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キャンプのはずだったのに……
10.村へ向けて
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俺が荷物を全てまとめ終えると、ルイが感心したように言った。
「野宿のセットがそこに収まっているとは本当に思えないな」
「これは、俺の住んでた安全な地域での最低限なんだよ? こっちでこれは心もとなさすぎるというかなんというか。それに俺はキャンプ初心者だしね」
俺はちゃんと初心者をアピールする。
キャンプも料理も、というか、いろいろなことが俺は中途半端なんだよな……。昔から微妙になんでも人並みにはできちゃうんだけど、ひとつのことだけに集中して極められないというか。だから子供の頃から今まで好奇心旺盛でいろんなことに顔を突っ込んでは飽きてやめるってのを繰り返してる。父親なんて俺のこういう性格は好きじゃなさそうなんだよね。父親、歳の割に真面目っていうか融通のきかない人だからなぁ……それに俺だって本当は熱しやすく冷めやすいよりは一つのことに夢中ってほうがかっこいいと思うもん。
そんな俺の性格を見抜いていたのか、大好きだった小学校の恩師は卒業式の日に「継続は力なり力は自信なり」という一筆を短冊状の色紙に書いて贈ってくれた。その一筆は独り暮らしのアパートにも持ってきてるくらい大事にはしているんだけど、性格はそういうふうには育たなかったな。
さーて、今日はさらに奥地へ進んでいって、できれば渓谷を降りたところ? あたりまで行きたいそうだ。俺には道がわからないから道さえ考えてくれたら一生懸命着いていくよ。だってそれしかないもんね。
とはいえ、渓谷を降りるのか。下り道って実は結構きついんだよな。俺は連泊で登山したときの最終日に下山で怪我しそうになったことを思い出して、ちょっと気をつけないとなと気合を入れる。
ここはあと2日くらいかかるとはいえ村にだいぶ近いらしくて、運が良ければ村の人が魔物を狩ったあとで全然魔物が出ないってこともあるらしい。それは俺にとったら朗報すぎる。
「そんなに村に近いならデカくてめっちゃ強いのは出ない、かなっ?」
「さっきも言ったが、運が良ければ、だな。アレは突然変異みたいなものだから」
「予測がつかないってこと?」
「そう、だな。うーん、なんと言ったらいいのか……。魔物が出にくいとか出やすい地域とかそういうのはあるんだ。ただ、その中でどういう仕組みでってのはわかってないな」
魔物の出る仕組み、かぁ……。よくわからないけど、昨日も元々は普通の動物だったのが魔物になった的な話してたもんな。魔力がどうとか言ってたしまるっきり不明ではないんだろうけど。
俺らはキャンプ地をあとにすると、一旦背にしていた崖の方に回り込むような上りの道を歩いていた。渓谷に降りるって話を聞いていたから上りでびっくりしたけど、それがこの渓谷の難しいところらしくて、魔物は強いし霧は濃いし、最短距離で目指そうと崖を降りようとしても死者が増えるだけなんだそうだ。なにそれ、呪い? っていうか、正しいルートじゃないと目的地にたどり着かないって、もうそれダンジョンじゃん。
若干引いてる俺には気付いてないのかルイはサクサクと道を進んでいく。俺も昨日でなんとなく歩く時に気をつけたほうがいいポイントってのが掴めたので昨日よりはスピードアップで歩けていると思う。
ただまあ、魔物の気配とかそういうのは全然わからない。途中出てくる魔物は相変わらずルイが素早くやっつけてくれている。俺はそうしてルイが動いてやっと気づくっていうんだからしょうもないよな。
普通の動物は元の世界と同じなのか男二人が歩いてたらビビって前には出て来ないみたいで、気配どうこうって問題じゃないっぽいけど。
それでも動物に遭遇しちゃうときもあったけど、食材がまだあるのに追っかけてまで仕留めないってね。毛皮なんかの価値がある珍しい動物だったら捕獲したいところらしいけど、そういうのはちゃんと計画を立てて捕獲するのがいいみたい。毛皮に傷をつけたら価値が下がるから一点集中短期決戦が基本みたいだな。でもそういう『動物』だけじゃなくて、色んな話を聞いてると、『魔物』っていうのはこっちの世界になくてはならないヤツなのかもしれないって思えてくる。
食料としてもそうだけど、皮革にしろ素材としての価値にしろ、かなり使い道があるようだし……。皆の共通の敵であり、駆除の必要があるにも関わらず、ゴミになるだけでないというのはすごいことだな。魔物にも雑魚から貴重なレベルまでいろいろいるんだろうけど、今のところ俺には『役立つ魔物さん』って認識になりつつあるぞ。
――ピィーーッ
「ルイ、なんか、聞こえた……」
「シッ……」
ルイが俺の身体ごと体位を低くして気配を殺すようにしている。緊張で一気に汗が吹き出てくる。昨日ムシャーフに出会った時の死んだって思ったあの恐怖が蘇ってくる感じ。あれ以降はルイがあっという間に魔物を片付けてくれていたからちょっと忘れかけていたんだけど、得体の知れない恐怖の対象が近くにいるかもしれないというのは何とも言えない気分だな。
ルイはどうやったのか、なんとなく状況把握できたらしく身体を起こして言う。
「村の者たちが出てるっぽい。多分魔物を追い詰めてるな」
「そ、そうなの!? 近い?」
「こことはそこまで近くはなさそうだ」
近くはないのか……。村の人とやらに会えたら人数増えて安全かと思ったんだけどな。こういう場合、合流したほうがいいんだよね? どうせ村に帰るのだし。
「合流、できるかな?」
「いや……敢えて合流するように動かなくていい」
「ええ! 合流しないの?」
俺は驚いたんだけど、ルイが言うには村で自警団してたりするような人たちは、この地域でソロでもそれなりにやっていけるような人たちばかりだから急いで合流して手助けをしなきゃならないようなことはないんだって。笛の音も聞こえたから最低でも数人で出撃しているはずだからって。
そうなのかぁ……。ていうか、生まれ育った地域の周りが強い敵ばかり出るとか出身地ガチャ失敗よな。そういえば、昔、勇者が魔王をやっつけるようなゲームでラストの方に行けるようになる村の住民とか強すぎヤバいみたいなネタあったよなーなんて思い出しちゃったりして。
俺らは既にあの崖を登りきったあと下りのルートに入っていて、かすかに笛の音が聞こえた方角で何があったのかを詳細に把握するのは無理だった。今はとりあえず自分たちの身の回りのことだけ気にして進むことに。
ルイに助けてもらってからは魔物はルイがサクサクと倒してくれていたし、ルイのすぐ後ろを歩いているっていう安心感もあったからか俺はビビりつつも油断していたんだと思う。普通に一歩を踏み出した俺のやや後方からルイの真後ろまでの2~3メートルくらいの範囲がボコッとへこんで空中に浮いたみたいになったんだ。
「野宿のセットがそこに収まっているとは本当に思えないな」
「これは、俺の住んでた安全な地域での最低限なんだよ? こっちでこれは心もとなさすぎるというかなんというか。それに俺はキャンプ初心者だしね」
俺はちゃんと初心者をアピールする。
キャンプも料理も、というか、いろいろなことが俺は中途半端なんだよな……。昔から微妙になんでも人並みにはできちゃうんだけど、ひとつのことだけに集中して極められないというか。だから子供の頃から今まで好奇心旺盛でいろんなことに顔を突っ込んでは飽きてやめるってのを繰り返してる。父親なんて俺のこういう性格は好きじゃなさそうなんだよね。父親、歳の割に真面目っていうか融通のきかない人だからなぁ……それに俺だって本当は熱しやすく冷めやすいよりは一つのことに夢中ってほうがかっこいいと思うもん。
そんな俺の性格を見抜いていたのか、大好きだった小学校の恩師は卒業式の日に「継続は力なり力は自信なり」という一筆を短冊状の色紙に書いて贈ってくれた。その一筆は独り暮らしのアパートにも持ってきてるくらい大事にはしているんだけど、性格はそういうふうには育たなかったな。
さーて、今日はさらに奥地へ進んでいって、できれば渓谷を降りたところ? あたりまで行きたいそうだ。俺には道がわからないから道さえ考えてくれたら一生懸命着いていくよ。だってそれしかないもんね。
とはいえ、渓谷を降りるのか。下り道って実は結構きついんだよな。俺は連泊で登山したときの最終日に下山で怪我しそうになったことを思い出して、ちょっと気をつけないとなと気合を入れる。
ここはあと2日くらいかかるとはいえ村にだいぶ近いらしくて、運が良ければ村の人が魔物を狩ったあとで全然魔物が出ないってこともあるらしい。それは俺にとったら朗報すぎる。
「そんなに村に近いならデカくてめっちゃ強いのは出ない、かなっ?」
「さっきも言ったが、運が良ければ、だな。アレは突然変異みたいなものだから」
「予測がつかないってこと?」
「そう、だな。うーん、なんと言ったらいいのか……。魔物が出にくいとか出やすい地域とかそういうのはあるんだ。ただ、その中でどういう仕組みでってのはわかってないな」
魔物の出る仕組み、かぁ……。よくわからないけど、昨日も元々は普通の動物だったのが魔物になった的な話してたもんな。魔力がどうとか言ってたしまるっきり不明ではないんだろうけど。
俺らはキャンプ地をあとにすると、一旦背にしていた崖の方に回り込むような上りの道を歩いていた。渓谷に降りるって話を聞いていたから上りでびっくりしたけど、それがこの渓谷の難しいところらしくて、魔物は強いし霧は濃いし、最短距離で目指そうと崖を降りようとしても死者が増えるだけなんだそうだ。なにそれ、呪い? っていうか、正しいルートじゃないと目的地にたどり着かないって、もうそれダンジョンじゃん。
若干引いてる俺には気付いてないのかルイはサクサクと道を進んでいく。俺も昨日でなんとなく歩く時に気をつけたほうがいいポイントってのが掴めたので昨日よりはスピードアップで歩けていると思う。
ただまあ、魔物の気配とかそういうのは全然わからない。途中出てくる魔物は相変わらずルイが素早くやっつけてくれている。俺はそうしてルイが動いてやっと気づくっていうんだからしょうもないよな。
普通の動物は元の世界と同じなのか男二人が歩いてたらビビって前には出て来ないみたいで、気配どうこうって問題じゃないっぽいけど。
それでも動物に遭遇しちゃうときもあったけど、食材がまだあるのに追っかけてまで仕留めないってね。毛皮なんかの価値がある珍しい動物だったら捕獲したいところらしいけど、そういうのはちゃんと計画を立てて捕獲するのがいいみたい。毛皮に傷をつけたら価値が下がるから一点集中短期決戦が基本みたいだな。でもそういう『動物』だけじゃなくて、色んな話を聞いてると、『魔物』っていうのはこっちの世界になくてはならないヤツなのかもしれないって思えてくる。
食料としてもそうだけど、皮革にしろ素材としての価値にしろ、かなり使い道があるようだし……。皆の共通の敵であり、駆除の必要があるにも関わらず、ゴミになるだけでないというのはすごいことだな。魔物にも雑魚から貴重なレベルまでいろいろいるんだろうけど、今のところ俺には『役立つ魔物さん』って認識になりつつあるぞ。
――ピィーーッ
「ルイ、なんか、聞こえた……」
「シッ……」
ルイが俺の身体ごと体位を低くして気配を殺すようにしている。緊張で一気に汗が吹き出てくる。昨日ムシャーフに出会った時の死んだって思ったあの恐怖が蘇ってくる感じ。あれ以降はルイがあっという間に魔物を片付けてくれていたからちょっと忘れかけていたんだけど、得体の知れない恐怖の対象が近くにいるかもしれないというのは何とも言えない気分だな。
ルイはどうやったのか、なんとなく状況把握できたらしく身体を起こして言う。
「村の者たちが出てるっぽい。多分魔物を追い詰めてるな」
「そ、そうなの!? 近い?」
「こことはそこまで近くはなさそうだ」
近くはないのか……。村の人とやらに会えたら人数増えて安全かと思ったんだけどな。こういう場合、合流したほうがいいんだよね? どうせ村に帰るのだし。
「合流、できるかな?」
「いや……敢えて合流するように動かなくていい」
「ええ! 合流しないの?」
俺は驚いたんだけど、ルイが言うには村で自警団してたりするような人たちは、この地域でソロでもそれなりにやっていけるような人たちばかりだから急いで合流して手助けをしなきゃならないようなことはないんだって。笛の音も聞こえたから最低でも数人で出撃しているはずだからって。
そうなのかぁ……。ていうか、生まれ育った地域の周りが強い敵ばかり出るとか出身地ガチャ失敗よな。そういえば、昔、勇者が魔王をやっつけるようなゲームでラストの方に行けるようになる村の住民とか強すぎヤバいみたいなネタあったよなーなんて思い出しちゃったりして。
俺らは既にあの崖を登りきったあと下りのルートに入っていて、かすかに笛の音が聞こえた方角で何があったのかを詳細に把握するのは無理だった。今はとりあえず自分たちの身の回りのことだけ気にして進むことに。
ルイに助けてもらってからは魔物はルイがサクサクと倒してくれていたし、ルイのすぐ後ろを歩いているっていう安心感もあったからか俺はビビりつつも油断していたんだと思う。普通に一歩を踏み出した俺のやや後方からルイの真後ろまでの2~3メートルくらいの範囲がボコッとへこんで空中に浮いたみたいになったんだ。
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