
「ふぅ、良かった。そろそろ気力も限界近かったよ」
とにかく足場が悪すぎて神経張り詰めてたんだよね。飲み物も欲しいし、座りたい。でもこういう時に長く休憩すると余計きつくなることも俺は知ってる。少し気持ちを切り替えたらまた進んだほうがいいだろうなって考えてた。
休憩場所は上と同じような大きな卵型の石があった。というか、道の起点終点に2つずつ、休憩場所に4つって感じか。何かの目印みたいなもんかなとナデナデしながらしゃがみ込んでいると、
「イクミ、カップを」
ルイが手を差し出してくるので、俺はザックからシェラカップを取り出して渡した。すぐに魔法の水を注いでくれる。あの魔法って自分でできるならカップなんかに入れずに直接口の中に水を出せばそのまま飲めるのかって思いついて笑った。どんだけズボラだよって思っちゃったからなんだけど、俺ならやりそうすぎて。
まあ、それはいいとして、出してもらった水は一気に飲み干しちゃったよね。もう緊張で喉カラカラ。
「いや~ヤバいね。道こっわ!」
「この道しかなくてな。普通に着いてきてくれてて助かるが」
「しょうがないもん」
とか話しながらもう一杯水をもらう。
ただの水、美味しい。身体に染み渡る感じがする。
「あ、ルイに飴あげようか?」
「?」
「お菓子だよ、甘いやつ。苦手?」
「好き嫌いはそんなにない」
じゃあこれあげるねってルイに俺の持ってきた黒糖飴とレモンのど飴の2つを渡す。味が違うんだと説明するとルイは俺の真似をしてレモンのど飴に興味を持ったみたい。でも個包装の小さい袋に戸惑っていたので開けてあげて口に入れた。
「! とても甘いな……果物の味か」
「そうだね、果物とハーブ……えっと、薬草のエキスの飴だよ。喉にいいんだ」
「なるほど、薬を摂取しやすくしているのか」
「……。いや、そんな大層なもんじゃないよ、お菓子だし」
そう、これは医薬部外品ではないんだよね。ただの菓子の分類の中では比較的喉にいいものを使ってるってだけだ。なのにルイは真剣な表情で飴を舐めている。あの薬と同等に考えるのはやめてほしい……。なんか騙しているような気分になってしまう。
「疲れた時には甘いもの! 糖分補給は大事だろ?」
「そうなのか?」
「えっ!」
俺らは顔を見合わせてしまった。また俺の常識はルイの常識ではないってことを忘れかけていた。
「ま、まあ、俺の世界ではそういう説が有力という、だけで……」
「面白いな。多分、サディさんなんかはそういう話好きだと思うぞ」
「ああー、薬の人」
村、に着いてもルイ以外に話せそうな人がいるのは少し安心だな。通訳アイテムが必要だとしても『異世界人』を避けないでくれそうってだけで良い人認定しちゃいそうだ。
ずっと黙々と歩いていたからか、俺は次々とルイに話しかけてしまった。だって、ルイの声ってなんだか心地良いんだよな。低めだけど、響くような渋い声というよりはスーッと入ってくるような声なんだ。
ふと、歩いていて疑問に思ったことを聞いてみた。
「ねえ、この道ってかなりヤバげだけど、魔物襲ってこないの? 出たらどうするの?」
「ここは出ない」
「そうなんだ……心配して損した」
「ソレ、結界石のでかい版みたいなもん」
「あ、コレ」
俺がナデナデしまくってた卵型の石のことだった。これも最近の人が置いたのではなくて大昔の人が設置したんだろうとのこと。
ルイの持ってる結界石は魔導具だけど、こっちの大きいのは魔導具とはまた別で、その仕組みは村の年寄りとかにもわからないやつなんだって。こっちの世界のオーパーツってとこか。
地球のオーパーツといえば、高度な技術で作られた現代の技術でも再現できるかわからないものだったり、何に使うのかわからなかったりって感じじゃん? それが動いて存在してるってことだろ、ちょっと興奮する。
「え、すごいね。古代の遺物ってことでしょ?」
「当たり前にあるものだからなぁ……。あまりすごいとか考えたことがなかったな」
「えええ……」
伝える人なんかがいなくなると作り方も使い方もわからなくなって謎だけが残るんだよと俺が力説すると、それもそうかとルイは納得してくれた。
この世界にはこういうものが結構溢れているらしい。大昔にこの世界は一度大災害に見舞われたってことなんだけど、その時にいろいろ失われたんだって。ただ、地中に埋まっていたり、そのまま動作し続けたりしていたものを再利用しているとのこと。使える人が生き残っていたってことかなーと考えながら、そんな話を聞いていた。
「よーし! 魔物が出ないってわかったら少し安心した。先に進もうよ!」
「もういいのか?」
「あんまり休むとまたスタートするのキツくなるもん」
「ああ、それもそうだな」
俺は次の道の両脇に建ってる大きい卵型の石にギュッと抱きついてナデナデしまくった。
「頼むぞー! 俺らを守ってくれよ」
君のお陰で魔物が来ない! 最高です!
俺は魔物が出ないと聞いて俄然やる気が出て、怖い道はさっさと済ませてしまおうと気合を入れ直した。
最初こそ背丈の低い植物が生えてて獣道っぽさがあるけど、すぐに人がすれ違うのは難しいくらいの崖沿いの細い道に変わっていく。
なんかあれだ、外国の山岳地帯の細い板しか渡してないところなのに子どもが何時間もかけて通学してるみたいなのをテレビで見たことあるんだけど、あんな感じっていうか……。道じゃないじゃん、みたいな。
足元を見ないのは踏み外しそうで怖いけど、足元を見ると崖が見えて怖いっていうね。でも霧のお陰で高さが誤魔化されてるのはちょっとマシかもな。
あと、俺のザックが邪魔……。マジックバッグ欲しい。
多分、ルイがひとりでここを行くならもっと早くひょいひょいと進んでいくんだろうなって思う。でも俺に合わせてくれてるのがめっちゃわかって申し訳ないやら嬉しいやら。
本当は話しながら歩きたいんだけど、道も悪いし危ないからひたすら無言。滑落とかしたらそれこそ洒落にならないもんね。
ていうか、ここで魔物が出たらどうするんだろうか。戦うの無理そうだけど……。なんて思いながら慎重に着いていくんだけど、この崖沿いの道だけやたら静かだ。黙々とルイについていって、あの石のところから2時間くらい歩き続けたかなってくらいでやや広くなっている場所があった。
「休憩」
「ふぅ、良かった。そろそろ気力も限界近かったよ」
とにかく足場が悪すぎて神経張り詰めてたんだよね。飲み物も欲しいし、座りたい。でもこういう時に長く休憩すると余計きつくなることも俺は知ってる。少し気持ちを切り替えたらまた進んだほうがいいだろうなって考えてた。
休憩場所は上と同じような大きな卵型の石があった。というか、道の起点終点に2つずつ、休憩場所に4つって感じか。何かの目印みたいなもんかなとナデナデしながらしゃがみ込んでいると、
「イクミ、カップを」
ルイが手を差し出してくるので、俺はザックからシェラカップを取り出して渡した。すぐに魔法の水を注いでくれる。あの魔法って自分でできるならカップなんかに入れずに直接口の中に水を出せばそのまま飲めるのかって思いついて笑った。どんだけズボラだよって思っちゃったからなんだけど、俺ならやりそうすぎて。
まあ、それはいいとして、出してもらった水は一気に飲み干しちゃったよね。もう緊張で喉カラカラ。
「いや~ヤバいね。道こっわ!」
「この道しかなくてな。普通に着いてきてくれてて助かるが」
「しょうがないもん」
とか話しながらもう一杯水をもらう。
ただの水、美味しい。身体に染み渡る感じがする。
「あ、ルイに飴あげようか?」
「?」
「お菓子だよ、甘いやつ。苦手?」
「好き嫌いはそんなにない」
じゃあこれあげるねってルイに俺の持ってきた黒糖飴とレモンのど飴の2つを渡す。味が違うんだと説明するとルイは俺の真似をしてレモンのど飴に興味を持ったみたい。でも個包装の小さい袋に戸惑っていたので開けてあげて口に入れた。
「! とても甘いな……果物の味か」
「そうだね、果物とハーブ……えっと、薬草のエキスの飴だよ。喉にいいんだ」
「なるほど、薬を摂取しやすくしているのか」
「……。いや、そんな大層なもんじゃないよ、お菓子だし」
そう、これは医薬部外品ではないんだよね。ただの菓子の分類の中では比較的喉にいいものを使ってるってだけだ。なのにルイは真剣な表情で飴を舐めている。あの薬と同等に考えるのはやめてほしい……。なんか騙しているような気分になってしまう。
「疲れた時には甘いもの! 糖分補給は大事だろ?」
「そうなのか?」
「えっ!」
俺らは顔を見合わせてしまった。また俺の常識はルイの常識ではないってことを忘れかけていた。
「ま、まあ、俺の世界ではそういう説が有力という、だけで……」
「面白いな。多分、サディさんなんかはそういう話好きだと思うぞ」
「ああー、薬の人」
村、に着いてもルイ以外に話せそうな人がいるのは少し安心だな。通訳アイテムが必要だとしても『異世界人』を避けないでくれそうってだけで良い人認定しちゃいそうだ。
ずっと黙々と歩いていたからか、俺は次々とルイに話しかけてしまった。だって、ルイの声ってなんだか心地良いんだよな。低めだけど、響くような渋い声というよりはスーッと入ってくるような声なんだ。
ふと、歩いていて疑問に思ったことを聞いてみた。
「ねえ、この道ってかなりヤバげだけど、魔物襲ってこないの? 出たらどうするの?」
「ここは出ない」
「そうなんだ……心配して損した」
「ソレ、結界石のでかい版みたいなもん」
「あ、コレ」
俺がナデナデしまくってた卵型の石のことだった。これも最近の人が置いたのではなくて大昔の人が設置したんだろうとのこと。
ルイの持ってる結界石は魔導具だけど、こっちの大きいのは魔導具とはまた別で、その仕組みは村の年寄りとかにもわからないやつなんだって。こっちの世界のオーパーツってとこか。
地球のオーパーツといえば、高度な技術で作られた現代の技術でも再現できるかわからないものだったり、何に使うのかわからなかったりって感じじゃん? それが動いて存在してるってことだろ、ちょっと興奮する。
「え、すごいね。古代の遺物ってことでしょ?」
「当たり前にあるものだからなぁ……。あまりすごいとか考えたことがなかったな」
「えええ……」
伝える人なんかがいなくなると作り方も使い方もわからなくなって謎だけが残るんだよと俺が力説すると、それもそうかとルイは納得してくれた。
この世界にはこういうものが結構溢れているらしい。大昔にこの世界は一度大災害に見舞われたってことなんだけど、その時にいろいろ失われたんだって。ただ、地中に埋まっていたり、そのまま動作し続けたりしていたものを再利用しているとのこと。使える人が生き残っていたってことかなーと考えながら、そんな話を聞いていた。
「よーし! 魔物が出ないってわかったら少し安心した。先に進もうよ!」
「もういいのか?」
「あんまり休むとまたスタートするのキツくなるもん」
「ああ、それもそうだな」
俺は次の道の両脇に建ってる大きい卵型の石にギュッと抱きついてナデナデしまくった。
「頼むぞー! 俺らを守ってくれよ」
君のお陰で魔物が来ない! 最高です!
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