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キャンプのはずだったのに……

12.『薬』ってすごいね

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 そこまで考えてて、さっきの薬をまた思い出す。

「ルイ、ルイ、さっきの! 薬って」
「ん?」
「スルーしそうだったけど、飲んで骨折も治るはずの薬だったってこと?」

 そう、ルイはあの手段で俺が最低でも何箇所かの骨折(当たりどころ悪ければ死ぬんじゃね?)をすると思ってたんだよね。それをこの薬で治せると思ったからこそ、ぶん投げた、と。
 つまり、あの薬は俺らの知ってるゲームでいう『ポーション』『やくそう』ってやつか。どう考えてもそうなのに頭から抜け落ちてたや。

「そりゃ、薬だからな」
「うん、俺の世界じゃ無理だからね」

 反対にぎょっとされたんですけど。
 結局、ルイの疑問に答えるような形で、俺の世界で骨折しちゃったら手術したりとか固定して治るまで何ヶ月もかかったりすることもあってリハビリも必要って話まですることになった。
 手術の話にものすごく興味深そうにしていたルイだけど、こっちでも薬で対応できることとできないことはあるって話をしてくれた。怪我の程度によっては元と同じ動きができなくなったり、命が助かっただけでもいいじゃないかと言われるようなことになったりね。
 治癒量とかは薬のランクにもよるみたいだけど、この『薬』には多くの種類やランクがあって全ての薬を把握できてはいないんだって。大衆薬みたいなものから秘伝の薬みたいなものまであるんだそうで……。

 開けていない小さな陶器の瓶を揺するとチャポチャポと音が聞こえる。ガラス瓶じゃないから色とかそういうのは全然わからなかった。でも栓がしてあって、さらに上から蝋のようなものがかけられて厳重に封がしてある。中が見たい……けど、今は無理だね。

「一本はイクミが持ってろ」
「へ?」
「危なそうな時は気にせず使え」
「飲むタイミングがわからないのと、危なそうな時ってのに遭いたくない」

 遭いたくないと思ってようと思ってまいと、なる時はなるんだろうけどね。
 ルイにごちゃごちゃ言うなと一本押し付けられたからザックのサイドメッシュポケットに入れてみる。衝撃あったら割れるかなとか思ったけど、有事に取り出すのに時間がかかるってのは駄目だろと思ってハンドタオルにくるんでメッシュポケットにしたんだよな。

「ねえ、この薬って高い……よねぇ?」
「どうだろう。サディさんのだから」
「サディさん?」
「親代わりっていうか……。まあ、持たされてるんだよ」

 いつもイケメンな無表情なのに少しだけ拗ねたようなぶっきらぼうな顔になったルイが珍しい。一匹狼みたな感じかと思ったけど、めっちゃ心配してくれる人もいるんだな。でも親代わり、か。彼女とか奥さんっていうんじゃなかった。

 それは置いといて、サディさんとやらは薬屋さんなのかな? 話を聞いてみたいなって思う。
 俺はこの世界で食いつないでいくために自分にできそうなことを見つけたいんだ。いろいろ話を聞いて、金銭を得る、もしくは生活できる基盤を整えたいって思ってる。すぐ帰れるなら本当はそんなことしなくていいんだけどな。ごく普通の学生の俺がこの異世界で生き延びつつ元の世界に帰る手がかりを探すとか高難易度すぎだろって思ってさ。
 ただ、何でもそこそこ人並みにできるっていうのは強みでもあるんだよな。この世界で求められそうな少し日本のエッセンスでも加えた珍しい何かを俺が提供できればいいんだけど、思いついたところで初期投資とかが難しそうなのがネックだ。
 一番の不安の種は言葉の壁。英語も得意とは言えなかった俺は語学に対して苦手意識がありすぎて。今はルイっていう事情をわかってくれている人がいるからいいけど、ポンと何も知らない中に放り出されたらと思うと……。

 はぁ、とため息をついて気持ちを切り替えると俺は先に歩き始めたルイに駆け寄る。考え出すとループしちゃうからやめよう。昨日からもう何度も思考ループしてるけどさ。

「考えない、考えない……。今は考えちゃいけない」

 歩きながらブツブツ小声で自己暗示をかけるかのように呟いていたんだけど、

「それを言ってる時点で考えてないか?」
「言わないでっ」

 だって俺の頭の中はほとんどその心配で占められているんだからしょうがないじゃん。もし神様的な存在によって異世界転生させられるなら、チート能力というか簡単には死なない能力がほしいよな。俺の知ってるラノベはそんなのが多かったけど。
 ルイが俺をチラッと振り返ってまた口の端をくっと上げるのが見えた。無表情イケメンって思ってたけど、この人本当は見えないところで表情に出してるんじゃないかな。

「面白がらないでよ! こっちからしたら死活問題なのにさ」
「そうかもしれないけど……今イクミが一番考えなきゃいけないことわかる?」
「へ?」

「生きて村にたどり着くこと」

 きっぱりとルイに言われて俺、撃沈。わかってるよ。わかってるからこうやってルイに着いてきてるんじゃないか。

「そうだね! ルイ! 期待してるから!」

 俺は開き直ってルイの背中をバシバシ叩く。

「イクミは度胸があるのかないのか……」
「んー? ルイがいなかったら、ぜぇっったいに俺死ぬからねぇ」

 それは間違いないことだから。そういう意味では最初のムシャーフに襲われた時に死は覚悟したよね。ルイが先にやられちゃったり、俺を見捨てて行っちゃったりするなら、それは終わりを意味するし。
 さっきの幼虫魔物だって……。う……アレに食べられて終わりってのはさすがに嫌すぎるな。骨折しようがなんだろうが、アレから助けてもらったのは大きい。うん、もっと感謝をすべきかもしれない。

「だから、さっきとか、本当にありがとう」
「お、おう?」

 俺たちは時折話しながらもひたすら歩く。下りの道が平坦になり、また眼下に崖が続くようなところに出てきた。霧も出てるし高さもそうとうありそうで下の見えない渓谷は下の方からゴウゴウと水の流れる音も聞こえてくる。多分だけど、これ霧が晴れてたらもっと怖く感じるやつだ。先が見えない怖さもあるけど、見えすぎちゃって怖いってのあるじゃん?

「この先、足場の悪いところを通るから」
「心しておくよ」

 崖沿いの一部に大きな楕円っていうか卵型ぽい石が2つ並んでいるところがあって、ルイがそこから下を指している。道には見えないけど、言われてみたら獣道と言えなくもないかみたいなところ。そして、足を踏み外したら真っ逆さまで落ちるしかなさそうなところ、だ。
 置いていかれても生きてけないし、嫌でも行くしかないもんな。覚悟を決めよう。
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