上 下
13 / 202
キャンプのはずだったのに……

13.崖っぷち

しおりを挟む
 この卵型の石はこの分かりづらい下り口の目印なんだろうな。門柱みたいだなと思って石を撫でながら石と石の間を通る。

 最初こそ背丈の低い植物が生えてて獣道っぽさがあるけど、すぐに人がすれ違うのは難しいくらいの崖沿いの細い道に変わっていく。
 なんかあれだ、外国の山岳地帯の細い板しか渡してないところなのに子どもが何時間もかけて通学してるみたいなのをテレビで見たことあるんだけど、あんな感じっていうか……。道じゃないじゃん、みたいな。
 足元を見ないのは踏み外しそうで怖いけど、足元を見ると崖が見えて怖いっていうね。でも霧のお陰で高さが誤魔化されてるのはちょっとマシかもな。
 あと、俺のザックが邪魔……。マジックバッグ欲しい。

 多分、ルイがひとりでここを行くならもっと早くひょいひょいと進んでいくんだろうなって思う。でも俺に合わせてくれてるのがめっちゃわかって申し訳ないやら嬉しいやら。
 本当は話しながら歩きたいんだけど、道も悪いし危ないからひたすら無言。滑落とかしたらそれこそ洒落にならないもんね。
 ていうか、ここで魔物が出たらどうするんだろうか。戦うの無理そうだけど……。なんて思いながら慎重に着いていくんだけど、この崖沿いの道だけやたら静かだ。黙々とルイについていって、あの石のところから2時間くらい歩き続けたかなってくらいでやや広くなっている場所があった。

「休憩」
「ふぅ、良かった。そろそろ気力も限界近かったよ」

 とにかく足場が悪すぎて神経張り詰めてたんだよね。飲み物も欲しいし、座りたい。でもこういう時に長く休憩すると余計きつくなることも俺は知ってる。少し気持ちを切り替えたらまた進んだほうがいいだろうなって考えてた。
 休憩場所は上と同じような大きな卵型の石があった。というか、道の起点終点に2つずつ、休憩場所に4つって感じか。何かの目印みたいなもんかなとナデナデしながらしゃがみ込んでいると、

「イクミ、カップを」

 ルイが手を差し出してくるので、俺はザックからシェラカップを取り出して渡した。すぐに魔法の水を注いでくれる。あの魔法って自分でできるならカップなんかに入れずに直接口の中に水を出せばそのまま飲めるのかって思いついて笑った。どんだけズボラだよって思っちゃったからなんだけど、俺ならやりそうすぎて。
 まあ、それはいいとして、出してもらった水は一気に飲み干しちゃったよね。もう緊張で喉カラカラ。

「いや~ヤバいね。道こっわ!」
「この道しかなくてな。普通に着いてきてくれてて助かるが」
「しょうがないもん」

 とか話しながらもう一杯水をもらう。
 ただの水、美味しい。身体に染み渡る感じがする。

「あ、ルイに飴あげようか?」
「?」
「お菓子だよ、甘いやつ。苦手?」
「好き嫌いはそんなにない」

 じゃあこれあげるねってルイに俺の持ってきた黒糖飴とレモンのど飴の2つを渡す。味が違うんだと説明するとルイは俺の真似をしてレモンのど飴に興味を持ったみたい。でも個包装の小さい袋に戸惑っていたので開けてあげて口に入れた。

「! とても甘いな……果物の味か」
「そうだね、果物とハーブ……えっと、薬草のエキスの飴だよ。喉にいいんだ」
「なるほど、薬を摂取しやすくしているのか」
「……。いや、そんな大層なもんじゃないよ、お菓子だし」

 そう、これは医薬部外品ではないんだよね。ただの菓子の分類の中では比較的喉にいいものを使ってるってだけだ。なのにルイは真剣な表情で飴を舐めている。あの薬と同等に考えるのはやめてほしい……。なんか騙しているような気分になってしまう。

「疲れた時には甘いもの! 糖分補給は大事だろ?」
「そうなのか?」
「えっ!」

 俺らは顔を見合わせてしまった。また俺の常識はルイの常識ではないってことを忘れかけていた。

「ま、まあ、俺の世界ではそういう説が有力という、だけで……」
「面白いな。多分、サディさんなんかはそういう話好きだと思うぞ」
「ああー、薬の人」

 村、に着いてもルイ以外に話せそうな人がいるのは少し安心だな。通訳アイテムが必要だとしても『異世界人』を避けないでくれそうってだけで良い人認定しちゃいそうだ。

 ずっと黙々と歩いていたからか、俺は次々とルイに話しかけてしまった。だって、ルイの声ってなんだか心地良いんだよな。低めだけど、響くような渋い声というよりはスーッと入ってくるような声なんだ。
 ふと、歩いていて疑問に思ったことを聞いてみた。

「ねえ、この道ってかなりヤバげだけど、魔物襲ってこないの? 出たらどうするの?」
「ここは出ない」
「そうなんだ……心配して損した」
「ソレ、結界石のでかい版みたいなもん」
「あ、コレ」

 俺がナデナデしまくってた卵型の石のことだった。これも最近の人が置いたのではなくて大昔の人が設置したんだろうとのこと。
 ルイの持ってる結界石は魔導具だけど、こっちの大きいのは魔導具とはまた別で、その仕組みは村の年寄りとかにもわからないやつなんだって。こっちの世界のオーパーツってとこか。
 地球のオーパーツといえば、高度な技術で作られた現代の技術でも再現できるかわからないものだったり、何に使うのかわからなかったりって感じじゃん? それが動いて存在してるってことだろ、ちょっと興奮する。

「え、すごいね。古代の遺物ってことでしょ?」
「当たり前にあるものだからなぁ……。あまりすごいとか考えたことがなかったな」
「えええ……」

 伝える人なんかがいなくなると作り方も使い方もわからなくなって謎だけが残るんだよと俺が力説すると、それもそうかとルイは納得してくれた。
 この世界にはこういうものが結構溢れているらしい。大昔にこの世界は一度大災害に見舞われたってことなんだけど、その時にいろいろ失われたんだって。ただ、地中に埋まっていたり、そのまま動作し続けたりしていたものを再利用しているとのこと。使える人が生き残っていたってことかなーと考えながら、そんな話を聞いていた。

「よーし! 魔物が出ないってわかったら少し安心した。先に進もうよ!」
「もういいのか?」
「あんまり休むとまたスタートするのキツくなるもん」
「ああ、それもそうだな」

 俺は次の道の両脇に建ってる大きい卵型の石にギュッと抱きついてナデナデしまくった。

「頼むぞー! 俺らを守ってくれよ」

 君のお陰で魔物が来ない! 最高です!
 俺は魔物が出ないと聞いて俄然やる気が出て、怖い道はさっさと済ませてしまおうと気合を入れ直した。 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

処理中です...