霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

文字の大きさ
上 下
8 / 226
キャンプのはずだったのに……

8.サバの炊き込みご飯完成

しおりを挟む
 火にかけたメスティンの蓋から漏れていた蒸気もほとんどなくなり、いい感じに炊けている予感がする。俺は火から下ろしたメスティンをタオルでくるんで蒸らしておく。ここまできたらお湯を沸かし始めてもいいだろう。シェラカップに残っている水だけでは少し少なかったのでルイの邪魔にならなそうな時に声をかけて水を足してもらう。水の魔法ってすごく便利だな! どこでも水が出せるって羨ましすぎる。
 シェラカップでインスタント味噌汁2袋分を溶いて、味噌汁の用意もできたから蒸らしていたメスティンのほうを開ける。サバとショウガのいい匂いだ。半分をメスティンの蓋に取り分けて、本体のほうをルイにお皿代わりに使ってもらおう。ちょっとデカいから合わないけどルイの木の深皿に味噌汁を注ぐ。

「ルイ、できたよ。コレ、口に合うといいんだけど」
「豪華だな。こんな森の中で店の料理みたいなのが食べられるなんて」
「えぇー……、いやいや」

 魔物肉なんてのがこっちのメインだったら魚って珍しいのかもしれないって少しドキドキしながら見ていると、ルイはブツブツと何かを呟いて(多分、お祈り?)サバの炊き込みご飯を口にした。咀嚼したあと一瞬目を見開いて、その後ガツガツと掻き込んでいる様子にホッとする。俺も安心して食べ始める。うん、安定の美味しさ。缶詰の偉大さをこういう時に知るよね。
 インスタント味噌汁も最近はフリーズドライで美味しいのが沢山出ているけど、俺は実はこういう時は生味噌タイプのインスタントを使っている。小分け味噌みたいな感覚でいろいろな料理にも使えるって感じかな。まあ、今回は本来の味噌汁としての使い方だけど。ご飯を食べて味噌汁を飲んでと、いつもの感覚で食べている俺を見て、ルイも味噌汁を飲む。

「このスープは変わっているな。両方とも初めての味だ。けど美味い」
「口に合って良かったよ。俺の国は食へのこだわりが強くていろんな国の料理が食べられるほうなんだけどさ、この料理は結構伝統的なやつに含まれるかな」

 なんて説明しながら食べてるけど、うん、やっぱりルイには足りないよなぁ……。焼き鳥缶とか開けちゃうのもアリかなとか悩んだんだけど、どうやら開けなくても良さそうだ。ルイが言うには、夜中に熟睡するわけにはいかないから腹いっぱいは食べられないってことだった。
 それに、もったいないって。異世界の食べ物だから大事にしておけってことらしい。

 味噌や醤油が珍しいってことは予想はついてたんだよね。異世界ものだけじゃなくてアジア以外の外国でも醤油はメジャーじゃないもんな。今でこそ外国でも日本食が健康的だとかって流行りだしてるらしいけど。味噌醤油とは言わないから、塩はどのくらい手に入るんだろう。香辛料は高価らしいって話はさっきしてたけどなぁ……。どうか、塩は手に入りやすくあってくれって思ってたら、なんとも言えない微妙な価格だって教えてくれた。安くはない、けど香辛料ほど高くもない、みたいな。良いのか悪いのかわからないな。

「この魚のやつはすごく美味いな。魔物肉とは違ってさっぱりとした脂というか。あと風味がいい。ジベラの香りにも似ているような……」
「ジベラ?」
「薬草の名前だ。独特の香りがある」

 ショウガに似た薬草があるのか。高いものでなければほしいななんて考える。代替食品は必要だ。俺はルイにジベラについて詳しく知りたいと伝えるが、こういうのについてもルイはそんなに知らないとのことだった。村で一番の収入源となっている特別な薬草の他に、一般的な薬草ももちろん育てていて、その中にジベラがあるからたまに売りに行くものの中にあるのだという。身体を温めたり消化を良くする薬草だと言っていた。うん、いよいよショウガっぽいぞ。結局、ジベラについては、村についたら見せてもらえることになった。

 それと、食事をしながらいつもルイが食べているという干し肉と芋の粉を見せてもらう。芋の粉は、牛乳を加えるとマッシュポテトになる市販のアレに似てる。これも使い方次第で美味しくなるんじゃないかな? まあ、旅の途中で手早く済まそうという時になんだかんだとやってられないだろうけど、村に着いてからも食事でもんのすごーく困るってことはなさそうだ……味的にはね。いや、でも手持ちの調味料がなくなったら日本の味が恋しくなるだろうとも思う。

「ありがとう、イクミ。美味かった」

 ルイが食べ終わった俺らの食器類にまとめて魔法を使ってくれて、すっかり洗浄されたような状態になった。
 え、ホント、まじで便利すぎないか? って俺がすげーすげー言ってたら、今使った魔法は人体にも使えて身体を清潔にできるらしい。なんて夢のような魔法なんだ。ルイに魔法を使う負担がなければ俺も経験してみたいって言ってみたらかけてくれた。ぶわーっと体表を波が流れていくような不思議な感覚がして本当にさっぱりした。魔法すごい。

 まだそんな遅い時間でもないけど、俺の疲労はかなりのものだったみたいで突然ぐったりきた。でもルイに悪いと思って白目むきそうになりながら頑張ってたんだけど、そのルイから無理するなって言われて見事撃沈。テントの中で寝袋に入ったら、その後の記憶はプッツリと途切れていた。気がついたら朝だったよね……。

 飛び起きて外を見ると、ルイはかまどの近くであぐらをかいてウトウトしているようだった。だけど、俺がそーっと動いたらすぐ顔をあげて目が合った。

「お、おはよ」
「ちゃんと眠れたか」
「うん。ごめん、爆睡した」
「むしろ、今日はできれば沢山移動したいからちゃんと寝てくれて良かったけどな」

 ルイは大丈夫なのか聞いてみたけど、慣れてるからって言う。まあ、大丈夫じゃないって言われたところで俺に何もできないのはわかってるんだけどね。でも気持ちの問題だよ。眠れない状態ってツラいもんなぁ。
しおりを挟む
感想などいただけると励みになります。匿名メッセージはマシュマロへWaveBoxへどうぞ。
感想 6

あなたにおすすめの小説

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騎士団長を咥えたドラゴンを団長の息子は追いかける!!

ミクリ21
BL
騎士団長がドラゴンに咥えられて、連れ拐われた! そして、団長の息子がそれを追いかけたーーー!! 「父上返せーーー!!」

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

処理中です...